10. 見えるもの。その向こうにある存在
10. 見えるもの。その向こうにある存在
私は高い岩の方を見ながら言った。
「ヘル、今もついてきてるの?」
「そうだ。ゆっくりだけど、ついてきてる」
「ふん!私の魔法を見せる機会だったのにな」
「昨夜のはすごかったよね。姿は見えないけど、あれなら私もわかったよ。
しかし、ヘルが聞いた音は何だろうね」
ローレンは自分の本を閉じながら言った。
「ふむ、わからないな。多分、何かのヨツンとかじゃない?
音は私も全然聞こえなかったよ。
それより、私たちについてくる、あれはヨツンじゃないの?」
ヘルが言った。
「私たちを攻撃するつもりなら、先ほどヨツンとの戦いの時も機会はあった。
背を向けていた私たちを狙って攻撃を仕掛けることができた。
しかし、しなかった。敵意はなさそうだ」
「ふん!だから言ったろ!あれは【神聖な巨人の目】だ。
ヨツンなんかじゃないんだよ。
道案内の間ではこの道を通っている人々を守ってくれる神みたいな存在だ。
誰もその姿を見たことはないが、夜になると高い岩の上で赤い光を放つのが見えるんだ。目にしただけで、固まっていた気分がほぐれて、進む力が沸いてくる。しかし、今回は峡谷に入って初めて見たな。
確か、以前はもっと見れた気がするけどな。
それにしてもついてくるとか、聞いたこともないな」
「ニョルズの仕草から、風の渦を巻き起こし、ささやかに。フィルフミルヤ」
「えっ!ローレン、なにしてるの。
あ、あっ、冷たい。あー、涼しいー」
「へへ、いいでしょう?風に水を混ぜたらどうかなと思ったんだ。
涼しいでしょう?あ、もう終わった。あ、すぐ暑くなる。暑いー」
「びっくりさせるな!
ふん!変なことをしてヨツンの注意を引くんじゃないよ。
もう少した。ここを通ったら、この時間帯には影の中で進める場所がある。
そこなら少しはマシだろう」
ローレンは大きな本を開いて頭の上に載せながら言った。
「この峡谷には水ないの?」
「あるね。この峡谷にも川や湖はある」
私を周りの岩を見ながら言った。
「じゃあ、ちょっと休んで行ってもいいんじゃないの?」
「ふん!そこを通って行くと時間がもっとかかる。この道が一番早いんだ。
そして、この峡谷を抜ければ、小さな湖があるぞ。そこまで行けば今日は休める。いつもなら拠点で補給することができたんだがな…
もう10年だ。10年以上使われていないんだ。
どうなっているか想像もできない。だから、お前らが森で探すにしても、のんびりといつまでも探し続けることはできない。遅くても三日だ」
ローレンは自信ありげに言った。
「三日?ふーん、私の魔法もあるし、ヘルと一緒に探すから問題ないんじゃないかな。それより拠点から森は近いの?」
「そうだな。拠点からなら森は見えるね。そこから森に入るのはすぐだと思うね」
ローレンが言った。
「まずは拠点に行こう。多分、そこで状況を確認しよう。もしかしたら何か使えるものが残っているかもしれないしな」
私は気になって聞いた。
「拠点には何があったの?」
「ふん!以前は小さな村くらいで、なんでも揃っていたよ。
そうだ。昔はそこを守るコーレムもあったな。
それにしても、ここにくるのも本当に懐かしい。
今でもその日のことを鮮明に覚えているよ。
『明日には出る予定なのにどういうことだ!』と魔法使いギルドに行って問い詰めた。みんなの反対デモ私は行きたかった。しかし、そのヨツンにやられた冒険者たちや魔法使いを見た人たちは誰も行こうともしていなかった。その時からこんなに準備して待っていたんだ」
私はビックリして言った。
「ウェッ!それなら今まで食べたものはそんなに古いものだったの?」
「そんなわけないだろう!」
ローレンは空を見上げながら言った。
「ふむ、色々考えてはいるけどね。できればそのヨツンとは戦わないようにしたいよ。まずは私の魔法で探す。こんな天気で戦うのはキツイしね。
あ!鳥だ!」
ローレンが手を伸ばして魔法を使うと、光が鳥を狙って飛んでいった。
「今日はあの鳥でも食べよう!あの肉はもう飽きたよ!
