2話 対人トーナメント決勝戦 ストーマー
彼の名はストーマー。今、瓦礫と化したコンクリート壁の陰に隠れている。壁から覗く金髪は名前の通り嵐にでもあったかのように逆立っており、金色のMP-5を保持する右腕には竜巻を模したマークが金色で描かれている。
対戦相手――ユーゴが銃撃しながら走り抜けた。銃口こそこちらに向いているが走りながらの射撃故に狙いは甘く、当たる可能性は低い。対してこちらは相手よりは落ち着いて狙うことができる。
ユーゴが大きな柱の向こうに消え、ストーマーも銃撃を止めるとともに頭を引っ込めた。だが今回は手榴弾を放り込むような真似はしなかった。柱の横には壁が長く続いており、ユーゴが壁の端にある大きな柱の裏側にいた場合はともかく、そうでない場合は壁の向こうのどの辺りにいるかが不明だからだ。正確な位置が分からない状況でむやみに投げても無駄にしかならない。
代わりに残弾数が少なくなったマガジンを取り外し、新しいものに交換する。
ストーマーのポーチには手榴弾がまだ数個残っていた。ユーゴの予想通りストーマーは手榴弾ばかり持ち込んでおり、それ以外では回復薬を一本だけしか持っていなかった。
ストーマーが手榴弾ばかりを選択して持ち込んだのは、他の三つの装備が使いにくかったからだ。
センサー地雷やC4爆薬は設置に時間がかかり、設置中に攻撃される恐れが大きい。更に設置場所への誘導も、このトーナメントのように一対一という状況下では困難である。一つの方法として相手に背中を見せて逃げ、後を追わせることがある。だがこれは相手に姿を、それも背中を見せるというリスクの高い行動が必要であり、背中へ一方的に弾丸が撃ち込まれる危険があった。
一見して使い出のある回復薬だが、この対人トーナメントにおいて最も重要なことはいかに敵を倒すかである。そのためストーマーは攻撃手段の確保を優先し、回復薬は本当に万が一のときを考えて一本だけしか持っていなかった。極端なことを言えば相手の攻撃は回避すればいいのであり、彼はそうやって勝ち抜いて来た。
そしてストーマーも当然、ユーゴからの手榴弾による攻撃を警戒していた。だが試合開始から十分ほど経過したところで手榴弾が投げ込まれなくなり、ユーゴの手持ちが尽きたことに気付いた。
手榴弾による攻撃の可能性がなくなった以上、上方への警戒は不要である。自然とストーマーの攻勢が多くなり、それが双方の腕前の差とも合わさってダメージ量の差へと繋がっていた。
ストーマーは自分のHPを確認した。試合は通常、どちらかが死亡したところで終了する。だが時間内に試合が終わらずタイムアップした場合、それまで相手に与えたダメージの量によって勝敗が決まる。
ストーマーは手榴弾と銃撃による攻撃で何度か手ごたえを感じており、ユーゴにそれなりのダメージを与えていることを確信している。対して自身は全くダメージを受けていない。圧倒的に有利なのは間違いなかった。ストーマーとしては大手クランのリーダーである自分が決勝戦の相手を倒せない可能性があることに不満があった。だがユーゴも決勝戦まで来る程度の腕は持っている以上、無理をすることもない。最も重要なのは勝利することだ。
この試合の流れは確実に自分に来ている。この調子で戦えば問題なく勝つことができる。ストーマーが移動のために腰を上げかけたとき、空から何かが飛び込んできた。
ストーマーは飛び込んできたそれが何かは確認しなかった。確認しようとするその一瞬が生死を分けることをよく知っていた。代わりに素早く立ち上がり、何かが落ちてきたコンクリート壁から一目散に逃げる。
そこを狙われた。横合いからのフルオート射撃。ストーマーはすぐに別の遮蔽物に隠れたが、それまでに五発は被弾した。遮蔽物に身を滑らせたストーマーは素早く射撃方向に目をやり、あの大きな柱の陰からユーゴがこちらを狙っているのを見つけた。ユーゴはあそこから動いていなかったのだ。
手榴弾は全部使い切ったはずだ。それとも一発隠し持っていたのか。ストーマーの目が自然とさっきまでいたコンクリート壁に向けられる。そこに手榴弾が炸裂した跡はなかった。まさか石でも投げられて騙されたかと思ったが、2GHではオブジェクトを掴むことはできても投げることはできないようになっている。
いや、唯一の例外がある。 それに気づいたのと同時に、ストーマーの目が地面に転がるそれを見つけた。そこにあったのはAR-57の空マガジンだった。
騙された。なんて奴だと思った。まさか決勝戦でこんなふざけた真似をして来るとは思わなかった。だが被弾してしまった以上、まんまとしてやられたのだ。
ストーマーはHPを確認した。さっきまでフルサイズだったバーが今はその長さを半分以下に縮めている。ポーチから回復薬を素早く取り出し胴体に打つ。短くなった青色のバーが伸び、完全に回復する。
これで回復薬がなくなった。ユーゴが回復薬を何本持っているのかは不明だが、少なくとも自身の有利性が一つ消えたことだけは確かだった。
慢心があった、油断があった、有利な試合運びに心の緩みがあった。そして何より、初めて戦う相手にいいようにしてやられたという事実が、ストーマーの心に怒りを灯した。
タイムアップなどさせない、必ずこの手で血祭りにする。
ポーチから手榴弾を取り出し、顔と腕だけを晒しながらユーゴが隠れている柱の向こうに投げ込もうとした。だがストーマーが姿を見せた途端、ユーゴは踵を返して逃げていく。
ストーマーはとっさに遮蔽物から体を出してMP-5を撃った。だが遮蔽物から銃口を覗かせるまでにほんの少しだけ時間がかかり、トリガーを引いたときにはユーゴの姿は別の瓦礫の向こうに消えていた。
ストーマーはユーゴの背中を追って走り出した。走りながらMP-5を構え、逃げる背中に向けて発砲する。だがユーゴがジグザグに動きながら逃げていることに加え、そもそもフィールドにある遮蔽物が多すぎるために狙いをつけるどころか射線が通らない。
ユーゴがAR-57を脇に挟んで後ろへ発砲した。だがストーマーからの射線が通っていないということはその逆も同じである。周囲で弾丸が跳ね回るが、ストーマーは追跡速度を緩めなかった。数発の被弾は覚悟、それよりもこうして背中を追い続けている限り、アドバンテージは明らかにストーマーにある。
必ず殺す。心の中でそう息巻いたストーマーがユーゴに続いて廃墟の角を曲がったときだった。
赤いレーザー光が一瞬だけちらつき、足元が爆発した。
何故爆発が起こった?
その理由は次回
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