十八歳の誕生日
アデリア・ローゼンハルトは、自分の18歳の誕生日がとても気に入っていた。
正確に言えば、誕生日そのものより、誕生日を迎えた自分のために周りの人間が忙しく動き回る光景が気に入っていた。
「殿下、少しだけ顎を上げてください」
侍女が控えめに言った。
アデリアは鏡を見つめたまま、ほんの少し顎を上げた。
首にかけたネックレスの中央には、淡い青色の宝石が収まっていた。王家の直系の血族が成人の儀で身につける宝石だった。
侍女三人がかりでドレスを整え、もう一人が彼女の長い銀金色の髪を梳いていた。
アデリアはじっと座っていた。
他人がやってくれることを、わざわざ自分でする必要はない。
それが王族というものだった。
「少し締めすぎじゃない?」
アデリアが言った。
腰を締めていた侍女の顔がさっと青ざめた。
「も、申し訳ございません、殿下」
「少しだけ緩めて」
「はい!」
アデリアはまた鏡に目を戻した。
侍女の失敗に腹を立てるつもりはなかった。
そもそも長々と謝られるのも面倒だった。
鏡の中には、まだ少女の面影が残る女が座っていた。
白く滑らかな肌。
目尻が少し下がった淡い青灰色の瞳。
薄い唇。
細く整った顎のライン。
初めて見る者なら、大人しく物静かな性格だと思い込みやすい顔立ちだった。
アデリア自身もそれをよく分かっていた。
そして、なかなか便利だとも思っていた。
「殿下」
背後から聞き慣れた声がした。
専属侍女のミレイユだった。
「陛下がまもなく大広間へお降りになるそうです」
「兄上たちは?」
「王太子殿下はもう到着されており、カシアン殿下は騎士団の練武場から直接いらっしゃる予定だそうです。セシリア殿下もお待ちになっています」
「ルシアンは?」
「先ほどから廊下で三度も殿下を訪ねていらっしゃいました」
アデリアが小さく笑った。
「通してあげればよかったのに」
「成人の儀の前に、ドレスに何か付けられる可能性が高かったのでお止めしました」
「よくやった」
「お褒めの言葉として受け取っておきます」
ミレイユが涼しい顔で答えた。
アデリアは鏡越しに彼女を見た。
22歳のミレイユは、幼い頃からアデリアの側に仕えてきた数少ない人間だった。
そのせいか、他の侍女たちと違い、アデリアがほんの少し眉を動かしただけで、何を考えているのかかなりの部分を察してしまう。
とはいえ、それを全部口に出すわけではなかった。
賢い女だった。
「今日は人が多いんでしょうね」
「王女殿下の成人の儀ですから」
「面倒ね」
「笑いながらおっしゃってください」
「私がいつ笑っていなかったって言うの?」
ミレイユはしばし沈黙した。
「……それについては、お答えしない方がよろしいかと」
アデリアがふっと笑った。
扉の外で従者が到着を告げた。
準備が整った。
アデリアはゆっくりと席を立った。
ローゼンハルト王国の王族は18歳で成人となる。
そして王家の成人の儀は、個人の誕生日ではなく政治的な行事だった。
特に王の子であればなおさらだった。
アデリアは国王エドガール・ローゼンハルトの4番目の子だった。
第一子は王太子レオポルド。
第二子は第二王子カシアン。
第三子は第一王女セシリア。
そして第四子がアデリアだった。
その下にもまだ幼い王子がもう一人いたため、王位はアデリアからかなり遠かった。
アデリアはその事実が気に入っていた。
少なくとも、今までは。
王太子レオポルドは有能だった。
政治的な弱点も大きくなく、貴族たちの支持も安定していた。
カシアンは軍部と騎士団の支持を受けていた。
セシリアは外交と社交界ですでに名が知られていた。
わざわざその間に割って入り、王座を狙う理由はなかった。
王になれば、やるべきことがあまりにも多い。
決裁すべき書類。
謁見。
貴族たちの不満。
国境紛争。
税金。
凶作。
疫病。
戦争。
王座とは、遠くから見れば華やかだが、近くで見れば仕事が果てしなく積み上がる席だった。
アデリアは仕事自体が嫌いなわけではなかった。
自分が直接やらなければならないことが嫌いだった。
できることとやるべきことは、まったく別の問題だから。
大広間の巨大な扉が開いた。
数百の視線がアデリアに向けられた。
「第二王女アデリア・ローゼンハルト殿下のご入場です!」
楽団が演奏を始めた。
アデリアは微笑んだ。
少し前まで面倒だと言っていた人間とは思えないほど、柔らかく優雅な微笑みだった。
