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第七話 後始末

 ギルド長ことザームエル・ブラッハーは窓辺に立った。

 眼前に見える王宮を、老成した戦士の顔で凝視している。


 昨日の夜、突然舞い込んできた凶報。

 ギルド員同士の私闘があったのだ。

 ハヤトとダイチが戦い、ダイチが死亡した。


 仔細は不明。

 本来ならハヤトを拘束して事情聴取をし、真相を見極める。

 ギルド内での揉め事は日常茶飯事だが、死者がでれば別だ。

 超法規的な立場を維持する為にも、ギルドの評判を落とすような事は出来ない。


 既に手は打ってあった。

 もちろん朝方にハヤトを呼び出し、言い含めてもいる。

 ハヤトは理解していたが、どう思っているか・・・


 後は、もう一つの懸案を処理するだけだ。


「フィリーネです。お呼びでしょうか」


「ふぉ、入ってきなさい」


 王宮を見ていたザームエルの顔はもう好々爺になっている。

 一瞬にして雰囲気を変えたザームエルの前にフィリーネが現れる。


「何か御用でしょうか?ギルド長」


「ふぉ!用が無いとフィリーネに会えんのかの」


「そ・・・そんな事はないですが・・・まさかまたセクハラですか!?」


 咄嗟に自らを両手で抱きしめ後ずさりするフィリーネ。

 ザームエルはセクハラ常習犯だ。

 そして、女性職員には周知の事実で、常に警戒されている。


 厭らしい笑みを浮かべ手をワキワキするザームエル。

 身を守り部屋の隅まで逃げるフィリーネ。

 笑顔のままザームエルはキーワードを言う。


「擬態を解け、『真理マリ』出てくるとよいぞ」


 キーワードを言うと、フィリーネは激変する。

 フィリーネは元々ショットヘアーの金髪。

 目は白人特有の青い目。

 背は150cm程で小柄だ。

 胸も控えめで、愛らしい感じのする普通の女の子なのだが。


 目の前にはフィリーネではなく、全く別の人物がいた。

 髪は黒髪でストレートロング。

 目は黒く、瞳は鮮やかなブラウン。

 小さかった背は大きくなり165cmにも伸びる。

 胸は膨らみ、腰は引き締まる。

 足もすらりと伸び、白人顔負けのプロポーションとなる。


 変貌を遂げ、マリと呼ばれた女性は口を開く。

 声までフィリーネとは全く違った。


「ザームエル様、私を呼び出されるなんて。何か緊急事態ですか?」


 マリの声は、何処か脅えるように聞こえる。

 

「うむ、そなたと同じ世界の人間がまた来たようじゃ」


「ええ、それはフィリーネの記憶から解っております」


「ふぉ、そうじゃったの、そうじゃった」


 相変わらず険しい顔から一変、好々爺になるザームエル。

 老獪にして掴み所を見せない老人。


「では何故敢えて私を呼び出されたのですか?」


 ザームエルに問いかける口調は責めるように聞こえる。

 マリは険しい目を向けザームエルを睨む。


「ふぉふぉふぉ、今度現れた・・・ハヤトじゃったかの?」


「ええ」


「そろそろお主も進み出してはどうかの」


「え!?いや、どうしてハヤトが話題に?・・・そんな事より!私はまだ此処でギ」


「何時までも隠れてばかりでは、何も解決しないのじゃないかの」


 マリの言葉は、ザームエルの言葉で遮られる。

 ザームエルには狙いがある。

 だから、敢えてマリには違う言葉をかけていく。


「あやつなら、そなたを守ってくれると思うんじゃがの~」


「そんなの解る訳無いじゃないですか!奴隷の女の子をすぐ買うような人なのに!」


 マリは怒りを露に抗議する。

 必要の無い、奴隷の女の子に言及している。

 ザームエルはそこを聞き逃さず、揚げ足取る。


「何故奴隷の女の子が気になるじゃ?」


「え!?そ・・・それは・・・」


「ふぉ?フィリーネの感情は、そなたと共有してるじゃろう」


 マリをみてニヤニヤするザームエル。

 ザームエルの言葉はマリを動揺させる。

 フィリーネがハヤトを好ましく思っている感情。

 それはマリにも共感され、肯定してしまう。


「でも・・・どうして今なのですか?」


「そうじゃの~あやつならっと思ったからかの」


「兎も角私は引っ込みます。たぶん見つけられたでしょうから」


「うむ、それもええじゃろう」


 マリはまた変貌を開始し、フィリーネに戻る。

 ポカーンとしてフィリーネはキョロキョロしている。

 ザームエルを見て、自分の体を確認する。

 ザームエルをキっと睨み付ける。


「な!?なにかしたんんでしょ!」


「ふぉおおおお!どうじゃろうな?」


 不敵な笑みを見せるザームエル。

 フィリーネはワナワナと震えて泣き叫びながら部屋を出て行く。


「ギルド長のアホ~~~~~~~」


 声が消え、残こるはザームエルのみ。


「さて、何時来るじゃろうな」


 もう好々爺はおらず、そこには歴戦の戦士が座っていた。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 俺はベットに腰掛けて考えている。

