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第九話 真理

 イリスの検証が進み1月ほど経った。

 【PT】から行える操作も粗方解った。


 相手に与えた【スキルP】は自分に戻せる。

 元々持っていた分は奪えない。

 スキル取得に必要な行為をすれば、スキル情報に名前が出る。

 ステータス画面への表示は、本人の努力次第。

 既に取得済みのスキルLVも操作できる。

 どれだけ練習しても取得できないスキルもある。


 こんな所か。

 『火魔法』だけはイリスに取得出来なかった。

 たぶん種族特性か何かだろう。

 どうしても駄目なものが存在するようだ。


 1月の成果はイリスのスキル欄を充実させる。


 【スキル】

  刀術LV2・格闘術LV2・弓術LV3

  身体強化LV3

  毒耐性LV1・麻痺耐性LV1・催眠耐性LV1

  風魔法LV3・水魔法LV2・土魔法LV1

  神聖魔法LV3


 『剣術』よりも『刀術』が現れた。

 これは仕方ないかもしれない。

 俺が教えていたのだから、自然な事だろう。


 イリスは小太刀に才能を発揮し俺を驚かせる。

 後、弓は教えなくとも自らLVを上げられた。

 エルフならではの特性なのかもしれない。

 

 次は俺の番だ。

 俺は魔法系統を取得していない。

 その為、イリスの経緯から取得できないか模索してみた。


 まずイリスに、魔法の概念を教わる。

 魔力の感じ方、引き出し方、発動までの集中方法。

 魔力は感じられるものの、引き出し方に戸惑う。


 習っても【スキル】欄に現れなかった。

 試しに『ファイア』を唱えても何も起きない。

 呪文は口伝で知ることも出来る。

 だが殆どの場合、自ら頭に浮かんで初めて使えるそうだ。


 イリスの神聖魔法名称は、依然に聞いていた。

 知らなければ指示の出しようがない。


 『神聖魔法』の場合。

 LV1で『ヒール』・『キュア』・『ライト』

 LV2で『ホーリーバリア』・『デフレクション』・『バニッシュ』

 LV3で『ヒールオール』・『プロイテクション』・『サンクチュアリ』


 といった感じだ。

 それぞれLVが上がると、自然に頭に効果と呪文が浮かぶらしい。

 この世界の人々は、頭に呪文が浮かんで初めてスキルLVUPを体感している。

 

 俺の場合は【スキル】欄にあれば勝手に操作できる。

 その分この世界の人より有利なのだが・・・

 【スキル】欄に出す事が解らないのだ。


 試行錯誤しても一向に現れないスキル。

 プレイヤーは、スキル操作が可能だ。

 その代り、任意に発現しないのかもしれない。


 ただ、『身体強化』や『索敵』は出せた。

 どう考えても魔法だけ出ない事が謎だった。

 プレイヤー同士の情報交換が必要かもしれない。


 だがPKを知った以上、そうおいそれと近づけない。

 LV30になっていないプレイヤーを探せばいいのか?

 そんな都合の良いプレイヤーが居るのか?

 考えれば切が無い。


 1ヶ月の間、試行錯誤した結果。

 俺は、自分のスキルに関しては諦める事にした。

 それよりも今ある手段を、より効果的にする方に考えを改めたのだ。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 更に強くなる為、俺達はまた迷宮に篭り始めた。

 最近では迷宮の10階層を狩場としている。

 実は此処が最下層だ。


 これ以上高LVモンスターを目指すなら町を離れなければならない。

 最下層では、LV20~22のモンスターが出る。

 相手はもう見慣れたモンスター達だ。


 【名前】コボルトナイト

 【LV】15

 【状態値】HP1,892/1,892・MP562/562

 【攻・防】198/90

 【スキル】スラッシュりLV2・噛み付きLV2

 

 【名前】コボルトロード

 【LV】21

 【状態値】HP2,864/2,864・MP1,012/1,012

 【攻・防】258/135

 【スキル】スラッシュLV3・串刺しLV3・狂化LV2


 基本高LVモンスターは、取り巻きを連れている事が多い。

 今回の取り巻きの数は5体

 

