第二十一話
厄介な事はいつも突然に起こるもの、なんの前触れもなく急に自分の前に立ちはだかり苦しめにかかってくる、それを切り抜けられる事が出来れば待っているのはやり遂げた充実感、一気に気が抜けてほっとする開放感だ。
だが、それを勝ち取るためには目の前に広がっているこの危機的状況をなんとかせねばならない。なんとかして生き延びて新しい街へ移動して疲れた心と体を癒すためにも俺は・・・・・・俺はっ!
「トモってば、私が先にお願いしたよね!?」
何処か遠くに視線を彷徨わせ自問自答していた所でユウコが眉間に皺を寄せいつも以上に切れ長の目を細め俺を睨みつけてくる。ちょっとその目線止めてもらえませんかねユウコさん、結構キツイです。
「違うよユウコちゃん! トモっちにお願いしたのはこっちが先だよ! たまにはこっちの助っ人して貰ったっていいじゃんかぁ」
そう言って腰に手を当てユウコを不機嫌そうに睨む女の子、名前はリリ。攻略ギルド『ソル』のメンバーの一人で髪は短く切り揃えられており防具は銀色のフルメイルで固めており堅牢な印象を与えるが実際は『ソル』の中でも一、二を争う楽天家でムードメーカー的な役割を果たしている気の良い娘だ。使用武器はアップデートされる前の終盤は巨大な鉄槌を振り回して敵を吹き飛ばしていたが今はそれをいくらか小さくした木製の鎚に白い羽毛が飾り付けされているのを背負っている。
そして今ユウコとリリの二人がそれぞれ俺とどっちが組むかという事で口論になっているのだった。
リア充爆発しろとか思われるかもしれないが、何も俺の外見やら性格やらとかく異性としての魅力に惹かれてこの二人が俺と組もうとしているのではない。
では、何故彼女たちが俺と組もうとしているのか? 答えは簡単である。それは俺の所持する調教スキルと騎乗スキルだ。
これを使わなければならないクエストが今居る街には豊富にあり、俺の様に無駄に先述のスキルを上げている物好きが限られているために彼女たちはこうしてどっちが先にクエストを手伝ってもらうか?という事を言い争っているのである。
「あ、あのさ。別に俺は居なくならないんだからじゃんけんでいいんじゃないかな?」
見るに見かねて意見を出すも
「トモは黙ってて!」
と聴く耳を持ってくれないしユウコのギルド『エンカウント』のメンバーは慣れた様子で少し離れた所に売店がありホットドッグなんかを齧りながら行く末を見物する気らしいし、リリが所属するギルド『ソル』も似たようなもので同じ店で似たような手に持って食べられる物を買っては頬張ったり武器の手入れをなんかをしている。ぶっちゃけ俺もユウコとリリのこういうやり取りは何度も遭遇しているので見慣れているけど一応は仲裁に入るようにしているのだった。
そもそもさらに北へ進軍しているはずの『ソル』がなぜ途中にあるこの街に戻ってきているかというと今現在『ソル』が到達したエリアには大型モンスターがうじゃうしゃ居ていちいち相手にしていたらきりがないのでなにか無いかと歩いていると一軒の民家がありそこには徘徊しているモンスターと少し色と大きさが違うモンスターを飼育しているNPCが居て、もし飼っているこいつを手懐ける事が出来たら貸してやるというクエストが発生したのだがメンバー全員戦闘スキルばかり上げており惨敗して帰って来たという事だった。
つまりそういう事情により『ソル』は先に進むために俺の力を借りてさらに北のエリアに一気に進んでしまおうという考えで対するユウコはこの街のイベント犬ぞりレースに参加して優勝すると報酬として手に入るアイテムで北西に少しばかり行ったところにあるという祠のボスと戦えるようにするために俺をパーティに入れようとしているのだった。