 考えながらも頭には『索敵』MAPを展開している。

 アラームもセットし、常に警戒を怠らない。


 今朝の話し合いで、ギルド長から貰った金は100金貨。


 【所持金】467,892,192G


 結構資金が増えた。

 昨日の事もあり、俺はスキルや装備の強化をするか悩んでいる。

 PKが可能になった事。

 『索敵』に引っ掛からないスキルがある事。


 もしかすると想像できないようなスキルが存在する可能性がある。

 警戒は万全ではない。

 だからこそPKを退ける力がまだ不足している気がする。


 単純に、ヤマトに向うだけでは無くなった状況に嘆息する。


「ご主人様、少し休憩されては如何ですか?」


 思考に没頭していた俺を気遣うイリス。

 昨日からイリスの気遣いは、俺を救っている。

 ここは薦めに従うのもいいか。


「解った、飲み物をくれるか」


「はい」


 素直に従ったからか、イリスは上機嫌だ。

 今朝の話し合いの後、ミリアに出会った。

 ギルドの受付で俺を待っていたのだ。

 

 何しに来たかと思えば、ただ会いたかったと言う。

 面倒くさい。


「お怪我はありませんか!どこもおかしくないですか!あああ、ハヤト様が無事で・・・」


 泣いて縋るミリアを受け止め、優しくしておいた。

 一応話し合いの内容に従わないといけないしな。

 演技でミリアを慰める俺に、イリスは不機嫌極まりない顔をしていた。


 宿に帰るまで終始不機嫌を貫くイリス。

 俺は何時も通り振舞う。

 そんな俺を見てか、イリスは最後半泣きになっていた。


「どうぞ、ハーブティーです」


「ん」


 イリスの入れたお茶を飲む。

 半泣きで俺の周りをうろうろしていたのに、今はもう笑顔だ。


 ハーブの香りが俺の思考をクリアーにする。

 そういえば昨日お礼をしようと考えたな。

 お茶も美味い。

 余りにも無下にしすぎていた気がする。

 素直になってみるか。


「イリス」


「はい、何でしょうご主人様」


「ありがとう」


 ガシャアア~~~~~~ン


 盆とその上に載っていたポットが勢い良く割れる。

 イリスが落としたのだ。

 顔を赤らめ上気させ、暫く固まるイリス。

 そんなに驚く事か?


「しょんにゃ・・・しょの・・・あにょ・・・も!申し訳ありません!!」


 イリスは己の行動に取り乱しながら、落とした破片を掃除する。

 危なっかしいので手伝っておいた。

 当然俺に手伝うなと言う。

 

「ところでイリス」


「ふぁい!!」


 やっぱり面白い。

 昨日、イリスの泣き顔を見てから無償に苛めたくなる。

 イリスの反応は俺を冷静にさせてくれるからだ。


 からかい甲斐がある。

 俺にとってイリスの反応は新鮮だ。

 俺は自分が煮詰まっている事を忘れ、気持ちが切り替わる事を感じる。

 緊張を解す事で、違う見方もできるからな。


「買い物に付き合え」


「ふぇえ?あ、はい!」


 しどろもどろになりながら、イリスは外出の準備をする。

 宿を出て、町に繰り出す。


 必要な物を揃えながら町の売り物を吟味する。

 考えて見れば装備以外にも、奴隷を数人買う手もある事に気づく。

 後味は悪かったが、ダイチのやり方も一理ある。


 だが・・・

 どうやってアガーテやエッダは爆発できたのか?

 そもそも爆発するスキルが早々取得できるのか?

 手榴弾のように爆発できるものがあるのか?

 爆発物を体内に仕込めるのか?


 新たな考えと発見に、俺は微笑を漏らす。

 イリスは良い買い物だった。

 買って正解だったな。


 買い物の最後、イリスに好きなネックレスを選ばせる。

 イリスの趣味が見たいと嘘を言ってだ。

 買えない事は重々承知で、アクセサリーを嬉々として選ぶ姿はまだ幼い。

 選んだのはルビーが一粒、大きく輝く銀製のネックレスだった。


 付けさせると大いに喜び、はしゃぐイリス。

 一頻りはしゃぎ終ると、残念そうに外そうとしたのでそのままにさせた。

 店員に金を払い、そのまま帰ると告げる。

 イリスは喜びの余り失神した。

 からかい過ぎは拙かったようだ。


 宿までイリスを抱えて戻る。

 ベットに寝かせて、ギルドで聞き込みをしようと思った。

 さっき浮かんだ爆発に付いての疑問を解く為だ。


 イリスを起こさずに部屋を出ようとした瞬間。

 ギルドに突然現れる黒点に気付く。


「な!なぜ?」


 俺は現れた黒点を意識する。


 【名前】マリ・ウブシロ

 【LV】2

 【年齢】15才

 【種族】プレイヤー


 まだPK対象ではない。

 PKへの警戒は薄れたが、反応の現れ方が異常だ。

 全く予期せず、突然現れた。

 

