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追求のドンカイ  作者: 夕闇
第1章 「起」
10/10

修行

少し慣れてきたので分量を増やすこととしました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから1年がたった。


この頃には魔法がある程度コントロールできるようになっていた。困難に思えた魔力のコントロールは、端的に言ってしまえば思っていたほどに困難なものではなかったのだ。

理由としては、この体の異常な魔力量と根気が関係している。

一般的に魔力というものは生まれた時から個人差があり決して努力で埋められるものではないという。それに加え、この忍耐力。入りたての頃の自殺願望を抱いていた時とは人が変わったような根気強さで、失敗して倒れても目覚めた瞬間に魔法を使ってしまうほどに、俺は魅了された。


最初の方こそ制御ができず、暴発させては数日寝込むなんてざらであったが、その忍耐力で魔法を使っては倒れ、使っては倒れを繰り返し、半年がたつ頃には、暴発を起こすことは無くなり、残りの半年で完全にコントロールすることができた。

師匠(おじさん)は、ドン引いていた。師匠いわく、


「普通成長してから魔法をコントロールするのは不可能とされているんだがな、、、仮に出来たとしても20年はかかると思っていたんだが、、、正直気持ち悪さすら感じるよ。」


とまで言われるほど、習得はあまりに異様だったのだ。まあ素人目で言わせれば、もともとそうやって生活していたのであろうし、昔出来ていた時の感覚が残っていたと考えるのが妥当であろう。師匠はあまり信じてくれなかったが、記憶を失ってもないのに分かるわけもないだろう。

ついでに言えば、文字が見えることも関係している気がする。

具体的に説明することはできないが、魔法の成功時と失敗時では文字が少し違って見えるのだ。外見的な特徴ではなく、何かが違うという感覚だけが視覚から流れ込んでくる感じだ。

しかし、自分の感覚を過信することなどは出来ないため、俺は気にすることなく、ひたすら修行した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから5年の月日が流れた。


この頃には基本魔法の主な魔法を覚えた。師匠によると基本魔法の数はとんでもないらしく、すでに1000以上の魔法を覚えたが、それでも全体の1割未満らしい。いやー恐ろしいねー


「こんな短期間でそんな魔法覚えて、、、お前さんの方がよっぽど恐ろしいわ。」


師匠にはそう一蹴されたがね。

それにしても新しい魔法を覚える度に、色んな発見があった。

まず知ったのは、魔法の発動前に師匠が言っていたものは詠唱というらしく、それ自体にあまり意味は無いらしい。子供は詠唱することで、魔力をコントロールしやすくできるらしいが、大人にとってはあまり効果のないものだった。

なんなら子供でも、人によって、詠唱しない方がコントロールしやすいという人もいるらしい。


そして魔法には思ったよりも技術が必要とされる。

最初の1年では基本の魔法を3つほどしか学んでいなかったため、難しさや技量を必要とするものはなく、魔力のコントロールだけに集中できていたが、ここ5年で1000個以上の魔法を覚え、大衆向けのものから、ニッチなものまで使えるようになるまで、それ一本だけでは乗り越えられないものがあった。

すべてが全く違うとは言わないが、1つ1つの魔法が別々の特徴を持っているかのようだった。何より魔法の器が全然違っていて、魔力を込める向き、速度、大きさ、がそれぞれの魔法でベストな位置があった。それに近づけば近づくほど、魔法はイメージ通りに使える。

ここで言う魔法の器とは、魔法の呪文を唱えたときに見える言葉のことだ。これらは言った言葉とリンクせず、別の日本語が見えるため、そう呼ぶこととした。

とにかく、覚えんのがムズイ。基本魔法と戦闘魔法が階級分けされている理由がわかるってもんだ。これからに向けてのいい経験を得られた。師匠は、


「お前さん2,3日で魔法覚えてないか?もうバケモンに近いだろ。」


と言い。わざとらしくも、ビビり散らかしていた。

ここまで過ごしてなんとなく分かったが、師匠は教えるのがとんでもなく上手い。俺のことをバケモノ呼ばわりしているが、師匠の方がよっぽどバケモノだ。言語化能力が非常に高く、多分この教えられ方なら誰でもこのくらい覚えれると思う。


