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旅支度

 自室に戻った鈴鹿は、さっそく出かける準備を始めていた。その横では、「みつ」が手伝いをしている。

「鈴鹿様。お泊りセットは、このカバンに入れておきますからね」

「はいは~い。えっと、替えの服と下着は――」

 鈴鹿は、ごそごそと箪笥を漁り、二日分の着替えを取り出す。

「それで足りるんですか?」

 畳に座り、旅行鞄に鈴鹿の荷物を詰めていた「みつ」が聞いた。

「たぶんね。掛かっても、三日くらいだと思うし。もし長引いたら、洗濯すればいいし」

「それは、確かに」

 うんうんと「みつ」が頷くと、廊下を走ってくる音がした。

「「鈴鹿様、持ってきました」」

 声を合わせて現れたのは、三人の小鬼たち。その手は頭上に掲げられ、その上には直径一メートルほどの薄い黄色をした球が載せられていた。

「ああ、ありがとう。そこに、置いておいて」

「「はーい」」

 畳に下ろされた球は、綺麗な真ん丸な形をしている。それは、『光球こうきゅう』というものだった。不思議な球で、その名の通り光を発する物であるが、それだけではない。鈴鹿が望めば空を飛び、その中には物を入れられ、尚且つ、さわれば柔らかいという代物である。その使いやすさに、鈴鹿は普段からそれを持ち歩き、座椅子やクッションのようにも扱っていた。

 昨夜、鈴鹿がゲームをしていた部屋に持っていったままであったのを、三人にお願いして持ってきて貰ったのである。

 鈴鹿は、用意した物をせっせと詰め込んでいく。中がどうなっているのか分からないが、光球の中にどんどんと荷物が吸い込まれていった。

「よし。あとは」

 鈴鹿は、床の間に飾られていた二本の剣を手に取る。封がされていることを確認すると、それも光球の中にいれた。

 その二本の剣。名を、『大通連だいとうれん』、『小通連しょうとうれん』と言う。二本ともに宙を舞う不思議な剣であり、鈴鹿の意のままに操ることもできれば、彼女を守るために自由に動くこともできる。

 『大通連』は、文殊の智剣とされる両刃(諸刃)の剣であり、大きさは三尺一寸(約九十四センチメートル)。

 『小通連』も両刃の剣であり、大きさは大通連よりも少し小さいくらいだ。

 その二本を、時に手に持ち、時に宙に飛ばして戦う。それが、鈴鹿の得意とする戦法だった。

「準備は、出来ましたか?」

 そう言って現れたのは、小鈴である。部屋を眺め、それと察した彼女は満足そうに頷いた。

「うん。ちゃんと出来てますね。それじゃあ、こちら。よろしくお願いします」

 小鈴は、手の平を上に、捧げるような形で鈴鹿へと両手を差し出す。その手には、一振りの太刀が乗せられていた。

 小鈴から鈴鹿に渡された太刀。その名を『顕明連けんみょうれん』といった。

 『顕明連』は、朝日に当てれば三千大千世界(この世のすべて)を見通すことができるとされる代物で、元は鈴鹿の持物である。しかし、今は小鈴がその管理を任されており、必要な場合にのみ、鈴鹿に渡すことになっていた。

「ありがと」

 鈴鹿は、それをしっかりと受け取ると、光球の中に仕舞う。先程の二本の剣や荷物と合わせ、明らかに球の容量を超えている様に見えたが、難なくその中に吸い込まれていった。

「よし、準備完了。それじゃあ、行ってくるから」

「その恰好で、行くんですか?」

 小鈴が、鈴鹿の服装を見て、言う。その姿は、朝食の時と同じ。ジーンズパンツにTシャツのままだった。

「駄目かな?」

「駄目、ではないですけど。別に、改まった場所に行くわけでもないですし。ただ、もう九月ですし、場所によっては冷えたりしますから、一枚ぐらいは羽織った方がいいと思いますよ」

「そう? まあ、小鈴がそう言うなら」

 鈴鹿は、ハンガーに掛かっていた手近な長袖シャツに手を伸ばし、上に羽織る。

「これで、いい?」

「まあ、いいでしょう」

「よし。じゃあ、行こう」

 その言葉と共に、鈴鹿は光球をポンポンと叩く。すると、球は十センチメートル程浮き上がり、鈴鹿の後に付いて部屋を出て行った。

 

 門の外にまで出てくると、鈴鹿は光球に横乗りになる。すると、球は柔らかく、鈴鹿のお尻を包み込むように形を変えた。

「留守を、お願いね」

「はい。お任せください」

 そう答えた小鈴の周りには、小鬼たちが集まっていた。「みつ」や出かける手伝いをした者たちはもちろん、鈴鹿の姿を見掛け、出かけることを知った者たちが見送りに付いて来たのである。

「どちらに行かれるのかな?」

「お土産、買ってきてくれるかな?」

「あの球、いつか乗ってみたいなぁ」

 などなど、出かける理由を知らない小鬼たちは、思い思いのことを口にしていた。

 それを聞いた鈴鹿は、くすりと笑う。

「それじゃあ、行ってきます」

「行っていらっしゃいませ」

「「行ってらっしゃいませ~」」

 鈴鹿の言葉に小鈴が答え、小鬼たちがそれに続いた。

 光球は、ゆっくりと、揺らぐことなく飛び上がる。そして、みるみる高度を上げていくと、あっという間に空の彼方に見えなくなった。

「無事のお帰りを」

 小鈴は、鈴鹿の姿が見えなくなっても、しばらくの間、空を見つめていた。

 その方角は、東。

 海向こうの、桜命館がある方角だった。


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