変な人
「……はんぶんこ」
つまり、どちらも食べられるということ!? 私が思わずごくりと喉をならすと、ジルバルトは少しだけ笑った。
「そ。どうする?」
「お願いします!」
私たちは、空いている席に向かい合って座った。店員に取り皿をもらい、それぞれを切り分ける。
「はい、どうぞ」
「ありがと。……こっちもどうぞ」
切り分けた皿をそれぞれ配り、食べ始めた。
「いただきます……、!!!」
こ! これが特別メニューなのか。
特別メニューはお肉なのだけれども、お肉の柔らかさもさることながら特徴的なのはそのソースだ。
酸味のある爽やかな香りが鼻を抜ける。
「ーー!」
どうしよう。すごく美味しい。手が止まらない──。
思わずぱくぱくと食べていると、ルビーのように赤い瞳と目があった。
「? 食べないんですか?」
こんなに美味しいというのにジルバルトのほうは、まったく減っていなかった。
「食べるよ。ただ……」
ただ?
「あんたが、あんまりにも美味しそうに食べるから驚いただけ」
「だって、とても美味しいですよ」
「知ってる。まさか、氷姫のそんな顔が見られるとは思わなかったから」
氷姫? なんだその名前は。
氷姫とやらを探してきょろきょろと辺りを見回すと、ジルバルトはふは、と笑った。
「知らなかったの? あんたのことだよ」
……私?
まぁ、私は確かに父に泣くな、笑うな、怒るな、と感情を表現するのを禁じられてから、表情を動かさないことに集中していたけれど。
まさか、そのせいで、氷姫なんて呼ばれていたなんて。
「ーーーっ!!!」
羞恥で頬が熱くなるのを感じる。氷姫だなんて、恥ずかしすぎる。せめて、無表情なやつ程度にとどめておいてほしかった!
「……顔、真っ赤。雪解けだ」
ジルバルトがからかうように言う。
「っ! からかわないでください!」
「……ふ」
そういってもなおジルバルトがくすくすと笑うので、睨む。
「……あんた、可愛いね」
「……は?」
いやいやいや。可愛い要素ゼロだ。
感情の制御がきかず、冷めた目でジルバルトを見てしまったけれど、ジルバルトはなお楽しそうな顔をしている。
ジルバルトは人嫌いという噂程度は知っていたけれど。
……もしかしたら、結構な変人と知り合ってしまったかもしれない。
そんなことを思いながら、昼食をとった。