「イリス『サンクチュアリ』と『ホーリーバリア』だ」


「はい!」


「その後は・・・」


「ご主人様に『プロテクション』を掛けて、弓で牽制しつつサポートですね?」


「そうだ、頼む!」


「はい!」


 指示を出す前に、イリスは解るようになってきた。

 ずっと一緒に戦っているからな。

 イリスの支援を受け、モンスターの前に出る。


 『かまいたち』を使い全体に攻撃を仕掛ける。

 イリスの魔法が完成するまでの牽制を込めて。


 このLVのモンスターはかなり強い。

 俺のラーニングスキルも効ききが弱く感じる。

 盾で『かまいたち』を防ぎながら堪えるモンスター。

 傷を負うものも居るが、HPを大幅には減らせない。


 迷宮は比較的狭い。

 なので、広範囲に影響するスキルは使用が難しい。

 『雷撃』や『氷結』は迷宮内を崩す恐れがある。

 外でなら有効な攻撃手段ではあるが。


 また『あまい息』などのブレス系も充満するので使えない。

 後に此処を通る冒険者やイリスに影響が出ないとも限らない。

 序盤使えた『スパイダーネット』も今では厳しい。

 高LVになると、動きは鈍らせられるが、効果が薄いのだ。

 もっと有効なラーニングを取得する必要が出てきている。

 

 コボルトナイトに再度『かまいたち』を掛け動きを封じる。

 残るコボルトロードに向かい、鋼鉄の刀を抜く。

 『ソニックブレイド』を放ち、攻撃を仕掛ける。

 此方に向かう気勢を削ぎ、一旦足止めを掛ける為だ。


 取り巻きは怯んだ体制を立て直し、イリスに向う。

 横目で確認する。

 コボルトナイト達はイリスの障壁に邪魔され近づけていない。

 

 遠巻きに唸るコボルトナイトに向かい弓を射掛けるイリス。

 随分と強くなったものだ。

 攻撃力はまだ無いが、頼れる存在に成長した。


 コボルトナイトは、イリスに気を取られている。

 俺はその隙を狙い、『火炎』を打つ。

 動物には火が有効だ。

 単体に特化した攻撃スキル『火炎』は威力を遺憾なく発揮するる。


 コボルトロードを牽制しつつ、隙を見てイリスを助ける。

 1体ずつ確実に『火炎』を打ち込む。

 牽制し、『火炎』を打ち牽制する。

 繰り返すうちにコボルトナイトが全滅した。

 ここからは、本腰を居れコボルトロードに対峙する。


 イリスは障壁を展開したままだ。

 障壁を維持しつつコボルトロードに『デフレクション』を掛ける。

 更には弓をつがえて狙いを定めだす。

 背中を守られている安心感が出る。


 コボルトロードの剣が俺に向う。

 剣を避け距離を開けると、イリスの矢が飛ぶ。


 矢に気を取られるコボルトロード。

 そこに俺は、突進して刀を振るう。

 コボルトロードは盾を使い防いでくる。


「三連撃!」


 刀を振るう瞬間、俺はスキルを唱える。

 振り下ろされる斬撃が3本に別れる。

 コボルトロードは3本に別れた攻撃に戸惑う。


 盾を構え1本は防いだが残りは当たる。

 盾をすり抜けコボルトロードに深手を刻む斬撃。

 それでも倒れないコボルトロード。

 

 俺の攻撃が終わると、コボルトロードは剣を構え溜めを作る。

 『スラッシュ』の構えだ。

 直ぐに体制を整え、攻撃を受ける姿勢を作る。


 イリスの矢は、溜めの為に動けないコボルトロードに何本も襲いかかる。

 それでも怯まず、矢を体に刺さらせながら『スラッシュ』を放ってきた。

 俺は、突進してくる剣に、刀を合わせ方向をずらす。


 直進してきたコボルトロードは方向を変えられ壁に激突する。

 いなされた自らの攻撃に自爆したのだ。

 すかさず『火炎』をコボルトロードに打ち込む。

 炎に包まれ、苦悶の唸り声を上げて此方を向く。


 止めとばかりに、もう一度『三連撃』を放つ。

 刀に捕らえられ、体を刻まれるコボルトロード。

 炎に包まれながら光となって消えた。

 

