022話「オー・お届け」
獣人国レオーナの街。力こそ正義!的なところがあるこの街に、僕は住んでいる。ただ住んでいるだけで、しっかりとした住民っていうわけじゃない。僕はどちらかと言えば、ペットって言われている。でもその立場にはしっかり満足してる!なんでかって言えば、大好きな人たちが周りにいて、僕は誰からもイジワルされずに過ごせているから。弱いとか強いとか関係なくて、街中で歩いている人たちと同じように、僕も歩いて生活している。
「ただいまー!」
「おかえり、エルフル。しっかり例のものは買ってきたかの?」
老眼鏡をかけたおばあちゃんが僕の帰りを歓迎してくれた。僕はしっかり買い物ができたことを伝えるために、紙袋からあるものを取り出す。
「うん!黄色の明るい生地!!」
「おお。これなら良さそうじゃの。」
エルザードおばあちゃんは生地を受け取ると、それを持ってお店の奥の方へと歩いていく。僕もその後をついていく。
「ねぇー、何作るの?確か、黄色い生地を使った服の依頼は受けてないんじゃないの?」
「あぁ、実は昨日、手紙が届いての。」
「手紙?ラナから?!」
「うむ、読むかの?」
おばあちゃんから手渡された紙を開くと、そこにはラナの字で挨拶とお願い事が書かれていた。ミィーナが昔着ていた服を送って欲しいというお願いだった。
文の下には、僕たちに対する言葉が並んでいる。
「ラナ、元気そうだねー!」
「うむ。ま、あやつらの娘じゃし当然じゃな。それにしても、突然送られてきた手紙に、こんなことが書いてあったとはなー。」
「ミィーナが持ってた服って、あれのこと?黄色だったら、あれしかないと思うけど。」
「ま、間違いないじゃろうな。あやつのコーディネートは後半から我が担当しておったから、黄色と言ったら一つしかないの。じゃが、まさか、娘まで同じ服を着るとは……。」
「デートかな?」
「もしそうなら、卒倒してしまうぞ。」
「どうして?」
「そりゃ、悪い虫かもしれんから。」
「?食べちゃえばよくない?」
「そうじゃなー、食べられたらどれだけ楽か。」
でもエルザードおばあちゃんは、あんまり虫は好きじゃないって言ってた。もちろん僕も、美味しいお肉を食べている方が虫よりも断然いい。
そう考えたら、エルザードおばあちゃんの複雑な顔もなんだかわかっちゃう気がする。
「やれやれ、ゼルだったらどうするかのぉ。」
「応援するとか?だってラナにも好きな人ができたってことだよね!僕は応援するよ!」
「う、うん〜。そうじゃな、我もお主ほど純粋ならば、」
「?」
「……そうじゃ、分からぬのなら、確かめれば良いのじゃ。エルフルよ、この服が完成したら、お主が自ら学園に届けてはくれぬか?」
「僕が?いいの?」
「いいじゃろう。怪しまれた我の身分証と、許可証を出しておけば、大抵通してもらえる。そもそも、ほとんどの奴はお主が元スライムなぞ、見当もつかないじゃろうからな。」
「えー!僕スライムだよー!」
「もちろんわかっておる。だがの、我も長いこと生きてきて、人間の姿形、まさかの声帯まで真似できる奴がおるとは思えんのじゃよ。」
「???」
「簡単に言えば、お主のような人の姿をしたスライムは、世界を見てもそうそういないほど珍しい。じゃからの、バレないというわけじゃ。」
「うーん、なんだか分からないけどわかった!」
「よし!ではエルフル、手伝っておくれ。できる限り、あの服に似せるぞ。もっとも、ラナにぴったりにするためにの。」
「スリーサイズは送られてきたの?」
「あぁ。バスト部分が変わっていなくて安心した。あやつはしっかりミィーナの娘じゃ!」
「それ、本人が聞いたら怒るよー。」
「なーに、ペッタンコは何も悪いことじゃない。下着の新調はしなくていいわけじゃしな!」
おばあちゃんは軽口混じりの冗談を言いながら、テキパキと服を作り始めた。いつかの日にエルザードおばあちゃんを訪ねたミィーナが、デート服を選んで欲しいとコーディネートした物と同じような感じの服が出来上がっていく。おばあちゃんの記憶力はやっぱりすごい。
「よし、かなり早くできたの。あれからファッションも変わっておるから、最新の形にできてよかったぞい。」
「ラナ喜んでくれるかなぁ?」
「それを確認しにいくんじゃよ。」
「あ、そっか!エルザードおばあちゃんは行かないの?」
「我は店があるからの。全く、毎日いろんなところから依頼が来て、大変も大変じゃ。」
「じゃあ僕一人?お店は?」
「あやつらにも手伝ってもらってなんとかするから、気にするでない。それよりもエルフル、お主には重大な任務を与える!」
「う、うん!」
「この服がどこで使われるかを調べてくるのじゃ。そしてそれが、もしデートなどであった場合は、相手を一旦丸呑みにしてもかまわん。ただし、殺さず出すのじゃぞ。」
「半殺し?」
「半殺しくらいじゃ。」
「りょうかーい!」
僕はそれを聞いて、急いで準備を始めた。行き先というか、どうやってフュードルド学園まで行くのかは、しっかりとわかっている。毎日勉強しているおかげだ。だから、あとは用意。おばあちゃんからもらったお小遣いと、身分証と、許可証と、服とバッグと、あとは洋服を二着。
僕は本来、服なんて着なくていいけど、エルザードおばあちゃんが、捕まりたくないなら着るしかないと言って着させてくれている。スライムの表面の弱酸性にも耐えられる丈夫な服、エルザードおばあちゃんが作ってくれたやつだ。
「それじゃあ行ってきまーーす!」
「気をつけてのー!!」
大きな声でお店を飛び出して、僕はフュードルド学園に向かう。まだ行ったことのない場所、そして久々に会えるラナの姿にワクワクしながら。




