150話「エンドロール」
「ラナさん!早く、早くきてください!!」
「ま、待ってってクリス!」
いつもと変わらない青空の下で私は愛しい人に向かって大きく手を振りながら振り回す。あたりの目なんていうのはまるで気にしない、彼女も私も存分に動ける体になって初めてのデートである。まぁデート自体は今まで数回ほど行ってきたものの、今日はその中で間違いなく特別だ、戦争が終わって真の意味で彼女も私も自由になった。
だからきっと、もう彼女を縛るものは何もないはずだ。だからずっと言いたかったことを今日行ってやるつもりで来たのです。
「ここですよ!」
「クリス……!」
追いついたラナさんは街を一望できる場所に着くと目を見開いて驚く。私が初めてこの場所を見つけた時と同じ顔をしていた、そしてそんなラナさんの顔を見る私はとても満足感でいっぱいになっていた。彼女の喜ぶ顔、彼女の幸せな姿を見るたびに胸の奥がとても喜んでいるのがわかるのだ。
「こんなところ、よく見つけたね。」
「はい、何せラナさんとのデートですから。ベストな場所を見つけなければなりません!それに色々話すのに、もうカフェの一角なんていうものは少しマンネリというものでしょう?」
「そうかな、私はどこでもいいよ。」
「私がどこでも良くないので、それに今から話すことは少し特別でもあるので。」
「特別って?」
「………それは、ですね。」
いざそう指摘されると言葉が詰まる。昨日の夜はなんてラナさんに告白しようかと色々と考えていた、ロマンチックなやり方もあればスッといつも通りの私の方から言うこともできる。それこそ告白にかける言葉も多種多様だ。先人たちの知恵に従って私も大いなる決意と告白を決めるためにこの日のためにたくさん考えた。けれども結局結論という結論はあまり出せずいいデートでいい告白をする程度の感じで収まってしまった。
どんな作戦も、どんな魔術も解明してそれを構築するのは当たり前でおそらくそれにさほど難しさはなく。私ならばチョチョイのちょいでできたはずなのに、それなのにこの告白というものはどこまでも私の心をかき乱している。
ラナさんを前にしてみていつもの自分でいられるかというのに動揺さえするのだ。
「……その前にも、少し。話いいですか?」
「うん……。」
ラナさんが首を傾けながらも頷く。これは時間稼ぎようの話題だ、私の心をしっかりまっすぐするための、ラナさんを目前にしていざ告白をするという場面で私は大慌てになるはず、だからその覚悟を決めるまでの時間稼ぎ、それにしたってこっちが本命のように聞こえてしまう話題ではあるのだが。
「実は私、というか、私の家。王族辞めることにしました。」
「──────んえぇぇ!?!?!」
まぁ案の定というか、ラナさんでもそんなリアクションするんだなというのが私の中で生まれた。確かに一大的な出来事ではあるものの私が王族という身分を嫌っていることはもうほとんど察されていますし、それならこうなってもおかしくないかなと、いや普通おかしいですね。と向き直る。
「お父様はもう勇者じゃありませんし、お母様もこれには承諾しました。もちろん財産の放棄というわけではありません、王族で無くなった時用の個人財産はかなり貯蔵していますから、国家予算までは行きませんが貴族程度の資金力はあります。」
「そ、それでもそれって国が大変になるんじゃ。王様がいなくなったってこともあるけど、その貴族たちが悪いんでしょ?」
「いい後見人に任せてあるので問題ありません。それよりきっと貴族たちは今まで自分に降りかかるはずだった大量の仕事がなだれ込んできて、それどころではないでしょうしね。」
「………貴族たちを干していたのってもしかしてそれが理由?」
「少しずつ教訓を与えるよりかは、大きな痛みを被った方が良いでしょう?」
「うん…………らしいね。」
ラナさんが顔色を伺いながら気まずそうにそう答えた。悪い気はしない、逆にラナさんのわかりやすい感情をその目で確かめられた方がとても嬉しいのだ。
「というわけで私はもう自由の身です。王族の仕事もなければ誰といたっていいですし、お見合いなんかもありません。」
「……お見合いとかあったんだ。」
「ありましたけど、全員私の魔術に耐えられるかどうかの試験台をやってもらいました。」
「ひ、ひどい…。。」
「私の魔術を受け止められないのに、何が私のパートナーですか。性格だけ良くても、力だけよくてもありえないのです、両方持ち合わせていなければ。」
「相変わらずだね。」
「はい。ですからその────、」
「?」
何も知らず、何もわからずの顔をする。そんな姿に自分の心が変に思えてしまう。どうして私はこんな人を好きになったのか、どうして私はこんな鈍感な人のことを振り向かせたいと思うのか。簡単だ、純粋な性格、純粋な強さ、純粋な憧れ、その全てに恋をしたからだ。
それをわかっていても喉の奥に引っかかったロマンチックな言葉が出てこない。
「ですからね、私は今フリーなんです。」
「?うん。」
「何にも縛られていません。」
「うん?」
「………あー!もう!!」
「どうしたの?!」
ラナさんのあまりの鈍感さには目に余るところがあります。自分らしく振る舞おうとどうやっていい告白をするべきかと四苦八苦している私がまるで馬鹿みたいに思えて仕方がない。
「ラナさん、覚えていますか。私───戦いが終わったら、伝えたいことがありますって。」
「う、うん。今のがそうじゃ───。」
「そんなどうでもいいことではありません!」
「えぇどうでもいいの。」
「はい!ですからその、私が言いたいのですはね。」
一度呼吸を整えた。次が最後のチャンスだと思う。これより他を逃して仕舞えば告白なんていうことはできない気がする、何よりもう一度この気持ちで挑めという自分が無理な気がするのだ。
「───私を縛るものはないのです。誰であっても私を縛れません。私が好きな相手は、私が自由に決められて、そしてその人に向かって伝えることができるんです。─────告白を。」
「──────。」
「───ラナさん……私はナリタという名字があまり好きではありません。ですから、どうか貴方の苗字を私にいただけませんか……?」
勘づいた彼女の顔は今まで見たことのないものだった。貴方の感情の起伏は相変わらずわかりにくい。いつだってそうだ、ある時は本当に鉄のような冷たささえ覚えた。それでも私は貴方を救うのではなく、貴方という存在の全てを愛していた、私という生まれた時から何かに囚われてばかりで、先が見えなかった私の中での唯一の光。
そんな彼女は、私にどう答えてくれるのか、なんとなくわかっている。




