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ブリミル年代記 <深淵の影に飲み込まれた運命>  作者: a.z.bako
バルダーの使者シャーリンと輝く盾
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5. 古い歌と道標、受け継がれる意志

「これであいつらはここまで来られない」


(同じアルダフォードの人同士で争うなんて、バルダー様、一体なぜこんなことが…)


「ローレン、あれは何?」


「バーバラが作った魔法道具だよ。呪文を唱えて、地面に植えると育つ蔓の木なの。ふむ、バーバラに頼るのは嫌だったんだけど」


「ローレン、あ、あんな蔓の木くらい切って追いかけてこないかな?」


ローレンは自信満々の表情で言った。


「ふ、そう簡単にバーバラの植物たちを取り除くことはできないね」


ローレンは指を握ったり開いたりしながら、嬉しそうに話を続けた。


「茎に傷をつけるとねばねばした液体が出てきて、武器がくっついて斬りにくくなるよ。それに攻撃すればするほどもっと大きく、どんどん増えていくからね。それに毒も吹き出すはず」


フレアは振り返って城壁を覆い尽くした蔓の木を見ながら言った。


「うわぁ、そうなんだ。よ、良かったね。あ、まだ伸びてるの?」


蔓の木は伸び続けて城壁を覆っていた。灰色がかった城壁は今、緑色に染まり、ところどころに橙色の花が大きく咲き誇って芳しい香りを漂わせていた。


(ああ、このにおいをずっと嗅いでいたら眠ってしまいそう。

あの者たちはもう私たちを追ってはこないだろうけど、ルンドたちは大丈夫だろうか。私より弱かったルンドが、まさか騎士団長だなんて、黄金の獅子騎士団は一体どうなっているの。彼らは大丈夫かしら。


バルダー様、どうか彼らをあなたの御手でお守りください。もちろん、あなたの方が彼らをよくご存知でしょう。彼らに必要なもの、闇に負けず、絶望せず最後まで戦えるよう、心の中に闇が、恐れが生じないようにしてください)


ローレンは以前よりも体が軽くなったように、素早く前へ進みながら言った。


「とにかく、バーバラが作った奴らはそう簡単には死なないよ。火にも強いしな」


フレアはローレンを追いかけながら言った。


「それより、ローレン、体は大丈夫なの?」


「まだかゆいよ。耳はちょっと痛かったけど、もう大丈夫。魔法は本当に必要な時だけ使わないとね。まあ、さっきも本当に必要だと思ったから使ったんだけどさ。数がもう少し少なかったら、ヘルとフレア、二人でなんとかできただろうに、どんどん増えるのを見て、つい使ってしまったのよ。この魔法の影響がどこまで及ぶのかはよく分からないけど、この森を抜けたらそれでも大丈夫だと思うね」


フレアは再び城壁の方を見ながら言った。


「そうよね、あまりにも数が多すぎたよ。黄金の獅子騎士たちは大丈夫かな?私はまだ手が震えてるよ」


フレアは私を見て驚いた表情で言った。


「シャーリン、もうその上着を脱ぐの?」


私は上着を木のそばに置きながら言った。


「もうこれ以上隠す必要もありませんからね」


ヘル様が私たちの後ろから前へ進みながら言った。


「彼らがこちらに来ることはないだろう。そして少しは静かになったようだ」


ローレンは周囲を見回してから自分のカバンの中を探って言った。


「それにしてもひどいな。計画が狂ったよ。案内人について行くべきだったのに…」


フレアも不安そうに周囲を見回し、スキブーを撫でながら口を開いた。


「どうしよう?」


「どうするって、私たちにはヘルがいるじゃない。とにかく山の頂上の方に向かって行けばいいんじゃない?そうでしょヘル?それに、万が一の時は、これもあるし」


「えっ?それ何?魔法道具?」


「うん、ノーブルがくれたの。私たちが行くべき方向を教えてくれる道具よ。でも、この森ではヘルについて行く方が早いんじゃない?」


私たちはヘル様について森の奥へとゆっくり歩を進めた。


地面を一面に覆った緑色の苔が木々の間から差し込む日差しに金色に輝き始めた。


(バルダー様、輝く日差しのように、あなたの導きが私たちと共にありますように)


フレアは咲き誇る美しい花々を見て嬉しそうに声を上げた。


「夜明けが近いんだね。見て、こんな花もあったの」


(鈴のような形の花?!)


