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ブリミル年代記 <深淵の影に飲み込まれた運命>  作者: a.z.bako
冒険者フレアと魔法の剣
19/39

2. 静かでないシードホートの夜

挿絵(By みてみん)


「じゃ、頼むよ」


「ローレンたちにもよろしくな。いい夜を過ごしてな。ハハハ」


ドワーフの鍛冶屋と見習い鍛冶屋は、収集してきた材料を山ほど積んだ馬車に乗り込み、工房へと向かった。


私は私をからかう見習い鍛冶屋に向かって舌を出して「べー」をした。

あいつは私に手を振り返しながら行く途中、馬車が大きく揺れて、思いっきり尻もちをついた。


それを見て私は笑い、ヘルと一緒にローレンたちに会うために食堂へ向かった。食堂は私たちが馬車から降りた広場のすぐ近くにあった。


「うわぁ!きれい」


遠くの高い塔から光が空に広がっていた。

その光は赤く輝き、次に青く、そして緑色に変わっていった。


<ドーン、ポン>


もう一方の空からは何かが爆発するような音が響き、光が一瞬輝いては消えていた。ローレンが以前言っていたけど、夜になると静かだった研究室が生き生きと動き出すらしい。


「シードホートの下町は夜も明るいね。こんなにも魔法の光が街中にあふれてる」


広場から魔法使いの塔へ続く道には、数多くの魔法の光が美しく輝いていた。魔法の光が吊るされた木々の葉もキラキラと光を反射していた。


ヘルはこうした光景にも特に何も言わず、黙って私についてきた。

私たちは、宿泊所を兼ねている食堂に入った。

食堂は、外の明るさに比べるとかなり暗く、静まり返っていた。


ガングラードのオードの家のような賑やかさもなく、ワクワクするような感じもまったくなかった。本当に静かで、客もほとんどいなかった。


周りを見回すと、ローレンが一人でテーブルに座って何かを書いていた。


「ローレン、私たち来たよ」


ローレンは私たちに視線も向けずに言った。


「あ、来たの? フレア、今日はどんな依頼だった?」


私は椅子にどっかりと腰を下ろしながら言った。


「んー、きらきらしてるヨツンと、すっごく硬くて、私にはどうにもできなかったヨツンだった。本当に硬かったんだよ。しかも滑るしね。私は結局、何もできなかったけど。


あ、でもヘルはすごかったよ。


首をズバッと切って、皮一つ傷つけなかったんだ。凄いよね?

私も真似しようとしたんだけど、首が硬くて無理だったよ。


そしてね、ヘルは隠れていたきらきらヨツンも見つけて、

逃げようとしてたヨツンを一瞬で斬っちゃったんだ。

鍛冶屋は一日中、ずっとヘルのことを褒めてたよ」


ローレンは何かを書き続けながら言った。


「へぇー。さすが、ヘルだね」


私はローレンにもっと近づいて言った。


「ローレンはどうだった? 門について、何か分かった?」


ローレンは何かをずっと書きながら答えた。


「うーん、相変わらず、門について詳しく書いているものは見つからなかったね」


私は気になってさらに聞いた。


「ところで、その本は何? 何を書いてるの?」


ローレンは本を両手で持ち上げ、笑いながら言った。


「ふふ、偉大な魔法使いローレンの本を作ってるんだよ。

門について調べるためにいろんな本を見てるでしょ?

