22: 韓承勲の過渡政府
新体制の生徒会を裏から支えながら、承勲は一人「ハチマンの家」へ向かう準備を進める。資料では限界がある——春休みに聞慶へ直接行くという決心。アンナとの対話で問われた「目的は真実か、復讐か」。承勲は「真実です」と答え、アンナは初めて微笑んだ。メモ紙の最後に書き加えた一言——*目的:真実。*その言葉が、これからのすべてを決める。
第22話
韓承勲の過渡政府
2018年2月末。
趙英民と朴允成が承勲の家に集まった。三人は机の前に座って新学期の生徒会予算案を広げた。
「今回の予算、前年度比で体育祭の項目を減らして文化祭の方を増やした方がいいと思う。」
承勲が先に口を開いた。趙英民は予算表を見ながら頷いた。
「体育祭はどうせ学校の支援金で回るから。文化祭は自体予算がもっと必要だし。」
允成は自分のノートに修正事項を書き留めながら言った。
「社会科の選択科目の話なんだけど……俺、東アジア史の成績がどうしても上がらないんだよな。」
承勲はしばらく允成を見た。
「どのパートで詰まってる?」
「近現代史のとこ。流れはわかるんだけど、細かい年号がいつも混乱して。」
その言葉が出た瞬間、允成は止まった。頭の中に突然浮かんだ顔があった。
ジェウォン。
近現代史ならジェウォンが誰よりも得意だった。授業中に先生も驚くほど正確に年表を把握していた子。摂食障害で苦しかった頃も図書館で歴史の年表を書き続けていたあの手。
今どうしているんだろう。
允成はその考えを口には出さなかった。ただペンをまた手に取った。
承勲はその短い沈黙に気づいたのか言った。
「東アジア史は流れで覚えようとしないで、出来事の因果関係で掴んで。年号はその次だよ。」
「……うん、わかった。」
允成は頷いた。ジェウォンの話は出さなかった。
予算会議が終わって趙英民と允成が帰った後、世英が居間を通りかかって承勲の部屋の前で止まった。
扉に鍵がかかっていた。
普段は鍵をかけない扉だった。
世英はノックした。
「承勲、ヘアピン見なかった?私の部屋にないんだけど。」
「ない。」
「何してるの?」
「勉強。」
短い答え。世英はしばらく扉の前に立ってから背を向けた。何かが違った。最近承勲が部屋にいる時間が長くなっていて、ご飯も一人で早めに食べて入ってしまうことが多かった。
居間に戻った世英はソファに座ってしばらく考えた。
何か一人で抱えてるんだ。
聞いても話さないだろうということはわかっていた。しかし少なくとも一人で倒れることだけはあってはならなかった。
部屋の中で承勲は机の前に座っていた。
ノートパソコンの画面には聞慶に関する資料が広げられていた。アンナが言ったハチマンの家。21話で決心したこと。冬休みの間に行こうと思っていたのに、いつの間にか新学期になってしまっていた。
資料を集めるほど断片が見えてきた。1962年、慶尚北道・聞慶。当時の新聞記事たち。事件があったという痕跡はあるのに、具体的な内容はなかった。誰かが消したのか、最初から記録されていなかったのかわからなかった。
直接行かないといけない。
聞慶はソウルから遠くなかった。電車で二時間ほど。
承勲はノートパソコンを閉じてメモ紙に短く書いた。
ハチマンの家。聞慶。春休み。
3月になった。
新学期が始まり、生徒会は趙英民体制へと完全に移行した。承勲は書記の役割を担ったが、実質的にやっていることの範囲は書記を超えていた。予算の企画、行事の演出、後輩生徒会員の教育まで。趙英民と允成は承勲の判断を信じてついてきた。
承勲はその仕事たちを黙々とこなした。前に出なかった。誰かが認めてくれようとくれまいと関係なかった。
「承勲がいなかったら本当に回るかな?」
ある日趙英民がひとり言のように言った。
允成が笑いながら答えた。
「回るよ。でもかなり遅く。」
承勲はその会話を聞いて何も言わなかった。ただ心の中で思った。
今年中に終わらせないといけない。
生徒会の仕事も、1962年の真実も。すべてを整理してロースクールの準備に集中しなければならなかった。
4月のある午後、承勲はアンナを訪ねた。
アンナは図書館の隅の席で本を読んでいた。承勲が向かいに座ると顔を上げた。
「春休みに聞慶に行こうと思ってます。」
アンナは本を閉じた。
「一人で?」
「はい。」
「そこで何を見つけると思う?」
承勲はしばらく考えてから言った。
「わかりません。でも資料では限界があって。直接見ないといけないと思って。」
アンナはしばらく承勲を見つめた。
「気をつけないといけない。」
「何を。」
