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ブリミル年代記 <深淵の影に飲み込まれた運命>  作者: a.z.bako
冒険者フレアと魔法の剣
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12. 闇に映える赤い魂

「どこ見てるんだ!ちゃんと前を見て」


「あぁ、ここは?えっ?お、お父さん?」


「間抜けな顔をして何をぼーっとしてるんだ!まだ練習を始めて時間がそんなに経ってないんだぞ。フレア、集中しろ」


「あ、今までは夢なの?冒険したかった、私の夢?」


「何をブツブツ言ってるんだ。ほら、集中しろ」


「あぁー!分かってるよ。集中、集中、うるさいよ!」


「ほぉー、ちょっとはマシになってきたんじゃないか、フレア」


「へへ、そうでしょう?私、毎日、ヘルと練習してるからね。

え?そんな急に攻撃してくるなんて!ふん!負けないよ!」


(ん?ヘル?誰だっけ?

それにしてもお父さんとする練習は楽しいな。

この時間がずっと続くといいなあ。

ふふ。このままじゃ私はお父さんより強くなるよ~。

あれ?なんか聞こえる、懐かしい音だな。

子供のころはこの音で目覚めたりもしたな)


「ん?あ、あっ、熱い!え?ここは?」


「フレア、何をぼーっとしてるんだ。今、一番重要な時だ。集中!」


暑い空気、そして慣れ親しんだ赤い火が舞い踊る空間。

気がつくと私はいつの間にか家の工房にいた。周りを見渡しながら言った。


「変わってないな、あれ?」


いつの間にか私の手には金づちが握られていた。ちゃんと私の名前が刻まれた自分専用のものだ。それはお父さんが私の手に合わせて作ってくれたものだ。八歳の誕生日のお祝いとしてもらったこの金づちで、私は自分の剣も作った。

金床に置かれた赤熱した金属から火花がゆらゆらと舞い上がっていた。


「お父さん、今作ってるのは何?」


「何を言ってるんだ、フレア。お前が使う斧だろう。

最高の斧を私と一緒に作ってるんじゃないか、集中しろ」


金づちで叩いて打ち延ばすほど、火花があちこちに飛び散った。


「へへ、見て、私うまくなってるでしょう?」


(あぁー、いつ聞いでも叩く音はいいよな。

へぇー、そういえば、私はこの火花の形を見るのも好きなんだよね。

ああ、綺麗い。あ、この形はクマだな。クマが転んでる。

これは小さなチョウチョウだ。

うん~、これは?あ、ドラゴンだ!

ドラゴンが口から火を吐く。凄い!

あぁ、この模様はキツネかな?ん?キツネ?

スキブー?)


「フレア」


(ん?誰?)


「フレア」


(ん?フレア?フレアって誰?スキブーはどこ?)


「フレア、大丈夫か?」


「あらら、やっと正気に戻ったみたいですね」


「フレア、大丈夫?」


私は周りを見渡しながら言った。


「ん?ローレン?あ、バグナ。あれ?これも夢?ん?ここは?」


ヘルが剣を腰に戻しながら言った。


「ここは【ナグルファル】だ」


「え?さっきまで家の工房にいたのに」


「ふーん、やっぱり幻覚だったのかな?フレア、君が急に私たちを攻撃してき

たんだよ。ヘルが君を止めたけどね。そして、シャーリンの魔法で動けなくしたんだ。シャーリン、動けなくした後にやったのは何?そんな魔法は初めて見たよ」


シャーリンが私を見ながら言った。


「バルダーの使者になろうとする人を手助けするための方法です。内なる声に干渉し、正しい道を見つけるのを助けます」


私は自分の手に持っている剣を見つめながら言った。


「え?ウソでしょう。ごめん」


ローレンは言った。


「いいよ。それより、私の魔法で眠らせようとしたんだけど、効かなかったよ。バグナの音楽にはちょっと反応があったよね。その後はこのキツネがね…」


「あ、スキブー、あなただったんだ。ありがとう。みんなは大丈夫だったの?

なんか声が聞こえるなと思ったら、急に家にいたの。最初は夢かなと思ったけど、お父さんの声に反応して動いていたら、何も考えられなくなったみたいで…」


ローレンが言った。


「ふむ、塔の試験でも似たような経験をしたな」


シャーリンは私の肩に手を置きながら言った。


「声はいつも聞こえるものです。でも、どんな声を聞くかが重要です」


「つまらんな」


私は周りを見渡しながら言った。


「ん?聞こえたよね?この声が聞こえてるのは私だけじゃないよね?」


ツルのように複雑に絡み合った黒い木々の間から口笛のような風の音が聞こえてきた。その音がした後、黒い煙が木々の間から伸びてきた。木々の間を抜けて出てきた黒い煙は、悲鳴を上げるドラゴンの頭蓋骨の形に見えた。そして、胸がざわつくような嫌な音も遠くから響いてきた。


