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021話「ミスになるためには?」




 ミスコン。改めて紹介すると、フュードルド学園にて毎年行われる、学園一の美女を決める大会のことだ。女性生徒ならば誰でも参加可能という幅広さながら、毎年アマチュアからプロまで数多の女性たちが、自分の美しさを広めるため、自分の努力を形にして見せるため、参加する催し。


街一の美女を決める!とは根本的に訳が違う闘争が、そこにはある。卑劣な落とし合いなんかはないが、生半可な気持ちでこのミスコンに参加してはいけない。アマチュアでもいけると言ったが、痛い目を見たくないのなら参加しない方がいい、という意味合いもある。

私は生まれてこの方女性という立場なわけだが、こんなにも恐ろしい催しは見たことがなかった。


ただ純粋に美しいと言っても、何をもって美しいのか。性格、身だしなみ、顔、声、そのほかあらゆる方面が存在する。そんな中でトップに立つのはただ一人、全てにおいて完璧であり、誰が見ても頷くしかない美女を決める。


そんな者、存在しないのではないか?という疑問に対して、私がそうだが?と言ってくるのが優勝者だ。


 そして私は現在、その渦中に放り込まれてしまった。姉なる者の一言によってだ。ぶっちゃけると、とてもじゃないが冗談ではない。だが、さもなければ私は大勢のミスコンのために生きる女性生徒達の敵の的となり、断りの一つでも公言すれば、次の日には門前に磔にされているだろう。


そんな神話の1シーンになりたくない私は、このミスコンに渋々参加するしかないのだ。だが。


 「………これって、必要?」


 「必要ですわ!」


クリスは私の疑問にすぐに答える。ただ私が聞きたいのはそういうことではない。ミスコンに出るということはもう決定事項だし、否定する気も、諦める気ももうない。ただそれとは別に。


 「………」


隣にいるラプとプリエルに視線が向いた。二人は、クリスがテキパキと話し合いの準備を進める中、楽しく?会話をしている。もっとも、ラプからプリエルに対しての一方的な質問形式で進められているので、これを会話と言うのは難しいわけだが。


 「さて!みなさん。本日はラナさんが初めてミスコンに出るということで、意見を求めてお集まりいただきました!司会は私が進めますので!どうぞ、いい案を言っていってください!」


 「待って待って。」


 「はい、ラナさんどうしましたか?」


 「私、出るつもりはあるけどさ、こんな大掛かりなことしなくても良くない?」


普通に考えて、ここで全員集合する必要はない。クリスは乗り気だからともかく、二人まで巻き込んで話し合う必要はないんじゃないかと思う。


 「あら?」


 「クリスはミスコンに何度も出た経験があるわけだから、それこそクリスから───」


 「それは違いますよラナさん。私は経験者ではありますが、必勝者ではありません。それに、こういった話し合いは意見の多さこそが大切なのです。人である以上、先入観を完璧に取り除くことなどできません!私から出る言葉よりも、お二人から良い言葉が出ることだってあるんですよ!」


 「うん〜。」


 「それに、お二人とも本日は参加したいから来ているのです!」


 「そうですよ、ラナ先輩!せっかくラナ先輩の初陣ですから、ここは後輩として是非ともお手伝いさせてくださいっ!」


 「…………。」


 「ほら、お二人とも乗り気でしょう?」


ラプはともかくとして、無表情のプリエルはよくわからない。でもクリスが参加気味と言っているのだから、まぁ、もしかしたら多分そうなのかもしれないと私は心の中で納得するのであった。二人が乗り気ならば、私が止める義理はない。ただ、あまり面白くないのでは?とは思うが。


 「さて、まず私からです!ラナさんの魅力はなんと言ってもクールさ!そして獣人の特徴的なお耳です!これら二つを合わせた、王子様コーデを提案します!!」


 「クリス先輩、もう書いてきた───って!?え、あ?な、な……むぐ!」


 「ラプ。クリスの絵については触れないであげて。」


クリスが大々的に見せた。絵は実にユニークだった。具体的に言えば、おそらく人型をイメージして描いているのだろうが、絵には奇怪な化け物が描かれていた。手と足の部分がかろうじてわかるが、顔はこの世のものとは思えない不気味な様子であった。

これでもクリスが頑張って、本人的にはかなり頑張って描き上げてきたということは理解している。そのため、その夢を壊さないためにも、私はラプの口を塞ぐしかないのだ。ごめんなさい。


