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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
最終章 終極の根
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61 影残りし森へ

復興作業の喧騒が、ようやく街から消えつつあった。


石畳の裂け目には仮設の板が敷かれ、破れた布で覆われた街灯には、子どもたちの描いた感謝の絵が貼られていた。


その光景を、街の外から静かに見つめていた影がある。

リアーネは草原に立ち、遠く地平を見据えていた。

背後から差す陽光が、彼女の巨きな肩と背を、淡く金色に縁取っていた。



ギルドの作戦室。

地図を囲む面々の間に、緊張が流れていた。


「……攻め込まれる前に、こっちから動くべきです」


レナの言葉が空気を切るように響き、周囲にざわめきが広がる。


「今まではずっと守ってばかりでした。でも、ゴブリンの異常繁殖は明らかに自然の範疇を超えています。――湧き出す場所がある。放っておけば、次もある」


ミレナが補足した。「これは“仕組まれた増殖”よ。拠点の構造を突き止め、根を絶たなきゃいけない」


「となると……あの地だな」


カイが口を開く。「北東の、黒壌地帯。地図にもほとんど記されていない場所。そこに踏み込むしかない」


編成された作戦隊には、S級のドーガとミレナ、カイと鳥足歩兵隊、それに志願した冒険者たちが加わっていた。D級からA級の、若く勢いのある顔ぶれだ。


「“死の谷”に足を踏み入れる日が来るとはな……」ゾルドが苦く笑う。


「妙に静かすぎる。鳥もいない」リュカが矢筒を確かめながら呟く。


「でもさ、あたしたちなら、きっと――リアーネさんも、いるし」

マリナの声がやや震えていた。


そのときだった。


ズゥゥゥゥン……


ギルド広場の石畳が、低く響いた。


誰かが息を呑む。「……リアーネさん……」


静かに、巨大な影が街の奥から姿を現す。

陽を背に受け、草原を踏みしめて歩いてくる。沈黙のまま、確かな足音を残して。


ギルドの面々が静まり返る中、リアーネは広場の外縁で立ち止まった。


一拍の沈黙の後、彼女は低く、けれどはっきりと告げる。


「……聞こえたわ。その判断、私も支持する」


わずかに地が鳴る。

彼女のブーツが石を削り、作戦室の床へまで微細な震動が届いた。


「私の脚なら踏破は早い。前線の偵察は任せて。――“向こう側”の地形、私の目で確かめておきたいの」


レナは頷き、地図の一角を指し示す。


「ここが未調査領域。“黒壌地帯”と呼ばれています。かつて、古い王国があったとも……でも、記録はここで途絶えている」


「ろくでもない予感しかしねぇな」ゾルドがうなる。


「でも、そこに踏み込まないと進めない」

カイが淡く笑いながらも真っ直ぐ言った。「行こう。この街が、次を迎える前に」


リアーネが踵を返し、街道へ向けて歩き出す。

ズゥゥン……ズゥゥン……ズゥン……

一歩ごとに、広場の空気が揺れるようだった。


誰かが、ぽつりと呟いた。


「……あの人が、味方で良かった」



森を抜け、岩丘を越えた先――。


そこには、陽の光が届かない谷があった。

空気は濁り、風はなく、草の背が低い。


リアーネは斜面に立ち、ゆっくりと片膝をつく。

森の底で何かが息をひそめている。その気配に、眉をひそめる。


「……この匂い」


獣臭、鉄、血の腐臭……それに、魔力が焼け焦げたような匂いが漂っていた。


地表には掘り返された痕跡。森の中でだけ、時間が止まっているかのような沈黙。


風も音もない中で――

ただ、微かに。耳の奥で、コッ……コッ……と規則正しい“何か”の音が鳴っていた。


鍛冶か、鼓動か。

それとも、地下の別の“意思”か。


リアーネは立ち上がる。風に金髪がなびいた。


「……本拠地が、動いてる。違う、“生きてる”のかもしれないわね」


その言葉と同時に、草が静かに伏れる。


この谷は、見られることに慣れていない。

けれど今は、むしろ**“こちらを見ている”**かのような錯覚に陥る。


吐息のような風が、谷を舐めるように流れた。


何かが――確かに目覚めかけていた。

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