第八話 検証
迷宮での戦闘はスムーズには行かない。
スキルの恩恵があったとしても危険だ。
低LVと言えども、致命傷を負えば死ぬ。
迷宮の2階層、LV2~4程のモンスターが出る階層。
そこで俺とイリスは戦っていた。
危険を承知で、俺はイリスに指示を出す。
「よし、イリス!火魔法『ファイア』を打ってみろ!」
「はい!」
魔法攻撃を意識するイリス。
俺は、モンスターの攻撃をいなし、足止めをする。
元々取得していない火魔法を打とうと言うのだ。
意識を集中して魔法を打とうとするイリス。
どれほど集中しても、変化はない。
『ファイア』が発動する気配も当然感じない。
見切りを付け、俺はモンスターを倒す。
イリスの集中力は途端に切れる。
力なく項垂れ脱力するイリス。
何度もこの繰り返しだ。
「無理か?」
「・・・申し訳ありません。ご主人様」
「そうか、次は違う魔法を試す」
「はい!」
迷宮の2階層を歩き回り次に向う。
『索敵』によりモンスターを探すのは早い。
MAP内の赤点と名前が見えるのだから。
仕組みは解らない。
だが、倒されたモンスターは一定時間でリポップする。
同じ場所ではなく、同階層のあちこちにだ。
だから常に移動する必要がある。
移動して、遭遇して、倒す。
この繰り返しだ。
次の赤点を目指して進む。
いた。
新たなモンスターと遭遇する。
【名前】ビッグフライ
【LV】3
【状態値】HP350/350・MP202/202
【攻・防】25/16
【スキル】体当りLV1・溶解液LV1
【名前】スケルトン
【LV】4
【状態値】HP454/454・MP102/102
【攻・防】41/29
【スキル】スラッシュLV1・ガードアタックLV1
良い練習相手だ。
ビックフライはそのまんま、蝿だ。
ただし50cmはあり、見た目気持ち悪い。
そんな物が空中で素早く動く。
スケルトンは、ゲーム同様に骸骨だ。
骸骨が盾と剣を持っているだけで、動きは人そのもの。
少し剣技が出来る程度だ。
「イリス、スケルトンに『ペブルショット』を打ってみろ!」
「はい!」
土魔法の初級魔法で、石礫みたいなものだ。
返事を聞き2体の前に立ち塞がる。
イリスを背にして魔法に集中する時間を与える。
まずはビックフライを倒しに掛かる。
俺はミスリル棍を手にする。
左手を軽く、棍中央に添える様に握り、右手は棍尻を硬く握る。
ビックフライ目掛けて右手を連続して何度も押し出す。
左手から高速で突き出される連撃。
飛び回るビッグフライを容赦なく突きまくる。
光となって消えるビックフライ。
すぐさまスケルトンに向き直り牽制の棍撃を打つ。
スケルトンは盾でガードして防いでくる。
スケルトンは、盾を前にして剣を突き攻撃を掛けて来る。
俺は剣をミスリル棍で弾き、攻撃を防ぎながらまた牽制を一棍。
ジリジリと睨み合いながらフェイントの応酬が繰り返される。
スケルトンを出来るだけ引き付け、イリスを待つ。
イリスは必死に魔力を練り上げ、土魔法へと変えようとするが・・・
『ペブルショット』もまた発動の気配を見せない。
イリスの集中が切れそうだ。
この戦闘は此処までだろう。
俺はスケルトンに向かい、ミスリル棍を一突き入れる。
バックステップで交わすスケルトン。
そこに『火炎』を放ち焼き尽くす。
「・・・申し訳・・・ありません・・・」
「構わん」
声も小さく、かなり凹んでいるようだ。
幾度と無く繰り返す魔法の試行。
何度やっても新しい魔法は打つ事が出来なかったイリス。
無茶をしている事は解っている。
だが、どうしても色々と試す必要があるのだ。
今日も朝から迷宮に篭っていた。
時刻は昼過ぎになっているだろう。
そろそろ切り上げて、訓練にするべきだ。
「イリス、昼食にしようか」
「・・・はい」
まだ落ち込んでいるイリス。
だが、まだこれから色々試さなくてはならない。
イリスの落込みを他所に昼食ヘ向う。
「今日も頼む」
「・・・あ、はい、訓練場の使用許可書です」
昼食後、休憩を挟んで許可証を貰う。
フィリーネは最近余所余所しい。
PKの次の日からだったかな?
