第九話:高橋さんにボンデージファッション姿になってもらう
変態の欲望はとまらない、とめられない。
いや、これは芸術、芸術、芸術活動! ああ、けど変態衝動は絶好調!
芸術は変態だ! と天国の岡本太郎先生も言っておられる。
って、違うか。
警備員のバイト作業をしながら、次の衣装を考える。
やっぱり、次は網タイツだよなあ。なぜかエロいんだよなあ。
特に網目が大きいほうがエロさが増すんだよなあ。
不思議である。
誰か科学的に解明してくれ。
おっと、これは芸術探求の崇高な使命である。
バイトが終わって、いろいろネットで探していたら、黒いエナメルで鎖がさりげなく腰に付いているワンピース、それに網目が大きい黒い網タイツ。首にはブラックワイドチョーカー。首輪みたいな感じ。そして足には黒いピンヒールという、いわゆるボンデージファッションの画像が出てきた。
おお、非常にカッコいいぞ。
これ、高橋さん着てくれないかなあ。
ワンピースはひざ丈だが胸のあたりが大きく開いている。
長袖だが腕の部分は黒のシースルでセクシーだ。クール!
けど、引き受けてくれるかなあ。
いや、お優しい高橋さんなら大丈夫だ。
そう、あの人は女神様。
ああ、女神様!
と言うわけで高橋さんの自宅に電話。すぐに出た。
今日は眠そうではないな、彼女。
「もしもし、高橋ですが」
わーい、高橋さんの美しい声が聞けるぞ。
「こんばんは、佐藤です! 変態の佐藤です!」
思わず興奮してデカい声を出す俺。
一瞬、沈黙。しばらくして返事があった。
「あの、もしかして、また撮影したいの」
「そうです。今回は網タイツにボンデージファッションです」
「ボンデージって……」
「あ、ご安心ください。決して、高橋さんを痛みつけたりすることはありませんから。私にはSM趣味はありません。女性には優しく接しましょうと言うのが私のポリシーです。それで、すげーカッコいい服を見つけたんですよ。黒い網タイツに黒いエナメルワンピース。長さは膝丈です。ミニスカートじゃないですよ。靴はピンヒール。セクシーで高橋さんに似合うかなあって思って。どうですか。撮影させてくれませんか」
しばらく沈黙の後、高橋さんが答えた。
「あのー、いっそマネキン人形とか買って着せたらいいんじゃないの。私に払うお金も節約出来ると思うけど」
「いや、ぜひ、ぜひ、絶世の美女、高橋さんに着てもらいたいのです。マネキンなんて味気ないですよ。本物の人間が着るからいいんですよ。約束します。絶対、高橋さんには指一本触りません。イエス、アンタッチャブル!」
ちょっと沈黙。その後、女神様からご返事があった。
「……わかりました」
やった! ナイス! ナイス! ハレルヤ! ハレルヤ!
早速、撮影日を決め、彼女の足のサイズも確認した。
一応、身体のサイズも聞いておいた。
さて、例によって平日の午後。高橋さんのアパートへ。
ドアチャイムを鳴らす。すぐに高橋さんが出てきた。
「こんにちは」と俺が挨拶。
「こんにちは、変態の佐藤さん」と高橋さん。
相変わらずの変態扱い。当然ですが。
しかし、高橋さんの表情がだいぶ柔らかくなっているような気がする。
前はもっとボーッとしてたんだけどな。
で、早速、衣装を渡す。
「ピンヒールは新品だからそのまま部屋の中で履いてもいいと思いますよ」
「はいはい、じゃあ、ちょっと待ってて」
「はい、お待ちしております、女神様」
また長々と待たされる。
ようやく扉が開いた。
おお、素晴らしい。似合う。すげーカッコいい。
真っ黒い格好だが、脚の網目の大きい黒い網タイツが色っぽい。最高!
おまけにピンヒールなんで足がますます長くて綺麗に見えるぞ。ブラボー!
で、このピンヒール、足首にベルトを締めるタイプ。SMっぽくってエロい。アメージング!
腕の長袖はシースルでこれも美しい二の腕の肌が透けて、グッド!
ひざ丈のワンピースだが、これは膝上のミニスカートよりひざ丈くらいがカッコいい。ナイス!
おまけに胸の部分が大きく開いていて、谷間がばっちり見える。ハラショー!
