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ブリミル年代記 <深淵の影に飲み込まれた運命>  作者: a.z.bako
バルダーの使者シャーリンと輝く盾
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4. 歪んだ意志の衝突:黒豹と輝く獅子の戦い

青白い光が砕け散り、夜空に澄んだ音が広がった。 ルンドの叫び声と共に私の耳元を震わせた音は、この地に存在しない妖精たちが奏でる音のようだった。


闇の中、きらめく矢がこちらに向けられていた。


(黒い鎧?!)


弓を下ろしながら闇の中から現れた人影は、こちらを睨みつけながら話した。


「ハッ、暗すぎて見分けがつかねえな。森から侵入してきた連中かと思ったぞ。チッ」


「ふん、また別の客人か。チッ……黄金の鎧とはな。こんな場所に高貴な方々が来るなんてな?」


影そのもののような黒き鎧をまとった者たちが闇の中から現れ、月光の下でその姿を露わにした。


(鉄壁の騎士団……?話し方がまるでならず者だ。一体どうしてあんな連中が騎士なんだ?)


フレアがスキブーを見ながら話した。


「うわっ、全身真っ黒で音もなく現れるからヨツンかと思ったけど、人間だったのか。あ、あいつらは何者?」


(ルンド?)


いつの間にか、ルンドは鉄壁の騎士団と私たちの間に立ちはだかり、鉄壁の騎士団と対峙していた。他の黄金の騎士たちも私たちを囲みながら、鉄壁の騎士団を見据えて警戒していた。


「黄金の鎧が似合わない奴もいるな。なぜお前がそっちに立っている? 我々は同じ種族かと思うのに…。

フン、それより黄金の連中がここに何の用た?」


闇の中から、熊のように巨大な男が姿を現した。

彼の目はどこを見ているのか定かではなく、ぼんやりと霞んでいた。

しかし、その全身からは猛獣のように荒々しい殺気が放たれてるのが感じられた。


《フヴァイップス》と呼ばれた騎士は答えずに背中から赤い光を帯びる剣を抜いた。


(確かに、あの剣は黄金の鎧とは釣り合わない……別の騎士団の所属だったのかな?)


熊のような男は体を大きく動かしながら話した。


「ほお、返事の代わりに剣か?ハハ、やはり我々と同じ種族じゃないか?」


ルンドは前に出て《フヴァイップス》の剣を下げさせながら話した。


「私は黄金の獅子騎士団長、グレンだ。この地の悪い噂を直接確かめに来た」


「そうだ、俺に話す時は武器を下ろすべきだ。前にも出てくるな、そこ、その低い所で話せ。こいつらは気が短いでな。また矢が飛ぶかもしれんぞ」


(傲慢な声だ。本当にバルダー様を信じる騎士たちなのか?)


彼は私たちを見回しながら話した。


「どこで何を聞いたかは知らんが、ここは俺と鉄壁の騎士団が治める地だ。

俺、シズモアの許可なく何もできんぞ。

それなのに、俺に顔も見せず、

町中を好き勝手に歩き回っていたそうじゃないか」


ルンドの声が鋭くなった。


「治めるだと?

ここもアルダフォードであることを忘れたわけではないだろう。

我々黄金の獅子騎士団はアルダフォードを代表する」


「ハハハ、アルダフォードだと!

お前、自分がどこにいるのか分かって口を開いているのか?

平和な王都で甘い安息に浸るお前たちに、何が分かる?

その平和を守っているのは誰だ?

闇を防いでいるのはお前たちか?

いや、守っているのは我ら鉄壁の騎士団だ。

光を闇に踏みにじらせはしない。我ら鉄壁の騎士団、牙を剥き、鋼の壁となって食い止める。それが我らの戦いだ。

もう見ただろうが、この土地は生命の火を失った。

揺らめく消えかけの煙しか残っていない。

深い闇から現れるヨツンたちに常に狙われている場所だ。

冷たい気配と恐怖に包まれ、いつ自分たちに降りかかるか分からない死の不安の中で、人々は信じるものが必要なのだ」


シズモアは険しい表情のまま、片手を高く掲げて言葉を続けた。


「力!自分たちを守ってくれる力!

それを誰が与える?バルダーか?

バルダーはこの地を守ってくれなかった。

俺たちが守った。俺が守ってきたし、これからも俺の後継者たちが守り続ける。ここでは俺が、鉄壁の騎士団が正義だ」


(ルンド、あの時みたいに、怒ってる)


ルンドは怒りを込めて声を放った。


「お前は、支配者になろうとしているのか?」


「支配?違う。俺は守ろうとしているのだ。

初代王のように、力で。

力こそが正義だ。

それが鉄壁の騎士団だ」


女騎士が叫んだ。


「ああ、そんな言葉を口にするなんて、信じられない!