「お怪我はありませんか、ご主人様」


「ない」


「良かったです」


「イリスの支援も弓も良かったぞ」


「ありがとう御座います!」


 褒められ嬉しそうにするイリス。

 最初の戦闘が嘘のように自信に溢れている。

 訓練とスキル操作の賜だろう。


 イリスはドロップしたアイテムを拾い、俺に渡してくれる。

 ストレージに仕舞いこみ、怪我の有無と装備の確認をした。

 問題ないようだ。

 HPもMPもまだいける。

 

 『索敵』を使い、モンスターを探す。

 

「こっちだ、イリス」


「はい、ご主人様」


 見つけたモンスターに向って歩き出す。

 今度もまた、コボルトロードのようだ。

 次の戦闘に向って気を引き締める。


 幾度かの戦闘を終え、迷宮を出る。

 ギルドに行きドロップ品の清算も済ませた。


 夕食を食べに行こうとギルドを出ようとする。

 すると突然、フィリーネに呼び止められた。


「ハヤトさん、少しいいでしょうか?」


「ああ、構わないが」


「では、此方へ」


 最近、他所他所しかったフィリーネ。

 それが嫌われた事ではないならば・・・

 何か別の事だとすれば、1つだけ思い当たる事がある。


 ギルド内に出た黒点だ。

 PKされた次の日からフィリーネはおかしい。

 消えたままなのも不思議だった。

 警戒感を強め、万一に備えイリスを待機させる。


「イリス、此処で待っていてくれ」


「・・・はい・・・あの・・・」


「大丈夫だ」


「はい・・・」


 イリスは俯きながら、寂しげに俺を見詰めている。

 最近、こんな表情はしなかったのだが。

 フィリーネと俺に何かあると思ったのだろうか。

 変な事にならないのに。


 イリスをギルドホールに待たせ、フィリーネの後に続く。

 無言のまま進むフィリーネ。

 そして着いたのは、ギルド長の部屋の前だ。

 

 これは・・・

 フィリーネの態度。

 ギルド長の部屋。

 突然消えた黒点。


 俺の緊張が高まる。

 フィリーネは俺を一瞥すると、ドアをノックした。


「おおお、入って来るがよい。それと、そんなに殺気を立てるな、居心地が悪うなるわい」


 何時聞いても気の抜けた声。

 そうやって相手を油断させるのか?


「ふぉ!言う事を信んじん奴じゃ。ちっと話がしたいだけじゃぞ?」


 ザームエルの言葉が聞こえると、フィリーネはドアを開け部屋に入る。

 部屋へ入り、中からドアを開けたまま俺に入れと目で合図してくる。

 俺は中の様子を確認し、警戒を緩めずゆっくりと足を動かす。

 

「本当に慎重じゃの~」


 俺の警戒を呆れるかのように、ザームエルは言う。

 相変わらず笑顔だが・・・その瞳の奥は笑っていない。

 

「まあ、無理も無いかの~ささ、フォリーネも一緒にこっちへこんか?」


「・・・・・・・」


 一定の距離を保ち、立ったまま話を聞く俺に、ザームエルは諦めて話し出す。


「最近がんばっとるようじゃの~」


「まあな」


「ふぉ!それにしては最下層でも余裕そうじゃが?そろそろ次の段階へ行きたいのではないか?」


「そうかもな」


「ふぉふぉふぉ、否定はせぬか。それよりもお主、頼れる仲間を増やす気はないのかの~」


 仲間か。

 イリスは強くなって後ろを任せれる。

 支援も的確になり指示にも従う。

 確かに安定感がある。

 だが、ザームエルの薦める人材は、嫌な予感しかない。


「今はいらんな」


「ふぉ!そう言うな、仲間は良いぞ~特にお主には、必ずや助けになると思う人材がおるのじゃが」


 どうしても俺に付けたい奴が居そうだ。

 ザームエルの言葉に、俺はプレイヤーの存在を感じる。

 何故ザームエルがプレイヤーを知っているかが謎だが。


「いらん」


「ふぉ!後悔するぞ~」


「しないな」


「ふむ、では此の辺り一帯に、《お主以外》はおるのかの?」


 なんだと・・・

 《お主以外》と言う事はやはり知っているのか!

