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まだまだ序盤

 俺たちはその場に立ち尽くしていた。

 誰もがそうなるであろう状況だ。

 いきなりこれはログアウト不可のゲーム内の死は現実の死と聞かされて動揺しないはずがない。

「どうすりゃいいんだ……?」

 俺は近くにいたキリノと真一に問う。

「分かりません……」

「知るかそんなもん!」

 そう返答してくる。俺が問われても同じようなことを言うだろう。

「とりあえず酒屋に行こう。そこで今後のことについて話し合おう」

「そうだな……」

 俺たちは隠しきれない不安を抱えつつも酒場に向かった。


 俺たちはこのデスゲームについて深く知るべく、なぜかアイテムBOXに入っていたマニュアルを読んでいた。

 俺たちの酒場で話し合った結果はそれぞれ違う意見に進むということであった。俺は「戦って現実世界に戻りたい」キリノは「私も戦います」真一は「宿屋で寝とくわ」だった。

 俺以外は戦うことを選ばなかった。真一は違った。それも当然だろう。誰もが死にたくないはずだからだ。

 だが、それでいいのか?

 それで俺はいいのか?

 俺はここで一生を遂げるのか?

 また逃げるのか?

 そんなのは嫌だ! 他の誰かが許そうとも俺が許さない!

 俺はダメ元で真一を説得した。

「お前は母さんに父さんに祖母ちゃんに祖父ちゃんに妹に会いたくねぇのか!? 学校の友達に会いたくねぇのか!」

「死んだら会えないじゃないか!」

 真一は怒り狂った声で叫ぶ。

「このままノホホンと過ごしてても会えないじゃないか! それより戦って精一杯やって勝って攻略したいち早く会えるじゃないか!」

「死んだら見せられないだろうが! 俺はもういいから勝手にやらしてくれ。俺は俺の道、お前らはお前らの道で進んでいこう。じゃぁな!」

 真一が席を立ち酒場を出た。

 その背中はとても心細く切なかった。

 俺はそんな真一を見て涙がこぼれ始めた。

「すまない……。今日は宿屋で休まないか……? 俺はもういっぱいいっぱいなんだ……」

「はい……」

 俺とキリノは宿屋に向かった。


 ――次の日

 俺とキリノは同じ部屋で寝泊まりすることにした。宿屋は意外と高く二人分の宿泊料はかなり痛いのだ。

 俺はキリノより先に起きた。

 昨日は悲しみにくれていたが今日は何とか持ち直せた。

 俺はウィンドウを開き掲示板を見た。

 情報によると既に町中では【攻略組】と名乗る巨大PTが3つ存在するらしい。1PT12人の3PTだから36人と言うわけだ。3PTはお互いに停戦関係にあり協力して攻略していくということになった。攻略組は明日から活動を開始するらしく1日でバイディングフォレストを突破すると宣言されている。

 そんなこんなでいくつかの情報を手に入れた。 


・エリアには行き止まりというものが殆どなく廃村ではない違うダンジョンを発見したPTがある。

・次のイベントは1週間後で内容は単騎でどれだけのモンスターが倒せれるか。

 ・それに関係してイベントでの死は現実の死にならない。

 ・イベントの優勝者には運営から二つ名と賞金、称号、アイテムがもらえるらしい。

・街の郊外にあるビーリング墓地にはこのゲーム内で死んだプレイヤーの墓石が作られる。

・既に500人死んでいる。

・ゲーム内でも現実とほぼ同じ。朝食、昼食、夕食、そして睡眠。いずれかを抜くとスタミナ値が減る

 

 こんな感じだ。

「……ん…ぅん……」

 キリノが起きたようだ。

「ようキリノ。おはよう」

「トールさんおはようございます……」

「可愛い寝顔だったぜ!」

「え……! え……! 寝顔見たんですか!?」

「勿論」

「トールさんのぇっち……」

 いやいやいや! 違うだろ!

 だが恐ろしく可愛かったのには間違いない。

 あんな寝顔は見たことない。

 女子の寝顔なんて見たことなかったけどな。

「とりあえず下調べしてメールで送ったから見といてくれ。後朝飯食おうぜ」

「ん……ありがとうございます……。トールさんはもう大丈夫なんですか?」

「あぁ! すっかりな!」

「そうなんですか。では着替えますので少しあちらを向いておいてください」

 キリノは今寝間着だ。昨日の夜気づいたがアイテムBOXに寝間着が入れてあったのだ。運営の仕業だろう。

 ピコンピコンピコン

 ウィンドウを操作する音が聞こえる。

「はい、いいですよ」

 キリノはいつもの防具を纏っている。

「じゃぁ朝飯食いに行こうか!」

「はい!」


 俺たちはPTを組んだ後酒場で朝食を食べた。

 酒場の料理人にモンスターからとれる素材と金を渡すと料理を作ってくれるのだ。それがとても美味くいくらでも食べれそうだった。

 そして俺たちは今攻略について話し合っていた。

「攻略組に入るのがいいだろうなキリノはどうだ?」

「私も賛成です。そちらの方が安全という面でも優れているでしょう」

「だな」

「じゃぁ交渉してみましょう」

「あぁ!」

 俺たちは酒場を発ち攻略組の占拠するサンミラ帝国の本拠――ユンノーシ城本丸に向かった。


 ユンノーシ城は国王がいる場所である。攻略組は国王と交渉して城を明け渡してもらったのだ。さらに王国軍の所有権も攻略組が獲得したのだ。戦争時に王国軍を駆り出せたりと制約はあるが色々なことができるのだ。ということはこの王国の最高権力者ということを意味するのだ。攻略組には逆らえないということだ。

