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冴えないUXデザイナーが異世界転生して、『ペルソナ設計』で滅びかけの王国と姫様を救うことになりました  作者: もしものべりすと


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第十一章 派手な転生者、横田登場

翌朝の宮廷は、いつもと違うざわめきに包まれていた。


廊下の隅々から、ひそひそ声が漏れていた。


「昨夜、ヨコタ殿が」


「王の前で、新しい祭典を提案された」


「黄金の噴水を、城前広場に」


俺はその声を聞きながら、王女の私室へ向かっていた。


扉を開けると、王女はすでに机に向かっていた。


顔色が、青白かった。


「司、報告書を読んで」


彼女は、一枚の羊皮紙を、差し出した。


俺は目を通した。


昨夜、横田が王の前で提案した、新しい改革案だった。


一、王都中央広場に、黄金の大噴水を建立する。


二、毎月、王の生誕記念の大祭典を開催する。


三、宮廷魔術師を増員し、派手な魔法演出を、国中に披露する。


四、王の威厳を示す、巨大な像を国境十か所に建てる。


読み終えて、俺はため息をついた。


東京で見覚えのあるいつもの横田の手口だった。


中身は薄い。


だが、見た目だけは、派手で目を奪う。


そして、王のような派手好きな人間には、抗いがたい魅力がある。


「父は、満面の笑みで承認したそうです」


王女が、机を指で叩いた。


「司、これは放っておくと、大変なことになります」


「予算は、どこから出るのですか」


「税の引き上げ、と書いてあります」


「民の声は、聞かれましたか」


「聞かれていません」


俺は王女の隣に座った。


彼女のページが入ったノートを開いた。


冷静に、息を吐いた。


「王女様。横田の提案を、真っ向から否定すべきではありません」


「なぜ?」


「彼の派手さは、王の心を、すでに掴んでいます。否定すれば、私たちが、王の敵になります」


「では、どうすれば」


「彼の提案の、横に、私たちの提案を、並べます。比べさせるのです」


王女はしばらく考えて頷いた。


「比較、ですか」


「ええ。横田の派手な祭典の、その一日にかかる費用で、いくつの村の井戸が、直せるか。いくつの孤児院に、毛布が、配れるか。それを、視覚化して、王に示します」


俺は新しい羊皮紙を取り出して、書き始めた。


「投資対効果比較表」


日本語と、こちらの世界の文字を、混ぜながら、書いた。


横田の提案の右に、俺は別の改革案を並べた。


全国の井戸の修繕、これは安価だが、毎年、流行病で死ぬ子供を、半分にできる。


辺境の伝令網の整備、これも安価だが、敵国の侵入を半年早く察知できる。


公立学舎の創設、これも安価だが、十年後の宮廷の人材が、変わる。


「全部、地味です」


俺は苦笑した。


「地味ですが、王国を、確実に強くします」


王女は表を見ながら頷いた。


「これを、明日の宮廷会議で、上奏します」


「ご決断、ありがとうございます」


その夜、俺は表の清書をしながら、横田の顔を思い出していた。


東京の会議室で、俺の資料を彼が自分の言葉として披露するときの、あの顔。


今度は、こちらが、横田の隣に、自分の言葉を並べる番だった。




翌朝の宮廷会議。


俺と王女は、玉座の前に二人で進み出た。


左右の貴族たちが、見守る中、王女が、まず、口を開いた。


「父上、昨夜のヨコタ殿のご提案、見事なものでございました」


王が満足げに頷いた。


「うむ。あれは、確かに、わが王国に新風を、もたらすであろう」


「ですが、その提案の隣に、私と司大臣の提案を、並べて、ご覧いただきたく存じます」


王女は清書した表を、王の手元に捧げた。


俺は横にいる横田の表情を、ちらりと、見た。


横田の口元が、わずかに引きつった。


王は表に目を落とした。


彼の指が、銀の枠の表を、つ、つ、と辿っていった。


だんだんと、王の眉間に皺が寄り始めた。


「司大臣」


王の声が、低くなった。


「これは……」


「ヨコタ殿のご提案を、否定するものではございません」


俺は丁寧に、補足した。


「ただ、同じ予算で、こちらの選択肢もある、ということを、お示ししたまでです」


王がゆっくりと、頭を上げた。


彼の視線が、俺と、横田の間を行き来した。


「ヨコタ殿、どう思われる」


横田は慌てて、笑顔を作った。


「いえ、いえ、陛下。設計師殿のご提案も、悪くはございません。ただ、王の威厳という観点では、私の祭典の方が」


「威厳、か」


