夢の世界で……
伊月裕隆、高二の16歳。
僕は周りから言えば、不幸をいっきに背負った男らしい。
僕には、両親と兄と妹がいた。僕が4歳の時、母を病気で亡くし、父と兄を、僕が小学6年の時に、交通事故で亡くした。
さらに、今から半年前に、放火され、住んでいた家を無くした。犯人はまだ捕まらない。そして、二ヶ月前、最愛の彼女を亡くした。事故だった。美紀は、僕に初めて希望を持たせてくれた。絶望して、絶望して、苦しんでいた僕に、手をさしのべてくれた。
でも、美紀は死んでしまい、僕の希望は、絶望に変わった。
それは突然だった。美紀は僕の元へと戻ってきてくれたのだ。夢の中だけど、はっきりと美紀の温もりを感じる。僕が眠りにつけば、必ず美紀は僕の元へ来てくれた。
僕の希望が、戻ってきたのだ。
「美紀、これからもずっと一緒だよ」
僕がそう答えると
「ええ、ずっと一緒よ」
と言ってくれる。
夢の世界では、僕たちは永遠だった。
ピピピッピピピッ!!
目覚まし時計の音で、目が醒める。
どこにも美紀の姿はない……
「はぁ……」
俺は、深いため息をはいた。夢から現実に戻る、この瞬間が一番辛い。
ドンドンッドンッ!!
誰かが、僕の部屋をノックする音が聞こえた。多分、明日香だろう。
「ひろ〜、起きてる〜」
ほらな!明日香だ。
僕は、家が火事でなくなってから、僕が小さい頃から、お世話になっていた櫻井家にやっかいになっている。
家が火事になり、どうしていいか分からなくなって街をさまよっていた僕に、櫻井家のおじさんとおばさんは
「なにも言わずに、家に来い」
と言ってくれた。
僕もその言葉に甘えて、おじさんの家で暮らすことにした。
明日香は、おじさん達の娘で僕とは小さい頃に、よく遊んだなかだった。明日香は、僕が家に来ることを喜んでくれた。
てっきり反対されると思っていたから、正直嬉しかったのをよく覚えている。
そんな事を考えていたら、明日香が部屋に入ってきた。
「もぉ起きてるなら返事くらいしてよ!」
「悪い。」
「まだ、忘れられないの?」
明日香がなにを言いたいかは分かる。美紀の事だろう。
「なんの事だよ」
僕は答えずに返事をはぐらかした。
僕が答えたくないのが分かったのか、明日香はそれいじょう、追求してこなかった。
朝六時、私は目をさます。習慣とは凄いもので、私は目覚まし時計に頼らなくてもこの時間帯に自然に目がさめる。
とりあえず着替えて、キッチンで朝御飯の用意をしているお母さんの手伝いをする。
時計を見ると、そろそろ七時を回ろうとしていた。
「そろそろおこしに行くか!」
二階でまだ寝ている、裕隆をおこしに行く。ひろの部屋の前まで来ると、私は大きく深呼吸をする。
「ふぅ〜」
毎日、ひろをお越してるけど、やっぱり緊張する。
気持ちが落ち着くと、ドアをノックする。
「ひろ〜、起きてる〜」
返事はない。まだ寝てるのかな?仕方ない、起こしにいきますか!ドアを開けて見ると、ひろはもう起きていた。
ひろは、あの時と同じ、美紀さんが死んだ時と同じ顔をしている。私の嫌いな顔だ。人生に絶望してるかのような顔。
だから私は、少しでもひろが元気になるよう笑顔で、ひろに
「もう起きてるなら、返事くらいしてよ!」と言う。
ひろは
「悪い。」
って私に謝る。ひろはいつも、朝は暗い。私にはその理由が分からないし、教えてもくれない。
私にちょっとぐらい頼りにしてくれたっていいのに……
私には、思い当たるふしがあった。でも、言えない。言うのが怖かった。だって、もし私が言ってしまったら、ひろとの関係が崩れてしまいそうだから。
でも、それじゃ前に進めないよね。
だから私は思いきって聞くことにした。
「まだ、忘れられないの?」
でもひろは
「何の事だよ?」
ひろは答えてくれなかった。やっぱり私は、ひろの中じゃ少しも頼りにされてないんだね。そう思うと涙がでそうになった。
だから
「私、先にいっとくね。寝ちゃだめだよ!」
そう言って部屋をでた。




