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012話「学園祭の続き」





 クリスに連れられてまず最初に訪れた場所は大図書館だった。フュードルド学園の大図書館は獣人国や人間国にも引けを取らない専門資料とAアドヴァンス. Cセンチュリー前後の記録がまとめられてある。大国の図書館より大きさという点では勝てないものの、そのまとめ上げられた書物によって情報量だけを見れば、こちらの方が上に違いない。

普通の大図書館で一つの項目を調べるのに数十日を費やすのに対して、ここならおそらく求めている情報がわずか数日で調べ終われる。


そんな大図書館では図書館委員会が開催している毎年恒例のビブリオバトルが行われていた。この学園祭という限定的な時間の中ではいつもは静かにしないといけない大図書館も大勢の人で賑わい、互いに本好きが戦っている。


 「なんでここに?」


 「もちろん面白そうですから。それに最近は私も本をよく嗜む方ですから、少しばかり付き合ってくれませんか?」


 「まぁそれならいいですけど。」


私は本を読まない人なのでオススメの本とかどうとか言われてもあんまりピンとこない。少し面白そうとか気になるものはあるかもしれないが、それも基本的に私が本を読めない性格なせいで全てが台無しになる。参考書とか教科書がこれに該当しないのは一周回って不思議としか言いようがない。


 ビブリオバトルは10分の制限時間内で二人の勝負者が互いに本について熱弁して、その場にいる人たちに投票を行い、どちらがうまくできていたかで民主的に勝敗をつける、トーナメントランキング戦みたいな感じだ。


 「もしかしたらラナさんでも読める本が見つかるかもしれません。」


 「そうかなぁ。」


自信はない。本であれば苦手意識があるのか?と問われれば言うまでもない。

図鑑なら私でも読めそうかもしれないが、っと少し考えるがあれはここの人たちが言っている本というカテゴリーに埋めていいものかと思う。結局のところちゃんとした小説だとかは読めないのではないのかと自分で思ってて感じる。


 「あら。」


クリスが次の勝負者に目を向ける。まるで知っているような顔を見た、と言った声だったので私も顔を上げてその人物を見る。


 「ラプ。」


その場に現れたのはメガネが特徴的なラプだった。本が好きな彼女なら確かにこのビブリオバトルに参加しそうな気がしていたが、まさか本当に目の前に現れるとは少し予想外だった。


 「面白くなってきましたわね。」


クリスはラプの姿を見てより一層心を踊らされたのか不的な表情を浮かべながら高みの見物と洒落込もうとしていた。クリスの誰かを見定める目はなんとなくだが怖い。


そんなふうに感じているとビブリオバトルが始まった、基本的にこの戦いは思想と意見のぶつかり合いだ。バトルといっても戦うのは相手ではなく自分自身、自分がこの本を好きという気持ちとそれをどれだけうまく時間内に伝えられるか、という自分の表現力。それがこのバトルの真骨頂であり勝敗を分ける点だと思っている。


ラプが持ってきた本は万人受けというより一風変わった本だった。なんでも私たちの未来の話という題材、いわゆる近未来SFと呼ばれる世界の話、鋼鉄にタイヤがついたものがそこらじゅうを走り回りガラスのような建物がいくつも立っているらしい。言葉を聞いただけじゃ私の脆弱な想像力では補えない。それは隣にいるクリスも同じだったのか話を聞きつつもその具体的な像を思い浮かべているよりかはラプの会話だけに集中している。

SFというジャンルは私も聞いたことがあるが、その程度だった。対して相手が紹介している恋愛小説の方が遥かに身近で現実味を感じる、しかしそれでもラプの一歩も引かない姿勢や練り上げられた言の葉が私たちに伝わってくるとはいうまでもない。


結果としてラプは僅差で負けてしまった。しかし終わった後は相手もラプの言葉からSF小説が気になったのか遠目だが親しく話している様子が見えた。


 「どうでしたラナさん?」


 「どうって言われても。」


 「楽しかったでしょう?」


 「………そうだね。」


白熱した戦いはどんなものでも見応えがある。それはビブリオバトルというレスバトルでもリアルバトルでも同様だ、そして何よりあのラプが自分の気持ちを全面に出して相手に一歩も許さない姿勢で戦っていたことが何よりも嬉しかった。こういうのを親心とでもいうのだろうか。


 「それでは次にいきましょうか!」


ラプはまだ話し込んでいた。本来なら一緒に行った方がいいのかも知れないがクリスのエスコートに逆らうのは良くないので私は手を引かれるがままについていった。


 大図書館を後にした私たちは昼食時でもあったため屋台広場へと向かった。そこでは例年通り数多くの料理店が並んでいた。そこまで凝ったものは販売していないものの昼食時でなおかつ学園祭を楽しもうおする人たちでそこは溢れかえっていた。避難訓練の全体集合のような人口密度を感じる。


