玩具
ガタンガタン……
その日、ある村を出発した馬車の中には村を含む領地の主である男とその側近達、そして眠りに就いているリリィと村で呼ばれていた少女が乗車していた。
「……しかし、この娘にはお前の記憶操作魔法が何故か効かないと報告を受けた時は少し戸惑ったぞ」
「もっ、申し訳ございません!」
「ハハハッ、気にするな。
まぁ代わりに催眠魔法は効いたからな、それにこの水晶があったからな、娘が起きてからどうにでも出来る。」
そう言いながら少女を見つめる男は卑しい笑みを浮かべた。
…………………………
…………
……
「……あれ?、此所は……どこ?」
「起きたか?、……此所は私の屋敷だ。」
「……領主……様?」
何故、私は領主様の家に居るのだろうか……
確か、村の視察の最後として私達の家に来て「お子さん方も含めてお話をしましょう」って言い出して、ノルベールさん達が話している内にだんだん眠くなって……
「……みんな……は?」
「ノルベール氏達の事かな?」
「……うん」
「いきなりで驚くかもしれないがよく聞いてほしい……
君は私に買われたのだよ。」
「……………え?……」
なぜ?、どうして?、わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない……
「………『嘘だ』、……そんなの……ウソ……だ……」
「嘘ではない、ほれ…この水晶はな周りの状況を記憶して観ることのできるアイテムだ」
そう言って私の目の前に置かれた水晶の中には、私が眠った後……領主様が私を買いたいと言い、そしてそれを了承したノルベールさんが金貨を受けとる映像であった……。
「リゼットさん……、ノエル………『なんで、止めようとしないの?』……」
「……なにやら聞いたことのない言語だな……まぁ良い……。」
パニックを起こす私に領主様は優しい口調で語りかけてきた。
「君は今日より私の家族だ、そしてもう前の家族の事も忘れたいだろう……。
そこでだ、私が君に新たな名を与えよう。」
「…………」
「君の新しい名前は、ルジュエだ……」
「……ルジュエ?」
「そうだ、それが君の新しい名前だ。
私がルジュエを愛してあげよう……」
「……は……い……。」
その日から私の名前は、私を売った人に付けられたリリィではなく、私を買った人に付けられたルジュエになった。
混乱してしまったからか頭がぐちゃぐちゃして気分が悪い……。
「おや?、気分が優れないのかね?
身体を壊すといけない、またゆっくり休みなさい……」
「……………」
そのまま私は現実逃避をするように再び眠りについた。
……………
「……おやすみ……玩具……」
…………………………
「……リリィ」
「ノルベールさん」
「……リリィ」
「リゼットさん」
「…………リリィ……」
「ノエル!」
…………
「………どうして私を売ったの?、私を家族だって言ってくれたのはウソだったの?……」
「「「………………」」」
「……お願い……何か言ってよ……、……これは夢なんでしょ?、夢の中でくらい私の願いを聞いてよ……、……お願い……お願い……どうしてなの?」
………………
目を覚ませばベッドの上だった……
『……あきらめるしかないの?、私の生きる意味は……何なの?』
発した日本語は誰にも届かない。
そして、私はリリィからルジュエとなった……。