Week 2
【某月某日】
君が家から姿を消して、私の生きる気力も消えているはずなのに、
それでも毎朝、当たり前のように目覚めてしまうことが腹立たしいよ。
今でも、この家のあちこちで君の気配を感じるよ。
君の部屋から、君の寝息が聞こえるし、寝返りや咳払いした瞬間を感じる。
「腹減った。晩飯なに?」と言って、食卓の椅子に座る君の姿が見えそうな気がする。
最後に、一緒に食事をしたのはいつだったかな?何を食べたんだったかな?
その時、私はそれが二人の最後の晩餐になるとは気付かずに、それまで同様、君に対して諸々の苦言を呈していたんだろうね。
最後に、二人が笑顔で食卓を挟んだ時は、さらに遡るんだろうね。
我が家の経済力を考慮しながら、毎日の献立を考えていた頃は、そんな日々から開放されることを夢見ていたけど、実際に開放された今は、ただただ虚しいだけなんだね。
最後に、君の心からの笑顔を見たのはいつだったんだろう?
私が思い出せる笑顔の君は、なぜか少年姿だよ。
以来、君の笑顔を見ていなかったということなのかな。
私を内側から温めてくれた君の笑顔を、もう見ることはできないのかな。
私は、とても幸せだったんだね。そして、もうその時には戻れないんだね。
【某月某日】
昨夜、とても久しぶりにお酒を飲んだよ。
君が中学生の時に、私はやけ酒を飲んで酔いつぶれてしまった事が何度かあるよね。
二人が同時に、大きな心の傷を負った頃だよ。
当時、私には困難を自力で乗り越える強さがなかった。
いつも、誰かに、何かに助けて欲しいと思ってた。
だけど、君はそんな気弱な私の姿に、さらに心を痛めていたみたいだよね。
君に「酔っ払いは嫌いだ。」と言われたんだけど、覚えてるかな?
あれ以来、アルコールはほとんど飲んでなかったんだよ。
私までが、君を悲しませるような事をしてはいけないと思って。
君は辛いことがあっても、お酒を飲める年齢じゃなかったから、じっと耐えていたんだよね。
でも、昨日は、またお酒の力を借りたくなった。
私は、たいした成長をしてないんだね。
本当に久しぶりのお酒だったから、少量でさっさと酔っちゃったよ。
あっという間に、頭の中が朦朧として、何故か声を出して笑ってた。
自分自身が、白塗りの頬に大きな涙の粒を描いたピエロに見えて笑えた。
酔っ払った勢いで、君のベッドに入ってみたんだ。
布団には、まだ君の匂いが残ってる。
それは大人の匂いなんだけど、私が思い出すのは、
両手を広げて抱きついてきてくれた、幼い頃の君の姿だった。
あの頃、君は確かに、私の事を愛してくれていたんだよね?
君が言ってくれた「ママ大好き」は疑わなくても良いんだよね?
今は、君の苛立ちの対象でしかないとしても、心から愛された時があると信じたいよ。