「明日も予約頼む」
「・・・・・・解りました」
用件が済むとそそくさと奥に隠れる。
嫌われた訳ではないとは思うが。
あの日、ギルド長の部屋を出て、フィリーネに聞いたのだ。
人が爆発する可能性は?
そんなスキルは取得可能か?
この世界には爆弾はあるのか?
飲み込めるようなものか?
フィリーネは俺の質問に淀み無く答える。
可能性はある。
『クラッシュボム』がある。
取得は出来る。
だが、取得しようとして出来る物ではない。
ヴァクゥダァン?
スキルは飲み込めないと思いますが?
すらすらと答える内容に驚く。
フィリーネは俺が質問する事を知っていたようだ。
どうもギルド長が事前に教えていたらしい。
何処まで見えているのだろうか・・・あのギルド長。
更に、ダイチについても聞かされる。
初めの頃は目立たない存在だったようだ。
しかし、親しい仲間を失った後、急に強くなる。
その後、奴隷を買い、酷使していたそうだ。
明かに才能の無いスキルを無理に訓練さる。
倒れるまで、ダイチが手合わせで叩きのめす。
ワザと毒を飲ませて、解毒をする。
一日水中に浸からせたりと、奇行が目立っていたようだ。
ダイチの情報を勝手に話すフィリーネ。
これもギルド長の差し金のようだ。
俺に何かを掴ませようとしたのだろう。
お陰で俺は、ある事に気が付かされる。
ダイチはこの世界を検証していたようだ。
ただ、自分ではなく奴隷を使って。
彼はその過程で何かを見つけたのだろう。
『クラッシュボム』もそこから取得させたのかもしれない。
俺は余りにもこの世界に、興味がなさすぎた。
戦い、先に進む事ばかり必死になっていた。
自分の身に起こった不思議な出来事を利用はした。
だが、不思議な事を疑い、深く検証しようとは思わなかったのだ。
気が付けば出て来る疑問。
ステータス画面って何だ?
スキルを自由に出来るのは何故か?
そもそも此処は現実世界か?
プレイヤー以外の人間は本当に生きているのか?
まさかNPCなのか?
プレイヤーは死ぬとどうなる?
ダイチは・・・本当に死んだのか?
出て来る疑問は尽きない。
でも、気づけた何かを俺も探すべきだと思う。
何かのヒントになる可能性がある。
一度あらゆる事を試すべきだと。
だから俺はまずステータス画面から確認した。
1番身近なのに、余り深く探っていないもの。
夜、イリスの寝ている間に検証した。
解った事は幾つかあった。
その中でも特に【PT】欄が重要だ。
【PT】をタッチしても反応はない。
しかし、その横の名前を押すと押した相手の情報が見えた。
別に浮かび上がる情報画面。
俺の場合はイリスの情報だった。
更に検証を重ねる。
イリスの情報画面をあちこちタッチしていく。
ほとんど反応が無かったが、【スキル】だけが違った。
【スキル】をタッチすると更に別情報が浮かび上がる。
それはイリスの取得可能なスキル名欄。
イリスが訓練しても開花しなかった名残。
何故そう思えたか?
朝起きてから、スキルについて覚えがあるか聞いたのだ。
「良くご存知ですねご主人様。それは私が訓練してきたスキルですが、取得できなかったものです。」
と答えたので確かだろう。
試しに火魔法LV0(0/1)をタッチした。
すると火魔法LV1と変化する。
俺は変化したスキルを確認し、他に変った点を探す。
あった。
それは俺の【スキルP】の残数。
1ポイント消費されていたのだ。
今度はイリスの情報画面に戻り【スキル】を確認する。
火魔法はなかった。
何故無いのだろう?
