赤井潮のとても長い一日・1
……とまぁオレの複雑な状況は理解してもらえたかと思う。
三つの力を得てから早半年。
既に出動回数も数えきれないほどある。
ダブルバッティングなんてしょっちゅうだ。
悪の組織はなぜか日曜に行動したがるようで、心が休まるヒマもない。
そんな事より、さっさとこのジャグチフウスイを倒して、怪獣の元に向かわないと……!
「しっかりしろリーダー! 敵前だぞ!」
「わかってる! イエロー!」
「ナマステ!」
ゴリュウイエローが、ゴルフティーを地面に刺す。
こいつは時々、セイロンティーと間違えるボケをしかけてくるから油断ならない。
それスリランカのだぞ。
「ブルー!」
「フン」
ゴルフボール大のゴリュウボールをティーにセットするブルー。
「ピンク!」
「はいっ!」
ピンクから渡されるゴルフクラブ――ゴリュウドライバーだ。
「グリーン!」
「はいはーい。まっすぐ行っちゃってOKだよん」
風と芝目を読むグリーン。
「いくぞ! ゴリュウボール!!」
全身を巡る気血を腕に集中。
ゴリュウドライバーを――思い切り……だと改造強化筋肉が倍加されて風水獣どころか正面の街が壊滅するのでほどほどに力を込めて――スイングした!
瞬間、超高速で打ち出されるゴリュウボール。
五色にきらめきながら、ゴリュウボールはジャグチフウスイの腹に突き刺さり、大爆発を起こした。
しかし、これからが本番だ。
「ホーッホッホッ!!」
高笑いが響く。
ビルの上に立つ、煽情的な衣装の女性。
もちろんジャフウスイの幹部、チョベリバスだ。
「満ちよ悪気! 死せる風水獣に今一度の生と強大なる力を!」
爆発の炎が、渦を巻き、ビルほどもある巨体のジャグチフウスイが現れる。
「くっそぉっ! 毎度毎度……!」
「ゴリュウロボを呼びましょう!」
グリーンが言う。
オレは頷き、ブレスレット――ゴリュウブレスに叫ぶ。
「理龍招来!」
直後、天にわかにかき曇り、雷鳴が轟いた。
その黒雲を裂いて現れる五匹の龍。
鋼の体を持つ、ゴリュウジャーの愛機――龍機だ。
大自然の気が機械の龍に宿って結晶した姿であり、人の技術と世界のエネルギーのハイブリッドな存在である。
セキリュウ、セイリュウ、コウリュウ、ヘキリュウ、トウリュウの五体の機龍は、対応するメンバーを吸いこんでいく。
なんだからよくわからないメーターとライティングボールが設置されたコクピット。
搭乗者の意志の力で動くセキリュウ達は、実際どんな仕組みで動いているかは、オレは知らない。聞いたような気もするが、とても理解できる内容ではなかった。
「時間がない! 合体するぞ!」
こうしている間にも怪獣が暴れている。一気に決めないと……。
「おい、待て! まずはヒリュウフォーメイションで牽制してからだろう!」
「ダメだ! そんなヒマはない! 理龍合体だ!」
オレはブルーの意見を却下し、合体シーケンスに入る。
ヒリュウフォーメイションとは、五匹の龍機を直列合体させる形態であり、長大な龍の姿――ヒリュウとなる。
ヒリュウの飛行速度は圧倒的で、通常マッハ3で飛ぶ龍機であるが、理論上その数百倍以上の速度を出せる。
だが、それではダメなんだ。
ヒリュウは速度こそ向上するものの、攻撃手段は噛みつきか口からの火炎放射、あるいは機銃のみ。
それで倒せる巨大風水獣じゃない。
ブルーの言うとおり牽制は重要だが、そんな時間はなかった。
「おい! 待てって」
「ブルー……レッドには何か考えがあるのよ。信じましょう」
「……チッ」
ピンクの説得で、ブルーも不承不承引き下がる。
「まぁまぁ、後でカレーでもおごってもらいましょう」
「そうですね~、私はグリーンカレーがいいです~」
カレーの話しかしないイエローと、天然で温厚なグリーンの助け船。
「チッ」
ブルーが隠そうともせず舌打ちをする。
「勝手にしろ」
「……五龍合体!」
五機の機龍が中空で渦を巻きながら上昇する。
そして大の字を描くように組み合わさっていく。
真っ赤な頭と胴、青の右腕、桃色の左腕、黄色の右脚、緑の左足――
これこそ五龍合体ゴリュウロボ!
西洋の鎧騎士のようでもあり、東洋の武将のようでもある超鋼の結晶。40メートルを超える巨体を持つ、龍の守護神だ。
なぜギガントマンとほとんど同じ大きさなのかはわからない。
ともあれ、合体によって全員がコクピットに集結する。
「それでどうする気だレッド。まさかこのまま突っ込むとは言わんだろうな」
「ヤツが蛇口から水流を放つのに合わせて、全ドラゴンヘッドから炎を放ちながら突進する」
「……突っ込むより多少マシ程度じゃねえか」
呆れ声のブルー。
「イヤ、これはいいアイデアです。カレーは火力が決め手ですから」
「……お前らに期待したオレがバカだったよ。いいだろう。乗ってやる。だが、操縦はオレに任せてもらおう」
ブルーがライティングボールに気を込める。
のしのしと歩きだすゴリュウロボ。見た目の巨大さに対して、踏みつけたアスファルトの損傷はそれほどでもないのは、超自然の存在であるためだろう。
「いいか。奴が水を出したら火を放て。タイミングを合わせてオレがブーストをかける。レッド、お前の出番はその後だ」
「ああ」
果たして、ジャグチフウスイは水を吐き出した。
四〇メートルの巨体から放たれる水流は、さながらダムの放水の如く、凄まじい圧力で襲いかかって来る。
「ぶっちぎるぞっ!」
ブルーの声に合わせ、両手両足そして胸に装着されたドラゴンヘッドが火を噴く。
水流と炎が衝突し、猛烈な水蒸気の奔流が巻き起こった。その熱風の霧を引き裂いて、ゴリュウロボが突進する。
巨人の一歩は大きく、あっという間にジャグチフウスイに肉薄。
オレは目の前のライティングボールに力を込める。
「行くぞ! ゴリュウロボ雷鳴斬り!」
かざしたゴリュウロボの右手に雷が落ちると、それが大刀に変ずる。
さながら、六体目の龍の如き偉容。
そのままそれをジャグチフウスイに振り下ろす!
雷を纏った一撃は、ジャグチフウスイの体に、稲妻の如き軌跡を描く。
「ジャ……ジャグチ死すとも……水は尽きず……」
よくわからない断末魔と共に、ジャグチフウスイは大爆発を起こした。
それを見終わるより早く――
「すまん。後は任せた!」