Act 1.再会
初投稿です。
アイディア自体は高校か大学時代に夢で見たものがきっかけです。
一応、社会人ですので、投稿ペースは不定期です。
目を閉じているはずなのに微かな光を感じる…。そう思っていたら聞き慣れたアラームが鳴り響く。朝だ。僕はいつもの席を用意し、深く座った。眠気はまだあるが、何となくハンドリムに手を掛け、母さんが居るであろう台所に向かう。そして何時ものように挨拶。
「おはよう。」
「おはよう、時人。」
母さんはけっして口数が少ないタイプではないが、何かしている時や家事の時はいつも黙々としている。時々、話し掛けづらい。ただ、何時だって僕を無視した事はない。今日も簡単ではあるが朝食を作ってくれていて、そのうち仕事に行くと思う。
「今日は遅くなるから、夜はコンビニで適当にすませて。まあ、昼もだろうけど。」
少し笑いながら母さんは言った。
「うん、大丈夫。母さんも無理しないでね。」
そうして母さんは僕に小さく手を振って仕事に向かう。何時もと変わらない光景。
父さんがいなくなってから、母さんは一人で僕を育ててくれた。プライドの高い母さんはほとんど誰にも頼らずに僕のめんどうを見てくれた。
何も出来ないままの自分では母さんに対して恥ずかしいので、一人でも動けるように毎日トレーニングをし、今は生活の大抵の事はこなせる。それでも車椅子だと、憧れのバイトは難しいと思ってあきらめていた。
"ピンポーン"
玄関の呼び鈴が鳴る。
「はーい、今行きまーす。」
ドアを開けると、以前通っていた高校の制服姿で笑顔の菜帆がいた。
「時君、おはよう。」
「おはよう。朝からどうしたの?」
「何となく、時君に挨拶したくてよってみたんだ。」
この時ようやく寝間着姿のままだった事に気付いた。
「ははっ、そっか。ごめんね、こんな姿のままで。」
そう言うと菜帆は首を横に振った。
菜帆との出会いは小さい頃。公園でケガをしていたので、おぶって家まで送ったんだ。自分では大した事はしていないと思っているのだが、菜帆は今でもその事を憶えていて、何かとこうして声を掛けてくれる。
「学校、大丈夫?」
「このぐらいだったら間に合うよ。それより時君、進学先決めた?」
数日前、菜帆と将来について話した時、幾つか進学先候補の学校について話した事を思い出した。
「ごめん、まだ決めていないんだ。学費とかで母さんに迷惑を掛けるわけにはいかないし、あの時はああ言ったけど、本当は働けるなら働きたいと思ってる。」
「そっか…」
少し残念そうな菜帆に僅かながら罪悪感を感じた。
「ごめんね、優柔不断で。」
「時君!」
菜帆が急に大きな声を出した。
「謝らなくてもいいよ。時君の思うように頑張ってほしいから、もし何か手伝える事があれば言ってね。」
「うん。菜帆、いつもありがとう。」
少し赤くなった菜帆の顔を見送りながら、自分はどうすべきか考えていた。母さんに頼りきりにならないように働きたいとは思うけど、望む仕事が出来ないという事がつらい。もし進学するにしても、バイトが出来ないと自分が納得しない。そんな感じでちょっとしたジレンマとなっていた。結局いつも通り、トレーニングでもっと体を鍛えてから考えるという回答で落ち着いた。
朝食をすませ、トレーニングのために公園へ向かった。天候が少し良くないからか、普段より人が少ない。気のせいか、何かいつもと違う雰囲気のような気がする。
「まあ、いいか。もっと体を鍛えないと。頑張ろう。」
血液型の影響なのか性格なのか、あまり細かい事は気にしないタイプなので、いつも通りにトレーニングを始めた。
低い鉄棒での懸垂を終えた後、休憩しようと噴水のある場所まで移動した。噴水の近くは涼しく、心地良く、水の流れを見ていて飽きない。
天気がもっと良ければなと考えていた時、何か金属のようなものが地面に落ちる音がした。少し気になったので音がした方向へ向かうと、テレビのリモコン程の長さの棒状のものが落ちていた。近くで見ると青い狼の装飾が施されていて、形状的に刀の柄のように見える。
それが何かはよく分からないが、きっと持ち主は困っているだろうと思い、狼の柄を手に取ろうとした時、目線の先に異形の者が居る事に気付いた。とっさに左手で狼の柄を取り、移動しようと思ったが、うまく体を動かせずに車椅子から転落してしまった。異形の者は半透明で細長い手足を持ち、蝙蝠の頭みたいな顔立ちをしていた。鋭い爪のある指を動かしながら、動けない僕にゆっくりと近づいてくる。
「青い剣を出せ。」
唐突に頭の中に声が響いた。そして、異形の者が爪を振り下ろした瞬間、半透明の青い刃が異形の者の手を切断していた。
「止めを刺すんだ。」
その声と同時に僕は立ち上がり、異形の者を袈裟切りした。異形の者は呻き声を上げ、霧のように消滅した。
「契約は…成立だ。」
一瞬の事で僕は呆然としていた。そして、突然の眩暈で何も分からない状態になり、その場に座り込んだ。朦朧とする意識の中、ただ家に帰る事だけを考えていた。
気が付くと、自宅のリビングの床で横になっていた。時計を見るともう 20 時を過ぎている。左手に握っていたはずの狼の柄は手元になかった。辺りに車椅子も見当たらない為、どちらも公園に置いてきてしまったのだろう。ふと起き上がり、玄関まで行くと丁度母さんが帰ってきた。
「おかえり、母さん。」
「ただいま。ご飯もう食べた? 今日はたい焼きを買ってきたから…」
何故か母さんの話が途中で止まった。
「どうしたの?」
「時人、歩けるようになったの?」
最初母さんの言っている事が分からなかった。けれど改めて足元を見て、自分の足で立っているという確信を得た。
「ご、ごめん。今までトレーニングをして少しずつ歩けるようになってたんだ。母さんを驚かそうと思って。今まで黙っていてごめんなさい。」
とっさに嘘をついてしまったが、母さんは涙を浮かべて喜んでくれた。医者から歩行能力回復の見込みはないと言われていたので、なおさらだったのかもしれない。
だけど僕は正直に喜べない。歩けるようになった理由が不明で、狼の柄は手元にないものの、日中の出来事が夢とは思えなかったからだ。
「契約は…成立だ。」
最後に聞こえた言葉…。ひどく嫌な予感がする。




