第11話『決戦の炎球』
魔素水を一気に飲み干して力を得たザンポスと対峙するカイル。
ザンポスの体からは魔素が溢れ出ているようで、周囲の空気が重くなる。
その姿に、ラティナとミリエルは息を呑んだ。
「カイル、なんとか生き残る方法を考えよう! アイツの魔素、私でもヤバいとわかる!」
ラティナは顔をしかめ、絶望的な表情を浮かべる。
カイルは、ラティナの言葉を黙って受け止める。しかし、彼の瞳は揺るがない。
ザンポスの力に立ち向かう覚悟を決めていた。
「……相手の出方次第だな」
カイルが低く呟く。
ザンポスが一歩踏み込むと、その体から発せられる魔素の波動が広がり、全身が燃えるような力で包まれた。
「……『炎球』──!!」
ザンボスが唱えると、それは彼の掌の前に集約されていき、人の頭ほどの大きさはある炎でできた球体となった。
「ヤバいヤバいヤバい!!! 逃げよう、カイル! ミリエル!」
ラティナは後退りしながら、尻餅をつくような形で地面に倒れこんだ。
「……逃さんぞ。この身の程知らずのガキの後は、お前たちも生かしておくわけにはいかん」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
泣きそうなラティナの手を、ミリエルがぎゅっと握る。
「ラティナさん、大丈夫。カイルを信じようよ」
そう言ってラティナにそっと微笑みかけると、ミリエルの視線は真っ直ぐカイルを見つめる。
カイルはいまだ掌をザンポスに向けたまま、固まっている様子だった。
「ふはは! ハッタリもいい加減にしろ。目障りだ!」
ザンポスは大きく腕を振りかぶり、全力で炎球を放つ。
「これが……俺の力だ!」
ザンポスが声を上げると、巨大な炎球が空間を引き裂くように飛んでいく。
「カイル!」
ミリエルが叫ぶ。
──その刹那。
「『炎球』──!!」
カイルの体内から魔素が溢れ出し、周囲一体を包む。
その瞬間、空気が震え、爆発的なエネルギーが放たれた。
そしてそのエネルギーは瞬時に手のひらに集約され、直径は大人一人分をゆうに超える大きさの炎球が出来上がった。
ザンポスの炎球が飛んでいったその先で、カイルの炎球が空間を圧倒するように現れ、ザンポスの攻撃を無かったかのように飲み込んでいった。
「な、何だ!?」
起こったことへの理解が追いつかないまま、ザンポスが驚愕の表情を浮かべる。
カイルの炎球は、ザンポスのものより圧倒的に大きく強力で、まるで太陽が惑星を飲み込むかのようなスケールの差を感じさせた。
「やっぱりカイルはすごいっ!」
ミリエルが飛び跳ねて喜ぶ。
「ははは、……カイル、あんた、本当に何者なの?」
ラティナがカイルを見つめながら呟く。
今度はカイルへの驚きで腰を抜かしたようで、しばらく立ち上がることは難しそうであった。
「お前……なぜ魔素水無しで魔法が使える……? それにあの魔力量……どれほどの魔素水が必要なんだ……」
ザンポスはその場に崩れ落ち、顔を歪めて頭を抱える。
「お前は、私利私欲のために、魔素水のカサ増しを図った。そして、街の人や商人たちを危険に晒した。お前のやり方は、すべて間違っている。」
カイルは静かに、淡々と言った。
「くそぉぉぉぉぉ!!!」
ザンポスは床を激しく叩きながら、駄々っ子のように這いつくばったまま暴れ回る。
端くれではあれど貴族側の人間が、こうも矜持を持ち合わせていないのはとても惨めに映った。
「……もういい。“それ”で殺してくれ──」
ザンポスは、カイルが作り出した炎球を指す。
「どうせ、捕まっても処刑されるのは免れない。それくらいのことをやった自覚はある」
ザンポスは、自身の覚悟が決まったようだった。
ならばせめて潔く散りたい、ということなのだろう。
「カイル、どうするの?」
ミリエルが問う。
──カイルは数秒考えたあと、掌を真上に振りかざした。
ザンポスは目を瞑り、願うように手を合わせる。
──次の瞬間。大きな炎球は、倉庫の天井を突き破り、空高く真上に飛んでいった。
「──えっ!?」
ミリエルが驚く。
ザンポスも呆気に取られた表情をしていた。
カイルが、ザンポスを見て言う。
「自分の罪は、ちゃんと償わないとだめだ。楽をするな」
その言葉に、ザンポスはがっくりと肩を落とす。
ミリエルは、ふふっ、と微笑んでいた。
「お取り込み中のところゴメン、そろそろ助けてくれる? こ……腰が……!」
あまりの事態の連続で、すっかり立てなくなってしまったラティナが言う。
「大丈夫か?」
カイルが心配そうに駆け寄り、ラティナに手を伸ばすのだった。
◇ ◇ ◇
「おーい!」
広場の商人たちに、すっかり回復したラティナが手を振って呼びかける。
爆発後の片付けは進んでおり、あとは店の修繕も一部を残すのみとなっていた。
商人たちはカイルたちが戻ってきたことよりも、その両手に抱えられた大量の瓶に、目を丸くして驚いていた。
「これが本物の魔素水だ」
カイルは、魔素水の入った瓶を商人たちに手渡した。
商人たちは、その魔素水に目を見張り、感動して何度も礼を言った。
「ありがとうございます! おかげ様で明日からも祭りが続けられそうです!」
頭を下げ続ける商人たちを横目に、ラティナがカイルに耳打ちする。
「アンタが作ったなんて知ったら、全員泡吹いて倒れるんじゃないの?」
カイルたちは、魔素水の精製については秘密にしておき、本物を取り戻したと言って、商人たちに渡したのだった。
倉庫でザンポスが自省した後、魔素水無しで魔法が使える理由について尋ねてきたので、カイルは倉庫の奥にある魔素水を一瓶取り出し、それを精製し始める。
魔素をじっくりと調整し、純度の高い魔素水を作り出す。
「信じられない……こんなことが……」
ラティナは三度驚き、言葉を失った。
ザンポスはその様子を見て、ついに頭を床に打ち付けていた。
「俺は……こんなことをして、結局何も……」
彼は自分が犯した過ちを自覚し、ショックで気絶してしまった。
「こんなに想像を超えてるなんて、もう笑うしかないわ!」
ラティナは、呆れと共に笑いながら、カイルを見つめていた。
──収穫祭初日の夕暮れは、清々しい風が通り抜け、明日の活気を運んでくるようだった。
ミリエルは、しみじみと呟いた。
「カイルの作った魔素で、世界が幸せになれると良いのに」
カイルは微笑み、静かに言った。
「それができるなら、考えてみるよ」
《つづく》
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