逆に『風魔法』を試しにタッチしたら(0/3)とでる。
更に(0/3)をタッチすると(1/3)となる。
するとまた俺の【スキルP】が1ポイント消費された。
どうやら、スキルを自由に取得させる事が出来るようだ。
ダイチの気づいた事はこれだったのだ。
こうすれば仲間を強化できる。
しかも奴隷なら裏切る事はない。
まさに強力な武器となりえる発見だ。
だが【スキルP】には限りがある。
自分でも手一杯なのに仲間まで余裕が無い。
ああ、それでPKなのか。
ダイチが率先して襲って来た理由に説明がつく。
イリスを強くする。
これはPK対策において有利に働くだろう。
ダイチもそうしていたのだろう。
だが、取得させた火魔法が反映しない点が解らない。
だから俺は、実戦で訓練で試しているのだ。
魔法は実戦で行けるが、武術系はそうは行かない。
例えLVがモンスターより高くとも、イリスでは危ない。
HPも低くATKも無い状態で、前衛は無理だ。
ギルドの訓練場に来る。
訓練場に入るに際して許可証を提示する。
予約してあるのでそのまま入れてくれる。
許可証は不審者を入れないために。
予約は、混み合わない様にする為の対策だ。
混雑の回避により、訓練できるスペースが確保できる。
剣の稽古で隣の組に当たったら、目も当てられない。
訓練場は、あっちの世界の球場並みに広い空間。
そんな空間を街中には作れない為、地下にある。
暗い空間だと想像していたが、意外に明るい。
天井は光穴を通した明かりを使って、器用に光らせている。
足りない光量は自ら光る『ミョルバ』を使用して補っている。
『ミョルバ』は妖精の燐粉を加工したものだ。
訓練場には他の組もいる。
お互いに邪魔にならない位置を探し陣取る。
ちなみに訓練場では魔法は打ってはいけない。
魔法は別の専用部屋を借りなければならないのだ。
だから俺達の成長と資金、そして魔法訓練。
それらを午前中に行っている。
今から訓練場では武術関連だ。
「イリス、いつも通りだ」
「はい!ではお願いします」
ギコチない正座をしてイリスは挨拶をする。
挨拶が終わり、向き合って胡坐をかき瞑想する。
俺は自分のしてきた稽古をそのままイリスに教えている。
小さい頃から親父に叩き込まれたものだ。
今でも他の組から変な目で見られることがあるが気にしてられない。
「では!」
暫く瞑想して、目を開ける。
瞑想を解くタイミングを計る事は、イリスにはまだ難しい。
親父となら息を合わせられたのだがな・・・
掛け声を合図に礼をして立ち上がる。
ストレージから刀身の短いサーベルを出し、腰に装備させる。
訓練と実践用に購入し、持参したものだ。
俺も木刀を構えて対峙する。
真剣も考えたが、万が一を考慮して木刀とした。
イリスに正眼の構えを取らせ、打ち込みさせる。
「えい!」
様になってきた。
初めて教えたときはヒョロヒョロと剣に振られていたのに。
今ではちゃんと振り込めている。
まだ剣筋は立て切れていないが、筋がいい。
俺は幾度目かの打ち込みを受け、改善点を伝える。
何度も何度も繰り返す。
一段落着くと、今度は俺も打ち込んでいく。
イリスが打ち込む、受ける、隙を突く。
隙を突かれると体制を崩す。
まだ甘いな。
それでも食らいつく姿は子供の頃を思い出す。
剣術に没頭して夢見ていた頃を。
まさかこうやって他人に教えるとは思いもしなかった。
一頻り打ち合い、タイミングを見て木刀を下げる。
それに呼応して、イリスもサーベルを鞘に収める。
剣の稽古の終わりの合図だ。
礼をして一旦休憩する。
その場に座り込むイリス。
最近、気合が入っているな。
ダラりと座っているイリスを他所に、コップを2つ出す。
イリスは息を上げているので、コップに水を入れ渡す。
「ハァハァ・・・私が・・・ハァハァ・・・お入れいたし・・・ハァハァ」
「まずは体を落ち着かせ、体力を戻せ」
「ハァハァ・・・はい」
ストレージは俺しか使えないのに。
イリスの気遣いに苦笑した。
イリスの呼吸と体力の回復を見て柔術の稽古だ。
まずは準備運動から始める。
軽く体を解し、受身の練習。
受身が出来ていないと怪我の元だ。