本人、こんなに胸元が空いているとは想像していなかったと思うが、なぜか文句を言ってこない。
俺の厚かましい変態暴走行為に、もう文句を言う気力も失くしたのだろうか。
「あのー、中に入ってよろしいでしょうか」
「いいわ」
俺はペコペコしながら部屋の中へ。
高橋さんがちょっとよろついている。
「こんな高いヒール履いた事ないから、ちょっと歩きにくいわ」
「あ、申し訳ありません」
と言うわけで、撮影開始。今回は網タイツとピンヒール中心。と言いつつ大きく空いた胸元も撮影と。明らかに胸を中心に撮影している写真もあるのだが、高橋さんは文句を言ってこない。もう俺は変な動物扱いなのだろうか。動物に文句言ってもしょうがないもんなあ。「NHKの、『ダーウィンが来た!』に変態動物として出演したら」って言われそうだ。
で、また例によって、「綺麗、美しい、女神、美の化身、アルテイメイト・ビューティフル・レディ!」と連発。綺麗なんだからしょうがないよなあ。綺麗だ、綺麗だ、綺麗だ、綺麗だ、綺麗だって十万回言った気分。
そんなことを連発してたら、高橋さんから言われた。
「あの、私ってそんなに綺麗かなあ」
「綺麗なもんは綺麗なんです。最高級美女ですよ!」
「そうですか……ありがとう」
ちょっと微笑む高橋さん。
高橋さんもけっこう気を良くしている雰囲気だ。
例の白い壁の前でいろんなポーズを取ってもらう。そして、ちょっと気分を変えて場所を変えてベッドに横たわって、綺麗な脚を上げてもらったり、膝を立てて座ってもらったり、。もう俺の要求通りにポーズを取ってくれる、高橋女神様。ありがとうございます。ヒャッホー! ヒャッホー!
壁に手をついてお尻を突き出すポーズも、「高橋さん、もうちょっと、綺麗なお尻を突き出してくれませんか。ついでに、もう少し脚を広げるとカッコいいお姿になりますよ」と変態依頼。
もうちょっと、もうちょっと、という俺の変態依頼に、なんだかどうでもいいやって感じで俺の要求を聞いてくれる高橋さん。どんどんポーズが過激になっていく。なんていい人なんだろうかと再確認。
ピンヒール履いてるんでマジ脚がすっごく長くて綺麗に見える。
ああ、もう、クレイジー・フォー・ユー!
四つん這いのポーズも渋りながらも割とあっさりと引き受けてくれた。
俺の脳内ドーパミン爆発!
もちろん椅子に座って足を組んでもらう。
いやあ、黒い網タイツは本当にセクシー。
この服装は椅子に座って偉そうにしているのが似合いますね。
SMの女王様って感じ。いや、高橋様は女神様です。
あっという間に撮影終了。天国極楽パラダイス!
で、高橋さんが椅子から立ち上がろうとした瞬間、「痛い」と言って、床にへたり込む。
「あ、大丈夫ですか」
思わず近づく俺。
「こ、来ないで! 酷い事しないで!」と叫ぶ高橋さん。
俺はさっと後ろの壁際まで後退。
「いや、決して高橋さんに酷い事するつもりはありませんので」
「変な事したら、警察呼ぶからね」
高橋さんがスマホを持っておどおど、ビクビクしている。
すごく緊張しているような雰囲気も感じられた。
怯えた顔つきで、身体も震えている。
なんかえらくビクついてるな。
もっと気が強い人かと思っていたのに。
気が強いのか気が弱いのかよくわからん人だ。
別に乱暴する気なんて全くないぞ。
女性に優しくが我が神聖変態帝国皇帝のモットーである。
しかし、当たり前か。
部屋の中には自分とキモオタの二人だけ。
そりゃ、女性としては怖いよな。
壁際に背中をくっつけて声をかける。
「どうされたんですかー!」
「何これ、左脚の太股とふくらはぎの裏側が痙攣してるの、それにすごい痛い」
ああ、これはこむら返りだなと俺は思った。
高校のホモ同好会、じゃなくて柔道同好会の時になったことがある。
そして、その時のホモからのレイプ攻撃。
ありゃ忘れられんな、一生。
「それ、多分こむら返りじゃないですかね。普段使ってない筋肉を無理に動かすとそうなるんですよ。今回履いてもらったピンヒールのせいかと思います。そんなものを履かせて誠に申し訳ございません」
「……すごい痛い。どうなるの、これ」
「たいした病気じゃないですよ。ほっとけば治りますよ」
「けど痙攣してすごい痛いわ。どれくらいで治るの」
「数分から三十分ですかね。人によっては次の日も痛くなることもあるようですけど」
「うーん、すごく痛い。あなた治し方知ってるの」
「まあ、一応、ホモ同好会、じゃなくて柔道同好会で習いました」
そして、その後のレイプ未遂事件でこむら返りの治し方は、はっきりと俺の脳裏に焼き付いたのであった。
「……あの、じゃあ、治してくれるかしら」
「いいんですか、脚を触って」
「うん、この際、いいです。とにかく痛いから。たまらない、物凄く、痛い、痛い」
うお! こんな美女のおみ足を触っていいものだろうか。
ありがとう、こむら返りの神様!
