春夏コレクション 2
「おはようございます」
あちこちから挨拶が飛んでくる。
「随分スッキリした顔してるじゃない?」
「酒井さんおはようございます。昨日ダンスでしっかり動いたからかな?」
あの後、always…be with youだけもう少し完璧にしようと、1時間練習をした。
「ホンマはもう少し早よ終わる思てたんやけどなー。ふぁあぁぁ」
「ほら、欠伸しない」
ちょっと眠そうなリツをやんわりナツが注意する。
「いやぁ、ゆきさんがここまでタフやと思わんかったわ」
普段からランニングしたりジムに行ったりして鍛えているメンバーの一人でもあるソウタに言われるとは……。
「ゆきさん、不服そうな顔してるよ?」
「体力おばけのソウタに言われるのはちょっと……」
「ゆきさん今までも仕事終わりに仲野先生のスタジオに行ってたんでしょ?」
「えっ?!そうなん?さすがにそれは凄いわ」
「皆さんみたいにずっと練習して動いている訳では無いので、体力的には余裕でしたから。さすがに今はあれこれ忙しくて通えてませんよ?」
「ダンス練習もほとんどできてなかったよね?」
「自主練すら出来ていなかったので、昨日はいい運動になりました。やっぱり私は踊っている方が調子がいいみたいです」
「僕もダンスしてるゆきさん好きだよ」
一歩近づいて、顔を覗き込んで優しい笑顔でナツがそう言うと、
「ナツくんどさくさに紛れて告白せんといてくれる?俺はどんなゆきさんも好きやし!」
ナツを押しのけて主張している。
「リツくんそこ張り合うとこちゃうから」
一番年下のソウタが呆れながらそう言って、
「愛は俺が一番やからね!」
と、しれっと肩を組んでくる。
「ちょっとー!来てんなら早くメイク来てよ!時間無くなるよ!」
「邪魔が入ったみたいだね」
「ちょっとナツ!」
「ナツくんホントに嫌いなのね……元木君ごめんね、私が呼び止めちゃったから!」
酒井さんにフォローさせてどうするんだ……。
「すみません!すぐに行きます!」
「それじゃYUHKI先に来て!U:niONは着替え!」
「はい!……ほら、あなた達も!」
「酒井さんよろしくお願いします!」
元木君の方には目もくれず、酒井さんにだけ挨拶して控え室へ一緒に向かう。仕方なく自分の控え室へ行った。
「元木君ごめんなさい」
「こっちも言ってからマズったなとは思った。悪い。嫌われてるの忘れてたわ」
あっけらかんとそう言ってくれて、少し安堵した。
「ほら、マジで時間やばくなるから座れよ」
「このまま?」
マネージャーとして現場入りしているので、スーツのままだ。
「全部前開きなら問題無いだろ。メイク終わったらガウンにでも着替えればいいだろ。スーツのままでも完璧にするから心配すんなよ」
衣装と真逆くらいのスーツ姿で大丈夫なのかと思ったのが伝わったらしい。まあ、そこはプロだから心配無いと言うことかな。
「よろしくお願いします」
「おう、今日も最高のYUHKIにしてやるよ」
「U:niONの三人、視線はずっとカメラで!YUHKIバッグ持ち方変えてってくれる?……そうそう!」
アイテム組とYUHKIで撮影が始まった。小さなバッグや靴を魅せながらの撮影は難しい。
「OK!YUHKIとU:niON別れて撮影します」
「撮影のプロットも全部ゆきさん?」
「さすがに全部ではないですよ。ある程度、です。打ち合わせして最終決定しましたから」
急にそんなことを言い出したナツにソウタが心配そうに聞く。
「ナツくんどうしたん?」
「ゆきさんにかなり負担掛けてるよな、とか撮影してたら思ってさ」
「心配性ね。全部私の仕事ですから。高橋さんもフォローしてくださってますし、色々充実して楽しんでますから」
「ナツくん心配しててもしゃーないで!ゆきさんのためにも頑張んで!」
リツらしい前向き発言に、ナツも切り替えができたようだ。
「そうだね。ゆきさん……皆さんの想像以上のモノを作らないとね」
「YUHKI衣装変えて裏バージョン撮影します」
「三人共頑張ってね」
ここからは着替えながら別行動が始まる。
