1. 危険な迂回路
3部が始まりました。3部はシャーリンの観点からの話です。
「昔、この地を最初に訪れたのはシードホートの魔法使いだと言われています」
「それよりも、この服はいつ着替えられるのですか?」
(なぜこのような服で身分を隠す必要があるのだろう?
服を着替えたからといって私が別人になるわけでもないのに、どんな意味があるのだろう?バルダー様、人々は外見が変わるだけで本当に別人だと思うのでしょうか?ふむ、理解できません。でも今はそんなささいなことに不平を言っている場合ではありません。一刻も早く【ガイルバルド】を渡って【ギンナル】へ行かなければなりません。《ヒルダ》が待っているでしょう...もちろん彼女をバルダー様がより愛し、守っていることは知っています。彼女に力を与えているのも分かっています)
軽やかな足取りで私たちの前を歩いていた案内人が豪快に笑いながら話した。
「ハハ、あなたがバルダーの使者だと知られれば騒がしくなるかもしれませんからね。それに、ローレン、あなたの帽子は絶対に出さないでくださいね。それさえなければ、あなたみたいに小さな子が魔法使いだということは誰も気づかないでしょうね」
私のそばを歩いていたローレンは、ぶっきらぼうな口調で彼に答えた。
「はいはい、もうその話は何度も聞きました。《ノーブル》からも散々聞かされましたからあー。分かったよ」
フレアは心配そうな表情で私とローレンを見ながら話した。
「そうだよ、田舎の村だとしても、【アルダフォード】だからね」
「ハハ、辺境とはいえ、昔はとても栄えていた村ですよ」
「それは【クヴァトモーズル】を通って【ヘーニル】へ行く時代のことでしょう?ずいぶん昔の話だけどな?」
(【ガイルバルド】に住んでいた赤いドワーフの話は私も子供の頃に聞いた。【クヴァトモーズル】、赤いドワーフたちが門を閉ざし、時が経ってそこを訪れた者たちが見たのはヨツンたちだった。古いドワーフの城はヨツンたちが出てくる迷宮になったと聞いた)
ローレンは袖をまくりながら話し続けた。
「ふむ、私の魔法で隠れて入ればダメ?」
(日光に輝くローレンの魔法石は、まるで朝の露のように輝いてる。綺麗)
「今から行く村ではそのような魔法の使用は難しいでしょう。ギンナルとの戦いとガイルバルドの古い物語のため、この地はバルダーの加護で守られているのです。他の魔法を使えばすぐにばれてしまうでしょう」
「ふーん、加護だって、魔法だろうね。その話もノーブルから聞いたよ」
(【シャヴァルドーガ】、禁じられた恵み。バルダーの大使者が使ったと伝えられているが、シードホートの魔法使いが作ったという事実が知られた後、使用は禁止され、その大使者様は火刑に処されたと私たちは学んだ。どんな経緯であれ禁じられた恵みを使うことと知ることを警告するために学んだが、まだ私には理解できない。バルダー様、なぜこのようなことが起こらなければならないのですか?)
フレアは心配そうな目で自分の隣を歩いている普通の狐している《スキブー》を見ながら話した。
「スキブーは大丈夫かしら?」
「魔法石で使う魔法にだけ反応すると聞いたよ。魔法道具や私が着ている、こういう魔法が宿ったものは大丈夫だとノーブルが言ってたよ」
赤く染まっていく空と接する丘の下、遠くにアルダフォードがかすかに見えた。去ってから長い時間が経ったが、今でもあの場所、私が育った場所【ブレイダブリク】、あの土の匂いを覚えている。冷たい朝の空気の中、駆け回った日々、舞い上がる土埃が鼻を通り過ぎてくしゃみをしたことも覚えている。
日差しで目が細められ険しい表情になった案内人が私たちを振り返りながら話した。
「ここからもアルダフォードが見えますね。私は王都に行ったことがないのでよく分かりませんが、あの黄金色に輝く場所は《アルダフォードの王》がお住まいの城ですか?」
私は首を回して行く道を見ながら話した。
「いいえ、あれはバルダーの神殿です。《黄金の獅子騎士団》とバルダーの使者たちがいます」
フレアが目をじっと開けてアルダフォードの方を見ながら話した。
「わあ、私も王都には行ったことがないな。あの場所が騎士団がいる場所なのね。今から行く村にも彼らはいるでしょ?」
(騎士団、あまり会いたくない人たちだ。特にあの騎士団長は...)