と言うわけで、高橋さんに床にあおむけになってもらって、ピンヒールを脱がす。
おお、網タイツに包まれたつま先。エレガントかつエークセレント!
靴を脱がすだけで興奮する変態の俺。
いや、ここは無心で行かなくてはいかん。
左足を少し高い所にあげて膝を伸ばし、つま先をやさしくつかんで足首をゆっくりと曲げる。
「あっ……」と高橋さんがちょっと喘ぎ声。
やばい、セクシー過ぎ。
しかも、このボンデージファッションというエロい格好。
しかも、脚は網タイツ。いかん、いかん、とにかく無心で行こう。
般若心経を唱えるつもりで作業を行う。
心頭滅却すれば網タイツもまた涼し!
その後、ゆっくりと高橋さんの膝を曲げて、太股を彼女のおなかに近づける。
けど、これだとスカートがめくれて下着が丸見え。
おお、高橋女神様は黒い下着を履いておられるではないか、ああ、やばい。股間に電流が流れる。
しかし、わざわざ黒い下着を履いてくれるとは黒いエナメルワンピースとコーデしてくれたんだなあ。
いやあ、全くいい人だ。
しかし、決して女性に乱暴をしてはならん。女性には優しくしてやらなあいかんのだ。
「痛みはどうですか」
「うん、少し良くなった……」
高橋さんは目をつぶったまま。
そして、脚の痛みが徐々に引いてきたためか、「うーん、あっ……」とちょっとため息というか喘ぎ声つーか、なんとも色っぽい声をだす高橋さん。俺の股間も爆発しそう。
おっと、無心、無心、蛇の目無心と。
とにかく俺は女性に優しい変態を目指しているのだ。
神聖変態帝国皇帝の座を明け渡すつもりはないのである。
「あと、血行を良くするために脚をマッサージして、筋肉をほぐせばいいんですけど」
「……この際、お願いします」
うぉ! 最高級美女の脚をマッサージする。
「ああん」
またセクシーな喘ぎ声を出す高橋さん。ああ、俺も気絶しそう。
従妹のお姉さんを思い出すなあ。
まあ、従妹のお姉さんと違って、高橋さんは痙攣の痛みに耐えているんだけどな。
マジ、変態皇帝の俺がこんな事していいんだろうか。
セクシーな網タイツを履いた最高級美女の高橋さんの太股、ふくらはぎを擦るような感じでマッサージ。
高橋さんの脚の痙攣を治していたら、俺の頭が痙攣しそうだぞ。
「ふう……」
また色っぽいため息をつく高橋さん。
「どうですか、脚の具合は」
「あの、どうやらだいぶよくなったわ」
「そうですか、もう大丈夫ですね」
俺がそそくさと離れると、高橋さんが自分で自分の脚を擦っている。
「うん、痛みが取れた。ありがとう。一時はどうなるかと思ったわ」
ニッコリと微笑む高橋さん。
しかし、指一本触らないと言う約束を破ってしまった。
さっと壁際まで後退。床に頭を擦りつけて土下座。
「申し訳ありません、身体には触らないと言う約束を破ってしまって」
すると、なぜか高橋さんが不快な顔をする。
「私、土下座が嫌いなの」
は? 土下座が嫌い? 何のこっちゃ。もしかして、高橋さんの家族が全員時代劇好きでテレビでやたら土下座シーンを見せられてウンザリしたとか。あれは正確には平伏というものだがな。それとも、日本を代表する企業、世界の三友商事は超ブラック企業で二十四時間耐久土下座研修とかあって、それで高橋さんは精神を病んでしまったのだろうか。
なんか親近感がわくなあ。
まあ、そういうわけで無事撮影も終了。例によって、さっさとアパートから追い出される。
それにしても、俺の人生で女性の脚を触ったのは、あの従妹のお姉さん以来じゃないか。嬉しくて思わず、高橋さんの部屋の前でわけのわからない踊りを長々と踊る神聖変態帝国皇帝。ひとしきり踊った後、自宅に帰ろうかとしたら、また高橋さんの部屋からため息が聞こえてきた。まだ、こむら返りが治ってないのか。まあ、いいや。
とは言え、もうちょっと高橋さんとお話がしたいなあ。