ちなみに、修行を始めてから5年目で本命だった反射の魔法を覚えた。俺の姿は、まあなんていうか、想像通りって感じだ。ぱっと見20前後に見える顔つき体つきに、少し外側への癖が強い髪、目鼻立ちは整っていて、手入れさえすれば普通に悪くない見た目であろう。正直もっとイケメンな姿を期待していたが、思った以上に両性的な顔立ちでモテるかと言われたら微妙だ。少しばかり期待外れであったがいい知識を得られた。今後気になる女性ができたならば、積極的にいかねばならないと小さく決意した。


著しい進展はこの5年で得られなかったが、魔法を使う力は着実に進んでいる。そうして俺は修行を続けた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

修行を始めてから40年がたった。


俺はこの頃、精神的にも肉体的にも疲弊していた。それはと言えば、家づくりが絶賛瞑想中だからだ。

家自体を作り上げることはできたのだが、師匠から合格がもらえない。実は、修行開始から20年ほどで簡易的な家は完成したのだ。そこからもう20年近く沼っている。その原因が分からないまま、作っては壊すことを繰り返した。家具を増やしてみたり、家の大きさを変えたり、建物の構造、色彩などのあらゆる変化を混ぜ合わせたが、師匠の首は一向に縦方向に振られない。

俺は都合良くいかない現実を知った。もうここ最近はアイディアも出なくなってボーっとする日々を過ごしている。

このままじゃいけない!

そう思い続けるも、手足が動かない日が続く。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから20年がたった。


師匠は言っていた通り、30秒、つまり50年のタイミングで一切助言をくれなくなった。

俺は有り余った情熱を他のことに使うことが多くなった。

いくら家を作り直しても、判定はいつもNO。やる気が尽きるよりも先にアイディアが尽きたことで、もとより興味があった魔法の研究に没頭した。

研究と言っても、新しい魔法を考える、いかにも普通の研究だ。だいたい400個は作ったかな。

とはいえ、師匠が教えてくれなかっただけで、存在していたはずの魔法しかないだろう。魔法は人の願いの再現だ。いくら探求欲が強くても全ての人の想像力を超えることはできない。

しかし、それを諦める理由にはしたくない。超えられなくたって、突き出すことなら出来るはずだ。壁がどんなにでかくとも一つの部分をたたき続ければ、きっと細い穴はあけられる。そう信じて魔法を作り続けた。


そんなある日、一つの魔法を作った。名は「放心()」とした。考えすぎで頭がごっちゃになるとき、強制的にリセットしたいなあと思い、作った。そんな軽い気持ちで作った魔法が、


この部屋を狂わせた。


最初は自分にだけ効果がかかるように付与魔法にしようと考えていたが、製作段階でその難しさに気づき、放出魔法にシフトし、製作したが、それが間違いだった。

それを発動した瞬間、部屋全体が震えだし攻撃してきた。部屋が攻撃しだすなんてこと、誰が想像できるというのだろうか。

そんなことを考えてもみなかった俺は、壁から飛び出してきたこぶしに、いとも簡単に吹き飛ばされた。

どういうことなんだ?今までは魔法を使っても何も起こらなかったくせに、、、っていうか師匠たちは大丈夫なのか?

吹っ飛ばされながらみんなの心配をする。こぶしを食らったこと自体は普通に痛かったのだが、自分のことより他人の心配が先に来た。

魔法研究のため、部屋の隅っこで作業していたから、ここから師匠たちを視認できない。師匠は強いしどうにでもなるだろうが、おじいさんとおばあさんたちが危ない。あの二人は、この修行に何も関係がないし、絶対に傷ついてほしくない。そう思い、床で受け身を取りつつ、そのまま駆け出した。

幸いにも今日はあまり魔力を消費していなかったため、まだ魔法が使える。急げっ!!

俺はこの修行の日々で得た知識をフルに活用する。まずは付与魔法!