以前は見ても何とも思ってなかった言葉が、今になって、その意味がわかってきと言うか。それが今後役に立つかもしれないから記録しているの。


それと、ヘルの村でもらったこの書物も翻訳してるんだ。

書かれている内容が本当にすごいんだよ。

詩というか、んー、歌みたいなんだよね。

どうやって世界が作られたのかが書かれてるんだよ」


ローレンは興奮して目が輝いていた。


ローレンはヘルに自分の本に貼っておいた書きものの一部を指しつつ聞いた。


「ヘル、この文字はこう読めばいいの? ムー、ムースベル?」


「ムスペルだ」


「あー、ムスペル、ムスペル、ユー、ユミル、ニフ…」


ローレンが丸い魔法道具を紙の上に乗せて回すと、文字がゆっくりとバラバラになり、そのまま魔法道具に吸い込まれていった。


「ん?すごい、何それ? 文字が消えた!」


ローレンは消えた場所に新しい文字を書き足しながら言った。


「ああ、これは魔法のインクを消すための道具だよ。このダイアルを回すと消せるの。


えーと、大地を作ったのがムスペルで、

ムスペルが体を丸めて大きな火の塊になり、

その体が内側から裂けて持ち上がり、

山、野原、谷ができた。

そしてニフが作ったものが…これは何だろう? 青空?」


ヘルがまるで歌を歌うように言った。


「ニフが青空を作り、雨を降らせて川と海を作った。

ユミルは歌い、その存在は溶けて、地と空と海に光の実となって降り注いだ。大地は花を咲かせ、蒼空には風の道ができた」


私はぼんやりと二人の話を聞いていた。 その時、美味しい匂いが鼻をくすぐった。シャーリンとローレンの師匠が従業員と一緒にいろいろな料理をテーブルに運んできていた。


ローレンの師匠は料理をテーブルに置きながら言った。


「みんな、今日はお疲れ様。お腹空いたでしょう? さあ、早く食べましょう。 ローレン、食事の時間には『他のことはしないように』と言っておいたはずですよ」


ローレンは甘えたように言った。


「これで最後にするから。 もぅー、少しだけ、ほんのちょっとだけだから。 ヘル、ニフが作った《知恵の門》って何?」


ヘルはきっぱりと言った。


「それについては話せない」


ローレンはヘルを睨みつけて言った。


「ふん!エルフの長老がこれもくれたのに、どうして話してくれないの? ふーん、いつか長老に直接聞いてみるからね!」


ローレンの師匠はきっぱりと言った。


「ローレン、もう料理が全部揃ったよ。

食べ物が冷めないうちに食べましょう。 ()()()()()


ローレンの師匠が低い声でゆっくり話すと、ローレンはしぶしぶ片付けを始めた。


そして、ローレンは自分の目の前にある食べ物を見て叫んだ。


「えっ、ノーブルがまたこれを頼んだよ。もぅ、本当、やだ」


私も何度か見たけど、見るたびにびっくりした。

ローレンはそんな私を見て苦笑いしながら言った。


「ふふ、私もフレアが何を考えているのか、よーく、知っているよ」


ローレンの師匠はパイを一切れ切って、私の前に置きながら言った。


「ローレン、どんな考えをしているんだ?

こんなにおいしいものを。さぁー、フレアも遠慮なく食べてね」


テーブルの上にあるぼんやりした目と私の目が合った瞬間、

自分の目もぼーっとした感じになって、思わず口を開いてしまった。


ローレンはパイにそっと手を触れながら言った。


「いったい、これがどうしてシードホートの名物なのか分からない」


ローレンの師匠が他の料理を用意しながら言った。


「料理の名前がシードホートを思い出させるからね。いい響くを持ってる名前だよね」


ローレンはパイを一口食べながら言った。


「はいはい、《星を見つめるパイ》ですね」


パイからゴロンと倒れた魚を見てローレンは目隠しをしながら言った。


「うわぁー、やっぱり無理だよ。め、目が私を見てる」


私は慎重にパイの一部を食べながらシャーリンを見た。


シャーリンは何も言わずにおいしそうに食べていた。

パイの部分はもうほとんど食べたし、中に入っていた魚を取り出して頭から食べ始めた。


私は一口食べながら言った。


「まぁ、でもパイは美味しいですよ」


ローレンの師匠は他の料理を私たちに分け与えていた。

私はその料理を見て思わず、目を見開いた。


「うっ」


ゆらゆらと星の光のように輝く黒いゼリーの中に変な魚の目は光っていた。

ローレンが文句を言いながらつぶやいた。


「食べ物に変なものは入れないでほしいよ」


ローレンの師匠はゼリーの中から魚をスプーンですくって食べながら言った。


「なんで?素晴らしいじゃないか?

こんなにキラキラ輝かせるために、どれだけの研究をしたと思うの?」


ローレンは自分のスプーンでゼリーに触れながら言った。


「いったい、どうしてシードホートはこんな変な食べ物だらけなのかな。

ガングラードは本当においしいものが多かったのにね。

それでも食べられるものはパンしかないよ」


ローレンの師匠はゆっくりと食事をしながら言った。


「それでもビルメイドのような魔法使いたちが外地で持ってきた食べ物はおいしいだろう?」


ローレンが食べていたパンを持ち上げながら言った。


「はい。だから、それがこのパンですよ」


ローレンの師匠は再び言った。


「それにジャガイモ料理もあるじゃないか」


「えっ、それもトニーおじいさんの香辛料ができて、ちょっとましになっただけだし。

ふーん、それよりトニーおじいさんは今日忙しいですか?」


「そうなんだ。 先生は夕方になると元気になってね。

最近はもっとそうなんだ。 それより、シャーリンはいつも

ものすごいスピードで食べているようですが、大丈夫ですか?」


シャーリンは食べるのを止めて言った。


「今まで食べて来たすべてものは、アルダフォードで食べたものよりいつもおいしいかったですよ。 なので、何を食べても私はいつも感謝しながら食べます」


ローレンの師匠が言った。


「あー、そういえば、アルダフォードはおいしいものを食べることを良いと思っていませんね」


私はパンをジャムにつけて食べながら言った。


「ふーん、それで、シャーリンは何でもおいしく食べるのか?」


シャーリンが言った。


「そして、力をつけておかないと。私はいつも戦う準備ができています」


ローレンが言った。


「シャーリン、もう少し待ってくれる?

