第十四話 臨検
「三時の方向! 船影です!」
見張り番が声を張り上げる。
航海中、他の船と出会う可能性は決して少なくはない。特に、陸から付かず離れず南下している現在の航路ではその確率は上がる。
最良なのは商船とすれ違うこと、最悪なのは海賊に出くわすこと。
船長は見張り番の報告を静かに待った。
「帝国旗を視認! 帝国海軍です!」
ほっと胸をなでおろす。帝国海軍の臨検は、ご禁制品がなければ通行料だけで見逃される。
最良ではないが、最悪でもない。
船長は声を上げる。
「信号旗が上がるのを待て! それまでは速度と進路を維持だ!」
船員はバタバタと持ち場に戻る。ふと、背後から気配を感じ振り返ると、そこにはクロードとソフィアがいた。
クロードが口を開く。
「船長、お話があります。ソフィア様の船室までお越し願えますか」
船長は眉をひそめたが、ただならぬ雰囲気を察し、黙って二人に従った。
船室の扉が音を立てて閉まる。
ソフィアは凛と立ち、船長を見据えていた。
「ご紹介が遅くなってしまい申し訳ございません。こちら、フィエル王国第三王女、ソフィア・フィエル・コンコルディア様でございます」
クロードの淡々とした紹介を聞き、船長の思考は一瞬にして真っ白になった。
船長は、船室のドアに背を預け、力なく口を開いた。
「こんな上等な服を着た女が、なぜ新大陸に向かうのか、もっと真剣に考えておくべきだった」
クロードは静かに頭を下げる。
「隠していたことは謝罪致します。しかし、今は一刻を争います。我々男どもは船にいても不自然はありません。いくらでもごまかしが効きます」
男であれば、冒険家とでも新大陸見たさの好事家とでも言い訳が付くと思い、船長も頷く。
「しかし、女性であるソフィア様とメイドたちはそうはいきません。ましてや、帝国兵がソフィア様の顔を覚えていれば、どうなるかは火を見るよりも明らかでしょう」
敵国の王女の逃亡を手伝ったとなれば、極刑もありうる。自身の最期を想像し、船長はさらに顔色が悪くなる。
必死に頭を回転させ、解決策の一つを思わず口に出す。
「その女をさっさと帝国に引き渡しちまえば、事は済むんじゃねぇか?」
クロードは一切表情を変えない。
「その時は、護衛の者が帝国兵を殲滅する手筈となっています。あなた達は見事、海賊の仲間入りです」
船長は頭を抱えた。すでに逃げ道はふさがれている。あとは三人の女をどう隠すか、どう誤魔化すかだ。
荷物の中に紛れさせるのはどうだ?
ダメだ、荷物は真っ先に検められる。
商品奴隷として輸送しているというのは?
いいや、不自然すぎる。新大陸へ奴隷を連れて行って誰に売るというのだ。
思考が堂々巡りを繰り返すさなか、重く火薬が破裂する音が響いた。
停船を告げる威嚇射撃の音だった。
「……三人を船長室へ。船長室は鍵をかけられる」
船長が思いついたのは、その場しのぎ。弥縫策でしかなかった。