ヘルが警戒しながら周りを見渡して言った。


「私も聞こえた。でも、どこから聞こえてくるのかわからない」


ローレンが耳を塞ぎながら言った。


「耳元で誰かが話しているように聞こえる。でも、これは誰の声だ?ん?雨?違うな」


バグナが空を見上げながら言った。


「ハハ、空から蛇ですか?この森は一体どうなっているんですかね」


ヘルは空から降りてくる蛇を矢で撃ち落とした。そして、ローレンは風を起こして私たちの頭上に落ちそうな蛇を遠くへ吹き飛ばした。地面に落ちた小さな黒い蛇はだんだん大きくなってさまざまな形に変わっていった。大きな蛇の姿をしたものや、昨夜に見た歩くトカゲのようなものも現れた。顔が二つもある蛇もいた。コウモリのような羽が飛び出し、飛び上がる小さなヘビもいた。姿を変えたヨツンたちは私たちに襲いかかってきた。

ローレンは炎の壁を作り出し、多くのヨツンを焼き尽くした。しかし、森の奥からさらにヨツンが出現した。


「ちぃ、戦うのは嫌なのにな」


ローレンはそう言いながら再び集中し始めた。ヘルは前に出て、ヨツンを剣で斬り倒したり、弓で射たりしていた。シャーリンはバグナを守りながら、両手を合わせて祈っていた。


「スキブー」


スキブーもヘルと同じように前に出てヨツンたちを攻撃した。私はスキブーと共にヨツンを倒した。


「お前たちの苦悩と混沌で、我の杯を満たすがよい。絶望と恐怖と困惑で溢れる杯にせよ。愉悦を与えよ」


私は周りを見渡しながら言った。


「うっ!また聞こえるよ。気持ち悪いな、この声」


バグナが演奏しながら言った。


「ヨツンの中には人間の言葉を話すものもいるとは聞いていましたが…」


シャーリンが言った。


「これは頭の中に直接響いてくる感じですね」


ローレンは手を伸ばして振り、光がいくつかに分かれてヨツンたちを攻撃した。


「ふん!厄介なのはこの声のことか!でも、本体はどこにいるんだ?」


「ん?」


その時、私の足元が揺れた。

地中から巨大な蛇が飛び出し、素早く私の体に巻きついた。


「フレア!」


「あ!あっ!」


「うぅー、ん?暗くて何も見えない。あれ?ここはどこ?」


(これもローレンが言ってた幻覚なのか?でも、今回はどこだろう?

どうすれば、この幻覚から目覚められるの?)


「聞こえますか?」


聞き覚えのある声が響くと、周りが一瞬明るくなった。そして、頭上の暗闇の中に光の影が見えた。その光をよく見ると、それは鳥の形をしていた。かすかな光に照らされて、周囲には細くて長い幹を持つ丸い木のようなものがいくつか見えた。さらに遠くには青い光が吸い込まれていくような穴や、奇妙な形をした何かが浮かんでいるのも見えた。


(落ち着こう)


「私の声は聞こえますか?」


「あ、この声は?シャーリンだよね?え、どこにいるの?」


「あなたの心に語りかけています。目を覚ますためには、自分自身を見つけなければなりません」


わけのわからない光景を見回しながら私は言った。


「心の中?ここが?」


横を見ると、そこにはもにょもにょと動いている黒い物体が浮かんでいた。その表面には虹色の点で私の顔が映し出されていた。不思議なその物を指で触れると、それは軽く動き出して周りにある他の物体とぶつかった。そして、その物体は他のものとぶつかりながら、ますます大きくなっていった。


「ん?なに?これ?」


大きな球体になった黒い物体が何かの形を成していくのを見て、背筋がぞっとし、私は本能的に逃げ出した。黒い地面はまるで水の上を走っているかのように揺れ、ふわふわしていた。


(あれは巨人なの?怖いよ。あ?お父さん?)


「うわぁ!」


逃げられない巨大な手に押さえつけられ、私はどこまでも続く闇に沈んだ。


「冒険じゃない。仕事だよ、フレア」


「え?嫌だな。私は冒険がしたいよ」


私の横に座っている年配の男が、口から煙を吐き出しながら言った。


「ハハハ、冒険をして何が良いんだ?それで腹が満たされるのか?」


若い男が私に向かって言った。


「よく聞け、フレア。ここ【へーニル】で成功するには、シードホートの魔法使いギルドか、もしくは《へーニルの魔法使い》に信頼されて働くのがいちばんだぜ」


私はテーブルに顔を伏せながら話した。


「ふーん。分からないな」


ティルが私を見ながら言った。


「稼ぎがいいのは へーニルの魔法使いだ!シードホートの奴らは傲慢だよ。俺は嫌いだ」


スタグが咳をしながら、かすれた声で言った。


「まあ、そう言っても、へーニルの魔法使いの目に留まるのはもっと難しい。お前みたいな真っ青なやつは無理だろう。プハハハ」


ティルが怒って言った。


「ふん!自分のことを見てみろよ、このくそじじい。あんたもこのざまだろ?俺たちみたいな未熟者と一緒に仕事してるくせによく言うぜ!ふん!俺は諦めてないぜ。へーニルの魔法使いの仕事を掴めば、一生安定した生活が待ってるんだ!」


「ふーん、私はそんなのに興味ないな。私は冒険がしたいのよ」


スタグが言った。


「あの有名な冒険家、ポール・トールニエみたいに?