 俺たちは攻略組の中の最高権力を有するやつに会えることになった。

 そいつは長い廊下の果てに玉座に座っていた。

 そこに座っていたのはあの時廃村でのデュエルで俺が圧勝した李離縁だったのだ。

「李離縁……!」

「お前は……あの時の……! 貴様……! 何の用があってきた!!」

 俺は交渉する気力を失っていた。絶対無理だろう……。そういう気持ちであふれていたからだ。だが、キリノだけでも入れてやらないと――。

「俺たちを攻略組に入れてくれないか? 俺が駄目ならせめてキリノだけでも……」

「お前は絶対に許さない! だが、お前の横にいるキリノとかいうやつなら良いとしよう」

「本当か!? ありがたい! 良かったなキリノ! お前だけでも攻略組に入るんだ」

 キリノの方を向くと顔を下に向けている。

「どうしたんだ……? キリノ……?」

 そう言った時何か聞こえたような気がした。

「……や……です……」

「何だ……? キリノ……?」

 俺は問う。

「……嫌です……」

 はっきりと聞こえた。拒否の言葉が。

「なにが嫌なんだ?」

「私一人で攻略組に入っても意味がありません! トールさんと一緒でなければ私は入隊を拒否します!」

 それは、キリノの心からの声に聞こえた。

「入隊を拒否!? 貴様私に従わぬのか!? それがどういうことか分かっているのか!?」

「はい……ですが……入隊を拒否します……!」

「キリノ! ふざけるな! 俺は一人でも大丈夫だから! お前は攻略組に入れ!」

 俺は叫ぶ。

「私はトールさんと離れたくないです! トールさんと一緒が良い!」

 俺の方を向いて話すキリノの目からは涙が零れ落ちていた。

「キ…リ…ノ……」

「私はトールさんと一緒が良いです!」

「キリノ……! 一緒に戦うって約束したもんな! あぁ! 俺が間違ってたんだ! 李離縁。やっぱこの話は取り消しだ。キリノへの勧誘も拒否だ。分かったな?」

「ハハハハ!! 私に従わぬのだな!?」

「さっきの反応見ただろ?」

「従わぬ者の最後だ! 殺れ王国軍!」

 そう言った時横の方から王国軍の兵士が飛び出してきた。おかしい王国軍を駆り出すには色々な制約があり勿論のこと私事では使えないはずだ。なのに使えるということはプログラム的な抜け道なのか、それとも俺の知らない別の使用用途なのか、運営の不手際なのか。

 とりあえず総勢20名……。

「殺れるもんなら殺ってみろ! キリノ! お前は先に行け! 俺も後で行く!」

 俺はキリノを出口の方に突き飛ばす。

「でも……」

「早く行け!」

「……はい……!」

 そう言ってキリノは敵を避けながら出口に走って行った。

「さぁてどいつからかかってくるかな!?」

 絶対脱出してやるよ……!

 俺は抜刀して剣を構える。

 近くの兵が切りかかってくる。

「遅い!」

 俺は盾で攻撃を防ぎ敵の腹に剣を突き刺す。

『グァァァ!!』

 呻き声が響き渡る。

 兵のHPバーが消滅した。

「意外と雑魚だな……! さぁどんどんかかってこい!」

 そう言うと兵が一気に押し寄せてくる。

「英雄の証!!」

 俺の体が黄色の気に包まれる。

「連続剣技法!!」 

 

 バッバッバッバッ!!!

 

 連続する剣技が群がってくる兵の腹や頭に直撃する。直撃した兵はHPバーを消滅させて結晶となって消えた。

 連続剣技法はその名の通り連続で剣技を使う技だ。一発一発の攻撃は通常攻撃より下回るため使ってなかったが雑魚敵を一瞬で切り裂くことができるため結構有効だ。

「まだまだだ!」

 俺はジャンプして敵の背後に移る。

「スラッシュブレイド!」

 

 ヅガガガァン!!!

 

 気で作られる巨大な剣が敵を一気に切り裂く。それと同時に敵から鮮血が飛び散る。鮮血で地面が赤く染まる。

 兵の半分が消滅し残った兵も攻撃が掠ったりしており大半が重傷を負っている。逃げるなら今が一番だ!

「じゃぁな! またどこかで会おうぜ!」

 そう言って俺は出口に走って行った。

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