 「ラナさん私の手を決して離さないでくださいね。」


 「私は子供じゃないですが。」


と言いつつ私もこの人の群れは流石に少し恐怖を覚える。記憶では集合体恐怖症などではないはずだが熱気と人のあまりの多さは脳を混乱させてくる。一度入ったらバラバラにされる魔導粉砕機がふと脳裏をよぎった。この人々を一つの鋭いやいばと見立てることができたのならこの形容は的をいているだろう。現に私はクリスの手を引かれながらその道を進んでいたが人との意図しない衝突は避けられなかった。


 「去年と同じところにあるはずですから。」


 「あの音楽サークルのクレープ屋?」


 「はい。あの毎年、異常に美味しいクレープ屋です!」


この学園の音楽サークルは控えめに言って音楽できないサークルだ。演奏が下手というわけではないがあまり上手でもない、加えて大した活動もせず基本的に幽霊部員が多いのだが、毎年この文化祭でお出しされるクレープだけはそこら辺の専門店にも負けないくらい美味しい。なので私たちの学年は音楽サークルじゃなくて、クレープサークルにしろという声も珍しくない。

私も去年初めて食べてみたが見事な美味しさだった。


 「売り切れてないといいですけど。」


 「大丈夫なんじゃない?」


そう思ってついてみればすでに完売だった。油断した。すごく油断した。それはそうだ、毎年新入生が1.5倍の数入学してくるこの学園で売り切れないなんて慢心した考えがダメだったのだ。


 「あ、クリスさん。ごめんんさいもう完売で。」


 「随分と繁盛してらしたのね。今から新しく作ったらどうです?」


 「うち音楽サークルだから〜。」


とやんわり断られてしまった。確かにみんなのためとか色々言いたいがそもそもこれは音楽サークルなのだ。無茶いえだ。


 「仕方ありません。今年の音楽クレープはあきらめましょう、」


とは言ったもののこの人混みの中をむやみやたらに行くのは得策ではない。私たちは何尾食べるのか決めなくてはならないのだが。


 「何やらいい匂いしますね。こうBの級のグルメの匂いがします。」


 「B級グルメ?」


 「…気になります。行ってみましょう、ラナさん、嗅覚強化できますか?」


 「そんなに気になるの!?まぁわかりましたけども。」


私は身体強化を使って嗅覚を鋭くさせる。本来こういうのはイヌ科の獣人族が得意な分野だ。私の鼻は人間より少し利くだけで、普通なのだ。


 「う、」


 「どうしました?」


 「汗臭い。」


 「私の汗が!?」


 「いや、人が多いから。」


人が多いとその分いろんな人の匂いが充満している。特に天気が快晴でなおかつ日差しが強いとなると汗が出るわけで、嗅覚強化を施した私の鼻はそれらを全て吸い込んでしまうのだ、目的の匂いを分別することなく。


 「いけますか?」


 「できなくないって感じ。」


クリスが言っていた匂いは確かに強烈だ。この人の匂いが多い中でもはっきりする。料理の匂いは人と違うというけれどこうも嗅覚が鮮明だとより実感する。


 「ついてきて!」


クリスの手を引いて目的地の場所まで進んでいく。匂いから鼻を外さないように嗅覚は強化したままだ。おかげで酷く汗臭い人が隣にすぎた時は嗚咽を漏らしかける。ただ友人、ないしは自分の空腹を満たすために私は進み続けた。


 「頑張ってくださいラナさん!後少しのはずです。」


 「う、う。う、」


人を分けてなんとか目的地に辿り着いた。まだ何も腹に入れていないはずなのに私の空腹感は絶望的な満足感で埋め尽くされていた。あとで公園の新鮮な空気でリフレッシュしないと鼻が腐ってしまう。


 「間違いありません。あの匂いですわ、えっと名前は焼きそば?」


 「聞いたことないね。」


嗅いだことない新種の匂いに連れられてやってきたのだから当たり前だ。そして香ばしいソースの匂いが屋台からモクモクと煙を立たせ、鉄板の上に置かれたものが重々と音をたてていることが五感を通して伝わる。


 「列ができてますね。しかも長蛇です。」


 「並ぶしかなさそうだね。」


私たちと同様に匂いに釣られた人たちがこの列を作っているんだろう。そしてかなりの列からこの料理が決してハズレでないことを暗示している。


 「焼きそば……そういえばお父様が昔食べたいとぼやいていましたね。」


 「ナリタテンマが?」


 「えぇ。もしかしたら故郷の料理なのかも知れません。お父様は異界からやってきたそうですし。」


 「名前まで一致しているなら、多分喜ぶと思う。」


 「はい。これはいい見上げ話ができますわね。まぁ味はどうかですが。」


クリスは意外とグルメな一面がある。そのため結構色々な店に行っては評価をつけていたりしている。彼女の肥えたしたならば評価は間違いないだろうと私は思う、それとは別にこの行動力の高さならいつかそんな本を出してもおかしくないんじゃないかと思う。彼女の多趣味性には行動力の高さが常に滲み出ている。