「母としては心配?」
「慣れない仕事だと思うので、少し。昨日もそうだったんですけど、離れるとアドバイスもできませんから」
心配してない、と言いたいところだが、正直な気持ちが勝ってしまう。
「信じてますけどね。思った以上のことをしてくれるのが、彼らなので」
「うん、私も信じられる子達だと思う!さぁ、早めに着替えてメイクして見にいきましょ!」
「はい!」
「うっわ、裏の顔ヤバイね」
「ゆきさんって呼べへんな」
「わかるわー。ここまで違う人になれるもんなんや」
急いで撮影を見に来てみれば、三人からは妙な感想がまず発せられた。案外、気楽に撮影していたようだ。
「いいね、彼女に合わせて背伸びする感じ」
カメラマンが三人を煽っていく。
「なんだかなぁ……」
「周りがホーム過ぎて伸び伸びしてるな」
元木君も思ったより上手くこなす三人に感心している。
「本番に強くて、それでこそ彼らU:niONだと言うことで……心配して損したかな」
そう言うと、奥田さんが隣に来て、
「そんな事無いですよ」
と言う。
「カメラマンさんにゆきさんの為にって散々煽られて、気合い入れてましたから。凄いですね、ゆきさんの存在は」
YUHKIではなく、カメラマンも奥田さんも、ゆきが、と言ってくれる。
「ホント、U:niONはゆきさんが好きね?」
「ありがとうございます。U:niONに負けてられないですね」
「おう、YUHKIの本気を見せてやれ」
ここで決してゆきとは言わない元木君もさすがだと思う。
「そうね。ブランクがあってもここは先輩の、YUHKIの意地を見せてくる」
切り替えなくちゃ。今日は、YUHKIだ。
「いってらっしゃい」
ぽん、と酒井さんに背中を押されてヒールの音を響かせながら、セットの前まで進む。
「OK!YUHKI入って!」
深呼吸をして、返事をする。
「はい。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
三人が改めて挨拶を返してくれる。
「いいねぇ。YUHKI真ん中の椅子へ。まずはソウタ君YUHKIの前に座ろうか。二人はサイドへ」
「私が来たからってそんなに緊張しなくても」
「あのーYUHKIさん、威圧感半端ないです」
他でもない、ナツがあえてそう言う。
「間違いない。YUHKIさんや」
そう言ってリツとソウタが激しく同意している。
「おいおい、ヘアセット崩れるだろ!」
ちょっと離れて見ている元木君が慌ててこっちへ向かってくる。
「三人共撮影に集中しなさい」
せっかく気合い入れたのに……。
「ごめん、ゆきさん」
「モデルさん達しっかりしろよな。YUHKI、撮影前に緊張させんな」
手早くヘアメイクを直しながら元木君が少し楽しそうにしている。今までの仕返しと言ったところかもしれない。
「さあ、切り替えて。仕事しっかりこなしてよ。遅れたら後のメンバーにも迷惑が掛かるからね」
「あーそれヤバいわ。リュウ君怒らせたらめんどくさいやん」
「そうやった。もうそこそこで来るやん」
迷惑と言っているのに怒られるとかめんどくさいとか……全く。
「よし、これで大丈夫……メイクOKです!」
「すみませんでした!よろしくお願いします!」
元木君がカメラマンに声を掛けたらすぐに三人も謝罪した。
「撮影再開します!ナツ君もう少し後ろ……YUHKIの肩に手を掛けて。リツ君椅子にもたれかかろうか」
大きな籠のような椅子は裏バージョンのYUHKIが座ると女王様感が溢れる。周りは王子?従者?どう見えるのだろう。キャッチコピーは写真が出来上がってからどちらかに決めようという事になっている。
「ナツ君リツ君ソウタ君も裏バージョンの顔頼むよー!」
何も変わらないのに無茶振りをするカメラマンに、周りからは笑い声も聞こえたが、三人の気合いの入った返事に、感嘆の声に変わる。
「U:niONって意外と大人なグループよね」
そんな声も聞こえた。裏返せば、普段どれだけ子供っぽいことをしているのかという事なのだが……。
「いいねぇー!三人共YUHKIに負けんなよ!」