速度上昇(M・マッハ)魔法効果上昇(M・ブースト)、そしてオリジナル!軽くなれ(フワフワ)

付与魔法の重ね掛けは3重までしかできない。60年の修行で得た知識だ。こっからはもう力業。

速度が飛躍的に上昇し軽くなった体で風のように駆ける10秒もしないうちに視認できる位置についた。見えてからはもっと早い

瞬間移動(ワープ)!」

見える範囲ならどこでも跳べる便利魔法だ。おじいさんたちのもとへたどり着いたと同時に、

守護(M・シルヴァ)!」

周りに見えないシールドを展開した。これで安全面は大丈夫なはずだ。


「大丈夫か?」


「ああ、()()()は大丈夫じゃよ。」


その瞬間、唯一シールドを張っていなかった真下、地面からボコッと針のような鋭く殺傷力にたけたとげが迫ってきた。それをおじいさんは


「ふんっ、」


と言って、目に見えない速さで粉々にした。


「ぁ、ありがとう。」


「お主は儂らを何だと思うとる。」


「何とも思ってないが?」


「っ!失礼な奴じゃね。これでも一応は同居人じゃろうに。」


「同居人って、深い仲でもあるまいし、年代も違うじいさんばあさんのどこに興味を持てばいいんだよ。」


「まあこれ以上はもうよい。部屋の暴走も収まったようじゃしな。」


そう言われてあたりを確認すると、揺れは収まり、変形した壁や地面も、部屋が本来持っている力である再生の加護の力が戻ったのか、すべて修復され、まるで何もなかったみたいである。


「してお主、いったい何をしてイザベラを怒らせたのかね?」


「イザベラ?」


「この監獄を作った女神の名じゃ。」


!!どうしてそんなことを知ってるんだ?いや、そんなことより怒らせた?そんな覚え一つもないんだが、、、


「ふむ、心当たり無い顔をしとるの、なら、お主の師匠の方か?」


「なわけないだろ。」


後ろから声が聞こえる。振り向くと、師匠がいた。


「大丈夫だった?」


本気で心配していたように振る舞う。しかし、それはあからさまだったようで、


「今更、心配な振りしたってなんもしてあげんぞ。」


「チェ」


つれないの、、、もう修行始めて60年だ。もうそろそろ出てみたいってのに、

どうやら、そう思ってることがめちゃくちゃ顔に出てたみたいで、


「なら、もっと家を磨くんだな。」


「磨くってこれ以上が何が出来るんだよ。考えうる限りの内装外装、家具のレイアウトまでやったじゃねえか。」


「まあ落ち着けよ。お前さんはまだ必ず成長できる。それより今は話すべきことがあるだろ。」


「この部屋の暴走のことか。」


「ああ、そうだ。俺の知る限りではこんなこと初めてだ。」


「俺の知る限りってたかだか60年くらいだろ。」


「いや違うさ。この監獄ができてから、300年、いや現実時間との時の流れの違いも踏まえると30000000000年(300億年)だ。その長い歴史の間、一度もこんなことは確認されていない。」


「300億、?そんなん分かんねえだろ。300年前から生きてたってのか?」


「ここは一応、監獄の一番上の等級だ。厳重に情報が管理されているのは当然だろう。」


「それはそうかもしれないが、それをおっさんがなんで知ってるんだ。」


「お前さんを助けるために、しっかり調べてきたんだよ。」


また嘘をついて、、、


「俺に嘘は通じないって知ってんだろ。本当のことを教えてくれよ。」


「それは出来ない。というより伝えることができないといった方が正しい。俺が本当のことを言ってもお前さんは理解できないんだ。理解してくれ。」


ッ!!嘘じゃない、これは本当なんだ、、、


「わかった。」


「ほぉ!!お前さん、素直になったな!」


「うるせぇ!」


「まあ、捻くれてるところは変わらないか。

それより、お前さん何をしたんだ?女神を怒らせるなんて、、、」


「じいさんにも言われたが、怒らせるってどういうことだ?」


「あーそれはだな、さっきの揺れはな、部屋の秩序を著しく乱れたときに起こる「怒り」って呼ばれている現象だ。部屋のルール自体は女神によって違って、詳しくは明らかになっていない。この部屋の創造主イザベラも何に怒るのか解明されていなかったんだが、、、とにかく、怒りが発動したときお前さんが何してたか教えてくれ。」


