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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第4話「混濁する記憶」

「起きろバカ。聞こえてるんだろー」

 ん……?

 誰かに体を揺さぶられて目を覚ました。

「帰ってくるの早すぎだろお前ら」

 正体は変態少女だった。

 でもそれより、俺は気分が悪くなっていることにしか脳のリソースが割けなかった。

 あの女性……ここで会ってた

 真っ白で何もない空間。床も壁も空も、全部が真っ白で境界線も見えない嫌な空間。

 記憶が混濁として、時系列が気持ち悪くて、受け入れるまで時間がかかりそうだ。

 気持ち悪い……

「どうしたばか」

 俺はすでにいて会っていて……でも、初対面で……?

「おーい」

 でもそれより……

「事の重大さにき――」

「あの女性は!」

 焦燥感に駆られて少女の肩を鷲塚むと、少女はまた睨みながらも後ろを指さした。

 後ろを見ると、今度は随分とすぐ近くで寝転がっていた。

 よかった……

 なぜか、それに安心している自分がいた。

「なあ、死ぬまで早すぎ……。何してんの? エンマがまたにっこにこで渡してきたんだけど?」

 少女は不貞腐れているのか、またその小さいほっぺを膨らましている。

 でもそれよりも、俺は女性を起こすのに必死だった。

 情報を共有したい。確認を取りたい。

 必ず見つけると軽口をたたいたのに、俺は現世に行くとそのことを忘れていた。

 この女性もそうなのか、それとも忘れてなんていなかったのか、それを知りたい。

 何せ、あんなにも近くにいて、ずっと会っていたんだ。この女性から近づいてくれていたのかもしれない。

 違う……俺は、俺は……

「俺は!」

「んん……」

 俺の叫び声で目が覚めたのか、女性はゆっくりと目を開けた。

「ここは……あ、」

 女性も何かに気づいたのか、目を見開いて、焦りの表情で飛び起きた。

「……奏斗さん、だよね」

 俺は現世では敬語で喋ってしまっていた。

 それは自殺する前で情を築くのに関係ない状態じゃなかったから、素の自分を見せてしまうと、危ないと感じていたから。


 ――だから、俺は君の事が嫌いなわけじゃないんだ……!


「俺、」

「ん……なんか、変な気分……記憶が、気持ち悪い……」

 女性は頭を押さえて薄目で苦しそうな声を上げた。その様子を見て、俺は安心した。

 俺だけじゃなかった……

「あの……えっと、名前が」

「あ、そうでしたね……最後? 言えてなかったですね」

 頭を押さえながらも、女性はかしこまった様子で俺に体を向けた。

「えっと、私の名前は八重代(やえしろ) 冬那(ふゆな)です。改めてお願いします」

 互いに会釈をしながら、ほぼ同時に少女の顔を見た。

「な、なんだよ」

 俺はこの記憶の面倒くささに茶々を入れたいからだ。八重代さんは何を思ったのだろうか。

「この記憶、どうなってるんですか……?」

 どうやら同じ疑問を抱いているようだった。

「いや、ここの記憶持って帰られても困るんだよ」

「だとしたら、俺たちは他人同士の状態で面と向き合わないといけないんだぞ? その場合、お前だってすぐに死んでしまうことなんて容易に想像できたんじゃないのか?」

「いや、私に言われても……ここの世界のルールを決めたの私じゃないし」

「じゃあ、誰だっていうんだよ」

「私だって知らない。もっと位の高い存在だから、私ごときが知ったらまずいんだよ」

 いくら問い詰めても少女は嘘偽りをついているようにも見えないし、そのことに対しては本当に言いたくないという嫌な顔を浮かべている。

 きっと、本当に少女の言う通りなんだろう。

 でも納得はまだできない。

 それなら猶更、俺たちを気まぐれで生き返らせたことへの恨みなどが積もる。

 腹の居所も悪く、また暴言を吐きそうになった俺に、八重代さんが手で制止してきた。

「それくらいにしときましょう。たぶん、この子も被害者の一人だと思います」

 八重代さんは微笑みながらも真剣に、丁寧に言葉を吐いた。

「いや……あんな世界にまた産み落とされたことへの」

 恨みと言いかける口を、八重代さんは物理的に手で口を塞いで、首を横に振った。

「私だって嫌だったけど、死ねなかったという偶然の事だと考える方が、利口だと思います。ここでこの子と争っても意味ないです」

 正論を言われて、俺はぐうの音も出なかった。

 確かにその通りだ。感情的に論じすぎた。

「そう……だね。わかった、許すよ。ごめん」

「まあ……私もできれば記憶は持っていってほしいんだよ? でも、決まりがそうさせないから、どうやっても無理なんだよ……」

 少女は人差し指を合わせて、もじもじとしながら八重代さんの後ろに移動していった。

「そうか。んで、今度も生き返らすの? さっきエンマとやらに怒ってただろ?」

 俺が核心を突いた話を持ち掛けると、少女は顔を明るくして頷いた。

「またあの野郎、私ににっこにこな表情で自殺した人の処遇を決めさせてきやがったんだよ。だから、今回もお前ら二人を現世に戻したい。でも……嫌ならもうやめる。私も成長しないわけではないんだ。お前らが嫌って言うんなら……」

