Act9 コスプレイヤー
ブクマくださった方、ありがとうございます!!!
最新の船形アパルトマン。
それがアマカゼ・サクラの住処だ。
異星人の急襲に備えシェルターとしての性能だけでなく、飛行もできるという宇宙船と同じ造りになっている。いざとなれば地球の裏側まで自動操縦で飛ぶことが可能だ。
内観は普通の住居と変わりないが、室内環境や食糧の備蓄に至るまで、たとえ宇宙にいっても快適に過ごせるように設計されていた。
住人の多くは名の知れた大富豪や重鎮ばかり。
男ひとりでは持て余すが、手放そうとは思わない。
何故なら、このアパルトマンは両親が遺してくれたものだ。
『いつかアマカゼに家族ができたら、手狭になるだろうけど』と笑った両親の顔を、今でもはっきり覚えている。
(家族なんて、想像できないな……)
それよりも魔法少年という職を失った今、アマカゼは働き口を探さなければいけない。
軍人だったときの貯金で、しばらくは食い繋いでいけるだろうが、何者にもでもない自分でいることが不安だ。
働かなければ。
誰かのために。社会の役に立つために。
早く、おのれの居場所を見つけなければ、と思う。
***
「とりあえず、バイトから始めるかなぁ……」
やわらかい初夏の潮風を浴びながら、アマカゼは呟いた。
ここはお気に入りの海浜公園。
人の手により作り上げられた自然だが、風が自由に流れ、空がよく見渡せる場所だ。
ちゃぷちゃぷと遊ぶような波音を聴いているだけで、心地よい安らぎを覚える。
ブーンと無機質な音が頭上で響く。
見上げると小型のドローンが飛行していた。
追った視線の先で、俄かにはしゃいだ声がした。
「え……アレって?」
アマカゼは瞠目する。
あまりに既視感がありすぎた。
「アレって、俺じゃんね!?」
大きすぎた独り言に、慌てて口を手のひらで押さえる。
幸い誰にも気付かれていないことに安堵し、アマカゼは観察を続ける。
視線の先には、秋のはじまりにしては露出が多い衣服を身につけている若者二人。骨格から見て、おそらく女子だ。
日常生活をまったく考えていない、ぺたぺた銀箔をはりつけたようなゴムスーツを身につけ、作り物の白い翼を背負っている。もう一人のほうはというと、地べたを擦るくらい黒く長いマントを付けている。
(魔法少年のコスプレイヤー!? しかも俺とセツの!)
なんとも言えない羞恥に、じとりと汗が滲む。
新人類と呼ばれ、霊性が高く、人類を守る魔法少年達の存在に憧れを抱く者は多い……と聞いたことはあったが。まさか、こういう趣向のネタにもなりえるとは。
(しかもリアルでなんて……珍しいな)
時代の潮流。
バーチャルでのコミュニケーションが発達した現代では、何事もリアルでやる意味が希薄になっている。コストも再現度もバーチャルには敵わないからだ。
お手製の衣裳、舞台装置もない野外、それでも彼女たちは輝いて見える。
「ええ……俺ってあんなに爽やか系じゃないし。セツはもっとこうクールだし……」
さらに、アマカゼは息をのむ。
魔法少年に扮する若者たちが親密そうに、お互いの頬を寄せ合い、指先を絡めるように手を繋ぐ。
それから頭上を旋回しているカメラ搭載のドローンに向かって微笑みをつくり、野外撮影をはじめた。
(ちょっ、そんなコトしたことないってばっ!)
アマカゼは心のなかで悲鳴をあげた。
──セツと俺は、そういう関係じゃない!
確かにセツのことは好きだけど、そういうんじゃない。妄想すらしたことない。
(もしもセツが見たら、なんて言うか……)
風向きが変わる。
背後からクスクスと笑い声がして、アマカゼは振り向いた。