ヘール、手伝って!うーーうん!無視するなよ!」
ヘルが言った。
「何を想像して作った魔法なんだ。あれでは当たっても貫通できないと思う」
「え、貫通しちゃったら食べられないんじゃないの?」
「ふむ、塔ではうまくいったけどな。それなりに遠くのものを当てるために作ったんだよ。貫通か、なるほどね。ふむ」
ローレンは目を閉じて手を伸ばし、つぶやいた。
「突き刺す。槍のように!」
<ぐっぅぅ>
私は光の槍が飛んで行くのを見て叫んだ。
「うわ!凄いな!あっ、逃げた」
「えぃっ!逃した」
ヘルがローレンを見て言った。
「威力はありそうだが、その魔法はどうやって的確に狙いを定められるのか?目を閉じたままで何をするつもりだ」
バグナが嬉しいそうに言った。
「ハハ、これは素晴らしい!本当に見事です。この光景は滅多に見ることができないものですよ。魔法使いが新しい魔法を作り出すのは、あたかも雪に覆われた場所から突然花が咲き、鮮やかな色に染めるようであり、春の訪れを知らせる風から漂う香りで浮かぶ風景のようなものです。
じゃあ、どんな魔法に仕上がってくるのか、ワクワクしますね。まるでボルバプが言った【想像する力が魔力だ】という言葉を思い出させます」
ローレンが言った。
「バグナ、簡単に言うなよ。ふむ、難しいな。ボルバプみたいに自由に魔法を作るなんてできないよ」
「おぃ!おぃ!そんなことしていいのかよ!ヨツンが寄ってきたらどうするつもりなんだ!」
ヘルが岩の方を見ながら言った。
「ヨツンの気配はない。しかし、あの謎の存在はまだ私たちを追っている」
私もヘルが見ている方向を見ながら言った。
「へえ、また追ってきているのか。正体は何だろう。見てみたいな」
ローレンが言った。
「ふーん、フレアはあれがそんなに気になってるんだ」
「なぜなんだろうね?なんとなく気になるね。ローレンは見たくないの?
グレンの言葉通りならヨツンではなく、何か神秘的な存在でしょう?
それが私たちをついてきて、この距離でも上に行けば見えるんだよ。
他の人は見たこともないものを私たちが初めて見るんだよ。ワクワクしないの?」
グレンが言った。
「ふん!私は見たくないな。我々が信じているのがただの生き物だとしたらがっかりするだろう」
ローレンも言った。
「ふむ、そうだね。ヨツンでなければ、私たちを邪魔はしないよね。
今はそれより、ナグルファルに到着する前に魔法をどうかもっと使えるものにしたいの」
「ふーん、そうなんだ。でもローレンは、以前から魔法を短い間で次々と変えていくね」
バグナが言った。
「あら、そんなこと普通の魔法使いはできないですよ。みんな決まった呪文を使うたけで、こんな新しい魔法を自由に作るなんて。先ほども話しましたが、本当にボルバプを自分の目で見ている気分ですよ。ハハハ」
ローレンが言った。
「【躯体的に想像するのが重要だよ】とノーブルは言ってたな。
新しい魔法を作るのが難しいの。【まだ知らない何かを想像するのは目に見えないものを見ることと同じだ】と言ってたよ」
「ん?見えないものを見る?見えないのにどうやって見るの?」
「そう、おかしい話でしょう?
