Act.18 おかえり
アマカゼは定期検診のため、イヌイの研究所にきていた。
ところが待たされるばかりで、肝心のイヌイは待てども姿を表さない。
第二の我が家といっても許されるくらい、ここで暮らしてきたアマカゼは
(なんかあったのか? 健診の日をずらしたいと言ったら、怒ってたくせにな)
今ではすっかり保護者面をしてくるイヌイに、半ば呆れている。有難いと心から思っているけれど、一人でもちゃんと生きていた。
ようやく、やりたいことも見つけた。
ヴァイスのことだ。
内宇宙に住む友人は、別れ際に言った。『戦いになったら、必ず駆けつける』と。
一緒に戦えるのは嬉しいけれど、ヴァイスの様子はどこか危うげだった。みずから死地に赴く覚悟のようなものが伝わってきて心配になる。
アマカゼは、ヴァイスも、ヴァイスのいる世界も守りたいと思った。方法は分からないけれど。
(どうにかできるといいんだけどなぁ)
その時、シュンと軽い音とともに扉が開いた。
振り向いて驚く。
それは向こうも同じだったようで、長い黒髪の毛先が跳ね、なだらかな曲線を描いたまぶたが大きく見開かれる。
「……セツ!」
「っ、」
「セツ……だよ、な?」
海浜公園で出会った女性。
セツだと思ったが、もし違っていたらとアマカゼは青くなる。自信が無くなってきたころ、女性はこくりと頷いた。
「やっぱりセツだった! 良かった! 会えて嬉しいよ!」
「……か?」
「なに? きこえなかった」
「……驚かないのか?」
アマカゼは首を傾げる。
すると、今度はセツが青い顔で口をひらく。
「わたしはずっと、魔法少年としてアマカゼと会っていたから驚かないのか? じつは、女だったってことを」
「ああ、そりゃあ、まあ……」
苦笑いを浮かべて、ポリポリと頬をかきながら、アマカゼは言葉を選ぶように言った。
「驚いたといえば、驚いたけど……でも、エーテル体のときは本質がでるものだから。俺だって本物とは違っていただろうし。このまえエーテル体になったら、身体は大人のくせに少年のままの姿だったし」
「魔法少年になれたのか!?」
「お、おぅ。ヴァイスのおかげでな」
「そうか……、良かった」
「ごめんな、ずっと心配かけてて」
「違う! わたしのせいだ。アマカゼは守ってくれたのに、わたしは何もできなくて」
セツの声には悔しさが滲んでいた。
「あの時、アマカゼを一人で戦わせてしまった」
「俺は気にしてないから、おまえも気にするな。それに眠る俺のとこに何年も通ってくれてたんだろ? 心配かけてごめんな」
「っ……ごめん……、なにもできなくて」
「そんなコトないって、ああもう、泣くなよ」
セツの真っ白な頬に流れる涙を、そっと撫でるように拭う。指の腹にセツの柔らかさを感じて、アマカゼの鼓動がひとつ大きく跳ねた。
「おかえり……アマカゼ」
「ああ、ただいま」
そこへイヌイが戻ってくる。
近すぎる若者二人の距離感に驚いている。
アマカゼの指は、まだセツの頬に添えられていた。
「なに、おまえら、そういう関係?」
「違うってば、だけど、久しぶりにセツに会えたから……」
「セツ? なんだ、おまえら二人とも魔法少年だったんだな」




