3. 語られぬ声音
「シャーリンをいじめるな!」
彼はいつも私の守護者であるかのように振る舞った。
「大丈夫?シャーリン?これ、君の?わあ!よくできてるじゃないか」
(ふん、余計なお世話よ)
私は彼の手からその彫像を力いっぱい引ったくった。
水を汲みに行った森で拾った木の枝から、バルダー様の彫像を作っていた。
《ヴァルター》様にもらったナイフはとてもよく切れるため、慎重に扱わないとすぐに彫刻が台無しになることもあった。
その日も、彫像を作っていた私の後ろに、他の【リオス】たちが笑いながら近づいてきて、私から彫像を奪い取って嘲笑った。
いつものことだった。
そうやって捨てられた彫刻を拾い、もう一度削り直せばいい。
それだけのこと。
でも、その日は違った。
《ルンド》、私と同じ時期にリオスになった騎士見習い。
いつも笑顔で多くの人々に親切で、次のアルダフォードの王にふさわしい者だと呼ばれていた。
その彼が、険しい顔で【リオス】たちを睨みつけ、彼らは彫像を彼に渡した。
ルンドの背後で、【リオス】の一人が嘲るように話した。
「沈黙の戦士様、その拳で俺たちを殴るつもりか?」
ルンドはいつもと違う顔で怒鳴った。
「君たち、やめろ!こんなことが許されると思ってるのか!」
「グレン、あんな奴ほっとけよ。見ろ!優しいお前にもあんな態度だろ」
「沈黙の戦士様、悔しかったら何か言ってみなよ。言えないだろ」
私が口がきけないと思っている人もいた。
(争いは、口から出る言葉から始まることが多い。言葉には気をつけなさい)
その日もまた、人々のひそひそ声が聞こえてきた。
でも、私はそんなことには構わず、彼らの間を通り抜けて練習用の木剣を選んでいた。
「【リオス】の間でいじめられているのが【フラムリ】たちの耳にも入ったってさ」
「バルダーの使者になる前に、追放されるんじゃないの?」
「あんな子と一緒にバルドルの使者になるなんて、嫌だよ」
「同じ【リオス】だなんて、本当に嫌だね」
人々の視線が何を語っているのか、わかっていた。
「シャーリン。頼むよ」
「他の騎士見習いもいるのに、なんで私と手合わせしたがるの?」
「だって、君が僕たちの中で一番強いからさ」
ルンドが私に勝ったことは一度もなかった。
けれど、そのたびに私の木剣は折れた。
(守りたいのだな。そうか、お前にはもう【守りたいもの】があるのか)
(バルダー様の教えに従うこと、それよりもその方の御声を聞こうとしなさい)
基本的なバルダー様の教えに従って共に修練を受けた【リオス】は、最後にそれぞれ騎士と使者になるための試験を受けることになる。
【ガエティル】、【ケルティ】、【ストールピ】から選抜されたバルダーの使者たちが【フラムリ】となり、私たち【リオス】に《ガルド》を教えてくれた。
その《ガルド》を正確に唱え、【バルダーの恵み】が顕れることで、バルダーの使者になることができる。
皆、私がその試練を通過できないと思っていた。
私の番が来て、《ガルド》を唱えようとした時、何かの音が聞こえてきた。
<パサッ>
赤い肩に軽やかに舞い降りた深紅の光を帯びた鳥は、明るく光る瞳でこちらを見つめ、鋭い嘴で自分の羽根を整えていた。
「シャーリン、久しぶりだな」
やせた体に整えられた白髪が帽子の下から見える。
「お久しぶりです。ナモ様」
リョスハマル、ナモ様は私にさまざまな武器の使い方を教えてくれた【フラムリ】だった。
(なぜあの方が《黄金の獅子騎士団》と一緒にいるのだろう?)
