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校外学習03





 残念ながら深水怜一の特別イベントは防げなかったようだ。

 自分のクラスの生徒が倒れたというのに、その生徒は隣のクラスの担任に任せて、自分はヒロインとデートですか。えぇ、楽しそうで結構です。



 その後、追いかけてきた海原先生にしょっぴかれた私は、お弁当を食べる公園へと強制連行された。公園の入り口でお弁当を渡される。


 お忘れかもしれないが、七海女子学園はお嬢様学校だ。このお弁当もとある老舗料理店に特注したもので、中身はかなり豪華だったりする。



 私は公園に入ると、満花たちを探してあたりを見渡した。みんな座っている中で立っている私は目に付きやすいのか、満花が手を振って場所を教えてくれる。



「お待たせ!」

「遅いよ、フミ。フミのことが心配すぎて、ご飯も喉に通らなかったんだから」

「……完食してますよ、満花さん」

「いつの間に!?」

「確信犯め!」



 結構な量だが、満花はお漬物も残さずしっかり食べきっていた。



「フミ、体調は大丈夫ですか?」

「うん、心配かけてごめん。野上さんも迷惑かけてごめんなさい」

「大丈夫だよ。それより早くお弁当食べちゃお」

「うん」



 私は野上さんに促されて、銀色のシートに腰を下ろした。このシートは厚くて柔らかいから足が痛くならない。前世では遠足のときは容赦なくブルーシートだったのに。

 私はお弁当のふたを開けようとして……止めた。なんか嫌な予感がする。



「フミちゃん!」

「にゅわっ」

「うわっ、何その叫び声。超かわいい」


 どこから現れたのか、魚浜先生にいきなり抱きつかれて私は思わず変な声を出した。衝撃で軽く右に吹っ飛んだが、お弁当開けなくてよかった。


「あ、こんにちは魚浜先生」

「こんにちは。満花ちゃん」

「今日はいい天気ですね」

「そうだね、凪砂ちゃん」

「先生はお弁当食べ終わったんですか?」

「うん、由佳ちゃんはまだ?」

「ねぇ、みんな。ほかに言うことあるでしょ。友達を助けたいと思うでしょ?」

「いや、困ってる友達が見当たらないけど」

「裏切り者め!」



 私が魚浜先生に構われるのは、学校の中で日常茶飯事になっていた。最初の頃は、彼のファンから嫌がらせを受けたりもしたが、今は下火になっている。なぜなら彼は女の子にだったら誰にでも顔がよく、なにより恋人にするのは小柄な人がいいと公言して憚らないのだから。

いつからか人々の視線は嘲笑か同情か憐憫の三択。

 ほかの先生方は何度か魚浜先生を注意してくれたのだが、改善されたことは一度もない。



「ねぇ、フミちゃん。倒れたって聞いたけど大丈夫?」

「大丈夫です。ご心配いりませんので放してください」

「俺、すっごく心配したんだよ。だから午後はフミちゃんと動物園を回ろうと思って」

「はい? いえ、海原先生がついていますから大丈夫です」

「でも、彼はほかにも生徒を見てなくちゃいけないでしょ。だから、フミちゃんは俺がみてようと思って。ほら、俺って暇だから」

「何言ってるんですか。先生は六組の担任でしょ」

「あ、大丈夫。職員は基本自由行動だから」



 だから、クラスの生徒を見るための自由行動だろう!

