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四印セカイの悪役女王  作者: 長月遥
第二章
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好み当てゲーム

 でももし、冗談にしなくてもよくなったら。

 ……わたしも、望んでいるんだろうか。自信はない。でも進めたいような気もする。


 答えを出すためにも、そして答えが出たときのためにも、やっぱりフェデリには彼自身を取り戻してもらいたい……と、思う。


 自分が何者なのかが分からないのは、フェデリだってストレスだろうし。


「……そうだね。俺も少し、冗談にするのは苦しくなってきたなと思っていたところだよ」


 セシウス王子の話の前振りを考えると、冗談として通すのも、フェデリの心情的にも、ってことでいいんですかね。


 というか、それはもうほぼほぼ言われていないか、わたし。


「けれど、まあ、出来ることからしか手を付けられないのも確かだし、今は今で時間を大切にしないとね」


 そうフェデリが話をまとめたところで、路地の終わりが見えてきた。


 これは自分が話したい内容と、わたしの反応を予測してのペース配分の結果と見た。歩調で多少の修正は利くとはいえ、タイミングをばっちり合わせるこの器用さ。流石。


 こちらの通りは店舗を構える商店街なので、雰囲気もお高め感がある。

 ああ、早く広場の市場も再開できるといいよね。困っている人も多いと思う。


「さすが食のクローバー。ついでに王都。俺が何件か回った限り、外れはない。それでも――どうする? 俺が選ぼうか?」

「何だ、妾を満足させる自信がないのか? 仕方あるまいな。妾自ら決めてやろう」


 フェデリのお勧めも興味はある。けど、ごめん。やっぱりお茶だけは特別!


 二度訪れることができる可能性は限りなく低い。後悔しないよう、自分が一番興味を惹かれたお店に入りたい。


 多分、わたしのその心情はバレバレ。ええ、視線が泳ぎまくってた自覚があります。

 だって、ずらりとカフェや食事処が並んでるんだよ! 目移りするなって方が無理でしょう!


 合間合間に雑貨屋さんとかもある。ついでに覗いて、ニーナにお土産買って帰ろう。

 お父様とお母様には……お忍びが怒られそうだから黙っておく。うん。


「良かった」

「何がだ?」

「俺が勧めようと考えていた店と君が選ぶ店が重なったら、面白いだろう? 俺としても次回の安心材料になるし」

「!」


 にこりと笑って悪意なく、しかし間違いなくこちらを動揺させる意図を持ってそんなことを言われる。


「どうせだったら喜んで欲しい。そのためには君の趣味を知らないと、だからね」

「ど、堂々とした調査だな。恥ずかしげもなく」

「いいじゃないか。俺たちにはお互いを知る機会が必要だと思うんだ」


 そ、それはまあ、ね。こういった趣味嗜好の話なんかは、あんまりしてこなかったし。

 でも、そっか。知りたいと思ってくれるんだ。そっか……。


「よかろう。よくよくその頭に刻み付け、今後妾に尽くすよう心掛けろ」

「今後か。悪くない響きだよな」


 ほとんど意識していなかった部分を拾われて、わたしも気付く。

 この先も一緒にいることを望んでいないと、出てこない言葉だ。


「ああ、妾としても、侍る者を何人も教育するのは手間だからな」


 フェデリに側にいてほしいって気持ち。わたしももう否定しない。


「ならお墨付きも貰ったところで、互いをもっと深く知って行こうか。楽しみだな?」


 そこは無駄に色気を醸し出さなくていいから!


「そうだ。せっかくだから、賭けをしないか」

「賭けだと?」


 ミラに負け続けてる件もあって、それ、あんまり好きな響きじゃない……。

 乗り気じゃないわたしの様子に、フェデリは楽しそうに小さく笑う。むぅ。


「俺は今から、君に勧めようとしていた店に先に入る。君が俺と同じ店を選べば俺の勝ちということで」

「妾の趣味だけで良いのだな?」

「もちろん」


 賭けだ勝ち負けだって言うよりは、現段階における相手への理解度的な? ちょっと面白いかも。


「いいだろう、乗ってやる。だが妾だけというのも平等ではないな。一回戦が終わったら、次は妾が、お前が好む店を当ててやろう」

「おや。それは面白い提案だ。受けて立とう」


 自信ありげにフェデリは笑う。


 ふっ。わたしがフェデリの好みを把握するような機会はなかったと思って油断してるな? ところがところが。わたしにはゲーム知識という強い味方があるのだ!