 長蛇の列に並んで数分後やっと私たちの場になって、匂いの元凶が目の前に現れる。


 「いらっしゃい。」


鉄板の上でジュウジュウと音を立てながら焼き上げられていたのは、焼きそばと言われるものだった。記憶にあるパスタに類似する点はあるもののその根本から違っていた。ソースが全体に満遍なくかかっており見るからに美味しそうな料理だった、クリスが先ほど言ったB級グルメ、確かにそれにぴったりな存在だと私は瞬時に納得した。


 「こ、これは!パスタ?!」


 「少し違うな、これは焼きそばだ。パスタに比べたらちとごちゃごちゃしてるだろ?ただこれで完成系なんだよ。それで大盛りと普通と小盛りがあるけど……」


 「大盛りでお願いします!!」


 「クリス、いいの?」


普通のクリスならどんな時でも慎重に動くそれが今では一種の衝動に突き動かされているように見えたからだ、こう言う時の彼女は後々後悔することが多いため私がファイナルアンサー役に回るのだが。


 「いいのですラナさん!私は確信しました。この焼きそばなるもの、これは間違いなく満点のお味が期待できます!いわゆる先行投資です!」


 「そ、そう。」


クリスがここまでテンションが高いのは珍しいなと思いつつ私も注文する。クリスが大盛りで頼んだのならば私も合わせて大盛りにするべきなんだろうと思い、二人で陽気から溢れ出てきそうな焼きそばを抱えたまま、その場を後にした。出来立ての焼きそばをよく観察してみれば野菜と肉が混合しており、それぞれが絶妙な具合に絡み合って完成されている、単純に見えて全然そうではない料理だとわかった。


 「それではいただきます!」


クリスはフォークを使ってパスタを綺麗に食べるように焼きそばを大きな口の中に入れる。そしてよく噛んで幸せを噛み締めている。


 「これは美味!間違いなく美味ですわ〜〜あはー!!!」


 「おお。」


私も口に入れて実際にその美味しさに感動したが久しぶりに見せたクリスダンスを見てそれどころではなかった。クリスは完璧に気持ちが昂りスーパーハイテンションになるとこのように踊ってしまうのだ。彼女なりの喜びの表現法でかなり独特だが、クリスが踊ってしまうのも納得するほどの美味しさが目の前にあるのだ。

受け入れざるおえない、クリスの選択は確実で正しかったと。


 「これは美味しいですね〜。」


 「ええ!本当に!!これはお父様に伝えなくてはなりません!今日は帰ったらお手紙を書かなくてはッ!!」


クリスが書いた手紙をナリタテンマが読む。あんまり考えないが二人が親子だということをたまに忘れそうになる。あのナリタテンマの娘のクリスが私の友達なんてなんだか不思議な縁もあったものだなぁと感じざるおえない。


 「っと!舞はここまでしなければ焼きそばが冷めてしまいます!!」


クリスは元の位置戻って焼きそばを楽しみ続ける。私はその横であまりの美味しさに箸が止まらなくなっていた。そして大盛りで受け取った時は食べ切れるのかと怪しい気持ちでいた大盛りはいつのまにか無くなっていた。

しかしそれと引き換えにこの上ない満足を手に入れたのだ。


 「ごちそうさまでした。」


 「ごちそうさまでした!本当に美味しかったですねー!!」


 「うん。確かにこれは美味しい、長蛇の列ができるのも納得だね。」


 「はい!!ラナさんはお箸で食べているのですよね?なんだか食べやすそうでしたよね。」


 「あー。うん。」


 「私もお父様が使っているのを見たことありますが、難しそうですよねお箸、ただ使いこなせればほとんど食べれますしいつかマスターしてみたいと思います!」


コロコロ話が変わるが私は自分の箸を見る。

確かにお箸なんて使っているのは私くらいだ、父が箸を使っているのをみてなんとか真似ようとしたところ直々に教えてもらった。最初こそは力加減などで苦労したものの、これがいつかの剣術にも通じるところがあると悟ってからは猛練習を重ねて今では当たり前のように使える。母も父ほどではないがぎこちなくでも使える、ただ元から身についていたテーブルマナーが邪魔しているらしくなんだか箸を使っている姿は貴族の令嬢に美しく見えていた。


私の母が貴族の令嬢なら平民の父とは結婚しないだろうし、多分そんなことはないだろうけど。


 「もしや、焼きそばとは本来箸で食べたりして。」


 「それはナリタテンマに聞かないとわからないんじゃないかな?」


 「そうですわよね。手紙にも書いておきませんと、」


クリスは立ち上がって私に手を伸ばす。その顔はこれだけでは満足しないという意志が読み取れた。


 「……はいはい。それじゃあ行きましょうか。」


いつのまにか私の脳内からは任務のことは忘れ去られていた、ただ普通の女子生徒のように学園祭の様々な催しを楽しんでいた。後悔はない、どちらにせよクリスとはいろんなところを回ったわけでは道中も気配を研ぎ澄ましていた。


だが結局のところ学園祭を一回りしても怪しい人物は見つからず。時刻はどんどん過ぎていった。




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