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ある日、俺は死後の世界で君を知った  作者: 為世 斐文


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第18話「君をしってしまった」

 昼を食べてからまたどっちがデカいモニターを使うか問題が発生した。

「そもそも、番組とか言ってるけど地上波は非対応だって昨日わかっただろ」

「サブスク映したいんです!」

「だからそれで見ればいいだろ」

「夜船さんだって自分のパソコンあるじゃないですか!」

「古いから重いんだよ」

「こっちだってスマホ画面だと小さいです!」

 はぁ……

「もういいや……先使ったら?」

「……そういうのやめてくださいよ」

「使いたいんでしょ? もういいって、喧嘩するだけ無駄なエネルギー使ってるだけだし」

 彼女はまた前みたいに黙り込んで頭を膝に埋めた。

 またでた……

 俺は放っておいて、パソコンを開いた。

 すると、俺の虚偽記憶という曲がまた少しバズっていた。

 変な気分だな……

 実に不愉快である。

 記憶にない時の自分が作ってあげた曲というのは、他人が作ったような気がして変な気分になる。

 もう八十万回再生されてんのか……

 音楽家としてのプライドが許せない。

 でも、ギター弾いたらうるさいって言うだろうしな……

 本当に彼女が邪魔だ。

 まだ膝に頭をうずめて固まってる。

 まあ、モニター使ってないし、音出してもいいか

 彼女の横に立てかかっているギターを手に取ったとき、その手が掴まれた。

「なに?」

 顔を上げた彼女は頬のあたりが濡れていた。

 んん……

 また心が熱くなってくる。

「はっきり言って?」

「もう、喧嘩なんてしたくないです……でもああやって突き放して、自分がまるで上の人間だって感じに物を言われるのも、嫌です……同居しているんですから、対等でいたいです……」

 それを先に提示したのは俺なんだけどな……

 また怒りが湧きながらも、ここで怒っても本末転倒だ。しかも、彼女から俺のしたいことを提案してきたのだ。その提案に乗らずに何に乗るというのだ。

「分かった」

 ――先に動いてたの俺だけどな?

 その言葉は上手く呑み込んだ。嘘をつくのは得意だから。

「じゃあ、俺は今からギターを弾きたい。どうすればいい」

「私が……イヤホンしておきます」

「ん」

 こうやって物事に折り合いを付けられるのは実にありがたい。これをずっと望んでいた。

 だいぶ遠回りになったが、結果的に俺のあってほしい関係になれたということだ。


 あれからまた時間が経った。

 もう夕方か……

 まだモニターを使っている彼女の肩を叩いた。

「はい?」

「もう時間的に飯食いたいんじゃない」

 そう聞くと、手を軽く合わせて頷いた。

「そうですね。食べたいです」

 そう言って笑った。

 ん……

 その顔に俺はまた、可愛げを感じてしまった。

「またスーパー?」

「んー……そうですね。食べに行ってもいいですけど、どれだけ同居しないといけない時間がかかるか分かりませんし、値段は五百円以内にはしておきたいですね」

「そうだな」

 どれだけかかるか……それも、そうだよな

 もしこのまま二人でいないといけない時間しか続かなかったら、俺たちはどうするんだろうか。

 そのころには、もう二人で過ごそうと提案していたりするんだろうか。

 今ではあまり考えられない。考えられることと言ったら、何とかして同時に自殺することくらいだ。それが手っ取り早い。

 でも、多分どちらかが生き残ってしまえば、それは彼女の言うように面倒なことになるかもしれない。

 そして、結局謎を多く残しすぎたまま死ねないのが俺たちだ。

 そう考えると、似た者同士なのかもしれない。

 これからどうしたもんかねー……

「早く行きますよ」

 急かす彼女に二つ返事をして、俺も夕飯を買いに出かけた。




 あれから数日が経った。

 もう二人ともこの生活には慣れた。

「夜船さん。もう、マンションとか借りた方がいいんじゃないですかね」

 そんな話が出てくるくらいには慣れてしまっていた。

「まあ……借りてもいいけど、お金どうすんの?」

「それは……どうしましょう」

 結局、彼女は仕事を辞める形になった。

 食欲はあっても物欲がないらしく、貯金は結構あるらしいがそれでもマンションを借りるとなったら色々とお金が必要になってくる。

 そんな余裕はないのではないだろうか。

「まあ、広さとか自由はあったほうがいいと俺も思うけど……金合わせても、そんな日数過ごせないよ」

「そうですね……」

 あれからまた曲がプチバズりはしたものの、再生数は百万止まり、確かに数十万の手取りはあった。でもそれは総額の話であって、今はもう十万とちょっとしか残っていない。

 マンションを借りるとなったら、初期費用でも最低二十万。月に支払う金額も二十万くらいだとしたら、もう四十万も必要になってくる。

 さすがにこれを買って、継続させていくのは無理があるだろう。

「まあ、もうちょっとで新曲だすし、ちょっと長めに見とくか」

「そんなに稼げるんですか?」

「まあ……数十万単位で稼げたりすることもあるよ」

「へー……すごいですね」

「まあまあだけどね」

 結局はいつか潰れていくだけだし……


 夜、また俺は寝苦しさで目が覚めた。

 いつも通り、彼女が俺に背を付けて寝ている。この寝方が安心するのか、それとも勝手に体が動いているのか。

 俺はそんな状態にも慣れてしまった。

 ったく……

 彼女の方に掛布団を多めにかけて、俺はまた眠りについた。




 そんな生活を長々と暮らしているうちに、俺たちの仲はだいぶ良くなってきてしまった。

 昔にもう情を築くのはやめると固く決意していたのがまるで嘘みたいだ。

 あれから俺は彼女の事を八重代さんと呼ぶようになった。

 そして、その八重代さんも曲ではないがまた別で動画を出しては稼ぐことを生業にしていた。

「貯金、まあまあ集まりましたね」

「そうだな」

 記憶のない時の俺に負けたくなくて、いつもより丁寧に作った曲がまたバズった。

 もしかしたらそっち路線で少し世界に見られつつある状態にいるのかもしれない。そう考えるほどにはあっさりとすぐにバズった。

 出して一週間もすると前の曲よりも二倍近くも視聴され、物欲のない俺の貯金額は右肩上がりだった。

 八重代さんの動画も、別にそこまで悪くない稼ぎをしている。

「マンション……買えるかもね」

「ですね!」

 今頃、八重代さんが喜んでいる表情を見ると、胸が温かくなる感覚がしている。

 多分、俺はまた過ちを犯そうとしている。そして、それを俯瞰的な自分は認知しておきながら、歩んでみたらいいと笑う主観的な自分がいる。

「今日昼なに食べる?」

「そうですね……」

 そう言って食の話のときだけ真剣な顔で首を傾ける八重代さんが、


 ――好きだ


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