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最終話:そしてお互い好きになった

 例のイケメン鬼畜に俺が暴力を振るった件。

 意外にも相手の会社の管理部長なる人が謝罪に来た。

 契約継続。


 しかし、俺は辞職することにした。

 暴力を振るったのは事実だしね。

 けじめをつけようと思ったからだ。


 しかし、いきなりやめるのではなく引継ぎのため月末まで仕事をしていると、高橋さんの元上司がやって来た。

 きょどる俺。

 復讐にきたのか。


「蹴ったね! 嫁にも蹴られたことないのに!」と叫んで襲いかかって来るのか。「蹴ってなぜ悪い!」と蹴り返す体力は俺にはない。


 俺の脳裏にブラック企業のアホ元上司の顔が浮かぶ。

『佐藤よ、フォースを信じろ、フォースを使うんだ』

 しかし、信じろと言われても、方法はバレているから、あの必殺技は一度しか使えないんだよなあ。

 ビクビクしながら応対。


 廊下で高橋さんの元上司が立っている。


「佐藤さん、本当に申し訳ないことをしました」と元上司が深々と頭を下げる。


 あら、全然、怒ってない。

 そういや、お酒が入ってないと普通の人なんだよな。


「反省しましたよ。動画サイトで『最低の酔っ払い』って題名で私が暴れている動画が流れていたんです。多分、通行人の誰かがスマホかなんかで撮影してアップしたようです。それを見たら確かに最低だと自覚しました。正直、頭がおかしいと思いましたよ、自分でも」

「はあ」

「これを高橋さんに渡してほしいんですが。本人が破壊した方がいいと思って」


 フラッシュメモリーを渡された。


「本人から聞いているかどうか知りませんが、非常に高橋さんにとっては恥ずかしい動画が入っているんですよ。あと、自宅のパソコンにも入っていたんですが、ハードディスクは完全に破壊しました。これについては信じてもらえるしかないんですけど」

「そうですか」

「楓、じゃなくて高橋さんには本当に申し訳ないことをしたとお伝えください。もう二度と私の顔を見たくないでしょうから。私は、もう酒は一切飲まないことにしました。今、カウンセラーにも通ってるんです。では、お二人お幸せに」


