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オリジン02

 そして、気がつくと、オレは手術台の上にいた。

「え?」

 丸い電灯が、まるでUFOのように天井に並んでいるのが見える。

 見える範囲には、台に載せられたメスシリンダーや注射器、スイッチが大量についた箱など、得体の知れないものばかり。

 立ち上がろうとしたが、両手両足に鉄枷がしてあり、起き上がれない。

「何だこれ……ってあれ?」

「ポィー!」

「うわっ!?」

 見える範囲にずらりと並んでいたのは、目だし帽の集団。

 コンビニ強盗がたくさん集まった図を想像してくれるとわかりやすい。

『目を覚ましたか』

 そこに、地獄の底から響いて来るようなしわがれた声がした。

 現れたのは、妙なヘルメットを被った死人のような顔をした老人だった。

 小柄な体格であるが、白いハンカチに垂らされた墨汁かなにかのような、異様なまでの存在感を覚える。世界に対する異物……格好つけるわけじゃないが、それがその時に覚えた素直な感想だった。

『わしはドクトル悪魔』

 その口から漏れたのは、地面の底からしみ出してくるようなしわがれた声だった。

 老いているその見た目より、更に年月を遥かに重ねているのが如実に現れている。

「ドクトル……悪魔?」

『隕石の衝突にまきこまれながら無傷で生還するその生命力を我が組織はいたく買っている』

 隕石の衝突……?

 ギガントマンと怪獣の落下のことか?