「気をつけてください、フレア。その花には多分、毒があります」


「フレア、何でもかんでも触らないで気をつけて。これ以上立ち止まってはいられないよ」


「あ、ごめん」


(この森には私の知っている薬草も多い…似てるようで他のアルダフォードの森とは何か違う。あの植物も見たことがあるけど、あんなに大きな葉は持っていなかった)


「これは食べられますよ」


「ローレン、これ見て。甘くておいしいよ。うん、色は青黒くて怖そうに見えてまずそうだと思ったのに、甘い!」


「うえっ、見た目が良くて美しいものが危険だと言うけれど、だからといってこんなに見た目の悪いものは食べたくないわ。そんなのシードホートで十分だよ。フレア、何してるの?」


「これらを少し持って行くの」


「私が魔法の布に包んできたものもあるから、そんなにたくさん持って行かなくても大丈夫よ。カバンが汚れるだけだよ」


フレアは口いっぱいに青い実を入れて口の周りまで青く染め、これ以上聞き取れない声で言った。


「ふむ、魔法の布に包んだ肉が減っているのが残念ね」


「そういえば、食べ物が増え出す魔法の布を作る人もいるよ」


フレアは目を丸くして口を大きく開けた。


「うわ!すごーい」


ローレンはフレアが落とした実を拾って食べながら言った。


「でも、今はその魔法の布に入れたパンがぐにゃぐにゃと膨らむ程度よ。味もなぜかからからに干からびたパンのようで、香りも消えてしまう」


「ずーっと昔からある研究なのに、ぜんぜん進んでないんだよ!

まあ、パンがふくらむのが速くなったみたいで、朝にふわふわパンをちぎってスープといっしょに食べても、次の日には切り取った部分がまたむくむくってふくらんでるんだよ。でもね、バンは一日にパン二個を使うのらしい。いったいなんの意味があるのか分からないよ」


(ああ、不思議だね。パンを増やすこと、バルダーの恵みにもあるけれど…バルダーの恵みではパンしかできない。魔法道具なら他の材料でもできるかな?味は料理すれば変わるだろうし…あぁ、シードホートにいる時に会えて話せたらよかったのに…)


<ぽとん、ぽとん>


大きな木々の上から巨大な水滴が落ちていた。

森のあちこちには大きな穴が口を開けている。


「ヘルについて行こう。気をつけて。足元も滑りやすいから、下手をするとあの穴に落ちちゃうよ」


まるで森の木々が演奏をしているかのように水滴が落ちて美しい音楽を奏でているようだった。


「お、久しぶりに私たち四人の冒険ね。もちろんスキブーも一緒だよ」


フレアはあたりを見回しながら小声で言った。


「うぅ、静かね。もしかして、この森にもラウペイがいるんじゃないよね?」


「落ちる太陽を背中に昇る火炎の影。

果てのない戦いに終わりを告げる巨人の火斧」


「え?なに、それ?」


「バグナがが歌ってたでしょ?覚えていないの?」


「あ!もう、からかわないで!ローレンならどうしたと思う?」


「うーん、そうだね。結局、私がいてもフレアの力がなければダメだったと思うけど」


「えへへ……な、なによそれ」


<すうう、すううぅ>


老人の咳払いのような風の音が聞こえた。


「道しるべだ」


「あ、あれ?あの大きい木?」


ヘル様が指さす方には、大きな柳の木がそびえていた。


(どれほど長い時をここに立ってきたんだろう。なぜだか分からないけど、ほかの木とは違う気がする。なんだろう?)