団長。やはりこの場所は間違っている。あいつらは有罪だ」


ルンドがゆっくりと口を開いた。


「その発言、この場で裁く」


シズモアが笑いながら言い返した。


「裁く?ハハハ、話しただろう。ここでは俺が正義だ。裁かれるのはお前たちだ」


シズモアの言葉に黒鎧を着た者たちが野獣のように声を上げながら、武器を持ち上げ、騒々しい音を立て始めた。


(あれが本当に騎士なのか?)


怯えるフレアはスキブーを抱きしめた。


ルンドたちは微動だにせず、その中でアストルフォは口笛を吹きながら本を開き始めた。


シズモアが腕を上げると、場が静まり返った。


ナモ様が大きな声で叫んだ。


「シズモアよ、お前は自分が憎悪していたものたちと同じ姿になってしまったのだな。 闇を憎むお前の心は、今や漆黒に染まり、燃え盛る憎悪に覆われている」


「まだ生きて息をしているのか?ナモ。老いたバルダーの使者よ」


ルンドが剣を抜き放ちながら話した。


「噂は本当だったようだな」


シズモアは無数の小刃がぎらつく鋸歯の剣をこちらに向けながら、ぞっとする笑みを浮かべた。


「今夜、お前たちと同じ食卓に座ることはなさそうだ。

帰れ。

いや、最初から来なかったことにしろ」


荒々しい雄叫びが響いた。


月光を背にした巨大な影が跳び上がり、その後ろから群れなす矢が夜空を裂いて白銀の光を遮った。


(バルダーの輝く鎖よ、我らを守りたまえ)


鉄壁の騎士団に向かって突進するドゥニーズは槍を振るって飛んでくる矢を切り払った。芳しい花の香りと甘くて爽やかな香りが風に乗って過ぎていった。


(守護の盾)


二人の巨漢がその後に続き、前へと進み出た。


(対敵者を死地へ追いやり)


一人は両手剣を大きく横に振り抜き、飛来する矢を紙切れのように散らした。


(その刃を地に沈め)


もう一人の騎士は槍を振るって私たちの方に近づいてきた黒鎧の騎士たちを突き刺した。


(敵を駆逐し、滅ぼせ)


ナモ様は私の横にゆっくりと歩いてきながら話した。


「シャーリン、そなたの示すバルダー様の恵みは、この年老いた私にとっても天恵のごときだ。恵みは授ける者によって姿を変えるものだが、そう、実に温かく、そして揺るぎないものよ」


ナモ様が両手を合わせて祈りを捧げると、私たちの前に巨大な光の壁と柱が現れ、飛んでくる矢を防いだ。


月光を浴びて輝く黄金の鎧と、赤く光る刃が素早く動き回っている。


(たしか、あの人はフヴァイプスと言ったな。まるでヘル様のように早い。あ、風?)


周囲に小さな風が吹き始め、それはやがて砂塵となって黒鎧の騎士たちへと向かっていった。


「おや、少し遅かったようですね。さすがナモ様です。私はあまり役に立ちませんでしたよ。はははは」


オリヴィエと呼ばれた男は弓を取り出し、黒鎧の騎士たちへ狙いを定めた。


(あの者はどうやって風を起こしたのだ?恵み?バルダーの騎士たちにも恵みを使える者がいるとは聞いたが…まさか、あのような者も?)


「ハハッ、逃げ足は速いな。攻撃しろ。その戦い方、まるでどこぞの貴族の試合でも見てるみたいだじゃないか。世間知らずの坊やか?」


(あのシズモアという男、強い。

ルンドは私より力も弱いくせに、どうしてあんな化け物じみた相手とやり合っているのだろう。

他の騎士たちが相手をする方がまだ分があるはずだ。何をしている?

それにしても、ルンドの動きは私と手合わせした時よりも少ない気がする。

しかし、流れるように刃をかわすのが速い。

あの二人、まるで、獅子と黒豹が対峙しているように見える。

二人の戦い方も、漂わせる気配も、あまりにも違いすぎる)


ルンドが叫んだ。


「力で守るだと!?

笑顔を浮かべる者は一人もいない。

恐怖と闇に囚われた人々は、狂気に呑まれている。

そんなものは守ることじゃない!

俺は信仰で心を守る。

希望がなければ、守ったとしても、それは空っぽの殻だ!」


「守る。その言葉は力ある者だけが口にできる。

あの後ろの連中は何だ?森で迷った貴族様か?

そいつらをお前が守れるか、見ようじゃねか」


「シャーリン!もっと後ろへ下がれ!」


ルンドはシズモアと呼ばれる男と剣をぶつけ合い、その衝撃で強い風が巻き起こった。


(鐘の音?この音は、さっきも聞いた音だ。

黄金の獅子騎士団には貴族が多いと聞いていたけど。誰かの恵みなのか?

