Act8 新たな夢を見つけに
ここから、現在(主人公視点)になります。
「ドクター、今まで本当にお世話になりました」
アマカゼは大袈裟なくらいピンと背筋を伸ばしたあと、深々と丁寧に頭を下げた。
「今生の別れみたいだな」
「いやいや、こういう区切りみたいなものは大切だろ。人として」
「とにかく、ちゃんと定期検診にはくるんだぞ」
「分かってるよ」
半年間のリハビリ生活を乗り越え、元通りとはいかないまでも、アマカゼはひとりで生活ができるまでになった。
──魔法少年にはなれない……。
その絶望感は心のなかで燻りつづけているが、まずは自立するのが先だと気持ちを切り替える。
このままイヌイの世話になり続けるわけにはいけない。
自立して、少し落ち着いたら、新しいなにかを始めようとアマカゼは腹を決めた。
今日がその第一歩なのだ。
眠り続けていたアマカゼの命を繋ぎ止めていてくれたイヌイのためにも、今の自分にできることを探すことにした。
ただひとつ、気掛かりなことがある。
「俺に会いにきてくれてるっていう女子に、アドレス渡しといてくれよな?」
「ああ、分かってる」
「それにしても、なんで俺が起きてる時に来ないんだ? もしかして嫌われた?」
「話してもないのに嫌ったりするものか。なにか事情があるんだろう」
「そう、だよな……」
アマカゼは、不思議でならない。
眠り続けていた数年、その女子とやらは頻繁に会いにきてくれていたのだ。
しかしアマカゼが目覚めてから、ぴたりと来なくなってしまった。イヌイの話によると「おまえが眠ってるときにしか来ない」のだという。
(……叩き起こしてくれれば良いのに)
気になるのだ。ものすごく。
魔法少年「アマカゼ・サクラ」の名は世間に知れ渡っているものの、アマカゼを直接知る者は極めて少ない。
生まれは過疎がすすむ東北の僻地。田舎者らしく自然とともに暮らしてきた。
都心に引っ越してきたのは、両親が仮想世界へ移住すると言ったからだ。そのため馴染みのない土地に知り合いはいなかった。
(AIにかかせた似顔絵はセツに似てたけど、違うよなぁ?)
セツは、アマカゼとともに戦っていた魔法少年だ。
違うと思うのは、セツのエーテル体は「男」の姿をしていたからだ。現実の肉体をもった姿で会ったことがないため、同一人物だと断定できない。
鏡のように魂の本質をあらわすエーテル体。
魔法少年のセツは強くて、凛としていて、けれどどこか孤独を感じさせるような闇を纏っていた。
相見えるのは戦いのときだけだったが、セツとは馬があったように思う。
普段どこに暮らしているかも、なにが好きかも実際には分からないけれど、アマカゼはセツのことを好意的に思っていた。
(あ、ひょっとして、セツの妹とか?)
それならセツに似ているのも納得する。
(会いたいな、セツに……)
会えたら、たくさん話したいことがある。
セツとなら友人になれるかもしれない、そうアマカゼは思った。
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