 そうこう言っているうちに野上さんが腰を上げた。



「じゃあ私、海原先生に確認にいってくる」

「いやいや! 待って、野上さん。野上さん!」



 無情にも野上さんは海原先生を探しに行ってしまった。こうなったら海原先生だけが頼みだ。どうか断ってくれ。



「ところで先生。フミはまだお弁当食べてないので、放してあげてください」

「あれ、そうなの? ごめんね」



 私が放してと言っても放さないに、なぜ満花のいうことは聞くのか。まったく持って理不尽だ。

 だが、急いで食べないとお昼の時間が終わってしまう。私はお弁当のふたを開けようとして……止めた。なんか嫌な予感がする。


「フミちゃん!」

「のわっ」

「フミちゃん、体調は大丈夫!?」


 どこから現れたのか、珊瑚ちゃんにいきなり抱きつかれて私は思わず変な声を出した。衝撃で軽く左に吹っ飛んだが、お弁当開けなくてよかった。……あれ、デジャヴ。



「海原先生に聞いたよ。フミちゃんが私の体調、気にしてたって。わたし、バスでは顔に出したつもりなかったんだけど、心配かけてごめん。あ、でも、わたしはフミちゃんが倒れたときから、具合が悪いのは直ったんだけど。って、あぁ、わたし親友に対してなんて薄情なの!? お願い、わたしを殴って! 薄情なわたしを殴って!」



 突っ込みどころが多すぎて、どこから指摘していいのか分からない。とりあえず、放してほしい。

 というか、いつから君は親友に格上げされたのだ。



「珊瑚ちゃん、私は気にしてないから。殴りもしないから。放して」

「そんな、絶対に怒ってる! フミちゃんは薄情な私を怒ってるんだ!」

「いや、怒ってないから」

「いえ、怒ってる」

「怒ってない」

「怒ってる!」



 ここで私が怒ればいいのか? いや、私は別にコントをやる気はないのだが。


 それにしても、どうやら海野珊瑚は本当に体調が悪かったようだ。ばれたら連れ戻されると思って隠していたのだろうが。

 それにしても私が倒れたら、彼女の具合がよくなった。それはやはり、私が彼女のシナリオを代行したからなのでは?

 確信はないけれど。



「海野さん、フミは怒ってないって」

「そうなの?」

「それと、フミはまだお弁当食べてないから放してあげて」

「うん、分かった」



 だから何で満花の言うことは聞くんだ!! あっさりと離れた手に私はなんだか辟易する。

 もういい。本当に時間がないから早くお弁当を食べなくては。私は今度こそ蓋を開けると、ご飯に箸をつけた。



「フミちゃん、午後はわたしがフミちゃんを支えるから。安心してね」

「ダメだよ、珊瑚ちゃん。フミちゃんは俺と回るんだから」

「……魚浜先生、いらっしゃったんですね。フミちゃんと回るってどういうことですか」

「いらっしゃったんです。どうもこうもフミちゃんは俺と回りたいんだって」



 言ってない!

 いや、突っ込んじゃダメだ。



「いいえ、フミちゃんはわたしと一緒がいいって言ってました。大体、フミちゃんは私たちの班ですよ。関係ない魚浜先生はお引き取りください」

「何言ってるの。俺とフミちゃんの仲は誰にも切れないの。そっちこそ邪魔しちゃダメだよ」

「き、絆だったら、わたしだって」



 突っ込んじゃダメ。突っ込んじゃダメ。突っ込んじゃダメなんだけど。


「いい加減にして!!」


 私は思わず声を上げた。私を挟んで耳元で口論されたら、喉を通るものも通らない。

 そして叫んだと同時に、無情にもお昼時間終了を告げられた。




 その後、私は魚浜先生と行動することになってしまった。というのも私がお弁当を食べていないので、魚浜先生が残ってあとから連れて行くことになったのだ。というか担任はどこ行った。

 このとき知ったのだが、どうやら魚浜先生はほんの少し医療の知識があるようだ。そのため任せてもいいと判断されたらしい。



 そして私は魚浜先生と公園に取り残されたわけだが、私は話しかけてくる先生をひたすら無視してお弁当を食べ続けた。相手をすると「俺があーんしてあげる」とかふざけたことをぬかすため、無心を貫く。 そんなテンプレイベントはヒロインだけで十分だ。



 それにしても面倒な人を押し付けられてしまった。けれど、これはイベント妨害の大チャンスかもしれない。

魚浜先生をどうにか動物ふれあいコーナーに近づけないように誘導できれば……。







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