表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冴えないUXデザイナーが異世界転生して、『ペルソナ設計』で滅びかけの王国と姫様を救うことになりました  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/22

第十七章 同志達の結集

馬車は、王都へ向けてゆっくり、進んでいた。


急がず、しかし止まらず。


雪原を抜け、針葉樹の森を抜け、麦畑へと景色は変わっていった。


馬車の中で、俺たちは、作戦を練った。


「真っ向から、王都に入るのは、危険です」


ガレウスが地図を広げた。


「ヨコタは、すでに城の警備を、自分の派閥で、固めております。城門で、即、捕らえられるでしょう」


「では、どうする」


ベルカ翁が訊いた。


「まず、地方の主要な町を、回ります」


俺はペンを構えた。


「各地で、現地の人々の、ペルソナと、ジャーニーマップを、書きます。地方の声を、集めます」


王女が頷いた。


「それはいいですね。地方には、ヨコタの暴政に、すでに限界を感じている、商人や、職人や、有力者がたくさんいます」


「彼らを、味方に、引き入れます」


俺は続けた。


「そしてある日、一斉に、王都の城門の前に、現れる。声を、上げる。地方の代表団として王に、面会を、要求する」


ニナが、目を輝かせた。


「それなら、商人ギルドの、地方支部を、回ります。ギルドの連携で、人を、集められます」


「ガレウスは、騎士団の地方駐屯所を、回って信頼できる者を、味方に、します」


「ベルカ翁は、各地の薬師や、賢者の集まりに、声を、かけます」


「私は」


王女が、自分の胸に、手を当てた。


「私は王女として、地方の貴族と、対話します」


俺は頷いた。


ノートに、新しい一ページを開いた。


そこに、各地の有力者の名前を、書き連ねていった。


「クルム町の商人ギルド長・ヤサオ


シリン町の騎士団駐屯隊長・ハリス


デクル町の薬師長・モルバ


リスタ町の伯爵・スコリオ


ロザ町の鍛冶ギルド長・ガロウ」


書き上げると、ベルカ翁が頷いた。


「これだけ、味方を、集めれば、宮廷も、無視は、できぬ」




俺たちの、地方巡業が始まった。


最初に訪ねたのは、クルム町だった。


商人ギルド長ヤサオは、ニナの父の旧友だった。


彼は俺たちの話を、聞くと即座に、味方になってくれた。


彼の店の屋根の下で、俺は町の主要な商人たちのペルソナを、書いた。


ヨコタ政策で、商売が、どう、変わったか。


これから、どうしたいか。


ノートが、次々と淡く光った。


シリン町で、騎士団の駐屯隊長ハリスはガレウスを、見るなり、片膝をついた。


「団長、戻られましたか」


「いや、儂は、戻ったのではない。本当の戦いに、出てきたのだ」


ガレウスはハリスの肩を叩いた。


ハリスは俺たちの計画を、聞くと、五十人の腕利きの騎士を、貸してくれた。


デクル町の薬師長モルバは、ベルカ翁の弟子の弟子に、当たる人だった。


ベルカ翁が書庫の話を語り聞かせると、モルバは涙を流した。


「五百年ぶりの、設計師に、お会いできるとは」


彼は即座に、薬師の連絡網を、俺たちのために、開いた。


リスタ町の伯爵スコリオは、王女アリーシャの、亡き祖母の従兄弟だった。


彼は王女を、初めてしっかりと見て息を呑んだ。


「アリーシャ様、これほどまでに、しっかりとしたお顔つきに、なられて」


彼の城で、王女は地方貴族たちを、集めた。


そして、王都の状況を訴えた。


貴族たちは密かに、軍備と、資金を提供することを、約束した。


ロザ町の鍛冶ギルド長ガロウは、もともと、ヨコタの宮廷の発注で、徹夜続きで腰を痛めていた職人の家族の一人だった。


俺が、氷の村で、その職人のペルソナを、書いていた。


「設計師殿!」


ガロウは、俺の手を握って震えた。


「儂の弟が、宮廷の発注で、無償の徹夜を、強いられて倒れた。お前様はそれを、知って書いてくれたんだな」


「はい」


「ロザの鍛冶ギルドは、全員、味方に、つく。武具の供給を、宮廷魔術師団には停止する」


俺は深く頭を下げた。




二月の後、俺たちは、リエンガルド王国の半分以上の地方有力者を、味方につけていた。


ノートは、十二冊に膨らんでいた。


各地で書いた人々の、ペルソナ。


彼らの困りごと、願い、誇り。


俺は、それを、一つの巨大なジャーニーマップに、まとめ上げる、構想を立てていた。


「司、これを、いつ、王に、見せる?」


王女が、夜の宿屋で訊いた。


俺はノートを、閉じて、答えた。


