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巨大女戦士の冒険  作者: ranranslime
幕間 小休止
70/95

閑話 階段のない旅 (挿絵あり)

空は快晴。風が木々を揺らし、鳥の声が穏やかに空を泳いでいた。


そして問題は――階段だった。


「……あれ、登るのか?」

カイが見上げる。


苔むした石段が、斜面に沿ってずらりと並ぶ。

百段はあろうかという古びた神殿跡。見張り台のような高台へと続いていた。


「このくらいなら余裕だろ、俺らにはな!」

ゾルドが笑い、胸を叩く。


だが、全員の視線がリアーネの方へと向いた。


彼女は、段の最下部――というより、“階段そのものの幅”を覆うように立っていた。

挿絵(By みてみん)


肩幅は五メートル半。すでに目線は、階段の終点を見下ろしている。


リアーネは両手を腰に当てて言った。


「……私がここから見てる時点で、この階段、“登る”って言えない気がする」


ゾルドがぽつりとつぶやく。


「登山とか……登段とだんとか、そういう名前に変えるべきかもな……」


リアーネは笑い、すぐに真顔で宣言した。


「私は階段じゃなくて、“地形”を登るから」


次の瞬間、リアーネは階段の外側、草の斜面に足をかけた。


ズゥン……ズゥン……


巨大なブーツの下で石が転がり、土煙が舞う。

腕と脚を大きく使ってよじ登るその姿は、まるで岩山を制圧する巨人だった。


一歩で十段分。見上げていたら、あっという間に高台の上にたどり着く。


「先に着いたわ。のんびりどうぞー」

リアーネは髪をなびかせ、上からひょいと顔を出した。


カイたちは呆れと苦笑を交えながら見上げた。


「それ、完全に登頂なんだけど……」


「反則技でしょ」

「ズルではない……戦術だ」マリナが妙なフォローを入れて、みんなが笑った。



次に訪れたのは、渓流沿いの小道。

谷に架かる橋は、細い木製だった。


「えーと、耐荷重……五トンまで」

マリナが橋の傍に立つ看板を読み上げた。


リアーネの方へ視線を向ける。

彼女は看板と自分を見比べ、ゆっくり首を傾げた。


「……片脚でアウトね」


リアーネはブーツのつま先で橋の端をつつき、確かめる。


「たぶん、踏んだ瞬間に全部落ちる」


そう言って、静かにしゃがみこみ、ブーツを脱ぐ。

片手に巨大なブーツを持ち、そのまま谷底へと降りていく。


ズゥシィーン……!

地面に足がつくたび、軽い揺れと音が谷にこだまする。


谷底に降り立った彼女の腰の高さは、まだ地上のカイたちを遥かに越えていた。


水深はせいぜい膝ほど――リアーネの足首より浅い。


「行くわよ」


片脚ずつ水に踏み出す。


ジャブゥーーン! ジャブゥーーン!


水柱が上がり、魚たちが四方に逃げた。

ブーツを脱いだ裸足が渓流に沈み込むたび、水が盛大にうねる。

歩いた跡にはミニ池のような窪みができ、泡と花びらがふわりと浮かぶ。


彼女は谷の向こう岸にたどり着くと、岩場に腰を下ろして足を乾かし、ブーツを履き直す。


「……やっぱり、この身長になると“道”は自分で選ばなきゃね」


ゾルドが小さくつぶやいた。


「やっぱすげぇな……橋を使わず、川を“越える”って考え方がもう違う」


「でも……」フェイが微笑む。


「なんか楽しそうだったよ、リアーネ」


リアーネは川面を見ながら、小さくうなずいた。


「うん。ちょっとだけ、気が楽だったかも」


いつも“通れない”“壊すかも”と気を張って歩く道。

でも今日の彼女は、道を壊さず、誰も驚かせずに進めた。

それがほんの少し、彼女の心を軽くしていた。


そのとき、川の向こうの森から小鳥がひとつ、羽ばたいていった。


水面に残ったリアーネの足跡には、小さな水たまり。

そして、淡いピンク色の花びらが、そっと浮かんでいた。

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