オリジン03
「クマデ~」
それも突然だった。
オフィス街のど真ん中で、オカメだの鯛だのがついた巨大な熊手が暴れていた。
手足は人のそれだが、跳ねる鯛をはじめ妙に生々しい各パーツはとても着ぐるみには見えず、オカメも生き物のように表情を変えている。
「なんだよあれは……」
見た目こそちんどん屋だが、被害がシャレになっていなかった。
そいつのまき散らすエネルギー弾で、周囲の建物が倒壊していく。
ガスに引火したのか爆風がまき散らされ、炎が辺りを包んだ。
「……さてはRE:ショックネスの怪人だな」
そうなると放っておくわけにもいかない。
1号の言葉を真に受けたわけじゃないが、オレしか対抗できないのも事実だ。
「待ちやがれ!」
オレは熊手のバケモノに飛び掛かった。
「ク、クマ~?」
そのまま殴りかかるが、今一つ手ごたえがない。
ギガント念力の力で加速させたパンチにも関わらず、ゴムまりを殴っているような感触だ。
「くそっ、ドクトル悪魔め……おかしな怪人作りやがって……」
「あら? あなたはだぁれ?」
と、そこに艶のある声が響いた。
腰をくねらせながら歩いてくる女性。
地球上のどの文化圏にもないような特異なデザインかつ扇情的な衣装、いまどき見かけない片眼鏡も、それだけならまだ変わり者で済むかもしれない。鮮やかな緑色の髪も、染めたのかもしれない。
だが、その女性は、業火の中を平気で闊歩していた。
炎は、身を焼くどころか、触れた場所からかき消えていく。
「お前……人間か?」
「あら。そんな下等なものと一緒にしないでくれる? 私は風水帝国ジャフウスイの上級幹部……チョベリバス!」
風水帝国……?
「世界征服を企む秘密結社じゃ……ない?」
「世界征服? そんなモノに興味はないわ。私たちの目的は破壊! そしてそれによる混沌の招来よ!」
やべえ。
悪の組織違いだ。
どうしよう。
「私たちのジャマをした罪は重いわ。覚悟は出来てるのでしょうね?」
「出来ては……ないかな」
「! 軽口を叩くとはナメてくれるじゃない」
額に血管を浮かばせて、チョベリバスが言う。
ナメるというか慣れてるだけである。
「行けっクマデフウスイ! コイツを後悔させておやり!」
「クマデ~!」
熊手のバケモノ――クマデフウスイが襲いかかってきたその瞬間……
四条の光線が宙を駆け抜けた。
光線は正確にクマデフウスイに命中する。
「クマッ!?」
そしてシュタタッ、ときれいな音を立て、四人の人影が降り立った。
「ゴリュウブルー!」
「ゴリュウイエロー!」
「ゴリュウグリーン!」
「ゴリュウピンク!」
名乗りを上げる四人。
なるほど、その名の通りの四色のスーツとフルフェイスマスクだった。未来感を感じさせる衣装は、それでいて古典的な龍を思わせる意匠が施されている。
そして一糸乱れぬ動きは、軍人のそれを思わせた。また、ピンクはその色だけでなく、声からも女性のようだ。
「理龍戦隊ゴリュウジャー参上!」
――猛烈にイヤな予感がした。
ゴリュウジャーという名前と、合わない人数。
そして明らかに空いている色がある……。
「一般人は引っ込んでな」
ブルーが言う。
その言葉に甘えてその場を離れ――
られなかった。
「逃がすな!」
チョベリバスの一言で、たくさんの戦闘員たちが現れたからだ。
それは、太極図のマスクをした黒タイツの集団だった。それだけなら、何かの芸人集団と言えなくもないが、マスクがどこか呼吸しているように見え、タイツもどこにも繋ぎ目がなくそのままマスクに繋がっていた。
また、そいつらの周囲が暗く歪んでおり、人間ではない事は明かだ。
「ちっ……」
こいつらを突破することは、おそらくできる。
できるが、目立ちすぎる。
「私の後ろに隠れて!」
そう言って戦闘員を蹴散らし、オレの前にピンクが回り込んだ。
四人の中でひと際小柄な彼女だが、その体を大きく広げてオレを守ろうとする。
と、次の瞬間――
「えっ、うそっ!?」
ピンクのブレスレットが光り出した。ディスプレイを囲むような龍の意匠により、まるで龍の持つ宝珠が輝いているように見える。
その輝きは、どこか温かく、オレの体にしみこんでいくようでもあった。
もう……大体予想はついていた。
「この人……ゴリュウパワーの適合者だわ!」
ピンクが叫ぶ。
「何だと!?」
クマデフウスイと戦っていたブルーも驚きの声を上げた。
その声に合わせたかのように、ブルーのブレスレットからも光が放たれる。
それは、イエローからも、グリーンからも放たれ、オレの頭上で収束した。
一転に集まった光は、そのままオレの右腕に降り注ぎ、ブレスレットへと結晶する。
「あなた……こんな事を言っても信じられないかもしれないけど、あなたは選ばれた戦士なの!」
ピンクがオレの両手を握り、真剣な声で言う。
やっぱり、また選ばれたのかよ!
選ばれ飽きたよ!
「あなたこそゴリュウレッドよ!」
「……」
「突然すぎてわけがわからないのはわかるわ。でも……」
「で? 変身方法は?」
「えっ」
きょとんとするピンク。
「いや、だから変身方法。ゴリュウレッドなんだろ? まさか腕を時計回りに……とかじゃないよな?」
「えっと、その、右手を天にかざせば大気中の正の気を集めて変身できるわ」
「オッケー。こうか?」
「えっ」
あまりにあっさり右手を上げたオレに、ピンクは再び驚きの声を上げた。
直後、空から光が降り注ぎ、オレの体を真っ赤なスーツが包んでいた。
龍の意匠を持つその装束は、軽装ながら強靭な繊維で構成されている。
何より、体内から溢れるようなエネルギーの高まり。
これこそ、ゴリュウレッドだ。
「なぁ、これ正体バレたら死ぬんだよな?」
「……え? いや、死ぬわけないじゃない。厳しい罰則はあるけれど……」
「よしっ!」
「えっ」
オレのガッツポーズの意味は、世界の誰にもわかるまい。
死なないだけマシ。
うん。
「じゃあ、とっとと片付けるぞ!」
「う、うん!」
クマデフウスイへ駆け出す。
この強化スーツの力も凄まじいものがあった。
体が羽根のように軽く感じられ、あっという間に加速する。
まるで大気に体が溶けているかのようだった。
「行くぞ! オレから飛び込む! 合わせろよ!」
「なんでお前が仕切ってるんだ!」
ブルーの文句を背に受けながら、オレは拳をクマデフウスイの顔面に叩き込んだ――