王は、表の数字を、再度、指で辿った。


「子供が、半分、死なずに済む、という記載が、ある」


宮廷の空気が、ぴんと張り詰めた。


誰かが、息を呑む音がした。


「両方を、検討する」


王はぽつりと言った。


「結論は、ひと月後に出す。それまで、両者は、それぞれの案を、磨き上げよ」


横田の顔から、笑みが消えた。


彼はわずかに、頭を下げた。


だがその目だけは、燃えるような怒りで、こちらを睨んでいた。




宮廷を出た回廊で、横田が俺に追いついた。


彼は肩を組むふりをして、俺の耳元に囁いた。


「司ぃ、いい度胸じゃないか」


酒の匂いがまた、した。


「お前、こっちの世界では、ちょっと羽振りがいいみたいだな。だが、忘れんなよ。お前は向こうでは、俺の下にいた人間だ」


俺は、肩をゆっくりと外した。


「ヨコタさん、ここは、東京じゃありません」


「あ?」


「ここでは、地味な仕事に、価値があります。あなたの派手さはもう、効きません」


横田の目が、見開かれた。


それは東京で、俺が一度も口にしなかった、反論だった。


彼は、俺がこんなふうに言い返す人間だとは、思っていなかったらしい。


「……ちっ」


彼は舌打ちして、足音を荒くして去っていった。


廊下の角を曲がる前に、彼はもう一度、振り返った。


口の片端を、つり上げて、笑った。


「楽しみだぜ、設計師殿」


俺はその笑いを、見送った。


胸の奥で東京のオフィスの記憶が薄くしかし、確かに揺れていた。


だがもう、震えてはいなかった。



その夜、王女の私室で、俺たちは、報告を受けた。


ニナが商人ギルドから、急ぎでやってきた。


彼女の頬は、紅潮していた。


息を切らせて、椅子に腰を下ろした。


「設計師殿、王女様。困ったことが起きております」


彼女は息を整えてから、続けた。


「ヨコタ殿が、宮廷の予算で、装飾用の絹を、大量に発注されました。これは商人ギルドの三月分の在庫を、一晩で買い占める量です」


王女が眉をひそめた。


「庶民の絹の値段が、跳ね上がりますね」


「すでに二倍になっております」


ニナの声には、怒りが滲んでいた。


「これでは、子供の冬の衣服も、まかなえません」


俺はノートに、書き留めた。


「絹の流通・横田の買い占め・庶民層への波及」


ガレウス団長も、その夜、合流した。


彼は騎士団の制服のまま、王女の私室に現れた。


「私からも、ご報告が」


彼の声は、いつになく、重かった。


「ヨコタ殿が、宮廷魔術師団の新設を、王に上奏しております。既存の騎士団の予算を、三割削減するご意向だそうです」


王女が立ち上がった。


「父は、それを承認したのですか」


「ええ。本日、夕刻に」


その夜、王女の私室は、嵐の前のような、静けさに包まれていた。


四人で、机を囲んでしばらく、誰も口を開かなかった。


燭台の火が、ゆらゆらと揺れていた。


「司」


ベルカ翁がようやく、口を開いた。


「儂は、五百年前の同じ夜を、書庫の記録で、読んだことがある」


「同じ夜」


「派手好きの魔術師たちが、設計師の予算と、人脈を一晩で奪う夜だ」


俺は息を止めた。


「あの時、設計師は、戦わなかった。ただ、書き続けた」


ベルカ翁は白い髭を、撫でた。


「儂は、お前にも、それを勧めたい」


「勝てるのですか」


「すぐには、勝てぬ。だが、書き続けた者だけが、最後に残る」


俺はノートを抱きしめた。


窓の外で、月が雲に隠れていた。


明日も、書こうと俺は決めた。



ベルカ翁が帰り際に、もう一度、俺の肩に手を置いた。


「司よ。書く者の戦いは、相手の喧騒の中で、声を張り上げることではない。耳を澄まして、本当の声を聞くことだ」


翁の手は、温かかった。


彼の指の節が、毛布の上から、骨ばっていた。


「お前のノートには、すでに何人もの民の声が、入っておるな」


「はいもう、三百人を超えました」


「それを、王に、見せる方法を、考えよ」


ベルカ翁の杖の音が、廊下の奥へこつこつと消えていった。


王女が、最後に、俺の方を見た。


「司、明日は、市場の様子を、見てきましょう」


「ご一緒します」


「いえ、私は行けません」


彼女はふっと苦笑した。


「父が、私を、自室に閉じ込めようとしています。ヨコタ殿が、私を邪魔だと感じ始めているようです」


俺は息を呑んだ。


王女は、それを軽い口調で言っていた。


だが、軽い話ではないと、俺の本能が警告していた。


横田はもう、宮廷を、自分の色に染め替え始めていた。

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