花粉が舞い散りながら風が吹いてくる。


周囲の木々の枝が踊るように揺れた。


ローレンは柳の木を見つめながら言った。


「お互い違う道を歩んでも、結局は同じ目的地にたどり着くのね。やはりノーブルが教えてくれた歌の通りね」


(ノーブル様…)


---


「好奇心」


「多くの魔法使いは一つのことしか考えません。さあ、どうぞ」


ノーブル様が出してくれたお茶は温かく、アルダフォードでは味わったことのない風味だった。


「香りがいいですね」


「ヘーニル地域で昔飲んで、おいしかったので、とても美味しかったので、いつもギルドを通して取り寄せているお茶です。香りが素晴らしいでしょう?」


「私ひとりこうしていてもいいのかなと思ってしまいます。ローレンは私のために昼夜を問わず図書館に通っているし、ヘル様とフレアも…」


「それぞれの時間に意味があると思います。立ち止まっていることにもね」


「ローレンがあなたを助けているように、いつかローレンに困難が訪れた時、シャーリン、あなたがローレンを助けてあげればいいのです」


「魔法使いたちは、外の人々から見ると、偏屈のように映るのでしょうね」


「はい、そう聞いて育ちました。自分たちの目的のためなら何でもして、闇の中で生きていると。ヨツンと同じだと見る人もいて、恐れられていました。ヨツンのが現れるのも、ひょっとすると魔法使いたちの仕業ではないかと疑う人もいます」


「はは、いかにもアルダフォードらしいですね」


「すみません」


「いえいえ。まあ。人は自分の知識の範囲でしか物事を説明できませんからね。さらに言葉で表見しようとすると限界があります。まるで、この香りのように」


ノーブル様は赤みがかった木で作られた立派な机へと歩みながら言った。


「シャーリンさんもご存知でしょうが、【声】を聞くことが大切です。ローレンも、もっと他の人の声に耳を傾けられるようになってほしいですね。ローレンがすでに立派な魔法使いかもしれませんが、人としてまだもっと学ぶべきことが多い子供です。シャーリン、あなたが助けてきた他の子供たちのように彼のことも支えてくだされば嬉しいです」


「はい。私にできることがあるなら、喜んでお手伝いします」


---


「ガイルバルドまでは道のりが遠いなあ。

行くには本当に遠いねえ。

ガイルバルドまでは道のりが遠いなあ」


ローレンが突然叫んだ。


「もう、フレア!そんな子供っぽい歌やめなよ!」


「でも、こうすると覚えやすいってノーブルが言ってたでしょ?」


フレアは手を叩きながら歌い続けた。


「えっと、その次は何だっけ…」


「空にそびえる柳の木、鳥の声が響くドワーフの憩いの地…」


「あ、そうそう。シャーリン、よく覚えてるね」


「そうですね。手を叩きながら歌うと覚えやすいんです。バルダーの使者になる時にも、そうやって覚えた祈りがあるんです」


ローレンは私を見ながら言った。


「へー、バルダーの使者たちもそんな子供じみたことをするんだ?面白い話ね」


私は手を叩きながら答えた。


「はい、特に、幼いバルダーの使者たちはそうやって一緒に祈りを覚えるようにしてますね」


森に歌声が静かに響き渡った。


「ガイルバルドまでは道のりが遠いなあ。


空に聳える柳の木、

鳥の声が響くドワーフの憩いの地、

人とドワーフが手を結んだ蔓の誓い。


私たちは約束について歌うよ。


《グレジトレ》からやってきた浮かれた魔法使いの田舎者、人々に叫べ。


ガイルバルドまでは道のりが遠いなあ。

行くには本当に遠いねえ。

ガイルバルドまでは道のりが遠いなあ。


深いところ、眠っている闇が目覚めませんように。

静かに帰るよ。


さようなら、空に聳える柳の木。

さらば、鳥の声が響くドワーフの憩いの地。

時が過ぎても切れることのない蔓の橋を渡って帰るよ。


ガイルバルドまでは道のりが遠いけれど、

行くのよ。扉が開くまで。心はそこにあるのさ!」

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