 そこまで言って少女は悲し気に顔を上げた。そういう顔にはめっぽう弱い。

「わかったよ……もう、好きにしろ」

 八重代さんも俺の言葉に頷いた。

 まるで母親みたいだな……

 そんなばかみたいな考えをしたことは内緒だ。

「じゃあ早速戻すぞ! あ、でも望むなら同じ病室にしてやるよ」

 ん……というか

「お前、俺らはどうやって生き返らせるんだ? 何十階もあるビルから落ちたんだぞ?」

 普通の疑問を提唱すると、少女は誇らしげに手を腰において笑った。

「それは私、神だから。周りの記憶とかの改ざんも別の神様に頼むことができるし、私は魂を操れるだけだから専門外なんだけど、外見とかも変えることは可能だぞ?」

 へー……

 よくよく考えれば、俺たちは今、神がいるという事実を知ってしまっているわけだ。

 それを現世に持ち帰るのは確かに危ないかもしれない。俺の考え不足だと、痛感した。

「流石は神様だな。なんでもありか……」

 俺たちが深く考えたところで、そのあたりの知識を持ち合わせているわけもないし、考えられる次元にいない。なら、考えるだけ無駄な話だ。

「同じ、病室にしませんか」

 そう考えているのは俺だけではないようだ。

「うん。そうしよう。そっちの方が何か気づくかもしれない」

「はい」

 八重代さんと確認を取り合っていると、少女は褒められたからか、鼻を高くして話に割り込んできた。

「ちなみに、時間かけてもいいなら自殺しない選択をした方にもできるけど」

 は……?

「今、なんて言った?」

「だから、自殺しない選択をした時間軸にもできるって」

 この神はバカなんだろうか。

「それなら、俺らの不遇な状態を記憶改ざんと、時間軸とやらで解消してくれたらいいだろ」

 ばかばかしく正論を言うと、少女は初めて見せる怒りの表情を見せた。

「私たちの何年を費やすと思ってるの……? 苦痛だって伴うんだよ?」

 諭されてしまった。まあ確かに、そういうものなんだろう。

「何事もなかった日にするのだって今からちょっとかかるし、痛いのに……」

 罪悪感に付け込んでは、追い込みの言葉を投げかけてきた。

「それは……ごめん」

 相手が人外だから、俺も感覚が狂う。

「その、何事もなかったって、具体的にどうなるんだ?」

「お前はネカフェ」

「冬那は会社出たところだよ」

 俺だけ名も名乗らずに指をさされた。

 やっぱり、こいつ俺の事が嫌いなんだろうな……

 少女はまた八重代さんの後ろで俺を睨むように見ている。

「私はそっちの方がうれしい。入院する時間は億劫ですし」

「それもそうだね」

 俺が肯定すると、少女はすぐに手でオーケーとハンドサインを浮かべて、姿を消した。

 まじか……本当に姿が消えるんだな

 今、そこにいた物体がそこにない。実に不思議な気分だ。

「それで奏斗さん……私たち、どうすればこのループを抜け出せれるんですかね」

 以外と八重代さんは表上では優しくふるまっても、内心では焦燥感を覚えるタイプらしい。

 そりゃ俺も聞きたいよ……

 どうせ死んでもやることはない。それなら、別にあの神に付き合ってもいい。付き合ってもいいけど、確かに終われる条件は何なんだろうか。

 それがあるものなんだろうか。

「天寿を全うするとか言われないですかね……」

 八重代さんは冗談でも言われたくないような発言をした。

「俺、それなら成仏するよ」

「私もです」

 さすがにか……

 でも、本当にどうすればいいだろうか。

「ま、まあ。また今度考えましょう」

 八重代さんは意外と、深く物を考えないタイプなのか、ただ馬鹿なのか、目をぐるぐると回し、手を口元で合わせた。

「それより、記憶について話をしたくて」

「同感だよ」

「ですよね。記憶なくなるって、どう会って、どう話をしたらいいんでしょう」

 うーん……

「あれって、一応会話じゃないの?」

 あれが会話でないと言い張るのであれば、八重代さんのなかで何を基準に会話と呼んでいるのかが気になる。

「んー……どうですかね。正直、自殺願望者の重苦しい自分語りのような気がします」

 まあ……それもそうか

「そうじゃなくて、もっとこう……」

 言葉を詰まらせて首を少しずつ傾けていく。

 何してんだ……

 首が肩につくほど傾けたとき、元に戻ってはまた傾けてを繰り返し始めた。

 んー……

「まあ、普通の会話ってことだよね」

「は、はい。でも普通の会話ってなんなんでしょう……」

 いやそこから……

 終始、これからの事を考えすぎて頭のキャパがオーバーしていそうな八重代さんと会話を弾ませているうちに、少女が戻ってきた。

「よしっ! 準備は整った。還すぞー」

「とりあえず、還ってから違和感に感じたことはメモに取っておきます」

「わかった。たぶん、それも覚えてないけどね」

 俺がつっこむと、八重代さんは恥ずかしそうに笑った。

「やるよ? いい?」

「ああ、一思いにやってくれ」

「あいよー」

 そうしてどこかご機嫌な様子の少女によって俺たちはまた現世の方へと還された。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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