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アリストリア王国。
大陸において帝国に次ぐ大国。
僕のお父様こそ、このアリストリア王国第二十五代国王マルクト・アリストリア。
第三側室姫との間に生れたのが僕、アスラン・アリストリア。
継承順位は第二位。
限りなく王位からは遠い第二位だ。その理由を周囲は僕が無能だからだ、と陰でささやく。
しかしそんなことはない。
その理由は母である第三側室姫。彼女は海洋国家ミジュラの姫だ。浅黒い肌に黒い髪。大陸では珍しい容姿。その容姿は僕にもしっかりと受け継がれている。
それが理由だ。
ヒトは違うものを恐れる。
受け入れない。
そんな簡単な理由もわからず僕は努力していた。
周囲の人たちの害意のこもった瞳もいつかは変わってくれる。
そう信じていた。
「ぐはっ」
お腹を強打された。息が吐き出される。痛みと苦しみ。
「無能の煤汚れが調子に乗るな」
六つ上の兄、王位継承権第一位のクリストフ兄さまが蹲る僕の背中に木剣を叩きつける。
「うっ」
「どうした? これでは稽古にならんぞ。忙しい俺が折角こうして稽古をつけてやっているのだ」
監督役の騎士たちはただ黙ってこの様子を見ているだけ。誰も静止しようとはしない。
クリストフ兄さまは木剣を放り捨て、倒れる僕の髪を掴む。
「王位を狙っているのか何なのか知らんが無駄な努力をやめろ。目障りだ煤汚れ」
そう言い捨てると兄さまは騎士たちと訓練場を後にした。
無能の煤汚れ。
そう城の人々は僕を呼ぶ。
僕は別に王位を狙っているわけではない。
ただ誰かに認めて欲しかった。
僕が生きていることを認めて欲しかった。
誉めて欲しかった。
「あなたは大人になったら私たちの母国ミジュラに婿入りします」
第三側室姫は僕にそう言い聞かせる。
「王国の血をミジュラに入れ、実質的な支配地とするのが王国の狙いです。ですがそんなことは絶対に許さない」
この人の目は僕を見ている。けれど、彼女の視界に僕が入ることはない。
「あなたもこの国の者たちが憎いでしょう。許せないでしょう。だから将来あなたがミジュラを率いて王国を討ち、この恨みを晴らすのです」
呪詛のように第三側室姫は繰り返す。
この恨みとはなんですか?
問いかけたくても、彼女に僕の声は届かない。
「怪我をなされたのですかアスラン殿下」
国王へ謁見に来ていた星光神教の司教さまが、僕の青あざを見て心配そうに顔をしかめた。
「稽古で少し」
「まったくクリストフ殿下は優秀なお方だが信仰心が足りないですな。少しお待ちを」
そう言うと司教さまは僕の手を握る。握られた手から暖かな気が体に流れ込む。
癒しの秘術。
「僕に秘術を使うなど勿体ない」
「いいえ。怪我を負う者であればそこに貴賤の差などありません。良いですか殿下。女神さまはヒトを愛しておられる。その進歩を見守られています。肌の色、目の色、身分、才能の有無、そんなものは女神さまの前では些細なことです」
司教はそう言って僕の手を離した。
「どうですか多少は痛みが引くとよいのですが。私の力は弱いのであくまで気休め程度です。長く痛むようなら医師に診せてくださいね。それでは失礼します」
「ありがとうございます」
去り行く司教の背中に感謝を伝える。
星光神教を熱心に信仰する王族や貴族は稀だ。
その理由が今司教の語った言葉にある。
権力を持つものにとって重要な事柄、身分や才能の有無を教会は女神の前では些細なことと片付ける。その反面で民衆からの支持は厚く、熱心な信者は無償で教会の仕事に従事したり、多くの資産を持つ商人などは教会に援助を怠らない。
星光神教には大陸中の信徒。そして膨大な資金力を有する力がある。
王族や貴族たちはその力を欲している。
そんな関係だ。
星光神教は確かにヒト族間の対立解消に大きく貢献してきた。
報われない民衆の心の救いとなっているかもしれない。
だが、その裏側でヒト族でない者たちがその割を食っている。
亜人種迫害。
亜人種は女神さまを裏切った者たちの末裔。その姿は罰なのだ、と教え民衆に差別意識を植え付けた。
結局人は差別することを止められないのだ。
肌の色が違う僕を蔑む王宮の人々。
王国を憎む第三側室姫。
亜人種を認めない星光神教教徒。
彼らは結局何も変わらない。
そしてきっと僕もそんな彼らと何も変わらないのだろう。
読んでいただきありがとうございます!
昨日はワールズエンドとガイアフォースのおかげでなんとかなりました。
また明日もよろしくお願いします!!