「そこに行くと予想より重いものを見ることになるかもしれない。準備できたと思っていても、いざ見ると違う。」
承勲はその言葉の重みを測った。
「わかってます。それでも行かないといけない。」
アンナは頷いた。
しばらく沈黙が流れた。アンナが先に口を開いた。
「承勲、一つ聞いてもいい?」
「はい。」
「あなたはなぜこれをしようとしているの?真実を明らかにすることが目的なの、それとも祖父を裁くことが目的なの?」
承勲はその問いにすぐ答えなかった。
窓の外から春の陽光が図書館の床に長く差し込んでいた。
「……わかりません。まだ。」
「その『わからない』が大切なんですよ。」
アンナは静かに言った。
「目的が復讐の人と真実の人は、結局違う道を歩むことになる。今わからないということは、まだ選択できるということだから。」
承勲はその言葉を長く見つめた。
目的が復讐の人と真実の人は違う道を歩む。
4話でアンナが韓鍾洙に言っていた言葉が浮かんだ。あのとき、アンナは復讐心に燃えていた十八歳の韓鍾洙にも同じ方向の言葉を言ったはずだ。そして韓鍾洙はその言葉を聞かなかった。
承勲はゆっくりと口を開いた。
「真実です。それが目的でないといけないと思います。」
アンナはその言葉を聞いて初めて静かに笑った。
その夜、家に帰った承勲は部屋に座ってメモ紙を再び取り出した。
ハチマンの家。聞慶。春休み。
その下に一行を書き加えた。
目的:真実。
世英が部屋の扉をノックした。
「ご飯食べて。」
「うん。」
承勲はメモ紙を机の引き出しに入れて立ち上がった。居間に出ると世英が食卓を用意していた。
二人は無言でご飯を食べた。世英が汁を注ぎながら言った。
「最近、何か考え事してそう。」
「ただ勉強。」
「それ、勉強してる顔じゃないんだけど。」
承勲は箸を置いてしばらく世英を見た。
「……春休みに聞慶行くよ。」
「聞慶?なんで?」
「ただ行ってみたくて。」
世英はしばらく承勲を見た。もっと聞こうとしてからそのまま飯を食べた。
「そう。気をつけて行ってきて。」
それだけだった。しかしその一言が承勲には思ったより軽くなかった。
大学修学能力試験まで約六ヶ月が残っていた。
承勲は中間テストを終えてから成績表を受け取った。全科目1等級。予想通りだった。
それより大切なことが別にあった。
春休みが二週間後に迫っていた。
承勲は電車の時間を調べた。水原から聞慶まで。乗り換え一回。
そしてアンナが教えてくれた住所をノートに書き写した。
ハチマンの家。
1962年、韓鍾洙が一生隠してきた場所。
趙東赫という名前と繋がっている場所。
行ったら何が見えるんだろう。
まだわからなかった。しかし今こそ足を踏み出すときだということだけは、承勲はわかっていた。
その頃、図書館でアンナと出くわした允成が恐る恐る聞いた。
「アンナ、お前、承勲と仲いいの?」
アンナは本のページをめくりながら言った。
「よく知ってる仲です。」
「いつから?」
アンナはしばらく言葉を選んでから答えた。
「ずっと前から。」
允成はその言葉がどういう意味なのかわからなかったが、それ以上聞かなかった。アンナが話す方法はいつもそういうものだった。すべてを知っているようなのに、正確に何を知っているのかは決して先には言わない人。
允成は席に戻りながら趙英民に言った。
「あの子、何か違う。」
「何が。」
「ただ……承勲のことをずっと前から知ってるみたいに話すんだよ。」
趙英民は肩をすくめた。
「二人とも変わってるよ。元々そういう子たちだから。」
春休みの前夜。
承勲は窓の外を眺めた。
明日で聞慶へ行く。
祖父が一生隠してきた場所。アンナが言ったハチマンの家。1962年のあの夜と繋がっている何か。
怖くないといえば嘘だった。しかしそれより強いものがあった。
目を背けない。
21話で雪原に立ってした誓い。その誓いが今この瞬間を作り出した。
承勲は電気を消して横になった。
目を閉じると手のひらの内側に古い残像が漂った。韓国に初めて到着した日からあったもの。まだ名前をつけていないもの。
明日には少し近づくはずだ。
それが怖くもあり、不思議と待ち遠しくもあった。
第22話を読んでくださり、ありがとうございます。承勲が静かに、しかし確実に動き始める話を書きました。アンナの「目的が復讐の人と真実の人は違う道を歩む」という言葉——これは4話で韓鍾洙が聞かなかった言葉でもあります。承勲は同じ言葉を受け取り、違う選択をした。その違いがこれからの物語を大きく分けていきます。次話もよろしくお願いします。