貴族たちの目が少しずつ変わっていった。
「相変わらずお美しい」
「王妃陛下の若い頃に似ていると聞いていたが……」
「いや、雰囲気はむしろもっと柔らかい気がするな」
アデリアはそんな囁きを聞きながら、ゆっくりと歩いた。
よし。
いつも通り、うまく騙されている。
壇上には家族たちが待っていた。
国王エドガールが最も中央に座っていた。
50をわずかに超えた年齢だったが体はまだ引き締まっており、白髪が交じり始めた濃い髪と鋭い目つきのせいで、実際の年齢より厳格に見えた。
その隣には王妃エレオノラがいた。
そして三人の兄姉たち。
真っ先にセシリアがアデリアに微笑みかけた。
アデリアも少し本心の混じった笑みで応えた。
セシリアはアデリアが好きな数少ない人間だった。
人に命令せずとも人を動かす方法を知っていたから。
幼い頃、アデリアはそれが不思議だった。
セシリアが夜会で誰かと10分ほど笑いながら会話を交わすと、数日後にはその家から王室に有利な提案が届いたりした。
剣も、脅しも必要なかった。
アデリアはそんな能力を美しいと思った。
(私もあれを少し学んでおきたいものね)
成人の儀は予想通り退屈だった。
王室の司祭が祝福を授け。
国王が成人を宣言し。
王家の印章を刻んだ小さな装飾品が手渡された。
貴族たちが拍手をした。
アデリアは頭を下げた。
「本日をもって、アデリア・ローゼンハルトを王家の正式な成人と認める」
「ありがとうございます、陛下」
エドガールが娘をしばし見下ろした。
「これからは、お前の選択に伴う責任もまたお前のものとなる」
アデリアの微笑みがほんの少し深くなった。
「肝に銘じます」
もちろん良い言葉だった。
自由を与えるという意味だったから。
責任という部分は、少し気に入らなかったが。
成人の儀が終わるとすぐに宴が始まった。
そしてアデリアは37回目の祝辞を聞いているところだった。
「殿下のご成人、心よりお祝い申し上げます」
「ありがとうございます」
「うちの長男が最近王都に戻ってきたのですが、機会があれば――」
「まあ、そうなのですね」
アデリアは笑った。
その一言で十分だった。
相手はそれを好意的な反応と受け取り、さらに満面の笑みを浮かべた。
アデリアは内心ため息をついた。
(長男、ね)
今日だけで4回目だった。
成人になるということは、正式に婚姻市場へ商品として並ぶという意味でもあった。
もちろん、王の第四子であるアデリアも政治的な価値は相当なものだった。
王位からは遠いが、王家の血は濃い。
容姿も良かった。
何より、まだ特定の貴族家と強く結びついてはいない。
貴族たちの目には、なかなか悪くない結婚相手に映るだろう。
アデリアにとってはまったく重要な問題ではなかったが。
「お姉様」
誰かが隣に近づいてきた。
セシリアだった。
「もう疲れた?」
「まだ40人も来ていませんもの」
「まだですって?」
「少なくとも100人くらいは来ないと、今日は終わらない気がして」
セシリアが笑った。
「もう少し我慢なさい。今日さえ過ぎれば、しばらくは静かになるから」
「お姉様の成人の儀のときもそうでしたの?」
「もっとひどかったわ」
「お姉様はお好きだったじゃないですか」
「人と会うのが好きなのと、同じ褒め言葉を100回聞かされるのとは別問題よ」
アデリアはグラスを手に取り、唇を軽く湿らせた。
「お父様は私に何をさせるおつもりでしょう?」
セシリアが妹を見つめた。
「もう仕事が欲しいの?」
「逆ですわ。先に知って避けようと思って」
「やっぱりね」
セシリアは驚きもしなかった。
「お父様はしばらくあなたを見ておられるでしょうね。あなたが何をしたいのか」
「何もしたくないと言ったら?」
「信じないでしょうね」
「どうしてです?」
「あなたは何もしたくないわけじゃなくて」
セシリアがグラスを口元に寄せて囁いた。
「面倒なことは人にやらせて、面白いことだけしたいだけでしょう」
アデリアはしばし姉を見つめた。
「私のことをよくご存じですね」
「姉ですもの」
その返しには、アデリアも笑ってしまった。
宴が終わる頃には、すでに夜が更けていた。
侍女たちがドレスを脱がせ、装身具を一つずつ外していった。
アデリアはベッドの端に座り、首を左右に動かした。
「ネックレスが重すぎるわ」
「王家の伝統でございます」
ミレイユが言った。