 さわやかに白い歯をキラリと輝かせて去っていく元上司。

 酒が入らなければいい人なんだろうな。


 家に帰って、フラッシュメモリーの中身を見ようか悩む。

 本当は気になる。

 エロい動画を見たいわけではない。

 どんな酷い目にあったか彼女と共有したいんだが、悩んだあげくそのまま高橋さんに渡すことにした。


 あと、元上司が言っていた、動画サイトの『最低の酔っ払い』を見てみた。

 顔にはモザイクがかかっており、基本的に元上司を中心に撮影されている。

 再生回数は三桁程度。

 あまり感心はもたれてないようだ。

 高橋さんは後姿のみで、ほとんど俺に隠れて見えない。

 このことは黙っておこう。

 本人が気にするだろうからなあ。

 気の弱い人だもんな。


 フラッシュメモリーは高橋さんに渡した。


「あの、この動画、見たの」


 高橋さんがちょっと恥ずかし気に言った。


「見てないです。信じてくれとしか言えないけど」

「ありがとう」


 フラッシュメモリーは高橋さんが金槌を使って破壊した。

 後日、動画サイトを確認したが例の『最低の酔っ払い』動画は削除されていた。


 その後も休日には、高橋さんの訓練に付き合う。

 地下鉄に乗る時間を少しづつ伸ばしていく。

 少しづつ、ゆっくりとよくなっていくような感じがしてきた。

 動画が完全に無くなったってことで、高橋さんも安心したのかもしれない。

 ようやく、西巣鴨から白金台駅まで到達。

 二人で抱き合って喜ぶ。


 本当は逆方面にも行きたかったのだが、最終駅近くの高島平は、昔、自殺の名所だったことをネットで知って縁起が悪いのでやめた。

高橋さんはその後、美容院にも行って、少しのびた髪のカットになんとか成功。

 一応、俺が付き添いで行ってたのだが、それでも、だいぶ本人も自信がついたようだ。


 ちなみに、撮影会は再開した。

 但し、普通の格好。

 普通のシャツに普通のスカート。

 黒いストッキングは履いてもらったけどね。


 そして、どんな格好でも素敵な高橋さんを俺は褒めまくる。

 まあ、実際、綺麗なんで。

 そして、なんだかご本人、撮られると気分が良くなるそうだ。

 脳内物質に影響を与えているのだろうか。

 まあ、どういう医学的根拠があるのかわからんが、とにかく調子がよくなっていくのはいいことだ。


 俺は再度、就職活動。

 なんとか駐車場管理会社の営業として再就職が決まった。

 小さい会社だが、今後も潰れはしないだろう。

 ガソリン車がなくなって、電気自動車の時代になっても駐車場は必要だからな。


 高橋さんの方も、薬を飲みながらもついにJR王子駅近くのスーパーのパートで働けるようになった。

 もちろん、万引きした店ではない。

 つらい時もあり、そういう時は休んでしまう事もあるそうだが、なんとか続けている。 


 初任給を貰った。

 手取りが低いなあ。

 しかし、とにかく安月給であろうとも、一応、真っ当な社会人だ。

 結婚する資格はあるだろう。


 さて、悩む。

 もう、一生、高橋さんと一緒にいたい。

 一生、離したくない。

 好きでたまらない。

 高橋さんに告白することにした。

 受けてくれるかなあ。

 いい雰囲気なんだけど。


 ちと安いが指輪を購入。

 さあ、プロポーズだ。

 寒い三月。

 本当は桜が咲く下でロマンチックにプロポーズしたかったんだけどな。

 今年は桜の開花が遅れているので全然咲いてない。

 けど、結婚は勢いですよ。

 

 初デートした飛鳥山公園で告白するぞ。

 まだ桜が開花していないので人がほとんどいない。

 しかし、運命とは不思議だ。

 キモオタ変態だから高橋さんと出会えたんだ。

 緊張する。ストレートに言うつもりだ。

 パート帰りの高橋さんに連絡した。


 待っていると高橋さんが来た。


「急に呼び出して、どうしたの」


 俺は彼女に指輪を見せる。


「あの、俺と結婚してくれませんか」


 しかし、高橋さんは下を向いて黙っている。

 あれ、失敗か。

 やっぱ、俺じゃあ物足りないのかなあ。

 指輪が安っぽかったからか。

 やっぱり神聖変態帝国皇帝じゃだめか。

 皇帝失墜。


 それとも、「ごめんなさい。私、今から異世界に帰らなきゃいけないの」とか言い出すのだろうか。

 ああ、女神様。


 俺がきょどっていると彼女がやっと返事した。


「……あの、私、もしかして死ぬまで精神薬のやっかいになるかもしれない。一生治らないかもしれない。佐藤さんに何度も迷惑をかけてしまうかもしれない。それでもいいの」

「全然かまわないですよ。とにかく高橋さんが好きなんです。どんなに苦労かけられてもいいんです」

 

 高橋さんが震えている。


「あ、調子悪いんですか」

「ううん、嬉しくて」

 

 涙目になっている高橋さん。


「ただ、ひとつ約束してほしいんです。前にも言ったんですが、もう自虐的な発言はしないでほしい。痛々しいんです。とにかく俺が全力で支えますので。高橋さんも自信を持ってほしいんです」

「……はい」

「高橋さんとはスーパーで出会ったんですよね。スーパーで警備員やっていたときに高橋さんの脚に見惚れちゃって」

「エヘヘ、けど、もう私の身体が目当てじゃないよね」

「いえ、高橋さんの身体が目当てです」

「え!」


 びっくりする高橋さん。


「はい、はっきり言って、もう高橋さんの頭のてっぺんから足の先まで、全部が好きです。けど、一番好きなのは高橋さんの笑顔。かわいい笑顔です。精神病が治らなくても好きです。ずっと守りたいんですよ。一生、守ります。面倒みます。とにかく、高橋さんが元気に笑っているところが見たいんです」