 俺はすぐに『クローキング』を使いギルドまで走る。

 『暗殺術』のお陰か、気配も消せスムーズに人ごみを分けて進める。

 黒点の監視をしながら、ギルドに差し掛かる。


 ギルドの建物を視認した途端、またもや黒点が突然消える。

 LV2で既に『索敵』を無効に出来るのは脅威だ。


 まだPKのアナウンスは聞いていないだろう。

 その隙を利用して、相手を確認しておかなければ。

 

 建物の中、ギルド長の部屋から黒点反応はあった。

 まさか!

 ギルド長も共犯なのか?


 今朝の話を聞き、ギルドの闇の一面は垣間見たが・・・

 俺も利用されるだけの存在にされているかもしれない。


 慎重にギルドに進入し、ギルド長の部屋へと向う。

 ドアの前に立ち、中の様子を伺う。


「隠れんでもよいよい、堂々とはいってくればいいじゃろう」


 ギルド長の声は、俺の存在に気づいてのことか?


「あ~そこにおるのはハヤトじゃろう?いいから入れ入れ」


 やはり。

 ギルド長は『クローキング』している俺を解っているようだ。

 『クローキング』を解き、ドアを開けて中に入る。


「ふぉ。待っておったぞえ」


「何故解った」


「ふぉふぉふぉ。何故とは言えんが、暗殺対策は万全じゃぞい」


 笑いながら話すザームエルは席を促す。

 ザームエルは俺が席に付くと、険しい顔で話し出す。


「で、何用じゃ」


 ギルドを纏める長の威厳に満ちた声。

 俺は咄嗟に考えを巡らし、動機を隠す為の方便を言う。


「今朝の話だが、信頼が置けなかったので監視しに来た」


「ふぉ、そうかそうか~仕方ないの。安心せい、裏切らんよ」


「本当か」


「もちろんじゃ。そうじゃの~ん~もう50金貨の上乗せと、ギルドランクBへの昇格。これでどうじゃ?」


 破格の申し出である。

 此処までするのだから信用しろと言う事か。


「わかった」


「ふぉ、それでよい。ところで、お主ももう少しミリア殿に誠意をみせんかい」


「十分したと思うが」


「ふぉ、あれでは許婚に見えないではないか。もっとこ~ブチュ~っと行くもんじゃろう?」


 情熱的なシーンを真似て、1人で体をくねらす老人。

 この爺!

 食えなさすぎる。


「わかった。善処する」


「ふ~っむ若さが足りんぞ」


「構わん」


「そうかそうか。ふぉふぉふぉふぉふぉ。もう良いじゃろう?」


「ああ」


「では約束通り、お主はミリア殿の許婚。ベルナー伯爵が財務大臣になるまでの」


 こうして俺は部屋を出る。

 今朝の話し合い、それはこうだ。


 ギルドの暗躍により、ダイチはブッケル伯爵の手先とされた。

 ベルナー伯爵の持つ証人ダークエルフを奪回する為に。

 

 ブッケル伯爵は、ミリアの許婚の俺をダイチを使って襲撃する。

 深手を負い、命が危ない俺を使って、許婚のミリアを揺さぶろうという魂胆だ。

 娘の嘆願にダークエルフを差し出させて証拠を消す。

 その為に俺は襲撃された。


 話の筋は通るが、誰が聞いても馬鹿にするようなものだ。

 だが、そんな与太話でさえ宮廷内での抗争には有効だ。

 でっち上げた捏造話と証拠で十分なのだ。


 元々俺のことを好ましく思っていたミリアは、許婚の事を受け入れたようだ。

 ただ、政敵排除の為の方便とは知らされていない。

 その方が、ミリアの言動に真実味がでるからだ。


 ギルドはダイチの暴走として、今回の私闘を処理できる。

 ブッケル伯爵の汚い手口が原因で迷惑を被っただけ。

 ギルドは被害者と言うわけだ。


 ギルドはダイチを切り捨て、体面を保ちつつ財務大臣に恩を売る。

 ベルナー伯爵位はギルドのお陰で、政敵を難なく排除できる。

 まさに理想的な癒着が出来上がっていた。


 貴族社会に証拠は重要だが、捏造でも構わない。

 貴族達が納得すれば、それが真実となる。


 哀れなのはブッケル伯爵か・・・

 部屋を後にした俺は、フィリーネを探す。

 疑問を解消できる方法を聞くためだ。


 好意を持っていてくれる人間を頼る方が、正解に近い道を示してくれるだろう。

 ホールに戻り、受付を見てフィリーネを探す。

 すぐに見つけた。


 向こうも俺をじっと見ている。

 何か用があったのか?


 俺はフィリーネニ向って歩き出す。

戦闘が書けない何故こうなった

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