私たちと距離を置いたまま、華やかな容姿の男性が話した。
「《フヴァイップス》、やはりあなたの鳥の目は鋭いですね。しかし、どうやら私たちが探している者たちではなさそうですね。それにしても、こんな場所であの有名な|ヴァルキュリャ《殺されるべき者を選ぶ者》にお目にかかれるとは。初めまして、《アストルフォ・オリヴィエ》と申します」
(あんな人も騎士団の一員なのか?初めて見る。その後ろに立っている背の高い騎士は《ジェイソン》、彼が騎士団にいるのを以前見たことがある。でも、その隣にいる、もっと大柄な騎士は...あんな人もいたのか)
ルンドの隣に立っていた女騎士が、斧のような形をした槍の先を下ろしながら話した。
「くだらないこと言わないでよ、オリヴィエ。あんたがシャーリンでしょ?団長がよく話してたわよ。ふん、本当に団長より強いって?まぁ、ここで試せばわかるでしょ」
ルンドが剣を収めながら話した。
「ドゥニーズ!お前こそ無駄な話をするな!すまない、シャーリン。お前が【ガングラード】に行ったと聞いていたが、どうしてこんなところに?」
(そうか、私が去ったとき、あの人はそこにいなかった。だから知らないんだな)
「私が世話していたヒルダが、《スカディの魔法使い》たちに攫われたんです。この方たちは、私を手伝ってくださってる冒険者の方々です」
ルンドは周囲を見回しながら、深刻な顔で低くつぶやいた。
「スカディ、だと?」
ルンドは、いつものように心配そうな顔をして、私に話した。
「こうなるとヴァルター様がお心配なさる。俺とヴァルター様がいない時に、お前が《アウドハル》を離れたって聞いて、申し訳なく思っている。俺がいたらそうはならなかっただろうに…」
(ヴァルター様)
「ヴァルター様」
「シャーリンか。もう、時がこんなにも流れたんだな。シャーリン、君がここに来た日のことを覚えているか?」
「うーん、あまり覚えてないです」
「思い出せないこと、忘れられること。それも神の祝福かもしれんな。それより、何か悩みがあるようだな」
「木剣がすぐ壊れちゃうんです。ヴァルター様に言われた通り、彫像を作るのもやってるけど、力の調節って、いつになれば上手くなるんでしょうか?」
「シャーリン、他人と同じように歩こうとしなくてもいい。
たとえ他人より遅くても、より正確な一歩。
その美しい一歩が人々の記憶に残るんだ。
いや、人々が覚えていなくても、バルダー様は見ておられる」
「よく分かりません」
「はは、そうか。分からなくていいんだ」
「あと数日で、最後の試験です」
「不安か?」
「いいえ。でも、ちょっと緊張してます」
「シャーリン、なぜバルダーの使者になりたいのだ?」
「うーん、なんというか。両親のいない私みたいな子たちを、昔、バルダーの使者たちが守ってくれたように、私もそんな子たちを守りたいんです」
「守りたい、か。なるほど、そうか。もう、守りたいものがあるのだな。いつか、その意志が、君を試練へと導く日が来るだろう。
大きな意志と、小さな意志がぶつかる。
だが、大きいとは何か?小さいとは誰が決めるのだ?我々には分からぬ。我々は、木の枝にぶら下がるか弱い小枝のようなもの。時に、木を守るためにその枝が犠牲になることもある。
その小さな枝を、守ることはできないのだろうか?小さきものを守るために、シャーリン、君は戦えるか?」
「どうして戦わなきゃいけないんですか?」
「自分のものを守ろうとすれば、奪おうとする者と戦わねばならない時もある。それは、誰かを傷つけることにもなり得るのだ。
そうした戦いは、言葉から始まることが多い。言葉には気をつけるのだ。
もちろん、シャーリン、君はとてもよくやっている。
光は奪わず、分かち合うもの。隠さず、現すもの。
互いに愛し合わなければ、争うだけだ。分かち合わなければ、奪い合うだけ。助け合わなければ、見捨てるだけだ。
バルダー様の教えをただ守るのではなく、その声を聞こうとするのだ。
神はいつの時代にもおられた。人が呼ぶ名前や姿が違っただけでな。
皆が指し示す方向が、常に正しいとは限らない。
誰かにとって小さなことが、別の誰かには大きなことかもしれぬ。
私にとってはな、シャーリン。君の笑顔こそが、何よりも大きいんだ。
君が進もうとする道が、誰も歩んでいない道でも、あるいは他の者たちが進むことを許そうとしない道でも、君は、君が信じたその道を行くのだ」
(ヴァルター様……)
「ヴァルター様なら、きっと分かってくださる」
「それで、子供を探しにどこへ行くつもりなのか?」
ドゥニーズと呼ばれた女騎士が、私に槍の先を向けながら厳しく言い放った。
「たとえあなたであっても、この場所から出ることは許可できません」
ナモ様が前に出て、彼女の槍を受け止めるようにしながら語った。
「詳しく話してもらおうか。その上で、君は君のあるべき場所へ戻るのがよいと思うがね」
「シャーリン!」
(ああ、まったく。いつも私を心配するような、その口ぶり。聞くだけでイライラする)
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