受身を終え、型の稽古。
まず俺が見本を見せ、何回か受身を取らせる。
次に交代してイリスの型を俺が受ける。
地面に打ち付けられるのは非常に痛い。
だが実戦では床も畳みも無い訳で。
擦り傷を作ってしまう。
途中で『ヒール』を掛けながら型を終え乱捕りになる。
この場合も交互に行い、必要に応じて型の組み合わせを変える。
ひ弱なイリスには打って付だが、慣れるまではまだまだだ。
特に歩方が難しいらしく苦労している。
柔術が終われば、最後に小太刀となる。
イリスに合わせ50cm程の長さだ。
武器屋でサーベルを加工してもらった。。
柄も特注で出来うるだけ小太刀に近づけた1品だ。
腰に差しても邪魔にならず。
万が一、杖が壊れた際に役に立つと思ったからだ。
ナイフでも良いが短剣よりは教えやすい。
クナイ術もあるが俺はまだ覚えていなかった。
礼から初め、左手で小太刀を持ち半身に構えさす。
俺も木刀を短くした物を持ち、同じように構える。
こうして采華流を叩き込んでいく。
夕刻になり、俺が教える稽古は終了する。
今日もイリスは自発的に申し出る。
「ご主人様、少しだけ弓を練習してもいいでしょうか?」
「ああ、構わない」
「ありがとう御座います」
俺の許可に、嬉しそうにしてる。
イリスが休んでいる間にストレージから的を出す。
藁束で出来た物で、布に円を書き的にしている。
時代劇なんかに良く出て来るアレだ。
セットを完了させ、短弓をイリスに渡す。
この時も『私がいたします!』と駆け付けて来たが、俺がしておいた。
弓の練習だけはイリス自身で行うので、矢を取りにいったりと結構面倒なのだ。
弓を打ち、打ち尽くすと拾いに戻る。
遠距離を行ったり来たりするのは疲れるはずだ。
イリスは時間を惜しんで早速弓を打ち始める。
この間、俺は座ってイリスを観察している。
『弓術』、これは俺が事前に名残スキルでLV1にしたものだ。
これ以外にも『剣術』・『格闘術』・『火魔法』・『土魔法』をLV1にした。
昨日まで『弓術』も『火魔法』同様、最初はイリスのスキル欄にはなかった。
弓の練習中も『弓術』は現れていなかった。
ずっとダイチの行動をなぞって試行錯誤していた。
なかなか上手く結果が出ない。
俺の考えが間違っているのかと不安になっていた。
そんな試行錯誤の日々が過ぎていった5日前。
剣の稽古が終わると、突然イリスが弓を教えて欲しいと言ったのだ。
その時までは剣の稽古しかしていなかった。
弓に付いては俺も詳しくは無い。
一応弓を引き、矢を打てるが剣程ではなかった。
だから打てる位にはと教えたら、イリスは見事に矢を放つ。
更に練習していくと、イリスの弓は様になっていった。
明らかに弓を構える姿が違い出す。
イリスの姿に違和感を覚え、何気なくステータス画面を確認する。
練習を始めた時、もしやと思って見てもなかった物。
それがあった!
【スキル】欄に『弓術』が現れていた。
イリスも思いがけない事だったらしい。
練習する度に上手くなる弓。
『弓術』の効果が如実に現れる。
喜ぶイリス。
当然、他のスキルも出来るかも知れないと意気込む。
だから今日も気合が入っていたのだ。
イリスのスキルをLV1にする。
すると、本人が努力すれば【スキル】欄にスキルが現れるようだ。
現に『身体強化』もLV1にしてみる。
武術の稽古を始めて、コツを掴み出したら現れたのだ。
それからは、知りうる武術関係も一通り教えている。
何時現れるかは解らないが、稽古して損はない。
それに、ギルドで張っていれば、またあの黒点が現れるかもしれない。
今度こそ此処からなら、透かさず確認できる。
訓練場から『クローキング』で飛び出せば間に合うだろう。
幾つかの条件を兼ね合わせて、一連の流れが出来た。
焦る気持ちもある。
だが今は鍛える時かもしれない。
イリスが弓の練習を終えるまで、ステータス画面のチェックをしている。
『索敵』MAPも確認し、辺りを伺う事も忘れていない。
日が暮れ、夜になりイリスの練習は終わる。
訓練場を後にして、宿へと戻る。
汚れを落とし、明日の為にベットに深く潜りこんでいった。