『我が組織RE:ショックネスでは、優秀な人間こそ世界を支配するに相応しいと考える。貴様はその末席に加わる栄光を授かったのだ』

「何? 何なんだこれ? 何かの宗教か?」

『何もわからんのも無理は無い。だが心配せずともよい。脳改造が終われば、そんな心配もいらなくなる』

「は? 脳改造?」

『光栄に思うがいい。貴様は、見事改造手術に耐え抜いた。脳改造さえ済めば晴れて怪人軍団の一員だ』

「何だよ怪人って……」

『ククク……知りたいか? 貴様はバッタ型改造人間として生まれ変わったのだ。憎きあやつを倒すための新型としてな』

 言ってる意味がわからなかった。

 だから、最初はアブない宗教団体に捕まったんだと思った。

 だが、気づいてしまった。

 オレはギガントマンと合体した影響で、透視能力を得ている。

 だから、自分の体を透視したところ、本当に機械が埋め込まれていたのが見えたのだ。

 埋め込まれているなんてものじゃない。臓器など完全に機械に置き換えられているものもある。

「て、てめえら、よくも……!」

『ムダだ。いくら肉体改造されたとはいえ、その枷は貴様の力では破壊できぬよう計算されている』

「取れたけど?」

『えっ……?』

 取れていた。

 というか取った。

『バカな! ありえん!』

 後に分かったことだが、改造手術を受けていても、ギガントマンの身体能力への恩恵は変わらなかったようだ。

 どうもギガントマンの影響は、特定の臓器や筋肉の強化というより、念動力に近いらしい。

 サイコキネシスのような超能力を、肉体に作用させることで強化しているのだ。例えば、パンチの威力を筋力ではなく、腕自体を念力で加速させて上げているイメージだ。

 結果、改造人間としての強化に、ギガントマンの念動力パワーが加わり、鉄枷はなんなく引きちぎれた。輪ゴムを引きちぎるより簡単だった。

『おのれ……さては、何者かが忍びこんで細工をしおったな!』

 勘違いし始めるドクトル悪魔。

『くそ! どいつだ! 出てこい!』

 わめき散らすその姿に、威厳はもはやない。

『貴様か!』

 彼は、手近な目だし帽男を殴りつけた。

「ポィー!?」

 哀れな目だし帽男は壁に叩きつけられる。

 いるわけないのに……そう思った次の瞬間――

「フッフッフッ……ハーハッハッハッ!」

 目だし帽の中の一人が、大きな声で笑い出した。

 そして目だし帽をはぎ取り、

「仮面ホッパー推参!!」

 仮面の男が現れた。

 ホッパーの名の通り、バッタを彷彿とさせる異形の鉄仮面だった。

 真っ赤な目が爛々と輝きながらも、どこか知性の光を感じさせる。

 その体も人のそれというより、昆虫の外骨格を思わせる硬質なものだった。

 ただ、何で目だし帽の下に仮面があったのかはわからない。

 そして、目だし帽を放り投げただけなのに、全身の様子まで変わっていたのかもわからない。

『出おったな怨敵仮面バッター!』

「仮面ホッパーだドクトル悪魔!」

 ツッコミ代わりに蹴りを放ち、ドクトル悪魔を弾き飛ばす。

 仮面ホッパー――TVから抜け出して来たかのような、ヒーローの姿がそこにあった。

『ぐっ……おのれ』

「さぁ、逃げるぞ!」

 仮面ホッパーは、オレの手を引くと、走り出した。

 目だし帽を殴り飛ばし、鋼鉄のドアを蹴破って通路に飛び出す。

「無事か? もっと早く助けられればよかったが……」

 走りながら、ホッパーが言う。

 バッタの鉄仮面の奥から聞こえる声は、精悍な青年のそれだった。

「……いいさ。どうせ改造されまいが似たようなもんだしな」

「ん? 何だって?」

「いや、忘れてくれ」

 あやうく秘密をバラすところだった。

「何にせよ、どうやらキミは私と同型の改造人間のようだな」

「……よくわからんが改造されたのは確かだ」

「ならば、キミに日本を任せたい。世界征服を企む秘密結社RE:ショックネスの野望を君が打ち砕くのだ。頼むぞ! 仮面ホッパー2号!」

 強くオレの背中がはたかれた。

 日本は任せたいって……おい!

「ちょっ……ちょっと待ってくれ! アンタがいるだろ」

「私はアリゾナに向かねばならない。悪が結集しているとの情報を得ている」

 ホッパー――敢えて言うなら1号――は前しか見ていない。

「だから待てって! こっちにだって事情ってもんが……」

「バカ野郎!!」

 突然、1号の拳がオレの頬に突き刺さる。

「ぐあっ……な、何を……!?」

「世界の平和以上に大事なことがあるか! 自覚を持て!」

 だから世界の平和のためなんだよ!

 オレ、怪獣と戦わないといけないんだよ!

 だが、それを言うわけにはいかない。

 言ったら死ぬからな。

「いいか、両腕を大きく時計回りに回転させ、ジャンプするんだ。それで仮面ホッパーに変身できる。そうすれば改造人間の能力をフルに発揮できるだろう」

「頼むから少しは話を聞いてくれ!」

「悪いが聞いてはやれん。それが改造人間の宿命だ。キミにも埋め込まれているはずだ。秘密維持装置が」

「は?」

「キミの正体がもし改造人間以外に知られれば、キミの体内に埋め込まれた小型重力子爆弾が爆発するだろう」

「おい!?」

 ただでさえ、正体バラすわけにいかんのに、二個目かよ!?

「キミはこれから孤独と戦わねばならんのだ! ここで弱音を聞くのはたやすい。だが、それではこれからの戦いに勝てん! わかってくれ!」

「そっちこそわかってくれ! オレにはオレの事情が……」

「心配するな。キミの相棒となるマシンは用意してある。時速777キロで走るマシン――スーパーセルだ」

 急に光が差しこんだ。

 アジトを出たのだ。

 そして、その先には、純白に輝くバイクが2台停められていた。

 大き目のカウルに流線型のボディ、そして左右三対のマフラーは、それが市販のバイクではない事が素人目にもはっきりわかった。

「これからはこのバイクだけがキミの友だ。いいな」

「……わかったよ。何言っても聞かないんだろ……」

「日本を頼むぞ」

 言うや否や、1号はバイクにまたがって去って行った。

 最後の最後まで、一度として人の話を聞かなかった。

「どうすんだよ……オイ……」

 もの言わぬバイクに語りかけてみたが、返事が返ってくるはずもなかった。

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