 今のところ黒点はない。

 どう答えるか?

 まずは惚けて反応を伺う。

 

「ギルド長とフィリーネが居るのに、何を言っている」


「ふぉふぉふぉふぉ、《お主以外》と聞いておるのじゃ、解っておるじゃろ?」


 どうやら完全に解った上で聞いているようだ。

 だが、そうだとしても認めるには早計だ。


「わからんな」


「ふぉ!あくまで知らぬ存ぜぬか。ではこうすれば《お主以外》が出てくるじゃろう」


 何を企んでいる!

 警戒を強め、後ろ手に右手を隠しストレージを出す。

 ストレージ中で刀の柄を握り、何時でも出せる様にする。


「擬態を解け、『真理マリ』」


 ザームエルは俺の警戒を知った上で、指示を出す。

 黒点は無い、なら誰に向って?


 俺は『索敵』MAPに注意し、部屋一帯に気配を探る。

 指示したと言う事は、何か変化が現れる筈。

 すると、今まで俺の後ろで控えていたフィリーネが変貌を遂げ始めていた。


「な・・・なんだ・・・」


 驚いてフィリーネを凝視する。

 フィリーネの姿がどんどん変っていき、見た事の無い女性が現れる。

 しかも、MAP上に現れた黒点。

 疑惑はあった、でも実際に目にすると思った以上に動揺が走る。


 動揺を隠しながらも、俺は身を守る行動に出た。

 事態に対応すべく、2人から距離を取る様に入り口へと下がる。

 何時でもドアから逃げれるようにと。

 俺は、ザームエルと現れた女性を相手取れる様、入り口近で陣取る。

 

 女性は変貌した後、周囲を見渡し、俺を見て驚愕する。


「ギ!・・・ギルド長!、こんな!何故、彼の前で擬態を解くのですか!」


 擬態?

 俺は、『鑑定』で女性を見る。


 【名前】マリ・ウブシロ

 【LV】2

 【年齢】15才

 【種族】プレイヤー

 【状態値】HP8/8・MP10/10

 【攻・防】70/27

 【能力値】S14・V12・I20・A15・D25

 【スキル】

   火魔法LV1(0/2)・水魔法LV1(0/2)・神聖魔法LV3(0/4)

   擬態・鑑定・ステレージ

 【固有スキル】演技

 【所持金】53,218G

 【装備】布服DEF1/ギルド衣装DEF2


 マリだと?

 こいつも日本人のようだ。

 ダイチといい、マリといい、此の世界のプレイヤーは皆日本人なのか?


 【スキル】欄には2人の言葉通り『擬態』があった。

 これが『索敵』に表示させないスキルのようだ。

 『クローキング』もそうだが、『索敵』に掛からないスキルがまだ存在するとは。

 俺は、今後の警戒方法を考え直さなければならなくなった事をを呪う。



 戦闘態勢を維持したまま、マリを、そしてギルド長を睨む。

 マリは俺に睨まれ、怖がって身を竦ませている。

 ギルド長は、ヤレヤレといった具合に両手を挙げて呆れている。


「どうじゃ?《お主以外》が現れたじゃろ?」


 彼女の変貌。

 現れた黒点。

 俺の今の態度。

 言い逃れするよりは、プレイヤーに関する情報を引き出す方が良さそうだ。


「ああ、此の一帯には彼女以外いないな」


「ふぉっふぉふぉ、では《話合い》をしようかの?」


「ああ」


 ギルド長との《話合い》が始まった。

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