案内人が苦笑いしながら話した。
「騎士団はいることは確かですが、あなたが知っている騎士団ではないでしょうね」
フレアがローレンを見ながら心配そうにそっと話した。
「うー、本当に大丈夫かな?」
(どんな騎士団なんだろう...以前ノーブル様と話したときも私の知らない騎士団だった)
私たちの一番前で歩いていた案内人が笑いながら話した。
「だから私がいるんですよ。今そこにいる人たちとは仲良くしています。これがあれば彼らも喜ぶでしょう。この辺境の地では滅多に手に入らないし、飲められない貴重なものですからね。
この地に伝わる古い物語を一つお話ししましょう。
荒れた畑を耕す農夫の指先に、
石を噛んで食べることに疲れたヨツンの影が落ちたそうだ。
転がってきたヨツンがささやいた。
『うんざりだ、粉っぽくて硬い石が。
私に投げるものが、満足できないなら
お前も一緒に地の下へ引きずり込んでやろう』
農夫は畑の周りを囲んでいた空に向かって伸びた草を刈って《ヨツン》に与えた。
《ヨツン》は慌てて食べながら満足げに話した。
『お前の願いを一つ叶えてやろう』
農夫は疲れた目で答えた。
『私の畑を守ってくれ』
汚らしいヨツンは転がり転がり畑の周りを転がった。
畑の周りの肥だめに落ちて転がりながらも、柔らかい草を食べながら夢中だった。
それでも食べるために転がる。
赤い山脈で眠っていたヨツンたちが起き上がって村を襲ったが、
畑は守られた。
石を飲み込んでいた者は、今や友となって畑を包んだ」
案内人が最後の言葉を言いながら閉じた門を叩くと小さな門が開き、案内人が静かに挨拶しながら私たちに向かって入るように手招きした。
「ここは街の下の方です。あの上に向かって行きますね」
軒先から流れ始めた雨筋、狭く暗い道に沿って足を進めるほど、雨音の間から聞き慣れた音が大きくなっていった。
<サクサク>
(《ライオンヘッド》?)
深紅の煉瓦に囲まれた馬小屋にあるのは私が知っている《ライオンヘッド》だった。
黄金色のたてがみを揺らし、長い耳は周囲を警戒するように異なる方向を向いて動き、顔は飼い葉桶に突っ込んでせわしなく餌を食べていた。
フレアは《ライオンヘッド》たちに興味津々の眼差しで見つめながら、音を立たずに馬屋の側を通り抜けようとしてた。
(ヘル様も《ライオンヘッド》に興味があるのかな?あ、そういえば、荒々しく神経質な《ライオンヘッド》がスキブーの気配を感じたはずなのに吠えないんですね。ふむ、ヘル様のおかげですかね?)
その瞬間、案内人はは灰色の顔になり、私たちの後ろに飛び込みながら不安な声でささやいた。
「おや、なんてこと、あの人たちがここに来るという話は聞いていませんでした。あのような固い信念を持つ者たちには、これが役に立つことはないでしょう。困ったことになりました。皆さんには申し訳ありませんが、私がお手伝いできるのはここまでです。バルダーの庇護のもとに」
「え?なんてこと!ノーブルに頼まれたんじゃないの!?」
案内人は手を上げて顔を抱え込みながら、こちらをもう見ることもなく静かに闇の中へと消えていった。彼が見つめ去っていく場所には黄金色の鎧を着た者たちが立っていた。
(ロベンさん、貴方にバルダー様の加護を。しかし、《ライオンヘッド》がいるということは彼らもいるということは分かっていたけど、いったい何故ここに来てるの?)
フレアはスキブーを抱きしめて静かに話した。
「え?ねえ?私たちはどうすればいいの...一体何が起きているの?スキブー、私たちどうしよう?」
スキブーはまるでフレアを安心させるかのように、フレアの頬を舐めた。
ヘル様は黄金色の鎧を着た者たちを注視していて、ローレンは何かを熟考しているようだった。
「おい、こっち」
(少年?)
