第7話「目的」
患者Aの行動と、
病棟内で起きている出来事。
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そのすべてが、
繋がり始めていた。
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偶然ではない。
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明確な“意図”がある。
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だが、
決定的な証拠がない。
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その日、
私はある記録に目を通していた。
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入院時の面談記録。
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そこに書かれていたのは、
ごく普通の内容だった。
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会社でのトラブル。
不眠。
気分の落ち込み。
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どこにでもある、
うつ病の経過。
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——だが。
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一箇所だけ、
引っかかる部分があった。
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「人と関わるのが、怖くなった」
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その一文。
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私は画面を見つめたまま、
動けなくなった。
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——違う。
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この人は、
怖がっていない。
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むしろ——
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観察している側だ。
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そのとき、
背後で声がした。
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「何を見ているんですか?」
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振り向く。
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患者Aだった。
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いつの間に、
そこにいたのか分からない。
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「記録です」
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短く答える。
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患者Aは、
ゆっくりとこちらに近づいてきた。
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距離が、
異様に近い。
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画面を覗き込むようにして、
言った。
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「面白いですよね」
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——何がだ?
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「人って、
少し関わり方を変えるだけで
簡単に壊れるんですよ」
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言葉を失った。
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それは、
あまりにも自然に、
当たり前のことのように語られた。
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「優しくしすぎてもダメで、
突き放しすぎてもダメで」
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「ちょっとズラすだけで、
バランスが崩れる」
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患者Aは、
楽しそうに続ける。
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「その過程を見てると、
すごく分かりやすいんですよね」
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——この人は。
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実験している。
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「……何のために、
そんなことを?」
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気づけば、
口に出していた。
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患者Aは、
一瞬だけ考えるようにしてから——
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小さく笑った。
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「さあ」
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それ以上は、
何も言わなかった。
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だが、
もう十分だった。
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この人の目的は——
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人を壊すこと。
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そしてその過程を、
観察すること。
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——だが。
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それだけでは、
ない気がした。
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何か、
もっと別の目的がある。
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その答えに触れる前に、
事態は動き出す。
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次に壊れるのは——
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誰だ。
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