「えーっと、いつも通り、新しい魔法を作ってた。」


「なんの魔法だ!!」


師匠がいつにも増してぐいぐい来る。少し驚きつつも、


放心()っていう頭ン中空っぽにして思考を放棄させる魔法だけど、、、」


()()、、、」


「無い、って何が?」


「そんな魔法は、思考を放棄させる魔法なんてものは無いんだよ。」


「それって、」


「この世界に存在していない、お前さん唯一の魔法ってことだ!」


口角が上がる。あふれ出る気持ちが止まらずニマニマしてしまう、ついにはしゃがみこんで喜びをかみしめてしまうほどだ。ぼんやりと、新しい魔法を作ってみたいと思っていたが、本当にできるなんて想像していなかった。達成感で心を包まれていると、


「おーい、自分の世界に浸るんじゃねえ。お前さんには悪いが似たような魔法自体ならいくらかあるんだ。例えば、体の力を抜く魔法や、頭を悪くする魔法とか。それでも、思考の放棄は誰も作らなかった。それはきっとこの魔法社会で、考えを放棄するなんて誰もできなかったからだ。

よくやったな!」


師匠に褒められた。えー、




めっちゃうれしい~~~!!!

えーヤバイ、今、褒めた!?初めて褒められたかも!!やばーーー!

何を隠そう、この60年の修行という長い年月を共に過ごし、師匠のすごさにべた惚れたこの男は、厄介なツンデレオタクと化していた。

ゆえに、男は今、最高潮に興奮していた。


「ともかくこれでお前さんの修行は終了!試験は合格だ!」


「へ?」


唐突に告げられた合格に驚きを隠せない。褒められたことなど一瞬で頭から吹き飛んだ。頭に浮かんだ疑問をそのまま言葉にする。


「いや、なんで?」


「実はな、この試験は表と裏の試験があってな、一つは口頭で述べた通り家づくり。そして、もう一つはオリジナル魔法の作成だ。」


「はあ、なんだよそれ!なら最初っからそう言ってくれれば、、、」


「いや、それはできなかった。」


「なんでだよ。」


「お前さんの能力をめいいっぱい伸ばすためさ。正直に試験内容を言ってしまえば、お前さんの才能だときっと、半分くらいの年月、30年くらいでどっちも達成できてただろうよ。」


師匠の純粋な過大評価に再び照れつつも、まだ納得できるほどの理解は得られていない。

別に試験の後に修行を続けることだってできたはずなのに、どうしてそうしなかったんだ?師匠に対して強い疑念を抱く。


「おいおい、そう睨むなって。」


はっとした。60年もの間、この体と付き合ってきているがどうしても感情が表情に出てしまう。この癖だけは、難儀なことにどうやっても無くすことが出来なかった。最近はコントロールできていると思っていたが、まだまだだったようだ。


「・・・はぁ、、、きっとお前さんは試験をクリアした後に修行すればよかったんじゃないかとでも思ってんだろうけど、それは出来ない。」


「どうしてだ、、、」


「それはここが監獄だからだ。」


「監獄だから?」


「ああそうだ。ここはファグニット監獄の一級(アダム)だぞ。常に監視が張り付いているに決まっているだろ。それに加えて、この部屋で異常が起きた際には扉が自動で開いて現実とこっちの世界の時間を繋げちまう。そのタイムラグは0.001秒だ。つまり、現実世界の約2か月で監視が突入してくる。きっとそうなってしまえば、俺たちは終わりだ。二度と監獄の外には出れねえな。」


「出れない?ここは刑期を満了すれば必ず出られるのではなかったのか?」


「それは監獄のルールに則っておけばの話だ。当たり前だが、監獄にもルールがあって、それを破れば、当然罰がある。

その罰がこの世界で唯一認められている罪人への死罪だ。」


・・・死罪

出来れば聞きたくなかった言葉だ。師匠が監獄を死ぬまで閉じ込める所と言っていたから、もしや存在しないのではと思っていたが、どんな世の中でもあるんだなと改めて実感する。