「あ、そうだよ。今から二人とも騎乗スキルと調教スキルを手に入れて自分でやったらいいと思うな! これなら喧嘩しないで済むだろ?」
などとめげずに声をかけたりするのだけれど
「もうこうなったら!」
とユウコが背中に背負った純白の両手剣に手をかけるのと
「これしかない!」
リリが背中に背負った槌に手を伸ばしたのは同時だった。
「あー、やっぱこうなるのね」
俺は半分諦めて二人から距離を取る。巻き添えで吹っ飛ばされるのはごめんだ。
二人はメニューを操作しプレイヤー対プレイヤーの決闘コマンドを選択。これによりユウコとリリの二人の攻撃は一時的に街の中に居ながらフィールドに居るのと同じ安全圏外に出ているのと同じ状態になりダメージが通るようになる。決闘の勝敗の決め方は相手のHPが0になるまで戦うデスモードとHPが先に半分を過ぎた方の負けになるノーマルモードの二通りがある。
「ノーマルモード選択・・・・・・っと。トモ、私が勝ったらすぐにレースに出発だからね」
と両手剣を構えながらユウコは目線も動かさず口を開く
「ユウコちゃんもう勝った気でいるの?気が早いね。トモっち、こっちが勝ったら一気に最前線にご案内だよ! 死ぬのが怖いのはもう十分わかってる。大丈夫うちらのギルドがちょっとやそっとじゃくたばらないのはトモっちが良く知ってるでしょ?」
対するリリは余裕の笑顔でこちらに話しかけて来る。
二人の間にある距離はだいたい5メートルほど、その中心で俺たち観戦者にも見えるように決闘開始までのカウントが表示されているのだが、残り20秒を切った所だった。
ユウコは腰を落とし剣を中段に構え射殺すような目でリリを視界に捉えている。対するリリは肩に担ぐようにして鎚を構えてユウコの様子を窺っている。カウントは進み周囲が静まり、外野の双方のギルドメンバーも口を閉ざし見守っている。
そして、カウントは0になった途端、ユウコは両手剣を青いエフェクトに包みながら一瞬で間合いを詰める、あの爆発的な加速しながら突っ込んでいく動きは確か、両手剣スキル『アクセル』基本技だけど出が早い上に攻撃だけでなく移動手段としても使える優秀なスキルの一つだ。その素早い突進を軽くサイドステップで躱しつつ鎚を振りかぶりスキルを放ち終わって静止して体を反転させようとするユウコに肉薄するリリ。
「てりゃあああっ!」
声を張り上げフルスイングでユウコの横っ腹狙いでリリの鎚が迫るが、振り返りながらユウコはリリの狙いが分かっていたのか両手剣をリリと同じように振りかぶっていた。激突する両手剣と鎚、途端響き渡る衝撃音。
「こんのおお!」
リリに負けじと声を張り上げるユウコ。お互いの筋力アビリティは互角らしく武器をぶつけ合ったまま動きが止まる。
だが、すぐに動きが変わった。ユウコが押され始めたのか少しずつユウコの両手剣が後退し始めユウコが踏ん張るも位置は戻らずやがてユウコはしゃがみ込むような体勢になり両手剣は肩近くにまで来てしまった、このままリリに押し切られてしまうかに見えた時、ユウコの顔が笑っている事に気づいた。
「アイツ、まさか」
ユウコの狙いに気が付いた時再び両手剣スキル発動時の青いエフェクトが輝く。
「あの構えから出すのってなんだっけ?」
俺が誰に聞くでもなく呟くといつの間にか傍に来ていたギルド『ソル』のリーダーであるコウジさんが教えてくれた。
「あれは両手剣スキル『インパクト』だな、肩に構えた剣を一気に振り下ろす技だ、振り出すスピードも速いし威力も高い技だが、体勢のせいで動きの速い敵や背の大きい敵には役に立たないので不人気ナンバー3に入るダメスキルでもある」