カメラマンが更に煽る。三人を煽っているようで、1番煽られているのは間違いなくYUHKIなんだろうとプレッシャーがかかる。
「OK!セット変わります!」
OKがかかるとすぐにナツが声を掛けてきた。
「ゆきさん凄いよね。呼吸がダンスしてる時みたいだよね」
「そうでもしないと……これでも平静を保つの必死なんだから」
「なるほどなぁ。せやからポーズ変える時滑らかなんや」
「ようそんなゆきさん見てる余裕あんなぁ、二人共」
「ソウタは視野が狭いんだよ。周りを見ることも勉強だよ」
ナツにそう言われて、
「そもそも前に座ってたんやぞ!それに集中してたんや!」
と、ソウタは拗ねている。
「判断はまずはモニターチェックしてからね。誰が一番いいかなー?」
そう言って真っ先にモニターへ向かった。
モニター近くのスタッフさん達がいたずらっぽく笑いながら前を開けてくれる。
「ソウタ集中してますね。いい顔してる。リツの方がソワソワしてる感じじゃない?」
「ほんまやー!リツ君の方が顔かたいやん!」
周りのスタッフが大笑いする。
「まあでも後半はいいんじゃないの?ゆきさんに合わせて上手くできてるよ。という僕も前半はダメだな」
「そう?頑張って余裕出してる感が背伸びしてていいけどな……このあたりは奥田さんにでも判断して頂きましょう」
どんなイメージに転んでも合うような、色んな表情が撮れていた。
「そうですね。この後の撮影したものも込で会議にかけますね」
奥田さんも満足気にして下さっている。
「スタンバイお願いしまーす!」
カメラアシスタントが呼んでいる。
「はーい!いってきます!」
三人が大きく返事をして愛想良く周りのスタッフに手を振って行く。
「精一杯頑張って来ます」
「はい、よろしくお願いします」
私は奥田さんに一礼して、周りにも改めて一礼してセットに向かった。
「お疲れ様でした!アイテム組撮了です!」
周りから拍手が起きる。
「いやあ、昨日のメイク組も良かったけど、アイテム組もホント良かったよ。お疲れ様」
撮影監督はかなり手応えがあったようだ。
「ありがとうございます!お疲れ様でした!」
こちらはいつも通り、元気よく挨拶を返している。
少し前から到着していたアパレル組の三人が、アイテム組撮了のタイミングで出てきた。
「お疲れ〜。ほら、さっさと交代」
リュウはいつも通り私に絡むナツに早く離れろと圧をかける。アキとカイもそれぞれアイテム組メンバーに声をかけている。
「お疲れ様!三人楽しそうだったね!やっばい、緊張してきたー」
「緊張してきたーって、アキ君もモデル経験者やんか」
リツがそう応えると、
「ほんとあざといよなー。アキ君年下だったっけ?って思う時があるもんな」
と、年下のカイに言われている。
「カイは間違いなくU:niONの末っ子だよ。絶対僕より自由で弟だね」
言い方が既に子供っぽい。
「そうかなぁ。アキ君の方が幼いって」
アキとカイの言い合いが始まると、
「二人共ガキには間違いない」
「間違いないね。ここ、職場ね?」
と、年長者二人に窘められていた。
「え、いや、リュウ君とナツ君も!」
と足掻いたところで勝てるはずもなく、周りのスタッフに大笑いされていた。
「ほら、撮影始まるわよ。アイテム組はお疲れ様。練習の方よろしくお願いします」
「任しとき!ゆきさん残りも頑張ってな!」
「安心してください、この二人ちゃんと連れて帰りますから」
「なんで頼りないみたいな言い方するかなぁ」
「しゃーないやんナツ君と比べたらリツ君子供やもん」
「ソウタには言われたない!ソウタには!」
呆れた顔をして、リュウが二人の間に割って入った。
「二人共そういうとこだよ……ナツ、頼んだぞ」
「練習は任せろ。リュウはこっち集中してろ」
「ああ。ゆきさんは任せとけ」
ナツが一瞬ムッとして、深呼吸をした。
「アキ、カイ、ゆきさんのことよろしく。迷惑かけんなよ?」
「はーい」
二人共クスクス笑いながらナツに返事をした。
「じゃあ、帰るね、ゆきさん」
「三人共お疲れ様でした」
さあ、また切り替えよう。