あ、そういえばシャーリンはどうやって新しい魔法を作るの?」
シャーリンが言った。
「魔法じゃありませんよ。バルダーの恵みです、ローレン」
その後、シャーリンは一瞬考え込んでから再び言った。
「私たちは祈りをする修練を積むことでバルダー様の声を聞きます。
目を閉じて闇から光を見つめるのです。そうすると自然に聞こえてくるのです。ただ祈りをするだけではありません。信じる心がないと見えないものもありますよ」
ローレンが言った。
「あっ!それ。ノーブルもそんなことを言ってたな。
見えないものを見るのはつまり信じることだ。
それはずっと続く寒い天気の中でも、この寒い季節が終わって、また暖かい季節が戻ってくることを信じるように、枯れている木が再び生命にあふれ、緑の葉を茂らせ、花を咲かせるのを信じることだ。
沈んでしまった太陽が次の日にまた昇ることを信じること。
人が持っている可能性、物事の真理、友情、意念を信じること。
それが目に見えないものを見ることだ。
そして、本を読むときも、見えるものに惑わされず、文字の向こうに隠れている意味を見つめなければならない」
「ふむふむ、なるほどね。あー、やっぱり全然分からないな」
バグナが言った。
「あのノーブルさんらしいですね。彼こそ、今の魔法の時代に新たな風を吹き込んでいますよね」
ローレンが空を見上げて言った。
「しかし、鳥はたくさんいるね。赤い鳥も黒い鳥もいるし、へえ、色んな鳥が飛んでいるな。あれ、食べられるの?」
「ふん!知るか!今まで会った魔法使いや冒険者で、そんなに食べ物にうるさい奴はいなかったよ。いや、いたな。あのトニー野郎。お前、本当にトニーの孫か?」
「違うよ。私はノーブルにノーブルに連れられてシードホートに来たの」
私は周りを見ながら言った。
「へえ、それにしても本当に簡単だね。先からずっとこの道でしょう?」
「ふん!そう簡単に見えるか?この峡谷にはたくさんの道があるんだ。一度間違えるとずっと迷うことになるぞ」
「へ、へへ、そうなんだ。そ、それは怖いな。
それにしても、この峡谷の岩はかなり変わった形をしているよね。あれは魚のような形をしてるでしょう。あれは穴がいっぱい開いってるし、落ちないのかな。風が吹いたら崩れそうだよ」
バグナが言った。
「ハハ、そういえば、ここの峡谷に関係ある歌もあります。
もしかしたら、私たちを追っている存在にも関係あるかもしれない歌ですよ。こう始まります」
バグナが歌い始めた。
「偉大な光が倒れ、
七つの光に分かれ、
赤の湧き上がる正義、
橙の巨大な勇気、
黄色の輝く知恵、
緑の深い忠誠、
青の高き正直、
藍の厚い忍耐、
紫の柔らかな親切、
七色の光、神獣たちの安息の地。
この地と天を繋ぐ。
闇の中で伸び続ける体で地をかき乱し、
七色の神獣を飲み込もうと
七日七夜休まずに貪欲な頭をもたげる《リントヴルム》。
赤の炎、
橙の夜明け、
黄色の黄金、
緑の命、
青の空、
藍の海、
紫の夢、
すべてが彼の目に燃え上がった。
神獣たちは蛇の巨大な体に揺れ、
地は裂け、粉々に砕けた。
次々と飲み込まれるヒカリ。
腹が重くなった蛇は、天高く逃げた炎の神獣を追いかけて飲み込もうとする。
永遠に追われる炎の神獣」
「つまり、私たちを追っているのは神獣ってこと?」
バグナが言った。
「まあ、あれがこの歌に出てくる神獣なのかは知りませんが、この地域に伝わる歌なんですよ。想像するのは歌を作る人もそうです。目に見えるものから見えないものを見るんです」
「ふん!この地域に住んでた人ってかなりの古い話だ。私は聞いたこともないな。そろそろ峡谷を出るぞ」
「うわー、長かった!おぉ、あの大きな木は何?」
バグナが言った。
「あれこそ、以前私が歌った歌に出てきた木です。ハハハ、私もこの目で見るのは初めてです」
「ふん!あの辺に小さな湖があるんだ。そこから半日くらいこの道をずっと行くと拠点が出てくるぞ」
「風景がまた結構変わってるな。広いし、遠くまで見える。うわ!なんかいいね。ふーん、ここから森は流石に見えないか」
ヘルが言った。
「後ろ!出た!」
「ん?ヨツン?あ…、か、かわいい」
焼けつくような地面の陽炎の中からゆっくりと歩いてくるその姿は、まるで炎の中を歩いているかのようだった。
グレンは後ろを向いて言った。
「くっ!なんだ!やっぱり見たくなかった!ただのキツネか!」
ヘルが言った。
「ちがう。ただのキツネとは思えない」
「そうだよ。普通のキツネが光るなんて聞いたことないよ」
その後も動物は私たちの後ろをずっとついてきた。
「ずっとついてきてるね。なんでついてきてるんだろう?」
ヘルが言った。
「もしかしたら、最初から私たちを追っていなかったのかもしれない」
「え?どういうこと?」
「ただ、小さな湖の方に行っているだけかもしれない」
瞬間、キツネは姿勢を低くして警戒する姿勢をとり、うなり声を上げ始めました。
グレンが驚いて言った。
「うっ、やっぱり攻撃してくるのか!」
ヘルが周りを見てキツネの方を狙って叫んだ。
「フレスベルグ!」
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