「次の、王の生誕大祭典の日に」


「あの、ヨコタが、最大の見せ物を、計画している日?」


「ええ。あの日に、王都の城門の前に、地方代表団を、集結させます。そして宮廷の最大の祝祭の最中に、声を、上げます」


ベルカ翁が笑った。


「五百年前の、設計師の最終戦も、同じ日に、行われた。派手好きの最大の祭典の日に、設計師は、最後の発動を、行った」


「結果は」


「敗れた。だが書庫を、残した。儂らはそれを、お前のために、五百年、守ってきた」


俺は頷いた。


胸の奥が震えていた。


だがその震えは、東京の頃の、不安の震えとは、違った。


それはようやく、自分の役目を果たすための、覚悟の震えだった。


宿屋の窓の外で、月が満ちていた。


あと、十日で、王の生誕大祭典の日が、来る。


俺はノートを抱えて、目を閉じた。


夢の中で、東京の同期の宮原瑞希の声が聞こえた気がした。


お前の仕事、誰にも見えないけど、絶対、価値ある。


「うん」


俺は、夢の中で答えた。


「いまようやく、わかったよ。瑞希」


「俺の仕事には、価値が、あった」



その夜、俺はなかなか、寝付けなかった。


明日からの十日間で、十二冊のノートを、一枚の巨大なジャーニーマップに、まとめ上げる必要があった。


それは王国のすべての民の感情の動きを、一枚の、絵にするという、前例のない試みだった。


俺は、宿屋の机に新しい大きな羊皮紙を、広げた。


横軸を、時間にした。


ヨコタが宮廷に登場する前、最中、これから。


縦軸を、感情にした。


ポジティブな感情と、ネガティブな感情。


そして各地の民の声を、一つずつ、その図の上に点として書き入れていった。


七歳の娘・絹の上着・ネガティブ。


五十代の女性・夫の死・ネガティブ。


二十代の傭兵・送金できない・ネガティブ。


老いた職人・徹夜の腰痛・ネガティブ。


ヨコタが宮廷に来てから、点はすべて下に、下に沈んでいった。


俺はそれを、見てぐっと唇を噛んだ。


これが、いまの王国の感情の地図だった。


王女が、夜更けに、扉を叩いた。


「司まだ、起きていますか」


「ええ」


彼女は、寝間着の上に、毛布を纏って入ってきた。


「眠れなくて」


「私も、です」


王女は俺の隣に、座って羊皮紙を、覗き込んだ。


彼女の銀の髪が、月明かりの中で、淡く揺れた。


「司」


彼女はささやいた。


「もし、これが、上手くいったら」


「上手くいきます」


「もし、上手くいったら、あなたはどうするのですか」


俺はペンを止めた。


彼女の問いの、本当の意味を考えた。


「俺は」


俺はゆっくり答えた。


「東京に、戻ると、思います」


王女の睫毛が震えた。


彼女は、それを隠すように、視線を羊皮紙に落とした。


「ええ、そうなると、私も、思っていました」


「アリーシャ様」


「いいのです。あなたが戻るべきは、あなたの世界です」


俺は何も、言えなかった。


ペンを置いて彼女の手に、自分の手を軽く重ねた。


それだけだった。


窓の外で、月が雲を出たり、入ったりしていた。


俺たちは、しばらくの間、何も話さなかった。


ただ、月明かりの中で、互いの手の温もりだけを、確かめていた。



王女がぽつりと言った。


「私はあなたと、出会ってから、自分を自分として生きられるようになりました」


俺は彼女の指先を軽く握り返した。


「俺もです、アリーシャ様」


彼女は目を伏せた。


睫毛の影が、頬に長く落ちていた。


「司、ひとつだけ、お願いしてもいいですか」


「なんなりと」


「すべてが終わったら、最後の夜だけ、私のために、ペルソナを、書いてください」


「最後の、ペルソナを」


「いまの私、ではなく、これから、私がなりたい自分の、ペルソナを」


俺は頷いた。


「もちろん、書きます」


王女は薄く微笑んだ。


それからゆっくり立ち上がった。


「もう、寝ます。明日からも、長い旅です」


「おやすみなさい」


扉が静かに閉まった。


彼女の足音が、宿屋の廊下に消えていった。


俺は再び、羊皮紙に向かった。


明日からの十日間で、これを完成させる。


そして、王の生誕大祭典の日に、王の前で、開く。


そのとき、ノートの中でなにかが強く、光った気がした。


振り返ると、机の上の十二冊のノートが薄く青く、緑に、白に、虹色に淡く光を、放っていた。


それは各地の民の、ペルソナのページの光だった。


彼らが、俺の隣に、いた。


俺はひとりではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