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023話「思い出のひとつ」





 久しぶりに懐かしい夢を見た。正確には夢というよりかは、昔の記憶と言った方がいい。私にしては珍しく、悪夢ではない良い夢だった。先日クリスたちと一緒にミスコンに出場するための衣装を決定したせいだろうか、かつて母と共に見た、あの服の時の記憶が鮮明に過ぎってきた。


あの頃の私は何歳だっただろうか。とにかく非常に幼かったことはよく覚えている。父は仕事に出掛けていて、母は慣れない家事に四苦八苦しながら、私と一緒に時間を共にしてくれていた。

母が少し手が離せない時は、近くの洋服店のエルザードおばあちゃんの元に行き、エルフルとおばあちゃんに遊んでもらっていた。


おばあちゃんはよく昔話をしてくれる。とびっきり長生きなおばあちゃんは、不思議な生き物たちの話とか、見たこともない景色とかの話をしてくれる。それと、よくしていたのが──。


 「そういえば、こんなことがあったの。」


 「なんの話です?」


 「ん?お主の母親と父親、そして我とエルフルで旅をしていた時のことじゃよ。」


エルザードおばあちゃんは、父と母、そしてエルフルと一緒に、世界のいろんなところを冒険した話をよくしてくれた。高い山に登ったり、天気のいい草原を走り回ったり、森で少し迷子になったり。その全てがいいものじゃない。でもおばあちゃんは、懐かしみながらそれを楽しそうに話していた。


私はおばあちゃんの話が大好きだった。冒険の話が好きだった。それと、父と母の関係についても気になることが多かった。


 「昔はあまり仲が良くなかったんじゃよ。最初なんて、酷いもんじゃった。」


父と母はいつも仲良しだ。母は、父との子供である私を大切な存在だといつも言ってくれて、父は、母との子供である私を大切な存在だと言ってくれる。子供である私は、あの時は家族愛がとても強いと思っていたけど、それは恋のような熱いものでもあったと、今になって思える。


 「仲、悪かったの?」


 「まぁの。でも、今じゃあああしてラブラブじゃろ?」


 「ラブラブ?」


 「仲がすごく良いということじゃ。」


エルザードおばあちゃんがたまに使う言葉は、よくわからなかった。ただ私は、そんなおばあちゃんから聞く言葉が何よりも楽しかった。


ある日、おばあちゃんから父と母のデートの話が出てきた。私はおばあちゃんの話を聞いて一つの疑問が浮かんで、家に帰ったあと、母にこう質問したことをよく覚えている。


 「お母様は、デートをしたことがありますか?」


 「え!?」


唐突な質問だった。母の心境を考えれば、幼い娘からデートという言葉が飛んできたこともそうだが、父と母のデートをなぜ知っているのか、という驚きもあったと思う。どちらにしたって、動揺は必然だった。


 「……うん。あるけど、どこで聞いてきたの、デートなんて。」


 「おばあちゃんが言ってました!」


 「あー。」


母は察した、という顔をしていた。同時に、あの顔は今にして思えば、おばあちゃんにキツい言葉を贈る前にしていた顔だったと振り返れる。


 「お父様とデートしたことがあるのですか?」


 「うん。その、あるよ……」


 「綺麗な服とか、着ましたか?」


 「き、着てたかな。うん。」


母は、私の質問よりも、父とのデートのことを思い出しながら、顔を赤くしているようだった。それはもちろん、娘からそんな答えにくい質問が飛んできたら、複雑だろう。


 「おばあちゃんが、お母様の服はとても綺麗だと言っていました!」


 「……見てみたい?」


 「あるのですか?」


 「うーん、まだクローゼットにあったかな?」


母はそう口にしながら、自室のクローゼットを漁り始めた。そこには、いろんな服が立てかけられている。母はファッションにそこまでこだわる人ではなかったと思うが、今にして思えば、あれらは父からの贈り物だったと考えられる。

父は母のことをとても愛していたから、贈り物をしていたのは、あの時の私でも容易に想像がつく。


 「あ、あった!」


母は、クローゼットの奥にしまわれていた黄色の服を取り出す。私はその服を見た瞬間、強く印象に残った。ダンデライオンのような明るい黄色に、真っ白な帽子がかけてある。母はこの服で父とデートをしたのかと、好奇心いっぱいの私は目を丸くして見ていた。


 「少し小さくなったかな。今は着られないかも。」


 「とても綺麗な服です!」


 「……ラナが大きくなったら、着られるかもね。」


母は、興味津々の私の心情を察してか、未来的な言葉を投げかけてくれる。私はその言葉に、心の中で喜んだ。自分はこんな綺麗な服を、いつか着られる日が来るのかもしれないのだということを。


 「お母様は、もう着ないのですか?」


 「うん。私は──お父様と、こうして幸せになれてるから。」


 「幸せになれたら、着ないのですか?」


 「うーん。そうじゃないけど、でもこれは恋の服だと思うから。」


 「恋の服?」


 「そう。ラナも、いつかわかるかもね。」


母はそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。


 「あ、でも……もしそんなことになったら、お父様はきっと混乱しちゃうだろうけどね?」


 「どうしてですか?」


 「それはもちろん。ラナが可愛くて、私たちにとって唯一無二の宝物だからだよ。」


母に優しく抱きしめられた私は、その意味をなんとなく理解しながら、母のことを抱きしめ返した。体からは、体温以外にも、包み込んでくれるような優しい熱を感じていた。


 「お母様、」


 「なに?」


 「お母様は、お父様のどんなところが好きになったのですか?」


 「え、えぇ!!」


母は、私の続ける質問に大変恥ずかしそうにしながらも、懸命に答えてくれた。今考えれば、ああいった素朴な疑問を、何も臆せず話していた私は、相当好奇心が強かったのだと思う。

今にして思えば、母にはかわいそうなことをしたと思う。


でも、この過程がなければ、私はあの服を思い出すことはなかったと思う。


 夢の続きは続いていく。どこまでも幸せで穏やかな夢。母、そして父の温かい日常と愛情が伝わってくる夢。一生その世界にいたいと思う。

でもその時、夢から覚めていた。冬を目前にした外気温は異常に寒く、布団から抜け出せなかった。

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