「伝統だからって、首が痛くなっていい理由にはならないでしょう」
「殿下が王におなりの際に、変えてください」
アデリアがミレイユを見た。
「嫌よ」
「そうおっしゃると思いました」
「王になったら、やることがどれだけ多いか」
最後の髪飾りが外された。
長く垂れた髪が肩の下まで流れ落ちた。
アデリアは手を振った。
「みんな下がっていいわ。ミレイユも」
「本当によろしいのですか?」
「寝るだけだもの」
「では、扉の外に控えております」
「それもしなくていいから。休んで」
ミレイユはしばし迷ったが、結局は頭を下げた。
「おやすみなさいませ、殿下」
扉が閉まった。
寝室が静かになった。
アデリアは待ちかねたようにベッドへ身を投げ出した。
ふかふかの布団が体を受け止めた。
「あ……」
気持ちよかった。
王族に生まれたことの一番いい点の一つは、ベッドが素晴らしいということだった。
アデリアはしばし目を閉じた。
今日一日で受けた数え切れない祝辞が頭の中で入り混じった。
成人。
責任。
婚姻。
未来。
面倒な言葉ばかりだった。
(それでも、これからは少し自由に出かけられるかしら)
幼い頃よりは外出の許可も下りやすくなるだろう。
王都にも見てみたい場所がたくさんあった。
平民たちが利用する市場にも行ってみたかったし。
ギルドという場所も気になっていた。
ダンジョンから戻った冒険者たちがどんな姿をしているのかも、自分の目で見てみたかった。
王宮の中で聞く話と、実際の世界とはいつも少しずつ違っていた。
そして、まさにそのときだった。
アデリアが目を開けた。
何かが見えた。
ベッドの上の宙。
青と言うには白すぎ、白と言うにはごく淡い青みが混じった、半透明の文字だった。
アデリアは何度か瞬きをした。
消えなかった。
「……何これ?」
体を起こした。
文字もそのままだった。
アデリアが手を伸ばした。
指はそのまま宙を通り抜けた。
その瞬間、文字が変わった。
【成人条件が満たされました】
【固有権能が有効化されます】
アデリアの表情から眠気が完全に消えた。
固有権能。
王家でもごく稀にしか生まれないという特別な力。
幼い頃から魔法適性検査も神聖力検査も何度も受けてきたが、アデリアに特別な才能が発見されたことは一度もなかった。
だから、自分にそんなものがあるとは思っていなかった。
それなのに。
18歳になった途端、それは現れた。
アデリアはゆっくりとベッドから降りた。
新しい文章が現れた。
【固有権能】
人間召喚
Lv.1
アデリアはしばし沈黙した。
魔法でもなく。
剣術でもなく。
竜を呼ぶものでもなく。
精霊でもなかった。
「人間?」
文字の下に新しい項目が浮かび上がった。
【召喚条件を設定してください】
条件スロット:1
アデリアの目がゆっくりと細くなった。
「……人間を呼び出せるってこと?」
寝室には答えてくれる人間がいなかった。
説明もなかった。
どこにいる人間なのか。
誰なのか。
どれくらい長く留まるのか。
その人間が自分の言うことを聞くのかさえ書かれていなかった。
不親切だった。
アデリアはしばし考え込んだ。
そして口角を上げた。
今日初めて、心から気分が良くなった。
成人の儀でもなく。
宝石でもなく。
祝辞でもなく。
貴族たちのお世辞でもなかった。
自分だけに与えられた、まだ誰も知らない何か。
それが気に入った。
アデリアは宙に浮かぶ文字を指でゆっくりとなぞった。
人間召喚。
条件は一つ。
どんな人間を呼ぼうか。
強い者?
賢い者?
面白い者?
それとも――
アデリアは考えた末、手を引いた。
「いいえ」
急いで使う必要はない。
何が出てくるかも分からないのに、寝室で試すほど愚かではなかった。
明日調べればいい。
アデリアは再びベッドに横になった。
ところが、先ほどとは違い、目はなかなか閉じなかった。
しばらくして、また目を開けた。
宙には相変わらず同じ文字が浮かんでいた。
【固有権能:人間召喚 Lv.1】
【条件スロット:1】
アデリアはしばらくそれを見つめた。
そして布団を引き上げながら、小さくつぶやいた。
「……面白そうね」
18歳の誕生日は、
思っていたよりずっと気に入るものになった。
《必要な人間は私が召喚します》第1話をお届けしました。王女アデリアが手に入れた「人間召喚」の権能、これからどんな人間が召喚されるのか、楽しみにしていただければ幸いです。