「じゃあ、少し後ろを向いていてくれるかな? 百を数えたら探しに来てくれ」

「よかろう」


 言われた通り、百八十度反転して背中を向ける。首を少し上に傾けて清々しい青空を眺めつつ、数を数え始める。


 意識的に、ちょっとゆっくりめに数えた。

 ぴったり数えられるようなセンスも技術も持ち合わせていないので。このゲーム的に、多少遅くなっても問題ないけど早いのはダメなやつだと思うんだよね。


 ……………………。


 よし!


 たっぷり百秒数えてから、再び反転。

 もちろん、もうフェデリの姿はない。その姿を視界に捕らえるべく通りを歩き出す。


 店構えや、窓から見える雰囲気をざっと見ながら考える。

 事前情報なんかは一切ないので、ただの直感。植木の美しさと木造りの店舗が醸し出す温かみに惹かれて、一軒の店の扉を押し開く。


 さて。フェデリの姿は――……。

 うーん。ないっぽい、かな?


 いかに神エスパーなフェデリでも、さすがに難しかったか。当然と言えば当然の結果。

 納得はしてる……んだけど、少し寂しい気持ちにもなってる。


 ま、まあね。わたしたちの場合はこれからこれから!

 フェデリがいなかったのにちょっと残念な気持ちになりつつ、入り口に立っていても邪魔になるので空いているテーブルに向かい、紅茶を頼む。


 口には出さない。メニュー表をそっと指すだけである。


 ややあって運ばれてきた紅茶は、爽やかな香りがやや主張強めにブレンドされている。これはこれで、インパクトがあって面白い。


 わたしの好みは味と香りが同じぐらいに調和するマイルド派だけど。

 あー、落ち着く……。


 わたしがお店に入って、十分ぐらいしただろうか。入り口のベルが涼やかな音を立てて、フェデリが入って来た。


 人を探すように、店内を見回す。というかこの場合探されているのは間違いなく私なので、軽く手を挙げて存在を主張。すぐに気付いてこちらに歩み寄って来た。


「貴様の負けだな」

「そうだね、完敗だ。悔しいけど」


 とは言えこの短時間で合流できたってことは、ここは第二か第三候補であったと見た。つまり、そんなに外れてない。


 正面に座ったフェデリが軽食を注文するのに、わたしも便乗。

 頼んだのはフルーツサンド。うーん、さすが食の大国クローバー。果物も新鮮で美味しい。


 フェデリが頼んだのは、どうやらパンケーキ。付け合わせはクリームとチョコとジャム。ちょっと意外。


「素直だな。意外そうな顔をしているぞ?」

「貴様は別に、甘い物が好きなわけではあるまい?」


 ゲームの公式プロフィールを見た私は知っている。フェデリの好みは木の実系。そしてコーヒー党。

 わたしに合わせてか、ハート王国では大体紅茶を飲んでるけど。


 だから選ぶなら、三種の木の実のパイとか、ナッツスフレとか、その辺りかと思ってた。

 はっ。さてはこのあとわたしが選ぶ店をミスリードさせるためのブラフだな!?


「嫌いではないよ。どうして好きじゃないって……。あぁ、そうか。君は俺を物語で知っているんだったな。飲食するシーンか何かでもあったのか」


 知ってるのはシーンで出てきたからじゃないけど、情報源としては正しい。

 わたしの表情で察したらしく、フェデリはくすりと意地の悪い笑い方をした。


「まあ、その情報は必ずしも正しいわけじゃないって言うのは、君ももう分かっていると思うけど」

「妾は心理戦を受けた覚えはないぞ」


 これって、相手の好みを当て合うゲームだよね!?

 わたしの好みを外したこと。実は結構面白くないんだろうか。


「もちろん、俺は俺の好みの店に入るよ」


 ぐっ……。


 ゲーム情報を信じるなら、その通りに動けと言うことか。

 でもそれって、目の前のフェデリの言葉を軽視するってことでもある気がする……。


「ヒントをあげよう」

「ええい、妾を惑わすのは止めろ、無礼な!」


 聞けば聞くほど迷いが生じるんですけど!


 耳を塞いでしまいたいような、ヒントだと言われている以上聞きたいような。術中にはまってるよ、完璧に。


 わたしが両手を耳の両脇でわきわきさせているのを見て、フェデリは綺麗な笑顔で口を開く。


「食への拘りはそんなに強くなくてね。好きな相手に合わせて、互いに楽しんで食べるのが一番好きかな」

「――ッ」


 それはもう、どう選択しろと言うのだ。

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