「まあでもそれは大丈夫だ。ここから逃げる手はずはすでに用意してある。ただ説明した通り、監視が2か月以内に突入してくるため、お前さんの力を最大限伸ばすためには試験内容を隠すほかなかったんだ。すまなかった。」


師匠の真摯な姿が目に映る。

こんな真剣に誰かを思える人っているんだな、、、かっこいいなぁ。


「もういいよ、それがおっさんなりの気遣いだもんな。」


師匠が目を見開いた。俺の態度に不満を示したのか?

否。それは俺に対する態度ではなかった。


「いくら何でも早すぎるだろ、、、」


この部屋の扉が開き始めたのであった。あの師匠が本当に焦っている。

現実世界とこっちの時間がつながるのは扉が開ききるとき。だからあと1分くらいの猶予はあるはずだ。


「おい、もう飛ばすぞ。」


「飛ばすってどこに、、、?」


「分からん。本当は1か月くらいお前さんに現世の知識を叩き込んでやるつもりだったが、どうも出来そうにない。転移の魔法も本当なら事前準備が必要で、今使ったら多分ランダムに飛ばされちまう。」


まじかよ、、、


「それでもお前さんなら生きていけると信じている。最後まで頼りないおっさんでごめんな。」


そう言うと、転移魔法を発動し始める。師匠は無詠唱の方が得意らしく、集中するときは目をつむる。すると目の前の空間にゆがみが生まれ始める。

ふと、これが師匠との最後の会話になるかもと思った。


「おっさんは一緒に来ないのか?」


「悪いな、俺程度の魔力じゃ3人をバラバラに飛ばすのが限界だ。」


「なら俺の魔力を使えないのか?」


「無理だ。それでも足りない。」


そのとき理解した。もとより師匠はこのタイミングで俺と離れるつもりだったんだ。ただし、魔力量が足りないのは本当みたいだ。何とかできないかと考えてみるも、無駄だった。


師匠との別れという運命のようなものを変える力は俺に無いことを深く思い知った。


「準備は良いか?」


師匠、、おじさんから覚悟の有無を問われる。そんなものはとっくにできていたし、なんなら早くして欲しいと思っていた、はずだった。

いざ、そのときが訪れると、怖い。師匠と離れてしまうことが寂しい。仮に時間の流れ的には1分万未満の関係だろうが、体感は60年一緒にいた。情が湧かないわけない。


でも、踏み出さないと始まらない。決意の時だ。


「ああ、準備は出来た。」


おじさんがにこっとほほ笑む。おもわず涙がこぼれそうになるが、


「別れに涙は不要だろ。」


「・・・そうだな、」


今日までのことを思い返してみると、助けてもらった記憶しかないな。頼りないなんて、冗談じゃない。ずっと、頼りっぱなしだったさ。俺を形作ったのは師匠なんだよ。

そんな俺が、今、言うべき言葉は、


「師匠!   ありがとう」


おじさんの目が目を見開く。今度は俺の言葉にちゃんと反応してくれたみたいだ。

気づけば空間を繋ぐゲートは出来上がっていた。ちらりと爺さん婆さんの方を向く。


「爺さん婆さんもありがとな。最後になると思うがこんなことに巻き込んじまってごめんな。」


「別にあたしらのことは気にせんでよい。どうせ年を取った身じゃ。」


「ばあさんの言う通りじゃ。お主は自分の心配だけしてたら良い。」


優しさが胸にしみる。こんな立派な大人になれたらな。罪を犯したであろうこんな体で、どうやったらなれるというのだろうか。それでも憧れてしまう。そんな人たちだ。

そして、おじさんが口を開く。


「元気でやれよ。」


「もちろん」


俺は笑顔で答える。

そしてゲートへと足を1歩踏み入れる。その瞬間、自分の周りがぼやけだす。

あやふやになった視界でなんとかおじさんの方を向く。俺は笑顔でこう言った。


「またな」

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