「ありがとう」


 涙目で微笑む高橋さん。


「あの、それでご返事の方はどうでしょうか」

「もちろん、私の方からもよろしくお願いします」


 やった、プロポーズ大成功だ。

 俺は嬉しいぞ。

 飛び跳ねたくなるのを我慢する。

 高橋さんもほっとしたような表情をしている。


「じゃあ、高橋さん、帰りましょうか」

「あの、私からも、ひとつお願いがあるの」

「なんでしょうか」

「楓って呼んでよ」

「あ、はい、わかりました。じゃあ、家に帰りましょうか、楓さん」

「はい、健二さん」



 高橋さんをつれて、家族に紹介することにした。

 スタスタと路上を歩く高橋さんを引き留める。


「ここが俺の家ですよ」


 高橋さんが、俺のマンションの前で立ち止まり見上げる。


「ここに住んでるの」

「そうですね。二階ですけど」

「えー、すごい高級マンションじゃない」

「まあ、親父は高給取りですけどね、俺と違って。大金持ちですよ。このマンションも即金で購入してローン無し。もともと埼玉の資産家のバカ息子ですよ、親父は」


 ちょっと、駐車場にもご案内。

 バブル親父の高級車に高級バイクも見せてあげる。


「あ、このバイク、スカイツリーに連れて行ってもらったときのね」

「そうです、他にも何台も高級バイクを持ってるしょうもない親父ですね」


 なにやら、悩んでいる高橋さん。


「あの、本当に私でいいの」

「大丈夫ですよ。楓さんなら一発OKですよ」

「……けど、ご両親は私がパニック障害やうつ病ってご存じなんですよね」

「ええ、けど、兄貴も同じような病気で苦しんでいるので、そこら辺は気にしないでいいですよ」


しかし、マンションの玄関で立ち止まってしまう高橋さん。


「本当に、私でいいのかなあ……ご家族の迷惑にならないのかしら。もし、また倒れたりとかしたら。大丈夫なのかあ」


 なぜか、高橋さんがマンションの玄関前で後ずさりを始める。

 また自虐世界に入りそうなので、俺は大声を出して励ます。


「大丈夫ですよ、楓さん。元気出して! 一生、守るって言ったでしょ!」

 高橋さん、びっくり顔で、

「はい、わかりました」と返事をする。

 そのまま高橋さんの背中を押してマンションの中に入った。


 しかし、またマンションの部屋の扉の前でグズグズしている。

「もう、楓さん! 俺は一生楓さんの面倒みます!」

「お、お願いします」

 高橋さんの手を取って部屋に入った。


 しかし、実のところ、ラスボスのバブル親父をどう説得するかだなあと俺は思っていた。

 黙っておくのもいいかもと思いつつ、やはり高橋さん本人も気兼ねするだろうと思い、バブル親父に「結婚したい女性がいるのだが、心の病で精神薬を飲んでいる」と事前に言っておいた。


 予想通り、渋い顔しやがった。

 不機嫌な顔で、「とりあえず、その女を連れてこい」って言いやがった。

 仕方がないので秘かに母親と兄貴には、バブル親父が騒いだら説得してくれるよう事前に頼んでおいた。

 なお、自殺未遂や万引きのことは秘密にした。

 もう過去のことだろう。


 で、紹介したら、ラスボスのはずのバブル親父が一発で撃沈。

 さすが最強美女。

 高橋さんの美貌にデレデレ親父。


 気合と根性もどこへやら。「お薬を飲んで、ゆっくりとご病気を治して下さい。私も微力ながら力添えします」なんて言いやがった。

 つーか、バブル親父はスケベ親父だったってことだ。


 おかんは全く反対しなかったのだが、「こんな頭の悪い、間抜けで何のとりえもないバカ息子と結婚してくださるなんて本当に申し訳ありません」と高橋さんに謝っていた。

 おかん、そりゃねーよ。


 兄貴は、「健二の奴を支えてやって下さい。ただ、自分の身体の方を第一にしてください。無理はしないように。俺からもよろしくお願いします」と高橋さんに挨拶。


 高橋さん、ちょっと涙目で、「私の方こそ、健二さんには迷惑かけっぱなしなんです。こちらこそよろしくお願いいたします。お兄様も、あの、少しでも体調を良くして、元気になって下さい。私も応援します。それで綺麗なお嫁さんと早々に結婚していただければと」

「ありがとうございます」


 兄貴と高橋さんが同時に頭を下げた。


 元気兄貴はいまだに調子が悪いがようやく日雇いの警備員のバイトを始めた。

 なんとか復活してほしい。


 さて、今のところ、高橋さんのアパートで二人暮らし。

 狭いけど、安月給なんでとりあえず金を貯めなくてはいかん。


 そして、相変わらず撮影会は行っている。

 顔出しもOK。

 スマホは危険なので、デジカメで撮影、それ専用のパソコンで保存。

 ネットにつなげてない。無線も停止。流出しないようにしている。

 最近は黒いSM衣装やセクシーなハイレグボディスーツなんぞを着て撮影している。


 お前、エロい格好させて撮影することは女性を虐待することだとか言ってなかったかって? 

 いや、ご本人が通販で衣装を購入して、「カメラで撮影してよ」って頼むんですよ。

 撮影されると俺の嫁さんは元気が出るし気持ちがいいそうです。

 リラックスして気分がスッキリするそうで、イライラすることがなくなるそうです。

 そして、どうやら本当に気持ちがいいし、しかも興奮するそうです。

 どんどん過激な衣装になっていきます。

 俺も嬉しいです。


 ん? いやらしい格好を撮影されて興奮する女なんて居ないわよ! この変態! 横浜ランドマークタワーの一階から飛び降りて、死ね! とおっしゃるんですか? そう言われても実際にいるんですから仕方がないじゃないですか。


 ちょ、ちょっと怖い顔で首絞めるのはやめてくださいよ、フェミニスト団体の女性の皆さん。

 何も悪い事してませんよ。

 人それぞれですよ。

 他人に迷惑かけてませんよ。

 エロは世界を救うんです。


 あと、画像をパソコンに保存したらそのまま放置かって?

 しょっちゅう見てますよ、どの画像も彼女のかわいい笑顔が写ってるんだから。

 見ないわけないでしょ。


(終)

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