どうしよう?

あの人たちを助けるべきか?

大丈夫なのか?

あんなに大勢を相手にしているのにルンドたちは余裕に見える)


ローレンが私に手招きしながら叫んだ。


「シャーリン、今だ!この隙に急いで森へ行こう!」


(そうだ、私は私の道を行かなければ)


「はい。ローレン、行きましょう」


私たちはヘルについて森の方へ向かった。


崩れた城壁の方へ近づいたとき、ヘル様が立ち止まり言った。


「こちらにも来たか。ローレン。戦うしかなさそうだ」


「どこに逃げようと!え?何だ?こいつらは何者だ?」


フレアが慌てたように叫んだ。


「ヘル!ローレン!ここからどうやって抜け出す?」


ローレンが周りを見回しながら話した。


「チッ、あいつら最初から別の道を回って攻撃するつもりだったのか?」


(多い。ルンドたちが相手にしているよりは少ない数でも、ここでためらってはいられない。バルダー様、道を開いてください。私たちは前に進まなければなりません)


「シャーリン!前に出るな!」


大きな両刃の斧を持った黒鎧の騎士が嘲笑いながら叫んだ。


「おや?小さな少女が死にたいのか。村の奴らではなさそうだが、冒険者か?なぜ黄金の連中と一緒にいるのかは知らんが、ここにいたのは間違いだ。クハハ」


(あ、ヘル様、フレア)


「ハハ、俺を侮るか?お前たち二人で俺を止められると思っているのか?一度俺の斧を止めてみろ!」


(どうやって彼らを助ければいい??ローレンも魔法が使えない。ここでは私が何かをしなければ)


ヘル様は走りながら剣を抜いた。

月光に照らされた緑色の剣光が眩しいと感じる間もなく、すでにその場からヘル様は姿を消していた。


大きく振りかぶった斧をかわして、いつの間にか黒鎧の騎士は倒れていた。

緑色の剣光が動き、黒鎧の騎士たちの悲鳴と剣同士がぶつかる音が響いた。


(守護の恵みだけでは足りない。もう少し武器の扱いが上手ければ…)


赤い炎と緑色の剣光が黒鎧の騎士たちを倒していった。

フレアの剣先から放たれる炎に驚いた騎士たちは少しずつ距離を取り始めた。


(さらにどんどん押し寄せてくる。いったい何人いるんだ?)


「厄介な小技を!」


〈チャン〉


黒鎧の騎士が振り回した暗赤色の鉄球は伸びてフレアの剣に絡みついた。

フレアはそんな状況に慌てて、どうしていいか分からないようだった。


フレアは必死にスキブーを探しながら叫んだ。


「うっ、助けて!」


スキブーはフレアを助けようとしたが、別の騎士たちに囲まれてしまった。


(数が多すぎる)


〈ドン〉


大きな木が倒れるような音と金属がぶつかる音が響いた。

地面に多くの黒鎧の騎士たちが倒れた。

まるで地面と一体化したかのように、黒い岩のごとく騎士たちが倒れた。


(あ、これは…)


あの日もそうだった。


オードの家で私を取り囲んでいた者たち、私を嘲笑していたあの目が光を失って倒れ、光が見えた。


(ローレン!まさか魔法を?)


フレアがいつの間にか倒れたローレンに近づいて揺さぶりながら叫んだ。


「ローレン!大丈夫?

魔法は使っちゃダメじゃない?

ああ!どうしよう!ローレン!」


「あ!うるさいよ、フレア!

うー!!くすぐったい。

あ。痛いのか?痛いけど我慢できるけど…

いや、これはもう無理だ。くすぐったい!」


突然立ち上がったローレンは耳の辺りを両手で叩きながら苦しんでいた。


(体がかゆい?そんなはずが。【シャヴァルドーガ】は魔法を使った魔法使いの体が引き裂かれる苦痛の中で息が詰まって死んでいくと聞いた)


「ローレン、苦しくないのですか?」


「うっ、くすぐったくて辛いよ。なんだこれ?聞いたのと全然違うじゃん。シャーリン?一体どんな魔法だよ、これ?」


ヘル様は城壁の階段の方を見ながら言った。


「あちらからまた来ている」


フレアが叫んだ。


「えっ?また、また来るの?早く森に行こう!」


ローレンは苦しそうに冷や汗をかきながら話した。


「はぁ、早く行こう」


「シャーリン!」


(ルンド?)


何と言ってるかよく聞こえなかったが、こちらを見て叫ぶ姿を後にしながら私たちは森へ向かった。

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