 「………。」


そして、あんな絵が目前にあったとしても、プリエルは何も動じていない。もしかしたら事前に見せられているのかもしれないが……いや、深く考えるのはやめておこう。


 「どうですか?お二人とも!?」


 「い、良いんじゃないかな。王子様コーデね、うんうん。」


 「そ、そうですねー。これならラナ先輩にいいかと〜」


 「ええ!ラナさんはやっぱり女の子らしさももちろんですが、かっこよさがよく映えると思って──」


ごめんなさい、クリス。私はあなたの描いたコーデがよくわからない。


 「──っと、そうです。今回は私はあくまで司会。お二人とも、何かいい案があるでしょうか?」


二人とも頼む。ここでいい案がなかったら、私は奇怪な服装を着込むことになるのかもしれない。


 「え、ええーと。そうですねぇ〜。」


 「…………。」


ラプが面食らってから考え始めている間に、プリエルが手を振ってクリスを近くに呼び出す。そして何やら耳打ちを始めた。クリスはそれを聞いて、にこやかに笑って再び司会の席についた。


 (あれが二人のコミュニケーション方法なのかな。)


 「プリエルからいい案が出されました。ラナさんは戦う時になると、これでもかと冷徹になるので、それをイメージした、全身に剣を身につけたソードマスターフォームらしいです。」


 「……???それって服?」


 「プリエル曰く、服です。もちろん私もユニークな服装には賛成です!ラナさんの精神性がよく見られていることでしょう。そう!服とはすなわち心の表れ!ラナさんの剣術及び剣に対する心意気が存分に現れたと考えれば、納得しない者は現れないでしょう!これもまた美しさです!」


 「そうなんだぁ。」


クリスが言うと、なんだかそうに聞こえる。聞こえるだけだけどね。


 「はい!」


 「はい、ラプさん。」


 「私も似通った感じになっちゃうんですけど、ラナさんはやっぱり高潔でかっこいいイメージがあります!だから、王子様もいいですけど、ここは騎士様なんてどうでしょうか!!」


 「騎士!いいですわね。世界を救う勇者ではなく、姫を守る騎士!とても心を踊らされる提案です!!」


騎士。そういったものへの憧れは、ないわけではない。誰かを守れる職業は、それだけでも私にとっては眩しいくらいに誇り高いものに見える。ただ、自分に相応しいのかと疑問に思う時はある。私の剣は独学で、なおかつ騎士のように洗練されたものでもないし、結構俗世に染まっているこの心は、高潔とは少し言い難いのではないだろうか?


 「勇者も悪くはないんじゃないの?」


 「いいえ、勇者なんてダメです!お父様が言ってました。勇者になったせいで、えらい目にあったと。ですからラナさんは、勇者ではなく騎士の方がいいです!」


 「そ、そう。」


ナリタテンマは勇者として名を馳せているけど、本人はそれを嫌っている。これはクリスの口から、今まで何度も聞いた言葉だ。親子間の精神性が共通なのか、しっかりクリスも勇者嫌いが発動している。いやまぁ、あれはどっちかと言われれば教育による賜物だと思うけど。

でも私は、そんな話を再三されても、いまだに勇者に対してちょっと憧れを抱く。騎士と同じく、誰かを助ける存在だからだ。


勇者を職業と言うのは、もしかしたらちょっと変なのかもしれないけど。


 「さて、ここまでで出た案は三つ。王子様、ソードマスター、騎士。どれもラナさんにぴったりですね。」


 (ソードマスターは、ぴったりなのだろうか?)


なんだか頭の中で、両腕に剣を持って大の字ポーズで構えている帝王の姿がよぎった。威厳はあるものの、いささか目立ちすぎというか、なんだかヘンテコに見えてしまう。どちらにしても、全身凶器な剣のコスチュームも複雑だけど。


 「ラナさんはどれがいいとかあります?」


 「うーん。」


正直、どれもピンときていない。誰かに決められるのもいいかと納得しているつもりだったけど、意外にも私は、決める時はしっかり決める人らしい。かなりめんどくさい性格だと理解しながらも、この中から決めるのかー、と思いつつ、あまりにも恐ろしい絵と、頭の中で浮かべている二つの案をそれぞれ見比べながら、考える。


 「もしラナさんからも何か提案があったらお聞きしますよ?今回の服に関しては、私お抱えの裁断師がいますから、かなり無茶なものもいけますよ!」


 「そこは無茶はやめて欲しいんだけど。」


と言っても、自分はファッションのことについて無知だ。今までだって制服や、それ以外の服装も機能性で選んできた。赤の他人から見られて変だと思われないレベルの気遣いはするが、それこそ具体的な美しさに振ったファッションセンスなんてあるはずもなく。それこそ、着たい服なんてものは──


 「………ぁ。」


あった。一つだけあった。幼い頃に一度だけ見た。自分が、いつか着たいと思っていた服が。


 「ラナさん?」


 「あった。」


 「はい?」


 「私、着たい服が。」


きっと、あの服なら今の私にも着られるはずだと。そういう予感がした。

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