人々が行かない場所に行って、新しい遺跡を発見したり、いろんな宝を見つけたりするってことか。しかし、今の時代にはそんな冒険家はいないな。みんな魔法使いの依頼を受けたがってる」


ティルが言った。


「うわ!俺には無理だな。そんなの面倒だし、依頼を果たせばお金が入るんだ。そっちの方が楽だろう。考える必要もないしな。あ、それより、フレア。お金貸してくれない?」


「あなた!この前借りたお金もまだ返してないじゃない!」


「はは、ごめん、ごめん。ほら、私がうまくいけば全部返すよ。本当だって。 それに、あなたは私が手伝ってここまで来たんだから、これくらいは当然じゃないか!」


「ふん、そうだね。私はお金にはあまり興味がないから。で、今回は何?」


「ありがどう!それより、北の遺跡からドラゴンが出てくるっていう話があったんだよ」


私は顔を上げて話した。


「ド、ドラゴンと戦うの?」


スタグが言った。


「プハハ、今の時代にドラゴンとわざわざ戦う必要があるのか?本当に必要なら魔法使いが何とかするだろう」


ティルが言った。


「今回依頼された仕事、君も一緒に行こうよ」


スタグが言った。


「ふむ、今回は反対だ。こいつは臆病だ。この前も何もできなかったじゃないか」


(そうだよ。私は臆病だよ。そんなこと、知ってるよ)


「フレア、自分を信じてください」


(ん?スタグの声が遠くなって行く。ここはどこ?暗い…)


「うっ!」


目を開けたら、私はずっと暗い水の中で沈んでいった。


(シャーリン?私をどうやって信じればいいの?私の何を信じればいいの?分からない…)


瞼を閉じても見える光はちらちらと踊り、暖かい声が心に届いた。


「自分を信じることは本当の自分を探すことです。

奥にある自分を探すには感謝の気持ちで心の道を開き、

その道を従っていくと、扉が見えるはずです。

その中は安らかさが充満しています。そこにいる自分を抱きしめてください。

そして、その手を握って一緒に出ればいいです。

否定的な考えは避けてください。 感謝すべきことを探して道から離れないように…」


「フレア」


「ん?スキブー?あなた、喋れるの?あれ?ここはどこ?」


いつの間にか私は風が吹く野原に立っていた。

遠くには巨大な棘の木が見えた。


<さささ>


足元の草が黒い蛇に変わり、私の足を捕まえようとしていた。


(うぅ、まるで沼みたいよ。足が沈んでいく…)


「そこから出て、もっと高いところへ。

空が消える前に、あの上へ登らなければならない。

もうこれ以上、時間を無駄にしてはいけない」


スキブーが私の足元に口をつけると赤く光り、蛇は草に戻った。

スキブーを追って、巨大な棘の木を登り始めた。

上を見上げると終わりがないように続いていた。


「はぁ、遠いな」


(否定的な考えは避けて、感謝を…)


シャーリンが言ってた言葉を思い出しながら登り続けた。


「ん?」


棘をつかんだ私の手が滑るのを感じて見てみると、手が血で染まっていた。


「うわっ!」


棘の木の幹の中には、死んでいる私の姿が見えた。


「うぅ、私が死んでる?」


スキブーが言った。


「見ないで。

終わりが見えない暗闇。

もう一歩踏み出さなければ、

終わりは見えない。

けど、立ち止まっては…

私についてきて。


過去を後悔し、未来を心配し、現在を不満に満ちた心では進めない。


過去の感謝を見て、現在の私を信じて。

未来はその信念から始まる」


「しっかりしよう、フレア!」


私は自分に言い聞かせ、感謝すべきことを思い浮かべながら、目をぎゅっと閉じて棘をつかみ、再び登り始めた。


雲の上にたどり着くと、その向こうには赤く輝く花が咲いていた。


「美しい…」


いつもの笑顔でシャーリンが言った。


「フレア、信じることに私の考えはありません。ただあるがままを信じるだけです。」


「え、それって何?そんなに簡単なの?」


バグナが言った。


「ハハハ、簡単に見えるけれど、多くの人はそれを無視して、もっと困難な道を選ぼうとしますからね」


その瞬間、そこには朝日のように赤い髪をなびかせながら、明るく輝く剣を地面に突き立して立っている女性の姿が見えた。


彼女は私を見て明るく微笑んでいた。

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