コウジさんの説明が入るのとスキルが発動し鎚を押しのけそのままリリのフルメイルを斬りつけたのは同時だった。コウジさんの言ったように威力は高いらしく一気にリリのHPは六割まで減り攻撃の衝撃でそのまま後方に吹っ飛ぶリリだったが勝負はまだ着いていない。
再び間合いを空け対峙する二人、リリのHPは六割なのに対しユウコはリリの攻撃を防御して削られた程度なので八割以上残っている。
「さっすがユウコちゃん、団長と互角に戦うだけの事はあるね」
リリは鎚を先ほどとは違い両手で持ち丁度野球のバッターのような構えになりながら口を開く。
「この体力差で全然諦める気がないのね、さすがだわ」
ユウコは自分の優勢を前にしても表情を崩さず先ほどまでと同じく油断なく迎え撃つ構えだ。
数秒後、今度はリリが先に動く。ハンマー及び斧系統スキル発動時の緑色のエフェクト光を鎚から迸らせリリが一気に振りかぶり足を踏み込み跳躍しつつ光を纏った鎚を振り回し独楽のように回転しユウコに突撃する。
「あの技、『スピンハンマー』だったかな。序盤で覚えられる技にしては威力がデカいのが良いけど身動き取れなくなって最後の一撃とかに使うくらいで中々使うやつ居なかったんだがリリの奴は色々工夫するのが好きでね、ああいう使い方を思いついたのさ」
コウジさんが自分のメンバーリリの事を嬉しそうに語って聞かせてくれるがそういってる合間に高速回転するリリの一撃をユウコは横っ跳びで躱そうとして右腕を少し接触させしまいそれだけでも威力が大きい技だけあって八割近くあったHPがリリと同じ六割まで減ってしまった。
「痛てて・・・・・・」
ユウコが腕を擦りながら立ち上がり左手一本で両手剣を構える。それを見てリリは勝利を確信したのかいつも以上に笑顔になった。
「ユウコちゃん、右利きだから左手じゃ思うように剣振れないでしょ? でも勝負だから手加減しないよ」
その言葉に反応を示さないままユウコは無言で左手に持った剣を『アクセル』発動位置に持って行きエフェクトを纏わせ始める。
「ユウコちゃん、やけくそ? まあ良いよ。 だったらこっちもこれで終わらせる気で行く」
リリはそういうと鎚を大上段に構え『アクセル』で突進してきたユウコに全力の振り下ろし攻撃を決めて決着を着ける気のようだ。
そして、ユウコは『アクセル』を発動させリリとの間合いを詰めてきた所でリリはハンマーを振り下ろし始めこれで終わりかと思われたその時、ユウコはなんと体を捻り振り下ろされてきた鎚に右手を伸ばし受け止めダメージを最小限に抑えリリに『アクセルを』をクリーンヒットさせた。両手で鎚を持ったリリに受け止めたりする事など出来るわけもなくモロにダメージを貰ったリリのHPは既定の半分を切り四割まで減少し勝負はユウコの勝利で決着がついた。
剣を背中のラックに戻し一呼吸置いて
「やったね! リリちゃんが上手く引っかかってくれて良かったよ。わざと右手が使えなくなったようにして意識を左手だけに集中させておいて~ってね。まぁこれでトモは私たちの助っ人って事で!」
ユウコは心底嬉しそうに笑顔を振りまきながらこっちに歩み寄ってくる。
「ああ、分かった。レースに出てやるよ」
「うう・・・・・・トモっちぃ。それ終ったらこっちだからねぇ? ああもう悔しい!」
リリが目に涙を浮かべへたりこみながら恨めしそうに言ってくるので出来るだけ励ます声音で答える。
「もちろん、連れてってやる、この世の果てまで!」
なんてドヤ顔で言ってると
「いや、この世の果てって・・・・・・行き過ぎ行き過ぎ」
と、コウジさんに突っ込まれてしまった。
いつも以上にお待たせしてすいませんでした。ノリと勢いの第二十一話。意見感想待ってます。