門について、もしくはその人たちについて何か分かったら、

少なくでもヘルの新しい剣が完成するまでは…

そして、できれば私も新しい魔法を覚えたいの」


ローレンの師匠が言った。


「シャーリン、私もローレンから事情は聞きました。

しかし、ドラウグの時みたいに準備ができてないと今後はもっと厳しい戦いになります。

今は戦いの準備をする時間です。そして、私も《フリント》を介して情報を集めています」


しばらく沈黙が続いた後、私は気になって聞いた。


「ローレンの新しい魔法は? どんな魔法なの? どれくらい作った?」


「ふん!そんな、簡単に魔法ができるものじゃないよ」


「ローレン、そんなふうに友達に言っちゃダメでしょう」


「はぃー。フレア、ごめんなさい」


ローレンはシャーリンを見て言った。


「明日、ついにヘルの剣を作る為に必要な材料の依頼だよね?」


ヘルが答えた。


「そうだ、明日出発する」


ローレンはヘルと私を見ながら言った。


「そして、その次は【ナグルファル】に行くよね。

その時までは私も必ず新しい魔法を完成させるよ。

長い間、使われなくなった北西の道が私たちの件で再び通れるようになると魔法使いたちも喜ぶよ」


私は気になって聞いた。


「どうしてこれまではほっといたの?」


ローレンの師匠は口を拭きながら言った。


「あえてまた行く理由がなかったんです。

初代シードホートの魔法使いの一人、

《ビドルフ》がシードホートの北西の地方を旅している時に【ナグルファル】を見つけました。


その森は多くのヨツンがいますが、その分多くの金属と色んな材料も手に入りましたね。

そして《バニールの破片》も見つけました。


時代が変わり、船、魔法使いギルド、商人ギルドが発展して、

遺跡からもそんなものがうまく供給できたんです。

それに比べて危険な北西の所は徐々に少しずつ足が途絶えました。


そして、【ナグルファル】では一種類の《バニールの破片》しか取れなかったのもありましたね。


もちろん、依然として好奇心があった魔法使いもいましたが、彼らは直接そこに行きたがらなかったです。

そして10年前に現れたヨツンによって、これ以上【ナグルファル】に危険を冒して行く人がいなくなったのです」


私は唾をゴクリと飲み込んで言った。


「そのヨツンはそんなに強いんですか?」


ローレンの師匠が言った。


「強いというより、利口だと言われますね。

どこでどのように現れるのかが分からないというか。

多くの冒険家たちがやられ、これ以上そのような危険を冒して行く必要がなかっただけです。

しかし、皆さんなら、きっとそのヨツンは問題ないと思いますよ」


ローレンの師匠は立ち上がりながら話続けた。


「明日はシードホートも少し騒がしくなりそうなので、その準備もしなければなりませんね」


ローレンは眠そうな目で言った。


「何かあるんですか」


ローレンの師匠は微笑みながら言った。


「明日、《塔の試練》が開かれるんだよ。

さあ、みんなさん。さようなら。

明日のため、あまり遅く寝ないようにしなさいね。 ローレン」


ローレンは師匠が出て行くのを目で追いながら言った。


「あぁー、それは絶対したくないね。 明日《塔の試練》をする魔法使いたちは本当にかわいそうだな」


「塔の試練って何?」


ローレンは眠そうに目をこすりながら言った。


「はぁー、最初にシードホートの学校が作られた時、

魔法使いになる為に行われる最後の試験だったの。

ところがますます合格者も少なくなって、危険だから他の方法で魔法使いを選ぶようになったの。


今は魔法使いたちの意見が分かれた時に意見を調整するために使うね。

意見が分かれた魔法使いたちと彼らの弟子たちが一つのチームになって

先に塔の試験を通過すれば、彼らの意見をすべての魔法使いたちが従う。


昔、ちょっとしたことで塔の試練をしたとは聞いたが。

はぁー、今回はどんなくたらないことでやるのかは気になるな。

それでも私はとても眠いし、もう私は寝るよ」


ローレンは本を持って自分の部屋に戻った。


「はぁー、シャーリンは寝ないの?」


「私はこれからお祈りをしようと思います」


「じゃあ、私も明日、早くからヘルと剣の訓練もあるし、寝ないと」


私たちもそれぞれの部屋に戻って明日のために眠りについた。


そして目が覚めた翌朝、ローレンを迎えに来たローレンの師匠によって

塔の試験を受ける魔法使いがローレンの師匠とローレンだという事実を知ることになった。

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