信頼
クローディスが次のライダーへ駆ける。
ガラティアも迫るライダーへ向き直る。
その二人を淡い花びらが追う。
正面から飛び込んできたライダーが剣を振り上げた。
クローディスは振り下ろされた刃を受け流し、すれ違いざまに狼の背へ剣を走らせる。
「ギャッ!」
ゴブリンが鞍から崩れ落ちた。
その脇を抜けたクローディスへ、別のライダーが横から迫る。
振るわれた斧を身を沈めてかわす。
すぐさま身体を返し、狼の横腹へ一撃を叩き込んだ。
「ギャンッ!」
狼が大きく体勢を崩し、背に乗っていたゴブリンが投げ出される。
その向こうでは、ガラティアのもとへ二騎が距離を詰めていた。
左右へ分かれ、挟み込むように迫ってくる。
ガラティアは大剣を構えたまま動かない。
一騎が先に飛び込んだ。
突き出された槍を大剣の腹で弾く。
そのまま踏み込み、振り抜いた一撃が狼ごとゴブリンを横から叩き飛ばした。
もう一騎が背後へ回る。
ガラティアが振り返るより先に、ゴブリンの剣が迫った。
だが、淡い花びらがその身体を掠める。
ガラティアの動きが一段速まった。
身体を捻って刃をかわし、大剣を下から振り上げる。
「ギャァッ!」
ゴブリンが狼の背から弾き飛ばされた。
さくらは春鏡を手に舞い続ける。
淡い花びらが二人の間を巡り、軽風の舞の力を送り続けていた。
その時、木々の間を大きく回り込む影があった。
一騎のライダーがクローディスとガラティアを避け、さくらへ向かってくる。
さくらがその姿に気づく。
狼が土を蹴り、距離を詰めてくる。
三メートル、二メートル。
口元がキュッと結ばれた。
それでも、さくらの舞は止まらない。
春鏡を手に身体を翻し、淡い花びらを二人へ送り続ける。
クローディスが向かってくるライダーを捉えた。
「疾風よ蒼槍となり我が敵を貫け――ウインドスピア!」
風が一点へ収束する。
放たれた風の槍が木々の間を抜け、目前まで迫っていたライダーを横から貫いた。
「ギャッ!」
ゴブリンが鞍から吹き飛び、狼も勢いを失って地面を転がる。
さくらの前から脅威が消える。
舞い続けるさくらとクローディスの目が、一瞬だけ合った。
クローディスはすぐに前へ向き直る。
木々の間から、複数のライダーが姿を現した。
散開していた影が集まり、今度は正面から一気に押し寄せてくる。
クローディスは剣を構え直す。
押し寄せる群れを見据え、息を吸った。
「突き落ちる風よ重撃となり敵を打ち据えよ――ウインドフォール!」
頭上の空気が大きく揺らいだ。
次の瞬間、圧縮された風が広範囲へ叩き落とされる。
木々が激しくざわめき、地面の土や枯葉が一斉に舞い上がった。
突っ込んできた狼たちの身体が沈む。
「ギャァッ!」
「ギャンッ!」
押し潰すような風の重撃を受け、何騎ものライダーが地に伏した。
それでも、範囲から外れていたライダーが横から飛び込んでくる。
クローディスへ向かう一騎。
ガラティアへ向かう一騎。
二人が同時に動いた。
クローディスは振り下ろされた斧を剣で逸らし、その懐へ入る。
刃を返し、ゴブリンを斬り伏せる。
ガラティアの正面では、狼が牙を剥いて飛びかかった。
ガラティアは真正面から大剣を叩き込んだ。
鈍い衝撃とともに狼の身体が弾かれ、その背のゴブリンごと地面へ沈んだ。
「ギャッ!」
その光景を見ていた一匹のゴブリンライダーが動きを止めた。
周囲には倒れた仲間たち。
なお剣を構えるクローディス。
大剣を手に立つガラティア。
その後方では、さくらの舞とともに淡い花びらが流れている。
「グギギ……」
ゴブリンが周囲を見回す。
そして、狼の向きを変えた。
そのまま森の奥へ走り去っていく。
別のライダーがそれを見る。
一瞬迷うように足を止めると、そいつも背を向けた。
さらに一匹。
また一匹。
戦線を離れる影が増えていく。
残ったライダーたちも、やがて散り散りに森の奥へ逃げ込んだ。
クローディスは追わなかった。
ガラティアも大剣を下ろす。
木々の向こうへ狼の足音が遠ざかり、辺りに静けさが戻ってくる。
淡い花びらがゆっくりと消えていった。
「ふぅ……」
さくらが舞を終え、春鏡を下ろす。
ガラティアが振り返った。
「さくら、怪我はないか?」
「大丈夫だけど……怖かった……」
さくらは小さく息を吐く。
クローディスも剣を収めた。
「助かった」
さくらが顔を上げる。
「今度はちゃんと役に立てましたか?」
「ああ」
「良かったです……」
その言葉とともに、さくらの肩から力が抜けた。
疲れの滲む顔に、それでも小さな笑みが浮かんでいた。
ガラティアは倒れたゴブリンライダーたちへ目を向ける。
「……この辺りにしちゃ、数が多すぎるな」
さくらも周囲を見回した。
「そうなんですか?」
「ああ。何かが起こっているな」
ガラティアは大剣を背負い直す。
「行くか」
クローディスが頷いた。
「ああ」
三人は岩に潰された小屋へ戻り、残骸の中から荷物を回収する。
それぞれ荷を背負うと、その場を離れ、山岳へ向かって歩き始めた。




