表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/63

第10話『魔素水の秘密』

 カイルたちは、商人たちとともに広場の片付けを手伝っていた。


 周囲には爆発した屋台の木片や他の商品が飛び散っている。

 爆発の規模からも、怪我人が出なかったことが不幸中の幸いだった。


 だが周囲はまだ混乱しており、集まった人々が何事かと伝聞し合っている。

 カイルは片付けを手伝いながらも、どこか遠くを見ているようだった。


「どうしたの?」


 ミリエルが心配そうにカイルに尋ねた。


「……ザンポスを追うべきだと思う」


 カイルはしばらく考え込み、言った。


「でもあの人がどこに行ったのか、この人混みの中じゃ……」


 ミリエルは首を横に振る。


「奴の行き先なら、魔素の流れを辿ればわかるかもしれない」


「魔素の流れ?」


 ラティナが驚きの声をあげる。


「うん。俺は魔素を感じ取れる。ザンポスがどこに行くか、魔素から辿れるかもしれない」


 カイルは淡々と答えた。


「マジ? やっぱり只者じゃないわねアンタ! それなら、急ぎましょ!」


 ラティナが目を輝かせながら言う。


「うん!」


 ミリエルも同意し、カイルたちはザンポスの後を追い始めた。


◇ ◇ ◇


「……本当に正規ルートのものなんだな?」


 カイル走りながら、ラティナに再確認する。


「あの魔素水は、貴族から直接買っている。メルヴィン家のサインも本物だった。許可証も持っているし、間違いなく正規のものだ。貴族のサインを虚偽で使うと、結構な罪になるぞ」


 カイルはその言葉に頷いた。商人たちのことを改めて信じるにあたり、確信が欲しかった。


「君、やっぱり優しいね」


 ラティナはその様子を見て、微笑みながらカイルに言った。

 そのとき、突然カイルが立ち止まる。


「……あそこだ」


 カイルが目を向けると、ザンポスが歩いていた。

 少し不安げな様子であたりを見回しながら、路地へと入っていった。


 ザンポスが曲がった先には、さらに狭い路地が続いており、カイルたちはその路地の奥へと進んだ。


 ザンポスが入って行ったのは、古びた倉庫の裏口だった。

 板が打ち付けられている窓の隙間から、中のザンポスの様子が伺えた。


「少し、泳がせてみよう……」


 カイルが小声で呟く。


 その倉庫内は、棚に並べられた数多くの魔素水の瓶が、まるでコレクションかのように並べられていた。


「うわぁ……すごい量」


 ミリエルは感嘆する。


「これ、全部売ったら一生分の酒代になるな」


 ラティナはどうやら相当な酒好きのようだ。


 確かに瓶いっぱいに詰められた魔素水が並ぶ様子は、壮観ではある。

 だが、何かがおかしい。瓶の一部に違和感がある。


「カイル、あれ……」


 ミリエルも、違和感に気づいたようだ。


「右の方の瓶、二層になってる」


 棚に並べられた瓶のうち右側半分ほどの魔素水は、水と油を同じ容器に入れたかのように、上下で分離していた。


「……アイツ、()()()()()()()わけね」


 ラティナがすぐさま反応する。

 それに合わせるように、カイルが続ける。


「つまり、『カサ増し』が目的か。だが、水などではあの瓶のように混ざらずバレる。そこでこの小屋で()()()液体を研究していたと」


「そういうこと! 魔素水の精製方法は、貴族の中でもごく一部でしか共有されていない機密事項なの。だから庶民は買うことはできても作ることも薄めることも叶わない。そりゃ高価になるわけよね」


「えっ!? あの爆発の原因は、魔素水を薄めようとしたってこと!?」


 ミリエルが驚きながら二人の理解に追いつく。


 ──その時、勢いよく扉が開き、ザンポスが顔を出した!


「キャッ!!」


 ミリエルとラティナは思わず驚く。


「そこまで知られてしまったからには仕方ない、君たちを我が研究所(ラボ)へご招待しようじゃないか」


 ザンポスの顔には冷たい笑みが浮かんでおり、手にはナイフが握られていた。


◇ ◇ ◇


 中に入ると、外で見るよりもさらに多くの瓶が並べられており、壮観さは増すばかりであった。

 また、机の上には貴族の持ち物であろう本が積み上がっており、多くの“試作”を行った痕跡が残っていた。


「アンタ、何してるかわかってんの?」


 口火を切ったのはラティナだった。


 ザンポスは少し困ったような顔で答える。


「何って、ただの商売だよ。あの爆発には少し驚いたが、あれはさっきも言ったが、商人の責任だからな。俺はただ、メルヴィン家の魔素水を卸しただけさ」


「ふざけるな! この証拠はどう説明する?」


 すかさずカイルが鋭く問い詰めると、ザンポスは机上にある魔素水の瓶を手に取り、表情が冷たい笑みに変わる。


「……フッ! 証拠? お前らは大きな勘違いをしている。証拠ってのは、明るみになって初めて証拠になるのさ。つまり……お前らが消えれば証拠も消えるんだ!!」


 その言葉と同時に、ザンポスは瓶から魔素水を一気に飲み干した。

 すぐに、彼の体から強烈な魔素が溢れ出し、周囲の空気が重くなった。


「何っ……!?」


 カイルは驚き、ラティナとミリエルもその異常な変化を見て、目を見開いた。


「なんだか、さっきとは別人みたいね」


 ミリエルが驚きの声をあげると、ザンポスは冷たく笑う。


「ククク……。こいつを飲めば、どんな者でも少しは強くなれる。それが魔素水というものだ。俺が今飲んだのは“純正”だから、なおさらな」


 カイルはその目を鋭くした。


「私利私欲で魔素水を取り扱う人たちを危険に晒すお前のエゴ、見過ごすわけにはいかねーな。」


「──青二才が。何とでも言え。消し炭にしてやろう」


 両者は魔素水の瓶が立ち並ぶ倉庫の中で間合いを取り、掌を互いに向けて構えるのだった──。


《つづく》


お読みいただき、ありがとうございます。

【今後に期待!】と感じていただけましたら、

ブックマークやリアクションをいただけますと今後の執筆の励みになります。

一緒に作品を育てていただけると嬉しいです。


※最新話は【毎日12時10分】更新予定です。

頑張って書いていきます。【お気に入り登録】していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