闇の中から私たちを呼ぶ荒々しい声の主は、私が世話をしていた《トム》と同じくらい小さな少年だった。
「時間がない。早くこっちへ」
小さな少年の肩に二本足で立っている小さな灰色のネズミは鼻を忙しく動かしながら明るい目で私たちを見ていた。
フレアが先に動いた。
「あなた誰?わあ、この小さな動物はあなたの友達?」
肩の上に乗っていた小さなネズミは少年が首に巻いていた赤いスカーフの中に隠れ入った。
「シッ!静かについてきて」
「フレア!」
(考える間も与えないね。大丈夫かな?バルダー様。私たちをお守りください。私たちの足が向かう先が闇であっても)
でこぼこした傾きのある道を軽やかに揺れる足取りで、手早く、静かにリズムを取りながら踊るように歩いていく少年の後を私たちも急いで追った。
首に巻いたスカーフで口を覆いながら少年は静かに話した。
「こっちへ、《ソルガンディス》だ」
フレアが私たちを交互に見ながら小さくささやいた。
「人?」
少年は横道に曲がりながら手で合図して話した。
「狂ったばばあだよ。不幸を抱えて歩く老女。暗い夜になると村を歩き回るんだ。近くに行かない方がいいって聞いたよ。横で同じ空気を吸うだけで狂ってしまうって言われてるよ」
(赤い色のヴェールを翻しながら、乱れた髪に隠された顔はまるで死者のようだ。
雨音の間に広がる悲鳴のような嘆き。
干からびてねじれた黒い唇は呪いを吐き出し腐り果てたのだな。
若い頃は赤い花みたいに美しかっただろう。
生きろうとしない、嘆くばかりだ、自分の命が消されるまで。
あ、バルダー様、慰めで覆いてください)
哀れな女性の嘆きの叫びを背に、我々は薄暗く湿り気のある路地を黙って進んだ。
(あれは?バルダーの像?違う。あれはバルダー様じゃない)
狭い路地を抜けると遠くに巨大な石像が見えた。
濃い青黒い色の巨大な像は両手で折れた剣を持っていた。目は布で覆われた姿をしており、雨水が布で覆われた目と固く閉じた口の間から流れ落ちていた。
ローレンはフレアの手を取りながら立ち止まらせ、静かだが怒った声で話した。
「ちょっと待って。どこに行くの?フレア、何も考えずに付いていちゃダメでしょ?」
「でも、そこにいたってどうすることもできないじゃない」
少年は振り返って私たちの方に近づきながら話した。
「君たちも噂を聞いて来たんだろう?」
フレアはスキブーを撫でながら話した。
「どんな噂?私たちは森に行こうとしているの。もしかして行き方知ってる?」
少年は肩から出たネズミを撫でながら話した。
「森に行こうとしてるって?森には行かない方がいいよ」
少年はローレンを見ながら両手をだらりと前に下げて不気味な表情で静かに話した。
「君みたいに小さな子供たちを食べちゃう化け物のおじいさんが住んでるんだ」
ローレンが怒った声で話した。
「私は小さくないよ!」
少年はローレンに応えもせず、頭を上げて上にある橋を指した。
「それに、あなたたちが森に行くのを彼らが黙っていないだろうし」
(彼らは間違いなく《鉄壁の騎士団》だ。あんな黒い鎧は彼らしかいない)
谷のような下り坂には石を削って作られた橋が絡み合っていた。その橋の上には黒い鎧を着た者たちが歩き回っていた。
「助けが必要なんだ。僕のバカな友達が捕まっちゃった。君たち冒険者だろう?君たちなら助けてくれるはずだ。僕を手伝ってくれたら、森に行くのを手伝ってあげるよ。いくら君たちが冒険者だとしても、彼らが簡単に森に行く道を開けてくれることはないだろうね。村人たちがこっそり行く方法もあるけど、迷路みたいに複雑だって。この高い壁に囲まれているしね」
「ローレン、どうせ私たちだけで行けないなら、手伝おうよ」
「ふうん、どうしようかな」
「お手伝いします」
「え、シャーリン?!」
「困っている人を見て、そのまま通り過ぎることはできません」
ローレンはヘルを見て話した。
「はあ、いいよ。早く終わらせて行こう」
「え?君も冒険者なの?君みたいに小さくても冒険者になれるの?」
「はあ?そうだよ!私は…そう、私は冒険者だよ」
(ローレン、よく我慢しましたね。 魔法使いだと言いたかったはずなのに..)
少年はいつの間にかフレアの後ろに行って剣を見ながら話した。
「うわあ、この剣、高そうだね」
「えへへ、そ、そう?これは私が作ったんだよ」
「へえ、すごいね」
少年はヘルをちらりと見た後、話した。
「いいよ。君たちなら役に立つはずだ。私についてきて」
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